花嫁ゲーム

八木愛里

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6 第1ゲーム「椅子取りゲーム」②

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 私たちはステージを降りて観客席に座った。
 中には、ホッとした表情をしている人もいるけれど……私は手放しで喜べなかった。きっと次のゲームではもっと絞り込まれてしまう。最終的には一人だけしか残らないのだから。

 残りのグループの椅子取りゲームがこれから始まる。しかし、それを見る気にもなれず、膝に置いた自分の手を眺めていたら……。

「次のゲームが始まるまで、しばらく時間があるわね」
 
 と、隣の席の女性が話しかけてきた。
 
「……そうですね」
 
 彼女もまた赤いドレスを着た若い女性だった。年齢は二十代前半だろうか。勝ち気そうな瞳でこちらを見ていた。こういう人は嫌いではないけど……まだ味方とは限らないし、迂闊に情報交換なんてしない方がいいだろう。
 私は彼女の質問を軽く流したつもりだったが、女性はずいっと迫ってきた。思わず顔が引きつる私を見て彼女は言った。
 
「あなたはこのゲームに勝ち抜く自信はある?」
「自信なんてありません。死にたくないだけです」
「そうだったのね……。実は私もよ」
 
 女性は明るい笑顔で言った。その笑顔は素敵だとは思うが、この状況下でのそれは裏がありそうだと感じた。
 
「お互いに頑張りましょうね」と彼女は握手を求めてくるので、私はそれに応じた。
「え、ええ……」
 
 なんだか調子が狂う。私は何か企んでいるのではないだろうかとつい疑ってしまう。
 そんな私の思惑を察することもなく彼女は続けた。
 
「自己紹介がまだだったわね……私は5番の鷹野目《たかのめ》トウコよ」
「私は……九条アカネ」

 私が名乗ったところで、支配人からのアナウンスが流れる。
 
 「これより第2グループの選別を始めます」
 
 相変わらずの明るい笑顔だ。正直、気持ち悪いとさえ感じた。
 音楽がかかると、第2グループの椅子取りゲームがまた始まった。
 
 各グループ、その半数の5名が勝ち残れることがわかっただけ良かったのだろうか。第1グループよりも静かな戦いが起こり、両足が床から浮いて失格者が出ることは少ないようだ。
 
 しかし、ゲームが進んでいくと、参加者に気の緩みが出始めた。
 
「11番の方、両足が床から離れたため失格です!」
 
 女性の悲鳴が響くと同時に、支配人の声が響いた。
 これでまた一人脱落したことになる。こうして見ていると、あの女性にも彼女なりの事情があったのだろうと感じるようになった。助けたいと思ったけど、私には何もできない。申し訳ないと思うが、助けられる命は限られている。
 
「候補者が絞り込まれてきましたね」と支配人は言った。

 やがて第3グループまでの選別が終わり、会場に残されたのは15名まで減った。
 脱落した女性たちは別室で待機させられている。あの人たち、何をされているのだろうか……。
 
「勝ち抜いた皆さまに見ていただきたいものがあります」と支配人が言った。
 
 会場の入り口が開け放たれ、入ってきたのは脱落した女性たちだった。
 私は違和感を覚えた。
 彼女たちの目は虚ろで、まるで人形のようだったからだ。
 
「脱落した彼女たちには、特別な盃を酌み交わしていただきましょう」
 
 脱落した女性たちは一列に並べられる。そして、執事がワゴンを押し現れた。
 女性たちは正気のない目で、ワゴンに置かれた真鍮のグラスを受け取る。
 
「皆様もご存じのことでしょうが、この盃には猛毒が入っています」と支配人は言った。

 震えたり、泣き叫ぶ女性はいない。躊躇する様子もない。 
 脱落した女性たちは言われるがまま、グラスに口を付ける。そして、少しずつ飲み干していく。

 その様子を私たちはただ呆然と見ていた。彼女たちは虚ろな目で、グラスに入った毒を次々と飲み込んでいった。
 やがて、全員がグラスの中身を飲み干した時、支配人は再び口を開いた。
 
「彼女たちは今、自らの命と引き換えに毒を摂取しました」
 
 しばらくすると毒が回ってきたのか、発作のように咳き込んで血を吐く。そして、会場の床に倒れ込むと、細かく体が震えて、やがてそのまま動かなくなった。なぜか終始、口元には笑みを浮かべた状態で。
 
 その光景に、会場にいる女性全員が息を吞む音が聞こえた気がした。それほど衝撃的な光景だった。
 私は思わず目を逸らしてしまった。人間として本能的に嫌悪感を抱いてしまう光景だったからだ。他の参加者たちも顔をしかめているか、あるいは困惑した表情を浮かべていた。
 
「自らの命を捧げることで、我らがモナークさまとの魂と一つになったのです」
 
 支配人は誇らしげに言った。
 命を捧げることでモナークさまの魂と一つ? 一体どういうことなの? 私には何のことだか分からなかった。

 混乱している間にも、執事たちの手によって、脱落者たちの死体は棺桶に入れられ、会場の外に運び出される。
 
「怖いわ……」と一人の女性が呟いた。私も同じ気持ちだった。
 毒を喜んで命を捧げることは、正気ではあり得ないことだ。もしゲームに負けたら、私も彼女たちと同じようになってしまうのだろうか。想像して、身震いした。
 
「次のゲームの準備が終わるまで、少し休憩いたしましょう」と支配人が言った。
 
 私たちは休憩室へと案内された。部屋は広く、テーブルと椅子が置かれていた。テーブルの上にはお菓子が置かれている。紅茶も用意されており、自由に飲んでいいようだ。
 しかし、食欲がわかなかった私は、何も手を付けなかった。
 
「モナークさまって一体どんな方だろう……」と女性が言った。
 
「支配人がモナークさまの名前を言っていたけれど、聞いたことがありませんでしたわ」と別の女性が答えた。
 
 私もその会話に参加したかったけれど、周りの参加者の目が気になったので黙っていた。全員このゲームに勝つために必死だから。
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