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小狐門(ごんぎつねもん)

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六人用台本

六道輪廻の名のもとに【不問=6・和風ミステリー?・120分】

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六道輪廻の名のもとに


宙 性別不問
 そら。どこか達観しているように見える。巫女、親を兼役。リップ音あり。(女性推奨)

仁深 性別不問
 ひとみ。仲裁役。新聞記者。

柊里 性別不問
 しゅり。感情的になりやすい。エセ関西弁を話す。フリーター。

翔誠 性別不問
 かせい。野性的?な部分がある。写真家。

輝流 性別不問
 きりゅう。常にお腹が空いている。カフェ経営者。

ひとや 性別不問
 えんこ村の寺に住む巫女。

巫女 ♀
 えんこ村の伝承の巫女。宙の兼役。

親 ♀
 仁深、柊里、翔誠、輝流の親。セリフを変えなければ、同じように演じても、変えて演じて頂いても構いません。宙が兼役。

部長 性別不問
 仁深の上司。ひとやが兼役。



【兼役表】
仁深・仁深(M) : セリフ数 182
宙・親・巫女 : セリフ数 178
柊里 : セリフ数 163
輝流 セリフ数 160
翔誠 : セリフ数 152
ひとや・部長 : セリフ数 152















 : 幼い子供たち。各々別の場所で。雨の音が響く。

親 : もしも母さんが死んでも、決してえんこ村にはいってはいけないよ。

仁深 : どうして~?

 :  

親 : そうだなぁ……貴方には幸せになって欲しいから、かな。

柊里 : その村に行っちゃうと幸せじゃなくなっちゃうの?

 :  

親 : ええ、そうなの。だから、決していってはいけないの。

翔誠 : 分かった!けどさ……なんで急にそんな村のお話?

 :  

親 : うーん……そこが、私の地元だからかなぁ。

輝流 : 美味しいものないなら僕いかなーい。

 :  

親 : そうねぇ、貴方は食べることが好きだものね。

 : ノイズ音が入り始め。

ひとや : 痛い……。

 :  

仁深 : でも……お母さんはまだまだ一緒にいてくれるでしょ?

親 : うーん、それはどうかなぁ。

 :  

ひとや : 一人は寂しい、辛いよ……。

 :  

柊里 : やだよ、そんなの寂しいじゃん!

親 : ……そう?お友達もいるでしょう?

 :  

ひとや : 助けて、助けてよ……ここから、出して……。

 :  

翔誠 : そうじゃなくて!俺は母さんといたいの!虫とか鳥とかも好きだけど、母さんと!

親 : そっか、そうだよね……貴方にとっての家族は……。

 :  

ひとや : お母さん、お母さん……!

 :  

輝流 : うん、母さんしかいないもん。友達はいても、兄弟もいないから!母さんがいい。お腹が減っても、母さんのために我慢する!

親 : ……ありがとう、そう言ってもらえて本当に嬉しいわ。

 :  

ひとや : 誰か……助けて……!

 :  
 
親 : 愛しているわ……貴方は、私の誇りであり、何よりも大切な宝物。

 : 段々ノイズ音が大きくなっていき、その後音が消えて。大人のひとやの声。

ひとや : 来るな。

 : 

仁深 : っ!?は、はぁ、はぁ……ゆ、め……?酷く懐かしいような……でも、なんだか怖いような……そんな変な感覚。それにしても、お母さんの夢だっけ……もうすぐ三回忌だから、思い出しちゃったのかな……お母さんの地元、えんこ村かぁ……いつか、行ってみたいなぁ……って、やば!そろそろ行かないと遅刻じゃん!!

 : 

 : 電車の音。

 : 

仁深(M) : 暑い夏の日、死者が帰ってくるというお盆の初めに私は……母の地元へ向かう電車へと乗っていた。あごを伝う汗を拭いながらなぜこうなったのだろうと頭を悩ませた。あれは私が隣のデスクの同期と昼休憩を取り、今日の夢について話していた時であった。

 : 

 : 仁深の会社。

 : 

部長 : 六道りくどう、昼休憩中に悪いな。ちょっといいか?

仁深 : へ?私ですか?

部長 : 少なくとも俺が知る六道はお前だけだな。

仁深 : まあ、そうだと思いますけど……それで、どうしたんです?

部長 : 来月の月刊新聞なんだが……まだベタ記事が足らないんだ。悪いが、二、三個くらい見繕ってきてくれ。

仁深 : っ!?は、はぁ!?あと2週間もないんですけど……!?

部長 : 佐藤と原田は看板の取材で出ててな、他の奴らにも頼んだ。俺自身もいくつか編集しないといけないものがあってな、手を出せないんだ。

仁深 : え~……私、まだ新入社員のつもりなんですけど……。

部長 : 入社して一年は経ったろう?それに、なにもサイドを一人で任せる訳じゃないんだ。そこまで気負わなくていい。今年はお盆が一週間もあるからな。その間にいくつか探しておいてくれ。

仁深 : いや、だって……。

部長 : ほら、さっき言ってたろう。お前の親の地元がどうのってな。そこの風習とかでも何でも構わん。よろしく頼んだぞ。

仁深 : ちょ、部長!待ってくださいって……!あー……嘘でしょ~……。

 : 

仁深(M) : 正直、いつかは行ってみたかった為に異論は無いものの……ネタを考えながらの帰省となるとゆっくりするものもできないではないか。そんなことを考えながら、人の少ない車内で溜息をつき、そっと重いキャリーケースを動かした。

柊里 : なんや、こないな場所で溜息つかんでよ。

仁深 : え!?あ、す、すみません……?

