僕と賢者の108日

三谷玲

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54日※オスカー視点

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引き続き虫が出てきますので苦手な方はご注意ください
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❖❖❖

 耳を塞ぎたくなるような悲鳴が、断続的に響き渡る。
 筋肉が衰え、たるんだ皮膚を真っ白なイーガーの幼獣が這う様を、オスカーは見下ろしていた。

――老けたな……。

 この塔に閉じ込めてから何度も見て、その肌に触れているが、改めて師匠の老いを実感していた。
 昔なら、オスカーの結界くらい破れたはずだ。
 今だって術で縛りあげてはいるが、これくらいなら少し力を籠めれば解けただろう。
 それだけ、ミッシャは年を取った。オスカーは変わらないのに。
 ただでさえ12歳も年上のミッシャが、さらに離れた気がして、オスカーは苦々しい思いでいた。

「ひっ……、いや、やだ……、やめ、もう……っあぁ……っ」

 20匹ほどのイーガーの幼獣は魔力を求めて、より強く漏れ出る場所へと集まっていた。
 薄く色づく乳頭に、恐怖で萎えた陰茎に、そしてその奥の窄まりへ。
 秋の終わりに卵嚢を採取し、孵化してから一度も魔力を与えていなかった。
 1万はいただろう幼獣たちは共食いをはじめ、残った20匹である。
 貪欲に餌を求めている。

 まるで自分のようだなと、オスカーは皮肉気に嗤った。
 20年、ずっとミッシャの魔力を求めていた。
 幼いころに分け与えられてからずっと、ミッシャの魔力だけがオスカーの支えだった。
 魔術を教わったのも、心癒すのも、眠るのさえミッシャの魔力無しではできなかった。
 追い求めてきたものを、イーガーなんぞに分け与えるのは業腹だが、これもミッシャのためだ。
 まだ、ミッシャは気付いていない。
 毎日探られているが、オスカーが魔力を集めるのも、それをどこに蓄えているのかも。

 腹が膨れたのだろう。キィキィと鳴き声を上げてミッシャから離れていたイーガーの幼獣を一匹摘まんだ。

「ミッシャ、見てください。あなたの魔力でこんな大きくなりましたよ」

 他より一回り大きくなったそれをミッシャの顔に近付けると、ひっと小さな悲鳴を上げて顔を逸らした。

「味は悪くないんですけどね」

 信じられないと嫌がるミッシャの顎を掴み、ムリヤリ口を開かせた。
 青ざめて震える唇に白い幼獣が触れる。
 紫の瞳に涙をためて、嫌だと訴えてくる姿に、思わず胸が締め付けられる。

――もう少しだ。もう少しで終わる。

 指を離すと、幼獣がぽたりとミッシャの舌へと落ちた。
 噛むのも飲み込むのも嫌なのだろう。
 今度はオスカーが掴まずともミッシャは大きく口を開き、舌を伸ばした。
 満腹のはずのイーガーはその舌に張り付き魔力を吸いはじめていた。

「んぇーんっーーっ……」

 気持ちが悪いのか、うめき声をあげるミッシャに覆いかぶさると、オスカーはその舌を咥えた。
 ミッシャの舌と違う感触は、正直面白くないが、仕方ない。
 ついでとばかりに、ミッシャの魔力を少し奪いながらその舌を味わう。
 舌の裏側を擽ると、ミッシャの目が瞬いた。
 肘の内側に触れたときも、足の指を舐めたときにも見せた、敏感な場所を示す反応だ。

――相変わらずおかしなとこばかりだな。

 気をよくしたオスカーが何度も何度もそこばかり擽ると、身体を這っていたイーガーのキィキィという合唱が聞こえてきた。
 どうやらみんな満足したようだ。
 20匹すべてに魔力を吸われても、ミッシャの魔力はまだ余っているようだった。

――これでまた器が大きくなった。

 ミッシャの舌にいたイーガーを自分の口へと迎えた。
 魔力が低下して意識がはっきりしないのだろう。
 ミッシャがぼんやりと見ている目の前で、オスカーはイーガーを飲み下した。
 流れ落ちるイーガーから、ミッシャの魔力が染み渡る。
 水のようだと言うのに、オスカーの腹の底は煮えたぎるように熱くなった。
 歯を食いしばり、その痛みに耐える。

――この作戦は失敗だったか……。イーガーに食わせたからか質が悪い。

 残り19匹はあとで燃やしてしまおう。そう思っていると、冷たいものが頬に触れた。
 痛みのせいで、拘束の術が切れたのか。
 ミッシャのくたびれた手だった。

「だい、じょうぶか? オスカー」

 自分のほうがよっぽど辛い目にあっているというのに……。ミッシャはまだオスカーを子供だと思っているのだろう。
 何をしても、結局はミッシャは赦してしまう。
 次は、何をすれば、ミッシャは苦しむのだろうか。
 残りの魔力を奪うため、再度ミッシャに口付ける。

 先ほど知った新たな快楽の源を擽りながら、オスカーは次の一手を思い悩んでいた。
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