世界の終わりに、想うこと

鈴木りんご

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11話「僕の世界」

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              滝本たきもと 裕也ゆうや 二十八歳



 誰もが居場所を探していた。

 夜空に輝く星たち。いろいろな大きさで様々な色。輝き方だって全然違う。よく見れば星にも個性はある。一つ一つに発見者がつけた名前だってあるだろう。

 そんな星たちを線でつなぐと、それは星座になった。そこに物語が生まれた。星がそこにあることに、意味が生まれた。

 意味が生まれると、その星は特別な存在になった。もうどんな他の星にも、その星の代わりは出来ない。たった一人、理由もなくそこに輝いていた星の、その場所こそが特別な居場所となった。

 だから僕らが本当に探しているものは、居場所ではなかったのかもしれない。本当に探しているもの……それは僕が今いる場所を特別にしてくれる意味。僕をその場所につなぎとめて、手をつないでくれる何か。

 僕はそれを見つけることが出来た。

 みんなはそんな僕をバカにするだろう。それでも……僕はここで、この場所で幸せだった。幸せになることが出来たんだ。

 ブラック企業と呼ばれるような、悪条件での過酷な仕事。サービス残業や上司からの無理難題も、その後にこの世界が待っていてくれるから頑張ることが出来た。家に帰ってゲームを起動させれば、みんなが僕を笑顔で迎えてくれる。みんなが僕を待っていてくれる。

 このゲームに出会うまで、僕はずっとただの歯車だった。

 学生だった頃も友達はいた。僕は誰とでも仲良くしていた。でも、それだけだ。誰から見ても僕はクラスに何人もいる、そこそこ仲の良い友達にすぎない。僕がある日突然消えてしまっても、誰も困りはしなかっただろう。

 今勤めている会社でだってそうだ。僕がいなくなったら困りはするだろう。しかしそれはほんの一時のことだ。僕の代わりになる誰かを一人雇えば、問題は簡単に解決する。会社に必要なのは僕ではなく、一つ歯車がいるだけだ。

 でもこの世界では違う。

 その世界の名はディグソサリ。オンラインゲーム「ドラゴンファンタジー10」の舞台となる世界。

 サービスが開始した四年前、僕たちはゲームの世界で出会った。

 僕は子供の頃からテレビゲームが大好きだった。

 そして子供だった僕が初めてプレイしたロールプレイングゲームがドラゴンファンタジー、通称ドラファンの四作目だった。当時小学生だった僕には、ターン制で選択式の戦闘システムであるロールプレイングより、アクションやシューティングといった動きのあるゲームの方が魅力的に見えた。

 そんな僕がドラファン4と出会ったのは、親戚の家だった。年の離れた親戚のお兄さんに進められて、しかたなく僕はドラファン4を始めた。絶対に面白いと言われたが、そんな言葉は信じられなかった。

 しかしプレイを始めてすぐ、僕はドラファンの世界に引き込まれた。今まで遊んできた多くのゲームとはまるで違った。僕はもともと小説が好きだった。活字で記された物語の中で主人公に共感し、現実では体験出来ないような冒険を楽しんだ。そしてこのドラファン4というゲームは、小説以上に僕を物語の世界へと引き込んだ。しっかりと作り込まれた世界観とストーリー。テレビに映る敵の姿に、美しい音楽。どこまでも続く広大な世界、出会い別れる多くの人々。共に戦う個性豊かな仲間たち。迫られる多くの選択。繰り広げられる冒険は誰かの冒険ではなく、僕の冒険だった。ドラファン4の主人公は小説のような誰かではなかった。それは僕自身だった。僕はドラファン4の世界の中で、多くの仲間たちと冒険を楽しんだ。それからの僕は、ゲームには何よりも物語を求めるようになった。アクションゲームより、ロールプレイングばかりを好んでプレイするようになった。

 もちろんドラファンシリーズはナンバリングタイトルだけでなく、外伝に至るまで全てのシリーズを今までプレイしてきた。大人になった今もそれは変わらない。

 シリーズ初のオンライン対応MMORPG(大規模多人数同時参加型ロールプレイングゲーム)ドラファン10も発売日に購入した。

 しかし本当のところは、今作を購入するかはかなり迷った。今までオンラインゲームはプレイしたことがなかったし、ゲームは一人でのんびりやるのが好きだった。だがオンラインゲームではそうはいかない。オンラインゲームは同じゲームの世界をたくさんの人が一緒にプレイしている。なんだか面倒くさそうだった。