柊里 : ……なんやろ、初めて会った気がしいひんな。隣ええか?

仁深 : え……?

柊里 : ええやろ?

仁深 : いや、まあいいですけど……。

柊里 : どうも。それで、あんたどっかで会ったことあらへんか?

仁深 : ない、と思います……けど……だって、私ずっと東京から出てませんし……。

柊里 : はぁ?僕かて東京育ちやけど。

仁深 : え!?じゃあなんで話し方……!

柊里 : エセやエセ。この話し方が好きなだけや。標準語よりかっこええやろ?

仁深 : え~……怒られても知りませんよ……?

柊里 : 誰に怒られるゆうんや。そもそもなんで僕の話し方にケチつけられなあかんの?

仁深 : あ、いや、すみません……ほら、本場の方は嫌がるって言うからつい……。

柊里 : (舌打ち)まあええけど……けんどなぁ、えらい見覚えがあるんよなぁ。あんさんの顔。

仁深 : 私の顔ですか?他人の空似ってやつでは?

柊里 : 僕の勘違いて言いたいんか?

仁深 : そんなにイライラしないでくださいよ!別に馬鹿にしてる訳じゃないんです!

柊里 : ……あー、悪い。ちょっとイライラしやすいんよ、僕……。

仁深 : カルシウム不足とかですか……?

柊里 : いや、ちゃんと毎日牛乳は飲んどるからそれはないんやないかな。

仁深 : 牛乳かぁ……どおりで。

柊里 : 何がどおりでなんよ。

仁深 : いや、背が高いなぁと思いまして。

柊里 : やろ。これでも学生頃んは後ろから数えた方が早かったんよ。

仁深 : なるほど、素敵ですね……ところで、何処に向かわれてるんですか?

柊里 : 僕?

仁深 : そうです。この先って何もないじゃないですか。

柊里 : あ~……僕はなぁ、この先の『えんこ村』ゆうところに行くんよ。あんさんこそどこ行くん?

仁深 : え、えんこ村ですか!?私もそこに行くんですよ、偶然ですね?

柊里 : ほんま?なんや、えらい偶然やな……なら、しばらく一緒させてもらうわ。僕は柊里しゅり。よろしゅうな。

仁深 :  あ、私は仁深ひとみです。

柊里 : 随分と可愛い名前やな。しかし、まさか同じ所に向かっとる子がおるとは思わんかったわ。

仁深 : 私もびっくりです。里帰りとかですか?

柊里 : いや、ちゃうちゃう。僕の母さんがえんこ村出身でなぁ。最近その話をしてたことを思い出して、行くことにしたんよ。

仁深 : へぇ?じゃあ、親子での里帰りみたいな?

柊里 : ちゃう言うとるやろ。僕の里ではないはずやけん。それに、母さんは三年前に他界してもうた。

仁深 : あ、それは……大変失礼しました……。

柊里 : ええよええよ。僕からしても、もう昔の話やし。そんで、ひとみんはなんで行くん?

仁深 : ひ、ひとみん……?

柊里 : 仲良うなった証や。堪忍な?

仁深 : まあいいんですけど……私も、柊里しゅりさんと似たようなものですよ?数日前に亡くなった母が夢に出てきて……それで、母の故郷を見てみたくなったんです。

柊里 : ……あー、待ちぃ。

仁深 : なんです?

柊里 : いや、全く一緒なんよ。僕もちょい前に母さんが夢に出てきて……内容は覚えてへんけど、なんかえんこ村の話したのだけは覚えとる。

仁深 : え、それって……どういう……?

柊里 : ……なあ、ひとみん。君の苗字は?

仁深 : 苗字……?えっと、六道りくどうですけど……。

柊里 : ……僕もな、六道りくどう言うんよ。これって、どういう巡り合わせなん……?

仁深 : ……え?

 : 

仁深(M) : その後、柊里というその人と会話をすることもなく電車を降り、数少ないバスに乗った。わざわざ離れて座るバス内には沈黙ばかりが広まる。いつもならば偶然ですねと笑い合える事項も、同じ夢を見たかもしれないという可能性だけで言いしれない気持ち悪さを醸し出した。きっと、何処か見覚えのある顔であるのもそれを増長させているのだろう。そんな思考も取り払うことも出来ず、気が付い時には、村へ続く砂利道を柊里と共に歩いていた。とは言っても、私はその人の少し前を歩いていたけれど。

 : 

 : 砂利道を歩く音。

 : 

柊里 : ……。

仁深 : ……。

翔誠 : ……っあ!そこは踏むな!

柊里 : っ!?

仁深 : え……!?

翔誠 : すまないが、そこにアリの巣があるんだ……壊したら行けないだろう?

