短篇まとめて置いておくところ

三谷玲

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フォルテシモの鼓動

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――人はね、六度転生するんだって



「あぁ初めて逢ったときからずっとこうなりたいと思ってたんだ」

 力を失ったオレの腰だけを持ち上げて背後から中を揺さぶるハルトがそう呟いた。

「んっはぁ……は、初めてって、オレ、はぁっ、猫って言ってなかった……か?あ、そこぉっ♡」
「ここ?ああここ押すと、締まる、ね。んっ。はぁ……まぁ、今は僕だけの、ネコだけどねっと」

 しながらする話ではないのだが、もう互いに何度目かわからない絶頂を迎え、ぐちょぐちょになったオレの中をハルトの屹立がゆるゆると動いて、もうずっと気持ちいいのが続いていた。前立腺を先端で突いたり、浅いところを出入りしたり、時折奥をついてきたり。隅から隅までハルトは堪能するつもりなんだろう。オレはそれを拒むこともせず、ぬるま湯のような快楽に浸りながら時折浴びせられる雷撃に翻弄されていた。
 
「っはぁ、はっ……ん、巧いこと、言ったつもり?……ふふっ、変態だよね、っって、あっ、あっ♡」

 変態って言葉が嫌なのか嬉しいのか抽挿が激しくなり、オレの声が色づく。もう、出せるものなど残っていないオレのモノは勃ち上りもせず雫だけを零していた。最後とばかりに奥へ押し付けられて中に熱を放つ。背中にいくつかのキスを落した後、少し萎えたブツをそのままにハルトはオレの隣に横になり、足と腕を絡めた。重い……

「レイが猫でも、犬でも、女でも男でも、子供でも年寄りでも、君が君であるなら僕は何度生まれ変わっても君に恋してしまうだろう」

 オレの頭に頬ずりしてハルトはこっちがこっぱずかしくなるようなことを甘く囁いた。

 でも、オレにはもう来世はないんだよ、ハルト……



 オレ、レイ・シェルバリとハルト・エンロートの出逢いは平凡そのもの。田舎領主の息子であるオレは帝都にある高等学院に入学した。式典も終わり教室でオリエンテーションを受ける際隣に座ったのがハルトである。ハルトは帝国内の有力貴族であるエンロート家のご子息様にも関わらず、田舎者のオレに気さくに話しかけ、初めての帝都に緊張していたオレの心に入り込んできた。チョロい?分かってるよ、オレだって。でもあの時、初めてハルトがオレへと向けた笑みに、心臓がぎゅっと締め付けられて、早鐘を打ったのを、オレは今でも覚えている。
 窓から刺す光が照らしだすハルトの短く整えられた淡い茶色い髪。よく見ると灰がかった蒼い瞳。少し切れ長の眦を下げ、弧を描く薄い唇。今思えばオレに逢えたことを喜んでいたのだろう、目元にきらりと光る涙……
 季節が変わるごとに級友から親友、そして恋人と二人の関係は順調にステップアップしていった。

 ハルトから恋人になって欲しいと告げられて、迷うことなく首を縦に振った。がばっときつく抱きしめられ、オレは心の底から安堵した。

(やっとオレだけを見てくれる人に出会えた……)


 オレには前世の記憶があった。これが前世なのかもっと前なのか、それはオレにはわからない。けれどそれは確実にこの世界で起きたことなのは歴史の授業で明らかになった。過去に帝国内で起きたクーデター。それは一人の少女の死から始まって、この国を揺るがす一大事件へと発展していった。その少女がオレだった。授業で聞いて初めて思い出したときは恐怖のあまり叫び出しそうになったのだが、何とかそれに耐え一人寄宿舎に戻った。頭の中を整理しながら導いた答えが、あの少女が前世のオレだということだけだった。
 あの時、オレは次期皇帝と目されていた男の婚約者だった。しかしその男は好色でオレがいながらほかの女を幾人も誑かしていた。その中の一人の女にハメられて冤罪を着せられたオレは次期皇帝暗殺未遂の実行犯として処刑されたのだった。
 ギロチンで処刑される寸前、オレが思ったことは、目の前を通り過ぎた黒猫、オレはアレになりたい。それだけだった。