 それでもドラファンシリーズだったし、何よりもドラファン4を初めてプレイしたときの僕も、乗り気ではなかった。だからとりあえず一度は遊んでみることにした。

 そして僕らは出会った。

 それは発売日から三日後の休日だった。僕は初めてのオンラインゲームで苦戦していた。初めのうちはソロプレイをしていたが、あるボスに敗戦したことでソロプレイに限界を感じた。

 そんなとき、ボスのいる洞窟の近くの町で、パーティーの募集があった。それは僕が勝てなかったボスと一緒に戦ってくれる仲間を求めるもの。

 僕はその募集に参加した。集まったのは四人。四人でわいわいと雑談をしながら洞窟を攻略して、ボスを倒した。一人では手も足も出なかったボスも四人で力を合わせると簡単だった。気の合った僕らは互いにフレンド登録をして、よく一緒に冒険するようになった。

 そして今でも、いつもそのときの四人で冒険をしている。

 平日の夜は四人でレベル上げやアイテムの収集をしてキャラクターの強化をし、週末は四人でダンジョンを攻略してストーリーを進めた。週末でも誰かの用事で、四人がそろわないこともある。そんなときはストーリーを進めなかった。新しい物語も見たことのない強敵と初めて戦うのも、四人がそろっていなくちゃ楽しくなかった。

 四年間、僕らはずっと一緒に冒険している。今では携帯のメッセージアプリで連絡をとりあったりもしていた。僕は三人の本名は知らない。それでも僕は三人の好きな食べ物を知っている。好きなテレビ番組や、学生の頃やっていた部活、仕事、家族構成、住んでいる地域、たくさんのことを知っている。

 僕が風邪をひいたとき一番心配してくれるのも、僕にいいことがあって一緒になって喜んでくれるのもこの三人だ。名前も顔も知らないけど、三人は僕の友達だ。代わりの効かない特別な友達だ。

 だから僕はゲームの電源を入れる。

 世界は後三時間もしないうちに滅びてしまう。そんな中、僕はゲームを始めた。

 もちろん誰もいないかもしれない。誰かいても四人はそろわないかもしれない。それでもかまわなかった。少なくとも僕の居場所はそこにしかなかった。

 ゲーム機の電源がつくと、ドラファン10を起動させる。そしてパスワードを打ち込み、ディグソサリの世界へとログインした。

 画面に僕のキャラクターが現れた瞬間、チャットが飛んできた。

『遅かったじゃん。来ないかと思った』

『このままログインしてられる?』

『塔リベンジ行こう!』

 すでに僕以外の三人はそろっていた。

 自然と笑みがこぼれる。

『こんー』

 僕はいつもと変わらない挨拶を入力する。

『こんにちは』

『こんー』

『こんにちわ』

 みんなからも挨拶が返ってくる。

『時間はある感じ? このままゲームしてられる?』

『うん。三時間くらいなら!』

『ww』

『!!』

『w』

 どうやら僕の返事はうけたらしい。

『じゃあ、塔いこう』

『おk』

 そして僕らは塔に行くことになった。

 塔とはバベルの塔というダンジョンの略称だ。先月のバージョンアップで追加されたばかりの最新のダンジョン。現バージョンで一番難易度が高く、僕らは先週の日曜日、一度攻略に失敗していた。

 本来の予定では今日はレベル上げをし、明日塔の再攻略をするはずだった。しかしもう残された時間は三時間もない。塔の攻略には最低でも二時間はかかるので、これがラストチャンスだった。

 世界が滅びるまでに攻略出来るかはわからない。そもそも時間が充分にあったって、攻略出来るとは限らない。それほど難しいダンジョンだ。

 それでも僕は幸せだった。

 世界が終わるそのときに、四人そろって最後の戦いに挑める。それだけでとてもわくわくした。

 僕の名前は滝本裕也。ブラック企業に勤める二十八歳のシステムエンジニアだ。もうすぐ滅びてしまう人類もこの世界も救うことは出来ない。

 それでもだ。テレビ画面に映る、僕が操るキャラクター、ソートならディグソサリの世界を救うことが出来るかもしれない。

 信頼出来る仲間だってこの世界にはいる。

『今度こそクリアしよう』

 ドジでお調子者の武道家、カムイが言う。

『リベンジだ!』

 お酒が大好きでいつも少し酔っ払っている、魔法使いのリキュール。

『さぁ、行こう!』

 そして真面目でしっかり者のパーティーのリーダー、戦士のシフォン。

『うん。行こう!』

 そして僕。僧侶のソート。

 こうして今、ディグソサリを救うための最後の戦いが始まる。

 そう……僕たちの戦いはこれからだ!
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