柊里 : いやまあ、それはええけど……なんでそないなところに?

翔誠 : ん?嗚呼、チカラシバの中にいた理由か?

柊里 : せやけど……。

翔誠 : 生物たちを一番素晴らしい画角で撮影するには、やはり同じ場所にいるべきかと思ったんだ。多少汚れてしまったけれどこれもまた自然に近づいた成果だと思うことにするさ。

柊里 : ……はぁ……。

翔誠 : なんだい?その変人を見る目は。

柊里 : いや、どう考えても変人やろ……。

翔誠 : そんなことは無い。僕はカメラマンだからな、このくらいは普通だ。

柊里 : ほんまかいな……って、ひとみん、ちょっと驚きすぎやない?

仁深 : ……あ!え、あ、ありがとうございます……?

柊里 : 感謝されることはあらへんけど……。呆然としすぎやで?

輝流 : んー?あ、こんにちは~。そこで集まってなにかあったんですかぁ?

仁深 : え、あ、こんにちは?

柊里 : なんや、今日はぎょうさん人と会うなぁ……。

翔誠 : ふむ、初めましてだね。

輝流 : 初めまして~。こんな道の真ん中で騒いでたら人の迷惑ですよ。ところで、ここら辺でホテルとか民宿とかあります~?

翔誠 : ああ、それは僕も探していたんだよ。その途中でアリの巣を見かけてとりこになってしまったけれど。

輝流 : そうなんですねぇ。じゃあ、良ければ一緒に探しに行きませんか?たまたまとはいえ、ここでお会いしたのも一つのご縁。ならば大事にするのも一つの手、ですからね~。

翔誠 : それはいいな。写真も十分撮り終えたし……見たところ、そこの二人も今日来たばかりだろうし。僕の経験上、この手の村には民宿はあっても一つだけだろうから。

仁深 : それは確かに……村の名前も調べてもろくに出てきすらしませんし……そんなところに宿屋なんてあるイメージはありません。

柊里 : ほぉ?よう知っとんなぁ。

仁深 : これでも一応、新聞記者見習いですから。

輝流 : 凄いですねぇ、新聞記者か~。良ければ今後、僕のお店に来ませんか?話せることなんてないけど~。

翔誠 : ん?君は経営者かい?

輝流 : まあ一応は?母が作ったカフェを継いだんです~。

柊里 : それも凄いなぁ。紅茶とコーヒーどっちのが美味いん?

輝流 : そうだなぁ。僕としては、紅茶の方が得意かな~。

柊里 : ほんまか!?んなら、僕も今度行かしてもらおかな。紅茶好きなんよ。

輝流 : 是非是非。スイーツも母直伝で、自信がありますので~。

翔誠 : スイーツか……いいな……。

仁深 : スイーツお好きなんですか?

翔誠 : まあね。よく意外とは言われるが……甘いものは好みだ。甘味かんみは口の中が楽しい。

輝流 : わ、いいですね……!その表現方法とても気に入りました~!今度のPOPに使ってもいいですか?

翔誠 : ん?まあ、構わないが……。

仁深 : ふふ、なんだか楽しいですね……って、あ、あそこに人がいますよ!

柊里 : あ、ほんまや。

仁深 : ちょっと私、宿屋が無いか聞いてみます!

柊里 : ほんまか?すまんけど、頼んだで!

仁深 : すみませーん!

翔誠 : ……しかし、やはりちゃんとした職に付いている人を見ると、なんとも言えん気持ちになる。

輝流 : んー?ぼくですかぁ?

翔誠 : ああ。あと新聞記者の子。僕はフリーのカメラマンだからね。ちゃんとした職にはつけているとは思えない。

柊里 : あー……僕も分かるなぁ。

翔誠 : 君もかい?

柊里 : 僕なんてフリーターやで?すーぐイライラしちゃうから、一箇所に留まれんとどまれんのや。

翔誠 : なるほど。僕も似たようなものかもしれないな。

輝流 : んー?

 : 足音。

仁深 : うーん……。

輝流 : あ、おかえりなさい。って、どうされたんです~?唸っちゃって……。

仁深 : あ、いえ……とりあえず、宿代わりに使われている場所はわかったんですけど……ついでに、変なことを言われまして……。

輝流 : 変なこと?

仁深 : いや、『流石に同じ顔の人が四人もいたら不気味だ、伝承を思い出す』と……。さっさと帰れって遠回しにも言われましたし……。

輝流 : 同じ顔が四人?四人って……まさか、僕たちのこと?

柊里 : ん?ひとみん帰ってきとったんか!おかえり~……って、なんでそないな暗い顔しとん?

仁深 : いや……先程話しかけた人に変な事を言われまして……。

翔誠 : 変なこと?

柊里 : ちょ、おい!わざわざ人の間から声かける奴があるか!

翔誠 : 急にいなくなったから、びっくりしたんだ。悪いな。それで?変なことって?

輝流 : なんかねぇ、僕たち四人が同じ顔に見えるんだって~。

翔誠 : 同じ顔?僕達がか?

柊里 : ん~……同じ顔……いや、うーん……。

翔誠 : どうかしたのか?

