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19 第4ゲーム「はなむけの言葉」③
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「私……棄権します」
コトリは震える声でそう言った。
「え?」と皆が驚きの声を上げる。ネルも驚いて目を瞬いた。私は無言で彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
「このゲームを棄権して、日常に戻ります」
「本当によろしいのですか?」
支配人はコトリに確認する。
「はい。お願いします。……私はネットで彼との熱愛を叩かれて、辛くて、死のうと思いました。それは、人にどう見られているのかを気にし過ぎていたからです。
今、リュートの声を聞いて、気持ちが固まりました。私がどうしたいかを第一に考えて行動していきます。私は花嫁候補からは降りて、私の原点である振り付けの仕事を一からやりたいです。だから、私を棄権させてください」
コトリは頭を下げた。支配人はニヤリと笑う。
「承知しました。では、ここでコトリさまの棄権の意思をモナークさまにお伝えいたします」
支配人がそう言うと、数分後にモナークさまが画面に戻ってきた。彼は仮面越しにコトリを見つめた後、話し始めた。
「貴方の決断に敬意を。そして、このデスゲームから解放されたことを祝福する。貴方はこれから自分の人生を歩んでほしい」
モナークさまはそう言うと、画面を切り替えた。
コトリは「ありがとうございます」と言った。
「リュートさま、何か言いたいことがありますか?」
支配人がそう促すと、リュートに画面が切り替わる。
「コトリ、俺とまた付き合ってほしい」
「……いいえ。リュートとは復縁はしないわ」
「……分かった。最後に一言だけ言わせてくれ。俺は本気でお前のことを好きだったんだ。それだけは伝えたかった」
リュートはそう言って画面から消えた。コトリはそのまま画面を見つめていたけれど、何も言わなかった。彼女の瞳には涙が溜まっていたけれど、こぼれ落ちることはなく、悲しみが心を支配したのだろうと思った。
「では、コトリさまの棄権により、脱落者なしで、最終ゲームに進むことにいたします! おめでとうございます!」
支配人は嬉しそうに言った。そして、続けて言う。
「ジュラさまはコトリさまが棄権しなかったら脱落でした。次は頑張ってくださいね」
ジュラは声を落として「はい……」と返事をした。
「コトリさまは花嫁ゲームをしていた方がきっと楽だったでしょうねえ」
支配人の言葉に引っ掛かりを覚えた私は、思わず「え?」と声を漏らした。
「あの、花嫁ゲームをしていた方が楽だったとはどういう意味ですか?」
私は聞いた。支配人はニコニコ笑いながら答える。
「勝ち進んだ貴方たちには特別にお教えしましょう。
我々がこれまで手間暇かけてお世話してきた花嫁候補をそのまま返すとお思いですか?
コトリさまはこのホテルでの記憶を消させていただきます。同じく、テレビ通話したリュートさまも。
記憶を丸ごと失ったコトリさまが志高く人生を歩めるでしょうかね? 何事にもリスクがあると予測しないといけませんねえ」
支配人は怪しく笑った。
私はぞっとした。この人は……私たちの人生を何だと思っているんだろう?
「でもコトリさまは棄権を選んでしまいましたからねえ。やる気に満ちた彼女にはなれないでしょうね」
そう支配人は言ったが、その声色にはどこか愉快そうな響きがあって、嫌悪感を覚えた。
「そのリスクは始めから説明しないとフェアではないのでは?」
私が質問した途端に、支配人の眉間にシワが入り、怪しい笑顔にさらに拍車がかかった。
それも一瞬のことで、胡散臭い笑顔に戻る。
「頭の切れる人は嫌いですねえ。……ですが、モナークさまからヒントは差し上げていたはずです。花嫁ゲームよりも日常生活に戻ったときの方が苦しい場合もあると」
私は下唇を噛んだ。モナークさまのあのときの発言はそういう意味だったのか……!
