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15 夕食ビュッフェにて
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私たちは食堂へと移動した。その部屋の中心には白いクロスの掛けられた長テーブルがあり、大量の料理が並べられている。ビュッフェ形式だ。
残った花嫁候補は5人だけ。
フルーツゲームで他の参加者を突き飛ばした――美浜ネル。
アイドル系YouTuber――桜庭コトリ。
昔から男運がない――桃瀬ジュラ。
高級クラブのホステス――鷹野目トウコ。
そして、私。
トレーと皿を取って、長テーブルの周りを歩く。
ホテルに来てから、まともな食事をしていない。食欲がなくても、少しは体に入れた方が良いとわかってはいるけれど……。
唐揚げが並んでいるのを見て、手を伸ばそうとしてやめた。
きっと叔父さんが作ってくれた唐揚げより美味しいはずがない。
よく、叔父さんのオフの日は唐揚げパーティしたなぁ。叔父さん考案のスパイスを混ぜたオリジナルレシピで、叔父さんが揚げた唐揚げを、出来たてのものからハフハフしながら食べたのが美味しかった。
花嫁ゲームを脱落して死んだら、叔父さんの唐揚げは食べられなくなるのかな?
あの味が名残惜しい。でも、この状況では体が受け付けないだろう。
トレーが空だったので、消化に良さそうなスープやおひたしの小鉢をのせた。
料理を運ぶために、長テーブルの横を通り過ぎる。すると、料理をたんまりと盛り付けたジュラと目が合った。
「それ、全部食べるの?」
思わず聞くと、彼女は力強くうなずいた。
「食べる量しか取ってないから。それに、廃棄されたらもったいないでしょ?」
「ジュラさんは頼もしいね……」
私がつぶやくと、彼女はうっすらと微笑んだ。
席についてふと周りを見渡すと、皆どこか沈んだ表情だった。ほとんどの人は料理に手を付けていない。そんな中、ジュラだけは次々と料理を平らげていく。その様は見ていて清々しい。
私もなんとか食べようと努力してみるが、やはり受け付けない。
トウコが私の前へやってきたのは、そんなときだった。
「ちょっといいかしら?」
「……どうぞ」
私が力なく答えると、トウコは私のトレーを見るなり口を開いた。
「あら、全然食べてないじゃない」
「食欲なくて……」
「食べておかないと体がもたないわよ。スープだけでも飲んでおきなさいよ」
それもそうかとスープを口にする。少し冷めていたけれど優しい味がした。
私は思い切ってトウコに聞いてみた。
「どうして……ミノリを処刑したの? 私は彼女には生きてほしかったわ……」
「それは違うわ」とトウコはあっさりと言った。
「私は彼女が裏切り者だと言っただけで、処刑するべきだなんて言ってないわ」
彼女は平然とした顔でエビチリを食べている。その様子を見て、他の参加者たちもほっとした表情を浮かべていた。
でも……本当にそうかな? 彼女がミノリを処刑に誘導したような気がする。私はトウコの顔をジッと見つめた。彼女は私の視線に気が付くと、ニッコリと笑って言った。
「何か言いたいことがあるのかしら?」
「いや……何でもないです」
私は視線を逸らすと、おひたしの小鉢に手を伸ばした。小鉢に入っているのはキャベツの千切りだ。それをもそもそと口に入れるが、やっぱり喉を通る気がしない。
私がため息をつくのを見て、トウコは言った。
「私は自分のやるべきことに全力を尽くす。それだけよ」
トウコはそう言うと、私から離れていった。彼女は他の参加者と楽しそうに会話している。その姿を見て、私は少し複雑になった。
彼女のあの態度が演技なのか、それとも本当にミノリを処刑に誘導するつもりはなかったのか……私にはわからないけれど、今は彼女を放っておくしかないだろう。少なくとも、彼女が私を殺そうとはしていないことはわかる。
ふとジュラがこちらを見ていることに気が付いた。彼女は食事をしながらも、じっと私を見ているのだ。私は彼女の視線から逃れるように、窓の外へ目を向けた。
空は厚い雲に覆われており、夜のように真っ暗だ。遠くの方には明かりが点いているが、それが何なのかはわからない。そして、この状況はいつまで続くのか……そんなことを考えているうちにも時間は過ぎていくのだった。
残った花嫁候補は5人だけ。
フルーツゲームで他の参加者を突き飛ばした――美浜ネル。
アイドル系YouTuber――桜庭コトリ。
昔から男運がない――桃瀬ジュラ。
高級クラブのホステス――鷹野目トウコ。
そして、私。
トレーと皿を取って、長テーブルの周りを歩く。
ホテルに来てから、まともな食事をしていない。食欲がなくても、少しは体に入れた方が良いとわかってはいるけれど……。
唐揚げが並んでいるのを見て、手を伸ばそうとしてやめた。
きっと叔父さんが作ってくれた唐揚げより美味しいはずがない。
よく、叔父さんのオフの日は唐揚げパーティしたなぁ。叔父さん考案のスパイスを混ぜたオリジナルレシピで、叔父さんが揚げた唐揚げを、出来たてのものからハフハフしながら食べたのが美味しかった。
花嫁ゲームを脱落して死んだら、叔父さんの唐揚げは食べられなくなるのかな?