柊里 : ……腑に落ちてしもうたなぁと思うて。

輝流 : 腑に落ちて?

柊里 : せや。ひとみんにはゆーたんやけど、なんとなくなぁ……ほんまになんとなくやけど、どっかで見たような、会ったような感覚があったんよ。

輝流 : それって、もしかして僕らも?

柊里 : せやで。だからこそ、あんなに普通に話しかけられたんやし。

翔誠 : ふーん?で、それがどうした?

柊里 : いやな、分かったんよ。既視感の正体に。

翔誠 : 変に溜めるなよ、面倒だな。

柊里 : 面倒とはなんや!僕は真面目に話しとるんやぞ!

仁深 : 話が脱線してますよ、既視感の正体って、なんだったんです?

柊里 : こいつが変に突っかかってくるから……あー、いや、すまんて、そんな怖い顔せんで?な?

輝流 : うーん……それで、結局なんだったんですか?

柊里 : いや、改めて考えてみたら……鏡で見る顔にそっくりかもしれんと思うてな。

輝流 : 同じ顔、かぁ……妙な話ですねぇ……。

翔誠 : そんなに似ているのならば、もしかしたら血が繋がっていたりしてな。

輝流 : そんなわけないですよ、だって僕たち初めて会ったんですよ?

柊里 : せやで!?他人の空似ってもんもあるし……せや、そんならまずは自己紹介すればええんちゃう!?

仁深 : あれ、ここまで話してて自己紹介してないんでしたっけ?

翔誠 : ……してないな。

輝流 : 僕も君たちの名前知らないですしねぇ……。

仁深 : それでは、まずは私から……六道仁深と申します。

柊里 : そんで、僕が六道りくどう柊里、ゆうんよ。

翔誠 : ……なるほど。これは……もしかしたら……。

輝流 : え、えっと……もしかして、六道りくどうって、漢数字の六に、道って書きますか……?

仁深 : え、まあ、はい……。

柊里 : それがどないしたん?

輝流 : あの、実は僕も……六道が苗字なんです……六道輝流きりゅう……。

翔誠 : 僕も同じくだ。六道りくどう翔誠かせい

柊里 : ……そんな偶然あるかいな……。

仁深 : 柊里さんとお会いしてからも思ってましたけど……もしかして、この出会いって……運命だったり、するんでしょうか……。

輝流 : ……ここまでになると、もしかしたら、が出てきますね……遠い親戚とか……。

翔誠 : 最早この出会いも楽しむべきなように感じてくるな。ならば、仁深ひとみくん。

仁深 : はい?

翔誠 : その宿屋代わりになっているという場所へ案内してくれないか。

輝流 : 確かに……ゆっくり話すなら、まずは寝るところを確保したいですしねぇ。

仁深 : 確かにそうですね……じゃあ、行きましょうか。

翔誠 : ああついでに……僕にはタメ口でいいぞ。そんなに歳も離れてないだろうからな。

輝流 : そう?なら、俺も崩して話させてもらおっかな~。これから長い縁になるかもだし。

柊里 : 残念ながら僕はずっと崩して話しとるからな。これ以上は変わらん。

仁深 : 私はこのままでいいです……もう少し仲良くなってから、タメ口を使わせてください。それじゃあ、案内しますね。

翔誠 : ああ、頼んだ。

輝流 : 美味しいものあったらいいんだけどなぁ。

柊里 : 田舎に期待しちゃダメやで。

翔誠 : その物言いは感心しないがね。

輝流 : こういうところこそ、美味しいものがあったりするんだよ?

仁深 : はいはい!ゆっくりしてると置いてきますよ!

柊里 : ちょ、それはなしやん!

翔誠 : そう簡単に日は沈まないぞ?

輝流 : 夕飯は何がでてくるかなぁ、楽しみだ~。

 : 

仁深 : 多分ここ……のはず……。

輝流 : ……ほんとに?

仁深 : ……本当に……神社横の市民会館が、民宿も兼ねているそうで……。

翔誠 : 大きいのは大きいが……ボロいな。まあ屋根があるだけましか。

柊里 : こないなとこで寝るん!?お盆中五日はここにおる気やったんやけど!?

翔誠 : こんな山奥の田舎に求めるものじゃないぞ。

仁深 : そうですよ……民宿もなくて他人の家に居座らせてもらうか、野宿しかないこともあるんですから。民宿があるだけマシです。

輝流 : あー……結構苦労してるんだね……。

仁深 : ははは……とりあえず中に入りましょうか?

輝流 : そうだねぇ。外にいるには暑いし。

翔誠 : 会館だし、そのまま開けてもいいか。おじゃまする。

 : 引き戸を開ける音。

ひとや : ……。

翔誠 : あ~、えーと……どうも。

ひとや : ……どうも。えんこ村、村民会館そんみんかいかんへようこそ。何をしにいらっしゃったんです?

翔誠 : 数日ここに泊めて貰いたくてな。ここが民宿代わりに使われてると聞いたんで、寝床を確保したくてきた。

ひとや : ……成程。

輝流 : わぁ……なんだか、ちょっと怖い人かも……。

仁深 : うーん、そういうことはあまり口に出さない方がよろしいかと……。

輝流 : え、あ、ごめん!