 付き合いだしてから何度かのデートを重ね、いよいよと迎えた初めての夜。ハルトが真剣な顔で切り出した。

「初めて君と出会ったときは猫だったんだよ」

 最初なにを言ってるのか分からなかった。猫?教室で会う前に出会っていたんだろうか?その時猫がいたのかと。

「僕とレイはもう何度も転生して、何度も巡り合ってるんだ。最初はレイが猫で僕が飼い主。それからレイが僕の子供だった時もあるね。僕が皇太子になったときはレイが孤児で、その次はレイは犬だったよ。僕も女性だったけどね」

 なんと、ハルトにも前世の記憶があるという。猫に子供、孤児に犬。ハルトの話をまとめるとこれが五回目の出会いということか。やっとレイと結ばれると涙を浮かべてキスをするハルトにオレは困惑した。

(五回目?じゃあ、オレのこの記憶はいったい……?)

「あ、もしかして僕のこと頭がおかしいと思ってる?帝国内には珍しいけど隣の公国だと半分くらいは前世を覚えてるらしいんだよ?」

 ハルトが言うことを信じていないわけではないしましてや頭がおかしいとは思っていない。もしそうなら自分自身が頭のおかしい奴だということになるからな。首を横に振って信じてると呟けば、ほっとした顔をしてハルトがオレの掌にキスをした。

「猫の時はこうやって肉球にキスするとレイがすっごい喜ぶんだ」

 今はもう猫じゃない、けどこれをされると嬉しいのはわかる。求愛の意味があると知ってなおさらオレはこのキスが好きになった……けど……

「お前、もしかして猫の時も求愛の意味でしてたのか?」
「もちろん。僕はどんな姿であっても君を愛しているし、僕だけの君でいて欲しいもの」

 本当に恥ずかしいことを平気で言うハルトを直視できずにいたら顔を上げさせられておでこにちゅっと唇が触れた。

「さすがに自分の子供にはおでこが限界だった」

 まぁそれ以上してはダメだろう……上目遣いでハルトを睨むと苦笑いしながら今度は鼻先にキスをする。

「犬の時は君のほうからこうしてしてくれたっけ」

 それは犬の習性じゃないのか?突っ込む気力もなくなすが儘にキスの雨を受けていたら、いつの間にか露わにされていた喉元に噛みつくような口付けをされた。

「っぁやぁっ♡」
「孤児の君を引き取って結婚しようと思ってたのに、反対されて悔しかったから一生かけて同性婚が出来るように法律変えたんだ。やっとそれが生かされるね」

 この人はいったいどこに向かっているんだろうかと心配になる……まぁ今は皇太子ではないし平穏無事にこうしていられる、結婚だって出来るのだ。過去のハルトに感謝しよう。

「だから、レイは何も心配しないで、結婚して一生一緒にいよう。いや、一生だけじゃなくて来世も一緒だよ」

 そういってハルトはオレを押し倒した。

「あぁ、鼓動が激しいね、猫みたいだ」

 露わにしたオレの左胸に手を当てると鼓動を確かめた後、カリッと乳首を掻く。それだけでオレの身体が熱を帯び、ハルトを求めて疼き出す。もっととねだるように胸を突き出すと、わかってると言いたげに今度は舌を這わしてきた。
 ぴちゃぴちゃと音を立てて舐められてオレの乳首がぴんと勃つ。それを今度は唇で食みながら先端だけを舌で濡らす。反対も同じように勃ちあがらせて顔を上げるとその胸元に強く口付けて跡を残す。

「僕のレイ。僕だけのレイ。もうどこにもいかないで……」

 搾りだすような声でハルトが呟く。
 オレの知らないオレたちはハルトに傷を負わせたようだ。どのオレもハルトに出会い、共にいられるようになると、間もなく別れを余儀なくされてきたそうだ。いつもオレを覚えているハルトがなんとかそれを阻止しようと努力すればするほど、オレは離れていく、らしい。結ばれるのはこれが初めてだと、ハルトが泣きながらオレに縋りついた。

「……ハルト、好きだよ。だから早くハルトのモノにして」

 ハルトの不安をオレは慰めるように、言葉にした。今まで言えなかった分、今世ではいっぱい言ってやろう。きっとハルトが知るオレたちはハルトのことが好きだったと思う。過去の記憶はないけれど、それでも分かる。それが恋とは違っても、それでもハルトからの愛を一身に受けて、幸せだったんだと思う。