あの味が名残惜しい。でも、この状況では体が受け付けないだろう。
トレーが空だったので、消化に良さそうなスープやおひたしの小鉢をのせた。
料理を運ぶために、長テーブルの横を通り過ぎる。すると、料理をたんまりと盛り付けたジュラと目が合った。
「それ、全部食べるの?」
思わず聞くと、彼女は力強くうなずいた。
「食べる量しか取ってないから。それに、廃棄されたらもったいないでしょ?」
「ジュラさんは頼もしいね……」
私がつぶやくと、彼女はうっすらと微笑んだ。
席についてふと周りを見渡すと、皆どこか沈んだ表情だった。ほとんどの人は料理に手を付けていない。そんな中、ジュラだけは次々と料理を平らげていく。その様は見ていて清々しい。
私もなんとか食べようと努力してみるが、やはり受け付けない。
トウコが私の前へやってきたのは、そんなときだった。
「ちょっといいかしら?」
「……どうぞ」
私が力なく答えると、トウコは私のトレーを見るなり口を開いた。
「あら、全然食べてないじゃない」
「食欲なくて……」
「食べておかないと体がもたないわよ。スープだけでも飲んでおきなさいよ」
それもそうかとスープを口にする。少し冷めていたけれど優しい味がした。
私は思い切ってトウコに聞いてみた。
「どうして……ミノリを処刑したの? 私は彼女には生きてほしかったわ……」
「それは違うわ」とトウコはあっさりと言った。
「私は彼女が裏切り者だと言っただけで、処刑するべきだなんて言ってないわ」
彼女は平然とした顔でエビチリを食べている。その様子を見て、他の参加者たちもほっとした表情を浮かべていた。
でも……本当にそうかな? 彼女がミノリを処刑に誘導したような気がする。私はトウコの顔をジッと見つめた。彼女は私の視線に気が付くと、ニッコリと笑って言った。
「何か言いたいことがあるのかしら?」
「いや……何でもないです」
私は視線を逸らすと、おひたしの小鉢に手を伸ばした。小鉢に入っているのはキャベツの千切りだ。それをもそもそと口に入れるが、やっぱり喉を通る気がしない。
私がため息をつくのを見て、トウコは言った。
「私は自分のやるべきことに全力を尽くす。それだけよ」
トウコはそう言うと、私から離れていった。彼女は他の参加者と楽しそうに会話している。その姿を見て、私は少し複雑になった。
彼女のあの態度が演技なのか、それとも本当にミノリを処刑に誘導するつもりはなかったのか……私にはわからないけれど、今は彼女を放っておくしかないだろう。少なくとも、彼女が私を殺そうとはしていないことはわかる。
ふとジュラがこちらを見ていることに気が付いた。彼女は食事をしながらも、じっと私を見ているのだ。私は彼女の視線から逃れるように、窓の外へ目を向けた。
空は厚い雲に覆われており、夜のように真っ暗だ。遠くの方には明かりが点いているが、それが何なのかはわからない。そして、この状況はいつまで続くのか……そんなことを考えているうちにも時間は過ぎていくのだった。
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