花嫁ゲーム

八木愛里

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5 第1ゲーム「椅子取りゲーム」①

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 支配人は微笑みながら言った。
 
「まず、皆様にやっていただくのは、『椅子取りゲーム』です」

 椅子取りゲーム? 拍子抜けのゲーム内容に、私たちは困惑する。
 小学校のお遊戯でもやったことのある、あのゲーム?
 
「ルールは簡単です。音楽が止まったら椅子に座ればよいだけです」

 すると、ステージの上に椅子が九脚並んだ。どれもアンティークな木製の椅子で、座り心地が良さそうだ。

「第1グループは番号1から10の皆様です。ステージの上へお進みください」

 私は胸元を見る。そこに付けられた、オフホワイトのリボンで作られたロゼットの番号プレートが、どうやらその番号らしい。私は9番。ステージの上へ進んでいった。
 
「さあ、これで皆さんお揃いですね」
 
 支配人は嬉しそうに言う。参加者は私を含めて十人になった。首に着けられた首輪の爆弾が爆発するかもしれないと思うと怖いけど……今は生き残ることの方が優先だ。

 椅子は参加者より一つ少ない九脚。確かに、これは普通の椅子取りゲームだ。
 そう思っている私に支配人は続けた。

「……ただし、このゲームには一つルールがあります」
「ルール……?」
「それは、ハイヒールのいずれかの足が床についていなければいけません」

 ハイヒール? まさか……。
 参加者は一斉に自分の足を確認した。
 足元を見ると、7センチくらいのヒールが付いた赤いエナメルのハイヒールを履かせられていた。以前に送った花嫁ゲームのエントリーシートは身長だけじゃなくて、靴のサイズも書かされた。なぜ靴のサイズ? と疑問に思ったけれど……。皮肉なことにハイヒールはピッタリだ。まさかこんなところで使われるとは。

「もし、床からハイヒールの両足が離れた場合、失格となりますのでご注意ください」

 その言葉に私はゾッとした。椅子に座るために走りたいところを我慢して、ハイヒールで早く歩かなければならない。ハイヒールの足さばきの優雅さを競うゲームなのだろうか。しかも、負けたらゲームオーバーという本気のデスゲーム。

「ルール説明も終わりましたし……」支配人はマイクを置いて言った。
「皆様準備はよろしいですね?」
 
 そして彼は指を鳴らした。ピアノの軽快な音楽が流れ始める。
 ……って、これ、三分クッキングの曲じゃない?
 楽しい音楽のはずだけど、今はもうそれどころじゃなかった。

「ゲーム開始です!」

 参加者が一斉に立ち上がる。椅子の周りを歩き始めた。歩き方がどうもぎこちないが、両足浮かせ禁止のルールがあるので仕方がない。歩くだけでも慎重になってしまう。
 音楽が止まる瞬間を聞き逃さないように、耳を集中させる。そして、音楽が止まり全員が椅子に座ろうとしたその時だった。
 
「7番の方、両足が床から離れたため失格です!」
「え? 私? ……きゃー!」
 
 一人の女性が悲鳴を上げた。左右から執事の衣装を着た男性たちが彼女に近づき、無理やり引っ張っていく。

「何するのよ! 離しなさい!」
 
 女性がジタバタと暴れるが、執事たちはびくともしない。まるで両脇に人形でも抱えているかのようだ。そしてステージの外へ連れて行かれてしまった。
 
 あと一歩というところで脱落してしまった女性は気の毒だけど、自分の命には代えられない。ハイヒールの足に神経を集中する。
 
 その後も次々と脱落者が出た。ハイヒールを履いて歩くという慣れない行動に戸惑い、こけたり、椅子の前でふらついたりした女性たちは執事風の男らに引きずられて退場した。
 
「候補者が絞り込まれてきましたね」と支配人は椅子に座る私たちを見て言う。参加者を徐々にいたぶるかのように、椅子は一つずつ減らされ、残るは六人となった。

「さて、気分転換に音楽を変えてみましょうかね」

 そして彼は指をパチンと鳴らせる。今回もまた軽快なピアノ音楽だ。
 ……これって、「きょうの料理」のテーマ曲じゃない!
 さっきの曲に続いて、これもまた料理番組の音楽とは。もしかして……料理に入れる具材のように私たちを木っ端微塵にして殺すことを意味しているのだろうか。そうだとしたら悪趣味としか言いようがない。

 反射的に私たちは立ち上がると、椅子の周りを歩き始める。座りたい椅子に目星を付けて……。
 と、音楽が止まった。
 運の悪いことに、同じ椅子を狙っていたライバルがいた。その女性が先に椅子へ座る様子はスローモーションで見えた。一歩のところで間に合わない。
 あっ……私の椅子がなくなってしまった。フラッと眩暈がして、膝が床につく。
 絶望した次の瞬間……。
 
「8番の方、両足が床から離れたため失格です!」
 
 と支配人の声が響いた。私は顔を上げる。なんと、ライバルの女性が失格になったのだ。そして執事の男らに引きずられていく。
 
「ちょっと! 何するのよ!?」
 
 彼女は抵抗して声を上げたが、問答無用で退場させられた。
 私は彼女が座っていた椅子に座ると、早まる鼓動が落ち着くのを待った。
 なんとか、命拾いした……! あの女性は運が悪かったのだ。彼女が脱落したおかげで私は助かった。

 ……でも、脱落して退場させられた女性たちはどうなってしまうんだろう。
 ふと、そんな疑問が頭をよぎった。彼女たちに待っているのは死しかない。考えるだけでもゾッとして、背筋が凍りそうになる。

「第1グループを勝ち抜いた方はステージから降りて、観覧席に座って残りのグループが終わるまでお待ちください」
 
 支配人はニコニコしながら言った。その言葉を合図に、私たちは椅子から立ち上がった。
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