 だからハルトの過去にないオレの記憶は黙っていた。

『人はね、六度転生するんだって』

 これはオレの過去に聞いた言葉だ。あれはオレが処刑される前、牢に入れられた時だ。
 オレをハメた女はただ殺すだけでは気が済まなかったようで、オレをほかの受刑者と同じ牢に入れた。時期皇帝の婚約者であるオレは当然容姿も良く、受刑者たちの慰み者として扱われた。饐えた臭いのするカビの生えた敷物の上でオレの処女は散らされ、代わる代わるに男がオレを組み敷いた。
 そのうちの一人が公国出身だったのだろう。オレを犯した後にたまに話をするようになった。

『俺の国では人は転生するんだよ。何に転生するかは人それぞれ。今は辛いだろうけど転生すればそれもすべて過去になる。まぁこんな君を穢した俺が言うことじゃあないんだろうがね』

 なんの助けにもならないその言葉にオレは反論した。

『転生なんてなんの価値が?私はもう私でいるのに疲れました。来世など必要ありません。転生したとして私の記憶など持ち得ても辛いだけでしょう』
『そうか、それもそうだな……』

 その男はそれだけ答えるとまたオレを抱いた。男は受刑者の中でもリーダー的存在だったようでしばらくするとその男だけがオレを抱くようになり、やがてオレは処刑された。
 その後のクーデターでオレをハメた女も、次期皇帝も放逐された歴史を聞いてもオレの心は晴れない。なぜ、この記憶だけを持っていオレは転生したのだろう?

 六度ということはオレはこれで終わりだ。オレ、猫、子供、孤児、犬、オレと六度目のオレに来世はないのだろう。
 ハルトは来世も一緒にと言ってくれたけどオレにはこれが最期の生。

 だからこそオレは今のオレでハルトを愛したい。


 時折訪れるオレの記憶をオレは心に秘めたまま、ハルトとの幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、ハルトが刺された。
 ハルトの家は皇帝の血筋を持ちハルト自身にも皇位継承権がある。現皇帝には一人息子の皇太子のみ。穏やかで心優しい彼は可もなく不可もなく、皇帝になるにはいささか凡庸な方だが、悪い方でもない。それに引き換えハルトは学院を卒業し文官として着実に地位を築いていた。本人はその気はないと固辞していたが次期皇帝と推すものも多くいたのが良くなかった。
 皇妃は自身の息子をこよなく愛していた。彼を皇帝にすべく邪魔に思ったのか、たびたびハルトへ刺客をよこしていた。それを何度も退けていたハルトだったが、敵はオレを認識すると今度はオレを標的に定めた。強盗に扮した刺客がオレの胸めがけてナイフを突き出したのを庇ったハルトが刺されたのだ。
 幸い傷は皮膚を掠めただけで深くなく命に係わる傷ではなかった。しかし、ハルトはこれを機に皇妃の企みの証拠を掴み、訴えた。すぐに皇妃は廃され、幽閉されることになった。その決断を下したのが皇太子殿下だった。念入りな調査を行い、連座でいくつかの貴族も処罰し、皇妃によるほかの罪状についても決を下した。冷静な判断を下す皇太子に、彼が次期皇帝の器ではないと誹るものもいなくなった。

『母はわたしを愛してると言っていたが、わたしを信じてはくれなかった。それがわたしには苦痛だったよ』

 ハルトに謝罪に訪れた皇太子の言葉が胸を突いた。

 世間を騒がせた大事件となったが、終着を迎えた頃、オレとハルトは静養も兼ねてオレの実家で過ごしていた。両親もハルトを大変気に入り、こんなオレで良ければと結婚を認めてくれた。これでやっと落ち着けると二人で近くの湖に散策に出掛けた。
 何もない田舎だからこその自然美とでも言うのだろう。湖面に落ちる木々の陰、陽光を受け煌めくその様をハルトと二人でのんびり眺めていた。

「まるでが洗われるようだね」

 そんな言葉で表現するハルトにもたれ掛かる。

「傷、痛む?」
「こんな掠り傷で大げさだね、レイ」

 オレの頭を撫でたハルトを見上げる。よかった、生きてる。あの時は本当に心臓が止まるかと思った。浅いとはいえ胸元を刺されたハルト。血がじわじわと滲むシャツにオレは叫んだ。