柊里 : しかしまあ……ほんまに古い建物やんなぁ。壊れたりしいひん?

ひとや : ……そんなこと言うのであれば、泊まらなくても結構ですが。

柊里 : あ、いや!ちゃうんよ、ほら……えーっと、おもむきがありますなぁ思て、な!?

ひとや : はぁ……では、お名前と宿泊予定期間、そして人数をお聞きしても?

翔誠 : ふむ、僕が六道翔誠で、あそこで騒いでるのが六道柊里しゅり

柊里 : 騒いでるとはなんや!僕は騒いでないで!?

ひとや : ……六道りくどう……?

翔誠 : そして、あっちで話しているのが六道仁深と六道輝流きりゅう。計四名だな。可能であれば全員個室であるとありがたい。苗字みょうじは同じだが、初めましてなんだ。

ひとや : 四人?四部屋もあるとお思いですか?

輝流 : まあ、そうだよね……。

翔誠 : であれば、四人一緒でも構わない。

柊里 : はぁ!?

仁深 : まあ、仕方がないですね。

輝流 : 案外楽しめそうだよねぇ。

ひとや : ……そんな大部屋もありません。早くお帰りください。

翔誠 : ……であれば、二人ずつでもいい。

柊里 : さっきから聞い取れば、何勝手に決めとん!?

輝流 : 部屋を借りれるだけありがたいから、ね?

柊里 : せやけど……!!

ひとや : 残念ながら、二人で寝る部屋もありません。

仁深 : ……そんな事ありますか?確かに多少はおもむきがあるかもしれますが、そこまで狭くはないと思うのですが。

輝流 : ちょ、仁深さん!?

翔誠 : 先程から聞いていて思ったが……随分とこちらに喧嘩を売るじゃないか。たしかに四人なんという大人数で押しかけたのは悪いと思っている。しかし、だからといってそこまで毛嫌いされる言われはないはずだが?

輝流 : ちょ、翔誠かせいさんも落ち着いて!

柊里 : あーもう、なんやの!?びっくりするほど顔が似とる奴らと会ったり、変な奴には突っかられたり!その先には、寝るとこすらないゆうんか!?腹立つわぁ!ほんまに!!

輝流 : 柊里しゅりさんまで!?ちょ、ちょっと、一回落ち着いてよ!

ひとや : とにかく、お帰りください。ここには泊められません。

翔誠 : その理由をまず言え。納得する理由なら、僕は少なくとも野宿でも構わない。

仁深 : 私も最悪はそれでも構いません。ただ、お金も払うというのに、門前払いされるならばちゃんとした理由が知りたいです。

ひとや : 帰って。

柊里 : もうええわ!あんたの言う通り帰ったる!ほんまこんな村、つーか、田舎なんてまじクソや!死に晒せ!

輝流 : あ、ちょ、ちょっと……ああ、お腹減って来ちゃった……もう、どうしたらいいんだよぉ……。

 :  足音。

宙 : ん?どうしたの?賑やかにぎやかだね。

ひとや : え、そ、そらさん!?

宙 : こんにちは、ひとやくん。人が来るなんて珍しいじゃないか。

ひとや : あ、いえ……これは、私も……想定外というか……。

宙 : こんにちは、皆さん。私は六道りくどうそら。この村専属のカウンセラーをさせていただいています。どうぞ、よろしくお願いします。

翔誠 : ……どうも。僕は六道翔誠という。

仁深 : あー、えっと……六道仁深と申します。

輝流 : あ、これって自己紹介の流れ?僕は、六道輝流って言います~、お腹減りましたぁ……。

柊里 : なんやのこの人は。こっちの問題に急に頭突っ込んできたやん。

ひとや : はぁ?

柊里 : やって、そもそもこっちの問題やん。こっちってか、特にあんた!説明もせずに追い返そうとしおったからこそこうなったんやろ!?

ひとや : 貴方達に話すことなんてないから言わないだけ。私からしたら早く帰って欲しいんだよ。

翔誠 : その喧嘩腰をやめたらどうだ?

ひとや : こっちの問題なんだろ?なら、私がどう反応使用が構わない。違うか?

翔誠 : お前……!

宙 : はいはい、落ち着いて。ひとやくん、ダメだよそんなことを言っちゃ……。相手も嫌な気持ちになるだろう?

ひとや : いえ、しかし……!

宙 : 何かあるなら、また話を聞いてあげるからさ。まずは皆さんを中に入れてあげよう。確か、部屋も残っていたよね。

ひとや : でも……。

宙 : ね?ひとやくん。

ひとや : ……はい……。

宙 : 皆さんにもご迷惑をおかけしました。さあ、中へどうぞ。私も宿泊させていただいてるんですよ。

柊里 : なんなん?僕らが話してもあんなに頑なだったんに……なんや腹立つわぁ……!

宙 : 落ち着いてください。大丈夫ですよ。あの子にはあの子の事情があるんです。よろしければ貴方の御名前も聞いても?

