二十代最後の最低最悪波乱万丈な私の十二ヶ月

三谷玲

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一月は前途多難な始まり

【幕間】

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「おい、なにサボってんだよ」
 頭をコツンと叩かれて振り返るとそこには組み立て前の段ボールを持ってきた彼がいた。
「懐かしいもの見つけて、ごめん」
 私は開いていた赤茶の分厚いノートを閉じるとそれを横によけ、目の前の本棚から何冊かの本を取り段ボールに詰め込んだ。
「それ、見覚えがある」
 まさか彼が覚えているとは思わなかった。途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
 あの頃毎日のように鞄に入れて持ち歩いていたから見る機会はあっただろう。赤茶の分厚いノートは端のほうは折れているし表紙もだいぶ薄汚れていた。
「なにが書いてあるんだ?」
「内緒」
 だってこれにはあの頃の私の全てが詰まっているのだ。到底彼には見せられるものではない。
「まぁいい。ほら、早くしないと終わらないぞ」
 また頭を軽く叩くと彼は段ボールを組み立ててラックに積み重なったCDをどんどん詰め込んでいった。
 この部屋に越してきてから四年? 結構、物が増えていて驚くばかり。
 詰め終わった段ボールを持ち上げようとしたら、彼が慌ててやってきた。
「そんな重いもん持つな」
 確かに段ボールに詰めた本は重そうで、持てそうになかった。
「こっちはだいたい終わったから休んどけば?」
 ありがたいお言葉に甘えて隅に置かれた一人がけのソファに腰掛けた。
 一目惚れして買ったパッチワーク柄のピーコックチェア。
 少し休むついでに赤茶のノートを開いた。
 自分の文字が踊っている。
 ああ、こんなことをわたしは考えていたんだな、と振り返るのと同時に、この時期がなければ今のわたしはいなかったんだなぁと思うと、指でなぞる文字、一文字一文字が愛おしく感じた。
 カーテンも外した窓際は暖かく、働く彼には申し訳ないと思いつつも、誘われるままに瞳を閉じた。
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