『ハルト、死ぬな、死なないでっ』

 今思えば倒れもしないハルトにそんな必死になるのもおかしなことだけどあの時のオレは相当頭が混乱していたのだろう。思い出すのも恥ずかしい。

「あの時もレイ大袈裟に叫ぶからびっくりして痛みも感じなかったよ」
「だって……もうレイに逢えなくなるって思ったから……」

 心が潰されそうになる。レイのことが好きでやっと二人になれたのに、もう離れるなんて考えられない。

「大丈夫だよ、もし死んでもまた必ず見つけるから」

 そう言ってオレの頭を胸に押し付ける。ハルトの強い鼓動がオレの身体を伝わる。その鼓動のリズムに合わせて呼吸をして、ハルトの言葉を反芻する。逆毛が立つ猫のように身体が跳ねた。

「レイ、どうした?」

 涙が溢れる。秘めていたオレが暴れ出す。

「オレには次はないよ……次なんて……ないんだっ」
「レイ……?」

 これ以上言ってはいけないと、来世で逢えると思っているハルトに告げたらハルトはどう思うのだろう?ハルトの知らないオレ。それでももう黙ってはいられなかった。

「ハルトの知らないオレがいる、オレはこれが六度目なんだっ。もう次はないんだよっ」
「レイ……前の記憶が……?」
「帝国クーデターの、あの少女。あれはオレだよ、ハルト。だからオレには次は……っいたっ痛いよ、ハルト」

 抱きしめていたハルトの腕がさらに強くなった。

「レイは前のことを忘れていると、思っていたから。だから、思い出さないように、黙っていたのに……」
「ハルト?」

 腕を伸ばしてハルトの腕から顔だけを出して、ハルトを見上げる。灰青の目から一筋、涙が落ちる。

「覚えていないなら思い出さなくていいとそう思ってたのに。そうか、覚えてるんだな。前の皇太子の婚約者だったころのこと……」

 ハルトは知ってたのか、オレが私だったことを。

「すぐに見つけられなくて、間に合わなくて、助けられなくてごめん。あの時の僕には力がなかったから……」

 懺悔するかのようにオレの肩に頭を落とした。

「レイが覚えてるのは、他にいくつある?」
「いや、あの時だけだよ……猫も犬も覚えてないし、ハルトに逢った記憶はない、かな」

 そう告げるとハルトはがばっと頭を起こし肩を掴んだ。

「あれだけ?そうか、そうか!他は何も覚えてないんだね?」

 やけに嬉しそうなハルトに、ハルトを覚えてないと言ったオレの申し訳無いと思う気持ちが吹き飛び掛けた。

「レイはまた僕に出会える来世の可能性があるよ。いや、必ず僕は君を見つけるけどね」

 頬にちゅっとキスを落としたハルトに困惑を隠せないオレ。転生は六度と言われたはずなのになんで?

「前の時、転生は六度だって言われたよ?彼女から始まって、猫、ハルトの子供、孤児、犬、オレで六度だろ?」

 頬ずりしたままのハルトを押しやり確認する。前に言われた時のことを思い出して少し眉間にしわが寄る。

「……それ言ったのが僕だったって言ったらレイは僕を嫌いになる?」

 え?

「あれは前の僕。気付いてなくてもそれは構わない。あの時の出逢いは最悪だから。レイを傷付けた僕のことは忘れてくれて構わない。でも、あの時僕が言ったこと、レイはちゃんと聞いてなかったみたいだね」

 あの時……そういえばあの話をしたのは、どんな時だったか。犯された後、転生の話をされて、また犯された。他の男たちに比べて優しかったのは覚えてる。まるで恋人にするように、丁寧な愛撫、事後だけでなく最中もあれこれ話し掛けてきて……

「……ハルトは最中に話をするの、好きなの?」

 恋人の性癖にちょっと訝しさを覚える。

「いや、そんなことは……ない……と思うけど。そうじゃなくて、転生のこと!六度転生するのは覚えてるんだよね?じゃあその後の話は?覚えてない?」

 その後?