「モナークさまはとても紳士的で素晴らしいお方ですよ。花嫁ゲームはただの娯楽です。デスゲームなんて人聞きの悪い」
支配人はそう言って笑ったが、私は彼の言葉に騙されなかった。彼が言ったことは嘘だと直感していたからだ。モナークさまは怪しい人物だし、この花嫁ゲームはデスゲームに違いない。
「さあ! 最終ゲームに進みましょうか」
支配人は明るい声で言ったけれど、私たちは何も答えることができなかった。ジュラはすっかり怯えきっていたし、ネルは観察するようにじっと成り行きを見守っていた。
コトリは震える声でそう言った。
「え?」と皆が驚きの声を上げる。ネルも驚いて目を瞬いた。私は無言で彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
「このゲームを棄権して、日常に戻ります」
「本当によろしいのですか?」
支配人はコトリに確認する。
「はい。お願いします。……私はネットで彼との熱愛を叩かれて、辛くて、死のうと思いました。それは、人にどう見られているのかを気にし過ぎていたからです。
今、リュートの声を聞いて、気持ちが固まりました。私がどうしたいかを第一に考えて行動していきます。私は花嫁候補からは降りて、私の原点である振り付けの仕事を一からやりたいです。だから、私を棄権させてください」
コトリは頭を下げた。支配人はニヤリと笑う。
「承知しました。では、ここでコトリさまの棄権の意思をモナークさまにお伝えいたします」
支配人がそう言うと、数分後にモナークさまが画面に戻ってきた。彼は仮面越しにコトリを見つめた後、話し始めた。
「貴方の決断に敬意を。そして、このデスゲームから解放されたことを祝福する。貴方はこれから自分の人生を歩んでほしい」
モナークさまはそう言うと、画面を切り替えた。
コトリは「ありがとうございます」と言った。
「リュートさま、何か言いたいことがありますか?」
支配人がそう促すと、リュートに画面が切り替わる。
「コトリ、俺とまた付き合ってほしい」
「……いいえ。リュートとは復縁はしないわ」
「……分かった。最後に一言だけ言わせてくれ。俺は本気でお前のことを好きだったんだ。それだけは伝えたかった」
リュートはそう言って画面から消えた。コトリはそのまま画面を見つめていたけれど、何も言わなかった。彼女の瞳には涙が溜まっていたけれど、こぼれ落ちることはなく、悲しみが心を支配したのだろうと思った。
「では、コトリさまの棄権により、脱落者なしで、最終ゲームに進むことにいたします! おめでとうございます!」
支配人は嬉しそうに言った。そして、続けて言う。
「ジュラさまはコトリさまが棄権しなかったら脱落でした。次は頑張ってくださいね」
ジュラは声を落として「はい……」と返事をした。
「コトリさまは花嫁ゲームをしていた方がきっと楽だったでしょうねえ」
支配人の言葉に引っ掛かりを覚えた私は、思わず「え?」と声を漏らした。
「あの、花嫁ゲームをしていた方が楽だったとはどういう意味ですか?」
私は聞いた。支配人はニコニコ笑いながら答える。
「勝ち進んだ貴方たちには特別にお教えしましょう。
我々がこれまで手間暇かけてお世話してきた花嫁候補をそのまま返すとお思いですか?
コトリさまはこのホテルでの記憶を消させていただきます。同じく、テレビ通話したリュートさまも。
記憶を丸ごと失ったコトリさまが志高く人生を歩めるでしょうかね? 何事にもリスクがあると予測しないといけませんねえ」
支配人は怪しく笑った。
私はぞっとした。この人は……私たちの人生を何だと思っているんだろう?
「でもコトリさまは棄権を選んでしまいましたからねえ。やる気に満ちた彼女にはなれないでしょうね」
そう支配人は言ったが、その声色にはどこか愉快そうな響きがあって、嫌悪感を覚えた。
「そのリスクは始めから説明しないとフェアではないのでは?」
私が質問した途端に、支配人の眉間にシワが入り、怪しい笑顔にさらに拍車がかかった。
それも一瞬のことで、胡散臭い笑顔に戻る。
「頭の切れる人は嫌いですねえ。……ですが、モナークさまからヒントは差し上げていたはずです。花嫁ゲームよりも日常生活に戻ったときの方が苦しい場合もあると」
私は下唇を噛んだ。モナークさまのあのときの発言はそういう意味だったのか……!
「モナークさまはとても紳士的で素晴らしいお方ですよ。花嫁ゲームはただの娯楽です。デスゲームなんて人聞きの悪い」
支配人はそう言って笑ったが、私は彼の言葉に騙されなかった。彼が言ったことは嘘だと直感していたからだ。モナークさまは怪しい人物だし、この花嫁ゲームはデスゲームに違いない。
「さあ! 最終ゲームに進みましょうか」
支配人は明るい声で言ったけれど、私たちは何も答えることができなかった。ジュラはすっかり怯えきっていたし、ネルは観察するようにじっと成り行きを見守っていた。
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