幸福を知らない俺は不幸も知らない

三谷玲

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熱に浮かされた二人

「ソラハ!」

 なによりも落ち着くシルファの香りで我に返った。

「シルファ……」

 今の義母たちの会話をシルファには言えない。シルファに俺がケモノだとは伝えていない。いつかは伝えようと思っていたがなかなか切り出せずに居た。ふらつく身体を支えられながらシルファが俺を四阿まで運んだ。手にしていたのは果実水だろう。それを俺に手渡すと、飲めと催促した。少しずつ喉を潤すそれにわずかに熱が下がった気がして、礼を言う。

「ありがとう、落ち着いた」
「顔色が良くない、帰ろう」

 シルファが耳もしっぽも下げて俺を覗き込む。まだ宴は始まったばかりだと言うのにそれは出来ないと首を振ろうとしたらシルファに止められた。いやシルファはそれを止めようとしたわけじゃない。
 覗き込んだ頭をそのままに、俺の顔を持ち上げると、果実水で濡れた唇に吸い付いた。
 噛み付くようなキスを受けて俺の熱がまた上がる。答えようとして伸ばした腕は届く前にシルファに縫い留められた。

「ソラハ、ソラハ……」

 まるでシルファも熱に浮かされたかのように俺を求めてくる。熱い舌を絡ませて貪る唇が赤く色づいている。邪魔だと言わんばかりに上着を剥ぐと、キュロットからシャツを抜き、下から捲り上げるようにして手を滑り込ませる。目当てのものを見つけると親指で撫で、勃たせる。すでに熱を持っていたそこはあっという間に摘める大きさに育ち、それを待ち構えていたシルファの指がぐにぐにと舐る。シルファは俺の唇から離れると、いつもと同じようにまるで儀式のように項を甘噛してから、捲り上げたシャツの中に頭を潜り込ませた。片方を指でもう片方を舌で容赦なく愛撫して俺の理性を刈り取る。

「っぁん、あっ、あん♡しるふぁ、ぁ」
「声、誰かに、聞こえるよ?いいの?それとも、誰かに、見られたい?」

 俺は慌てて口を抑えた。ここはいつもの海じゃない。さっきだって義母の声が聞こえてきたではないか。俺は必死に声を抑えながらシルファの執拗な乳首への愛撫を受け入れた。ようやく離れたかと思うと今度はぐずぐずになった俺のキュロットからペニスだけを取り出し、軽く扱き、すでに湿ったそれを口に含んだ。

「んんんんっ」

 声にならない声が喉を鳴らす。はじめての口淫に身体が痺れる。舌が裏筋を通り先端まで辿ると、今度はそれを窄めて孔を突く。舌を絡めながら上下させて俺の射精を促す。じゅぶじゅぶという音が四阿に広がる。遠くでかすかに聞こえる喧騒との格差がより淫猥なものにする。唇で皮を剥き、粘膜に直接触れられて音なき悲鳴があがる。シルファの頭が上下して俺のペニスを扱く。止めてほしいという願いとともにシルファの頭に手をやるも、快感に思わず耳を握りしめてしまった。

「っらめ、でちゃ……しる、ふぁ、あぁっ」

 握りしめた耳からどくんどくんと音が伝わって、シルファが興奮しているのが分かる。突然のシルファの肉情に戸惑い、甘受する俺も興奮が止まない。激しい口淫に耐えきれず、シルファの口に腰を押し付けて、呆気無く果てた。ぴゅっと飛び出た精液はシルファの口の中。それをシルファは味わうようにごくりと飲み込んだ。上げた顔はまだ興奮しているのがよく分かる。紅い虹彩がぎらりと光る。

「ソラハ……」

 そういって立ち上がったシルファは俺の目の前にその興奮の象徴を見せつけた。すでに勃ち上がり、すべてが露出したシルファの赤いペニス。俺もまた熱にうかされているのだろう、舌を差し出すとそこへシルファのそれが宛てられる。少し苦味を感じて舌が退くのを咎めるようにシルファはさらに押し付けて俺の口の中へと滑り込ませた。上から押し付けられるように差し込まれたペニスが俺の舌を犯す。シルファとのキスを思い出して、絡めるように舌を這わすとシルファが頭を撫でた。

「あぁ……いいよ、ソラハ。そのまま、ふうっ」

 ゆるゆると腰を動かして俺の口の中を堪能するシルファの色付いた声。その声に導かれるまま口を窄めてシルファのペニスを締め付ける。そっと触れた根本が太くなっていて、そこを両手で包むと口の中のシルファの熱が更に増した。

「出していい?ソラハの中、中に出すよ?いい?」

 こくこくと首を上下してシルファの射精を促す。見上げた先のシルファと目が合う。見つめ合ったまま突き動かされるペニスで俺の目は滲んだが、シルファの目から逃れることが出来ない。欲しい、シルファの、すべてが欲しい。

「っイく……くっ……」

 唐突に喉の奥が突かれたと思ったら厚い飛沫がその先に注ぎ込まれる。直接注ぎ込まれる精液が俺の喉を通り中へ落ちる。ずるりとペニスが口から外されるのに、そこからはまだ精液が溢れ、俺の顔に浴びせられる。思わず閉じた瞼の上、頬を伝って胸元にも流れ落ちる。長い射精が終わると、シルファがはぁと息を付いて俺の汚れた身体に伸し掛かる。

「シルファ、汚れる」
「いい、俺が汚したんだから」

 そうなんだけどそういうことではないような……さっきまでの熱っぽさはひいいたが気怠い身体に思うように言葉も出ない。しばらく二人で抱き合って、シルファが離れるとぬるくなった果実水が手渡された。口の中のぬめりが薄らぎ果実の香りで満たされる。ふぅと落ち着いたところに離れたところから声が聞こえた。

「……おい、シルファ臭うぞ」

 俺がびくりと跳ねるのをシルファが宥め、声の主に返事をする。

「ソラハが驚いてるじゃないか、空気読め」
「読んだからこのタイミングで来たんじゃねぇか、バカ。とりあえず後は俺に任せてお前ら早く帰れ。このままいたら他の奴らも気付くぞ」

 ばさっと投げ入れられたものをシルファが掴む。濡らした布巾のようだ。シルファが俺の汚れた顔や身体を拭い終わると乱れた服を丁寧に着せ付ける。シルファの動きを呆然と眺めていたらまたラウルの声がする。

「これだから童貞αが番を見つけるとやっかいなんだ、所構わず盛りやがって……バカが」
「うるさいっ」

 布巾を投げつけようとシルファは思いとどまり、それを懐にしまった。濡れて汚れてるのに嫌じゃないんだろうか?いやそれよりもさっきラウルがなにか言ってなかったか、童貞?

「え?シルファが?」

 驚いてシルファを見上げたら珍しく顔を真赤にして耳を倒していた。耳じゃ顔は隠せない。

「まぁまだ若いってのもあるけどそれにしたって後生大事に取って置くものでもないと思うがな、誰かに操でも立ててるのか?ん?」

 四阿の外からラウルがからかうと、シルファはしっぽまで丸めて俯いた。あれ、そういえば俺、シルファの歳も知らない。

「若いって、シルファいくつだっけ?」
「……18」

 問いかけた俺に驚くシルファ、答えを聞いて驚く俺。

「はぁ……お前らもう少し、会話もしろ。肉体言語だけじゃなくて」

 どうやら俺たちは番という熱に浮かされすぎてるみたいだ。
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