「押し倒されたことしか覚えてない」

 ハルトが額に手を当てて、天を仰ぐ。いや、あの時の男はほんと見境いなく昼夜問わず抱いてたじゃないか!くいくいとハルトの襟元を掴むと気付いたハルトがオレを見た。

「あの後ちゃんと僕は伝えたんだけど、覚えてないなら仕方ないね。僕は君にこう言ったんだ。人の転生が六度なこと、僕と君は何度も巡り会っていること、それと、六度転生すると魂が洗われてそれまでの記憶は消されること。それでも僕は必ず君を見つけられること。だから、次こそは君を一番に見つけて、幸せにすること」

 そこまで言い切ったハルトがオレの目尻にキスを落とす。ハルトの言葉がオレの思い違いを正していく。魂が洗われるっていうのはどういうことなんだろう?

「何度も生を繰り返すには、人の心は脆いんだ。だから六度と神様が決めた。全部覚えてる人も稀でね、だいたいの人は前を忘れて今を生きてる。レイの前は歴史にも出てくるからそれがきっかけで思い出しちゃったんだろうね」

 そうだ、歴史の講義で出てきた前のオレの話で思い出したんだった。コクリと頷いて、じゃあハルトはなんで思い出したのか気になった。五回分も。

「ハルトは?ハルトはなんで覚えてるの?今六度目なら次はもう、オレのこと、忘れてる……?」

 それに気付いてオレは涙を流した。忘れられてもオレはハルトを見つけて愛して貰えるだろうか?

「大丈夫。僕はレイのことを忘れることはないよ。魂が洗われることがないからね……」

 少し憂いを帯びたハルトの表情にオレまで悲しくなった。魂が洗われることがないとはどういうことなんだ?

「僕はもともと人じゃなかった。今で言うなら天の御遣いとでも言うのかな。そこで罪を冒した。君を……兄弟だった君に恋してしまったからね」

 そこまで言ってハルトはまたオレを抱きしめた。まるで縋りつく子供のように。

「そのおかげで僕の魂は洗われることもないし、君を忘れることもない。ただし、君を救うことが出来ないと、君を失うことになる。まるで呪いのようにね」

 過去のオレがハルトの前から姿を消してしまう理由が分かった気がした。他のオレは知らないけど前のオレなら分かる。あの時のオレはもう自分の生を諦めていた。それこそ目の前のボロボロになった黒猫になりたいと思うほどには……

「あ、だからか……」
「だから?」
「あの時、処刑された時に猫になりたいと思ったんだ。だからハルトが初めは猫だったって言ったから……」

 そこがオレの勘違いの始まりだったのだ。

「ごめんね、あの時もう少しでも早く君を見つけていたら助けることができたのに……」

 オレは過ぎたことだと思っているから何度も謝るハルトの頭を撫でた。もう、あれは過去のことだ。

「ハルトはなんであの時牢にいたの?」
「あの時の僕はあの皇太子の異母弟でね、公国に亡命してたんだけど公国では君を見つけられなかった。だから帰国したんだけどその直後に捕まってね」

 ん?あの皇太子の異母弟?それって……

「君があの牢に連れてこられて出逢えたのは良かったけど、結局あんなことになってしまったし。自分の不甲斐なさに腹が立ってね。君を冤罪で処刑した義兄も、あの女にもムカついたし。いっそこんな国は滅ぼしたらいいと行動したらクーデターに成功しちゃうし」

 あの後クーデターを起こしたのは稀代の賢帝では……

「猫の君を見つけた時は戦があって避難させてた北の離宮が被災してねぇ……」

 北の離宮って初代のころに戦災にあった遺構じゃなかったっけ……

「犬の君と一緒にいたら跡継ぎ作れって君を脅しの材料にされたときは頭の悪い臣下全員粛清しちゃって後が大変だったよ。まぁ跡継ぎにいい子がいたから子供作らなくて済んだのは良かったかな」

 ブラッディーレディ……

「うん、こう思いだしてみて分かったけど、皇帝になるルートだと君を救うことは出来ないみたいだね。良かった、今世は大丈夫だね」

 なにかひとりで納得してる。他にもきっと皇帝だったハルトがいるんだろう。聞くのが怖い。

「だから、レイは何も心配要らないよ。この先僕は皇帝にならなければ君を見つけて幸せにしてあげるから」

 旋毛にキスを落としたハルトにお返しに胸の傷の上にキスをした。

「次がどうなるかわからないけど、オレは今のハルトが好きだよ。だから何度でも今のオレにも恋して?」

 オレの顔の下にあるハルトの心臓が過去最大に跳ね上がるのを聴いて、オレはふふっと笑った。
 
 
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