柊里 : っ、あー、僕は……六道柊里や……よろしゅう……。

宙 : ふふ、よろしくお願いします。後でお話しましょうか。

柊里 : ……あんたがええなら、そうして欲しいわぁ。僕も、この体質は嫌いなんや。あんたなら、少しはマシにしてくれそうやし。

ひとや : 宙さん……も、来てくださいよ……。

宙 : はいはい、少しだけ待ってて。柊里さんもほら、行きましょう?

柊里 : ……ええで。

ひとや : ……。

 : 

ひとや : 好きなところに座って。寝る部屋の用意はしとくから。

宙 : まあまあ、まずはゆっくりしてからでもいいんじゃないかな。

ひとや : けど……。

宙 : ひとやくん、じゃあお茶をいれようか。部屋の準備はその後にしよう。

ひとや : まあ、そう……ですね……。

宙 : 少し待っててくださいね。

 : 足音

仁深 : ……なんだか、ちょっと面倒なことになっちゃった気がします……。

柊里 : 否定は……せんわ。

翔誠 : しかし、あのカウンセラーも六道と言ったな。なんだか奇妙な縁もあるものだ。

輝流 : 運命的な何かを感じ始めちゃうよねぇ。

仁深 : 思うんですけど、翔誠かせいさんと輝流きりゅうさんはどうしてこんな所へ?私と柊里さんは、母の夢を見てここの存在を思い出したから、でしたけど。そうですよね?

柊里 : え?まあ、そうやけど……。

翔誠 : ん?夢……?ちょっと待て、それは本当か?

輝流 : ……。

仁深 : やっぱり、同じですか?

柊里 : え、ほんま!?

翔誠 : 同じ、だな。

輝流 : ……俺も、だね。

柊里 : マジか……。

仁深 : そう考えると、やっぱり何かの縁があるのは間違いがない……と、思うんです。それが一体なんの縁なのか……。

翔誠 : ……苗字からすれば、従兄弟か何かだろう。しかし、同じタイミングで夢を見て、同じ場所に集まる縁が……そんな薄い繋がりで起こるのか、だな。

輝流 : ……あの、聞いても、いい、かな……。

仁深 : ……どうぞ。

輝流 : 俺ね、ふと思って母さんの顔を思い出そうとしたんだ……けど、けど……思い出せない、んだ……声は思い出せるし、手の温度だって……なのに、顔だけ、思い出せない……。亡くなってから、たった3年しか、経っていないのに……。

柊里 : ちょ、三年!?僕の母さんも三年前に亡くなっとるんやけど!?

翔誠 : 僕も、だ……何故、だ……おかしいだろう……!?何故、僕も母の顔が思い出せない……?

仁深 : ……やっぱり、この出会いは偶然じゃない……そう、思うべきなんだと、思います……。きっと、真実を知れと、言われているような……!

 : 襖の開く音。

ひとや : そんなわけないでしょ。何馬鹿げたこと言ってんの。

仁深 : ……っ!

柊里 : っ!?

輝流 : わっ!

宙 : こら、ひとやくん、そんな事言わないんだよ。

ひとや : そもそも……なんでここに戻ってきたのか、私には理解が出来ないんですよ。全くもって。

翔誠 : 戻って……?

ひとや : っ、何でもない。早く飲んではやくかえって。

宙 : ひとやくん、落ち着こう?ほら、深呼吸をして。

ひとや : (深呼吸)

宙 : よし、良い子だ。

ひとや : ……お茶、早く配らないと冷めてしまいますよ。

宙 : うん?ああ、そうだね。配ろうか。熱いから気をつけてくださいね。

仁深 : あ、ありがとう、ございます……。

柊里 : どうも……。

翔誠 : 有難く頂こう。

輝流 : ありがとうございます~……ところで、御夕飯ってどのくらいになりますか?ちょっと、お腹がすいて来ちゃって……。

ひとや : げ、料理……?

宙 : おやおや……長旅でお疲れなんですね……さて、作ろっか?

ひとや : え、またですか……!?宙さんは知ってるじゃないですか!私が料理大の苦手だって!

宙 : そうだね。けど、六人分ってなると、一人じゃ大変だから……ね?

ひとや : う、うう……。

輝流 : あのぅ、良ければ俺がやりましょうか?ある程度料理は出来ますけど……。

宙 : いえいえそんな。お客様にお願いするのは御迷惑ですので。

輝流 : そ、そう、ですか……。

宙 : ほら、ひとやくん。料理下手を克服するチャンスだからさ?

ひとや : わ、分かりましたよ……。

 : 足音。

輝流 : なんだろう、凄く……不安だなぁ……。

翔誠 : 右に同じく。まあ、生食よりはマシだろ。

仁深 : そんなものと比較しないで下さいよ!

輝流 : そういえば、何時頃になりそうか、っていうの聞くの忘れちゃったなぁ。お腹減った……。

 : 

仁深 : ……。

翔誠 : ……あー……。

輝流 : わお……。

柊里 : なぁ、これ……ほんまに食べ物なん?

仁深 : しっ!柊里さん、しっ!

ひとや : う、ぐ……!嫌なら食べなくてもいい!

