怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす

八木愛里

文字の大きさ
15 / 33
第一章 教会潜入編

15 秘密の部屋

しおりを挟む
 夕食が出来上がると、食堂に神父とシスター、そして少年たちが席に着く。

「新入りの作ったカレーは美味しいな」

 少年の一人が寛太の作ったカレーを褒めた。

「ありがとうございます。唯一の得意料理なんです」
 
 寛太がぺこりと頭を下げると、少年たちはニヤニヤと笑う。
 
「……毎回カレーなんて、僕たちを飽きさせないでくれよ」
 
 リーダー格の少年がそう言ったので、他の少年たちはゲラゲラと笑った。
 
「カレーにもバリエーションがあるんで、飽きることはないと思いますよ。スープカレーにしたり、魚介を入れたりして」
 
 寛太が言うと、リーダー格の少年はバカにするように鼻で笑った。
 
「ああ、お前は料理が得意だもんな」とリーダー格の少年は言った。
「得意料理はカレーだけだろ? だって他の料理はからっきしだからな」
 
 そこでまた少年たちは笑い声を上げる。周りの神父とシスターたちは苦々しい顔をして見ていたけれど、なにも言わなかった。少年たちを叱ったところで素直に言うことを聞きはしないのだから仕方がない。

 寛太は少年たちをチラリと見て、黙々と食事を始めた。いちいち相手にせず、聞き流すことに決めたのだろう。健太は頭が良いから、それが賢い選択だ。

 食事が終わった人から食器を洗い場まで持っていき、水に浸けておく。
 私もさっさと食べ終えると、シスターと食器を洗ってから水切りかごに伏せた。
 自室に戻ろうと食堂を出ると、物陰に寛太の後ろ姿が見えた。

 どうやら神父の書斎の扉を開けようとしているようだ。ひっそりとして隠れる秘密の部屋は、彼の探偵としての興味を誘うものだったらしい。

 御名答。そこに怪盗ヴェールのターゲットの絵がある。
 でも、そんな貴重な情報は渡すわけにはいかない。
 
 私は寛太に近づくと、彼の肩に手を置いた。

「その中は入ったらダメだよ」

 声をかけると、彼はビクリと体を震わせた。それから恐る恐るといった様子で振り返る。
「あ……景吾くん」と彼は強張っていた表情を緩めた。
 
「すみません。案内されなかった部屋だったので、つい気になって」

 寛太は気まずそうに笑った。
 
「その扉はパンドラの箱のようで、開けちゃいけない扉なんだ。……もし開けてしまうと、この教会では暮らしていけなくなるよ」

 この忠告は、ルームメイトの智哉から言われたことの受け売りだけどね。
 ここだけの話、と私は声をひそめてささやく。

「僕も昔、この部屋の中を覗いて、神父から厳しく叱られたんだ。寛太くんも気をつけて」
「そんなことが……。わかりました」

 寛太は神妙な顔をして頷いた。
 
「どうしたんだ」

 神父の声が食堂に反響した。振り返ると笑みを浮かべた神父がいた。私たちの声を聞きつけて様子を見に来たのだろう。

「寛太がこの部屋に入りたがったので、止めていました」
「……そうか」

 私の説明を聞いた神父は顔を曇らせた。そして静かに首を振る。

「その部屋はこの教会の信仰の象徴とも言える部屋です。迂闊に中を見られたら困るんですよ」

 神父の目は笑っていなかった。
 そんな態度に、寛太は怯えたように身を震わせる。
 それが演技だとしたら、名演技だ。
 
「あの……ごめんなさい……」
 
 寛太は頭を下げる。すると神父の優しげな顔はすぐに笑みに変わった。
 
「いいんだ。私も注意を怠っていたからね」と神父は苦笑した。

「さあ、もう夜も遅いから、君たちは部屋に戻って寝なさい」

 神父がそう促すと、私たちは食堂を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...