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不思議な感覚だった
しおりを挟むハイタニコウジ。建築学部の二年生。学部も違う彼をショウイチが覚えているのは、バイト先である安居酒屋の常連だからだ。
週に一度。決まって社会人らしい男と共に現れては、小一時間飲んで帰っていく。それだけなら少し不釣り合いな組み合わせではあるが、どこにでもいる客で、すぐに忘れてしまっただろう。
前日、徹夜でゲームをしていたショウイチが、体調不良と偽って早退した帰り道。同じころに会計を済ませた彼らが前を歩いていた。
駅とは反対方向のこの先にあるのは住宅街と学生向けのアパート、それから大きな国道。その通りにはファミレスが数軒あるくらい。どちらかの家がこちらにあるのだろうか?
気まずいと思いつつも、とぼとぼと歩いていると彼らがある建物に入っていったのが見えた。
古びたラブホテルだった。
以来、ハイタニのことを一方的に同士と思っていたのだ。
歳を重ねた分の渋みはあるが、人懐っこい表情は変わらない。いつも教授に叱られてる姿を学内で見かけてはいたが、ちゃんと建築士になれたのだ。
同級生の成長を見るなんて、不思議な感覚だった。
「こんな立派なビルを設計したなんてすごいですね」
「いや、俺はただのアシスタント。設計のほとんどは先生が完成させていたからな」
「それでも、すごいです……。僕の知ってる新宿とは全然違う」
ショウイチの言葉にハイタニが首を傾げた。しまった。今のショウイチが昔の新宿を知るわけがないのだ。
「このビルが建って20年も経ってるのに、面白いことを言うなぁ。見たところ、まだ20歳そこそこだろ?」
「田舎から出てきたばかりなんですよ、な? ショウイチ」
「あ、そう。そうなんです。古い映像でしか知らなくて」
シゲアキのフォローに下手な笑顔で嘘を重ねた。
「確かに俺も、久しぶりに東京に来てだいぶ変わったから、驚いたな。邪魔して悪かったな。この屋上庭園を見たら、きっと先生も喜ぶだろうよ」
どうやらごまかせたようだ。ハイタニはシゲアキに労いの言葉をかけて立ち去った。
「あぶなかった……」
「そうだな。緊張しただろ? なにか飲むか? この先にカフェがあるんだ」
ショウイチがうなずくと、シゲアキは先を進んだ。
結局、レセプションの間中、手を離されることはなかった。
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