宙 : まあまあ……ちゃんと火が通ってるから、大丈夫ですよ。

翔誠 : そこは別に気にしてないんだがな……むしろ、気にするやつの方がいないだろ。こんなに真っ黒なら。

ひとや : ……悪かったな!私はこういうのは苦手なんだって!お前は宙さんの作った料理でも食べてたらいいだろ!?

宙 : 私のも、美味しいとは胸を張れませんからね、困りました。

輝流 : (一口口に入れ)ん、まあ、うん……食べれなくはない、ですよ?

仁深 : あー、まあ……うん、食べれなくは……。

翔誠 : これは食材への冒涜としか見れないが……まあ、これもまた食材に感謝するべきものだからな。

宙 : あはは……ひとやくんも食べてご覧。

ひとや : ……私はいりません。お腹減ってないですし……。

宙 : 本当に?

ひとや : いや、本当ですけど……。

 : お腹の音。

ひとや : え、あ、いや、今のは!

宙 : ふふ、やっぱりお腹がすいてるんじゃないか。腹の虫が騒いでいるよ?

ひとや : とにかく、いらないものはいらないんです!

 : バタバタとした足音。

宙 : おやおや。一緒に食べるだけでも美味しいのになぁ。お騒がせしましたね。それで……先程、随分と面白いお話をしていたように思いましてね。なんのお話をされてたんです?

翔誠 : 先程……とは?

宙 : いえ、お母様の声は思い出せても顔は思い出せない。そして、みなさんも同じ六道という苗字を持つ……というお話です。

輝流 : んぇ、待って……どこから聞いていたんです?

宙 : それは……苗字からすれば、というところからですかね?

輝流 : 割と前から襖の奥にいたってことですか!?

宙 : ひとやくんがお湯で火傷をしてしまっていたので、少し先に来てたんです。盛り上がっていたので割っては入れませんでしたけど。

仁深 : いや、別に盛り上がってはいないんですけど……。

宙 : そんな細かいことは良いではありませんか。まだ、滞在期間についてはお伺いしていませんでしたので、どうするのかをお聞きしたいんです。

輝流 : うーん、僕はせっかく来たなら、ここのお野菜とかを色々試してみたいんですよね……だから、お盆はある程度ここにいさせてもらおうかなぁと。

宙 : なるほど……。他の御三方は?

仁深 : あ~……私は……四日ほどにしようかなぁと思っています。仕事事情もありますし。

柊里 : 僕は……今のところ用がある訳やないから、お盆いっぱいはここにおるつもりやで。

翔誠 : ある程度自然動物と触れ合いたい。 ので、満足するまではここにいるつもりだ。

宙 : なるほど……仁深ひとみさんは四日、柊里しゅりさん、輝流きりゅうさんはお盆いっぱい、翔誠かせいさんは未定、という形ですね。……なら、早めに解決をしないと行けませんね。

輝流 : 解決、ですかぁ?

宙 : 先程の疑問点、ですよ。私も個人的に同じ苗字であることが気になっているんです。ひとやくんも、同じ苗字ですから……ここには、六人の六道がいる訳ですから。

仁深 : え……?あの人もですか……!?

宙 : そうなんです。驚きでしょう?まるで何かの運命のよう……だから、疑問解決に私も一躍いちやく買わせて頂きたいんです。

翔誠 : ……随分とあいつに入れ込んでいるように見える。だからか?

宙 : 入れ込んでる、というか……いえ、入れ込んでいるのかもしれませんね……私にとってあの子は、自分の子のような感覚ですから。

輝流 : 自分の子かぁ……優しい方なんですね、そらさんは。

宙 : そう、だといいんですけどね……さて、じゃあ私はこれにて。

輝流 : ちょっと、待ってください!先程の話も含めて少々お願いしたいことがありまして……。

宙 : お願い、ですか?私にきけることならば……。

輝流 : 明日の朝から、なんですけど……。

 : 

 : 鳥の声。食事の支度の音。

 : 

ひとや : (欠伸)……ん?この音……宙さん、朝から料理なんて珍し……!?

輝流 : あ、おはようございます。台所少しお借りしてます。

ひとや : え、いや……なん、で……?

宙 : 料理は自信があって、作ってくれるって言うからお願いしちゃったんだ。

ひとや : 宙さん!?

宙 : あんまり台所も使わないし……ね?美味しいもの、食べたいだろう?

輝流 : あ、先に座っていただいて大丈夫ですよぉ。……あ!卵とか、勝手に使わせて頂きましたが、宜しかったですか?

ひとや : まあ、はい……大丈夫、です……。

宙 : 昨日、ひとやくん……結局何も食べずに寝ちゃっただろう?今朝はちゃんと食べようね。

ひとや : ……分かりました……。

宙 : あ、輝流さん。お皿洗いはこっちでやりますから、お料理だけ任せても?

輝流 : 構いませんよ。むしろ、皿洗いも任せてもらってもいいのに……。

宙 : いえいえ、本来はこっちで用意しないと行けないものを任せてしまってるんです。洗い物くらいやらせてください。

輝流 : そう言っていただけると助かります。じゃあ、お言葉に甘えて、皿洗いはお願いしますね。

ひとや : ……はぁ、人の作ったもの、か……私に、食べられるだろうか……。

翔誠 : おはよう。朝から優雅だな。

ひとや : ……おはよう。追い出されたからであって、サボってる訳じゃないからな。

翔誠 : 知ってる。

ひとや : ……それはそれは。

翔誠 : さてな、あっちで頑張ってるのを眺めつつ、僕もここでゆっくりさせてもらうか。

ひとや : 暇人は、今日は何をするんだ?

