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自分でも役に立てるなら……
しおりを挟む「この屋上は雨水ろ過装置の役割もあって、館内のトイレやこの庭園に流れる川に利用しているんだ」
足元に流れる小川の水を指し、シゲアキが説明してくれるが、ショウイチは気もそぞろだった。
さっきのシゲアキの表情、握られたままの掌。それに、周りから向けられる視線。
どうしてこんな美しい屋上庭園を造る、立派な男が、ショウイチを好きなんだろう? 何もない、しかも過去から来た怪しい子どもなのに。子どもだから……? まさかそういう趣味なのか? いや、それならきっともっとかわいい少年を選ぶだろう。
ショウイチは自分の見た目が並であることを自覚している。
シゲアキの趣味が悪いとは思えないし……。
とりとめもなくぐるぐると考えを巡らせていたら、グイと手を強く引っ張られた。
「落ちるぞ。こういう話はやはり退屈だったか?」
しまった。あまりに考えることに没頭しすぎて、池に気付かなかった。見上げるとさあさあと流れ落ちる滝まで造られていた。
カエデの木々に囲まれた、段差のある滝はやはりショウイチに故郷を思い出させた。
「ごめん。ちょっと考え事してて……。ここ、僕の実家に似てる」
シゲアキがどうしてショウイチを好きか考えていた、などとはもちろん言えず、最初に感じたことを伝える。
「そうか……。もしかして帰りたくなったか?」
帰ったところでリョウゴに会うのも辛い……。ショウイチは頭を振って否定した。
「ううん。ちょっと懐かしいなとは思うけど。帰りたいとは思わないな。それより、あの……これ」
そろそろ手を離してもらいたい。そう思って握られた手を持ち上げる。
「なんだ。前も何も言わなかったから、気付いてないのかと思ったのに」
「子ども扱いしてるんだと思ったんだよ! そうじゃないなら、その……恥ずかしいし、人の目も気になるし」
「ここ、高いだろ? 風が吹くと揺れるんだ。ショウイチが握っていてくれると助かるんだがな。主賓が怖がっていたら、カッコ悪いだろ? それに、誰も気にしてないから、ショウイチが嫌じゃなければ……」
そう言われてしまうと、なんだか自分でも役に立てるなら……という気になってしまう。
どうしようか。迷っていたら背後から別の声が聞こえてきた。
「おいおい。君のその敏感な振動に対応するため鹿児島から呼びつけられた俺に、文句があんのか?」
「ハイタニさん。そんなわけないじゃないですか。あなたのおかげで準備期間中、一度も揺れずに済みましたよ」
振り返ったシゲアキの顔は、仕事モードに戻っていた。そこにいたのは60前後のグレーのスーツを着た男性。怒っているかと思ったら、ハイタニと呼ばれた彼は豪快に笑っていた。
「さっきそこで聞いたけど、本当に別人みたいだな。坊主、このビルは震度6だろうと風速60メートルだろうと揺れねぇから、手離しても大丈夫だぜ。まぁキタムラが離すかは、別だけどな」
「ハイタニさん………。俺だって嫌がられたら離しますよ。ショウイチ、彼はこのビルの最初の設計を担当した建築士のひとりだ」
軽い会釈をしたショウイチだったが、内心は驚いていた。
なぜなら、彼は……同級生だ。
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