花嫁ゲーム

八木愛里

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18 第4ゲーム「はなむけの言葉」②

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 画面に映し出されたのは、二十代前半くらいの女性だった。
 
「ロカ!」
 
 ネルは叫んだ。ロカという名前はあだ名だろうか。赤いアイシャドウの印象的なメイクとカラフルにプリントされたブルゾンを着こなした女性だった。
 
「ネル! 元気だった?」
 
 ロカはネルに手を振った。
 
「私は勝ち残ってようやくここまで来れたんだ。ロカから友人代表でメッセージもらえるの?」
「私以外に誰がネルのことを語れるの? もちろんそうよ」
「嬉しい……!」
 
 ネルは目を潤ませた。二人は親友なんだろう。その様子を見ていた私は、ちょっと羨ましくなる。探偵事務所を始めてから、色々とバタバタして友人には会えていなかったからだ。
 
「こちらの方はネルさまのご友人ですね。ではメッセージをお願いします」
 
 支配人がそう言うと、ロカは手紙を取り出した。
 
「話が上手ではないので、用意していた手紙を読みます」
 
 彼女はそう言うと、視線を手元に落とした。
 
「ネルは派手な見た目だけど、心はとても純情です。高校二年生のとき同じバスケ部で、彼女はレギュラーを外れてしまったけれど、試合にも応援に来てくれて「私の分も頑張れ!」と言ってくれたんです。それでも彼女は腐らずに努力して、三年生の時はレギュラーを取って県大会にも出場しました。苦しい状況でも諦めない姿勢に私も学ばされました。
 卒業後、彼女は大学に行きましたが、経済学部で難しい講義やレポートにもしっかり取り組んでいました。そして現在はアパレル店員としてバリバリと働いてます。彼女は頭の回転が速く、自分なりの方法で人生を歩んでいる人です。ネルならきっと幸せになれると思います」
 
 ロカが読み終わると、画面外から「いいじゃん!」という歓声が聞こえてきた。私も自然と笑顔になる。ロカはネルにとっていい友人なんだろうなと思ったからだ。
 
「これは……感動的ですね! 素晴らしいメッセージでした」

 支配人も拍手する。
 
「ロカ、本当にありがとう!」

 ネルは目に涙を浮かべた。

「さあ、次はどなたでしょうか?」
 
 支配人がそう言うと、画面に映ったのは二十代後半くらいの男性だった。明るい茶髪にクールな目元の、芸能人と言われたら信じてしまいそうな整った顔立ちをしている。どこかで見たことがあるような……。
 
「この方は……?」と支配人が聞くと、コトリが答えた。
 
「私の元彼だよ」
「えっ、コトリさん?」支配人は驚いた。
 
 ああ! ようやく思い出した。コトリの元彼と言えば、登録者数1000万人を超える有名YouTuberだ。
 
「もう別れたのに……何で応援メッセージがリュートなのよ!」
 
 コトリの声は怒りに満ちていた。どうやら二人の仲は完全に冷めているようだ。リュートの方も気まずそうにしている。
 
「それはA Iによって関係の深さで選ばれたので、今さら変えることはできません」
 
 支配人がそう答えると、コトリは押し黙った。
 
「うわっ、本物のリュートだ。カッコいい!」とジュラが呟く。
 
 私はジュラに「静かにして」と言った。彼女は慌てて口をつぐむ。
 
「ではリュートさま、メッセージをお願いします!」
 
 支配人がそう言うと、リュートは口を開いた。
 
「コトリ……これ以上、このデスゲームに参加するな! まだコトリが好きなんだ! 戻ってきてくれ……! 頼む……!」
 
 彼は頭を下げる。その切実な表情は、コトリへの思いを感じさせた。
 
「私の意志でここに来たの! リュートには関係ない!」とコトリは冷たく言い放った。
 
「俺はどんな手でも使ってでも、コトリと別れるべきではなかったと反省している。ネットで叩かれたぐらいで動揺した俺が悪かった。覚悟が足りなかった。だから、このデスゲームから解放されてほしい。俺にはコトリが必要なんだ」
 
「もう手遅れだよ。このゲームをやめる訳にはいかないんだから」
 
「それは分かってる。でも俺の思いを伝えたかったんだ……」
 
 リュートはそう言うと、肩を落とした。支配人は耳元を手で押さえて、頷いた。
 
「ここでモナークさまから一言があるようです。画面を切り替えます」

 画面が切り替わり、モナークさまが映し出された。彼は仮面越しにこちらを見つめて話し始めた。
 
「コトリ。ゲームを棄権して、日常生活に戻れば、今より苦しい状況になるだろう。貴方にはその覚悟があるか?」
 
 コトリは黙り込んでしまった。モナークさまの声は低く、厳かな雰囲気をまとっていて、私の心にも深く響いた。
 
「私は……」
 
 コトリは迷っているようだった。
 モナークさまはそんな彼女の様子をじっと観察しているようだったが、やがて口を開いた。
 
「重大な決断だ。よく考えて、答えを出してくれ」
 
 モナークさまはそう言って立ち去った。画面が切り替わると、支配人が「さあ! コトリさま!」と言った。コトリは手を握り締めて立っていた。そして何かを決意したように、ゆっくりと前を向いたのだった。
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