翔誠 : 暇人とはなんだ。僕は翔誠だ。

ひとや : 名前は知らない。

翔誠 : 昨日自己紹介したはずだがな。

ひとや : ……まあ、確かに。私は自己紹介してたっけ?

翔誠 : してないな。ただ、あそこのそらってやつが、あんたをひとやって呼んでるだろう。だから、何となくあんたがひとやって名前なのは知ってる。

ひとや : じゃあ、それ以上の情報はいらないか。

翔誠 : もう少し詳しくともいいとは思うがな。

ひとや : 面倒臭いからいいんだよ。

翔誠 : まあ、お前がそれでいいんならいいんじゃないか。僕の知ったことじゃない。……しかし、ここの朝は眩しいな。清々しい。

ひとや : ……私は、ここから出たことはないからわかんないけど……それなら良かったじゃないか。

翔誠 : ……正直、お前との会話は話が広がらなくてつまらん。

ひとや : それ本人目の前に言うか!?せめてもう少しオブラートに包めよ……。

宙 : うん?ひとやくん、騒ぐなんて珍しいね。どうかしたかい?

ひとや : あ、いや……。

宙 : うん?何かわからないけど……楽しく話してたならばいいか。そろそろご飯が出来るから、取りに来てくれる?

ひとや : ああ、うん。今行きます。

翔誠 : 僕も言った方がいいか?

ひとや : あと二人、起きてくるまでに用意したいし。来れるなら来てよ。

翔誠 : 分かったよ。

 : 足音。

宙 : お、ありがとうひとやくん……と、翔誠さん?

ひとや : 手伝えるって言うから、手伝ってもらうことにしたんだ。

翔誠 : 手を貸せと言われたから来た。

輝流 : ん?お、翔誠さんも、おはよう。早いんだねぇ。

翔誠 : 朝は鳥の声が聞こえて心地がいいんだ。お陰でスッキリと目が冴える。

輝流 : えーっと、そういうもん?

翔誠 : 少なくとも僕はな。

輝流 : なるほど……あ、翔誠さんも食べれないものとかなかったよね?

翔誠 : ない。

輝流 : それなら良かった。朝は卵を食べたくなるだろうから、ってスクランブルエッグ作っちゃったからさ。ちゃんと後で、アレルギーとかないか聞いておこうっと。

宙 : あ、アレルギーですか……確かにそういったものもありますもんね。少なくとも私はアレルギーの類はありませんよ。

ひとや : 私も特には。

翔誠 : とりあえず、ここにあるものを持っていけばいいんだな。

ひとや : 多分。

翔誠 : 何回か往復すればいいか……。

輝流 : じゃあ、後で残りの2人にも確認して、献立を組みましょう。ふふ、なんだか楽しいものだなぁ。

宙 : ん?何か違うんですか?

輝流 : え?

宙 : 先程、楽しいものだな、と仰ったじゃないですか。わざわざ口に出すのなら、いつもとは違うのかなと思いまして。

輝流 : あ、口に出てましたか……なんというか……カフェの経営はしてるんですけど……基本ワンオペでどうにかなっちゃうので……ひとりで切り盛りしてるんです。だから、人と話しながら、っていうのがなんだか珍しくて……。

宙 : ……ふふ、私は経営には詳しくないですけど……余裕があるなら、人を雇ってみるのもいいかもしれませんね。

輝流 : 確かにそうですね……SNSで、アルバイトがどうの~っていうのがよく出てたので忌避してたんですけど……少し、そんなリスクがあっても人といることの楽しさ、わかっちゃいましたから。

宙 : それならば、ここに来て良かったってことですね。

輝流 : はい?

宙 : いえ、なんでも。それで……輝流さん。良ければ私達もタメでお話しませんか?21で、恐らく同い年かと思うのですが。

輝流 : え、よく分かりましたねぇ!?俺が21なんて……。

宙 : 会話をしている中で、何となくわかるものですよ。好みとか、話し方とか、仕草とか……そういったもので、ね。他の方も全員同い年です。

輝流 : 翔誠さんも、ですか?

宙 : ふふ、少し年上に見えることもありますが……立派な21ですよ。

輝流 : そうなんだ……まあ、それなら……タメ口で話そうか。

宙 : それならば良かった。なんだか少し遠く感じて寂しかったんだ。

輝流 : 結構、寂しがり屋なんだなぁ。

宙 : そういうこと、だね。

翔誠 : そろそろイチャイチャも終わってくれないか?もうとっくに運び終わってるんだが。

ひとや : ……宙さんが、私以外と仲良く……!

宙 : こらこら、ひとやくん……私も普通の人間だからね。

ひとや : あ、いえ、分かってはいるんですけど……。

仁深 : おはようございます……って、人口密度すごっ!?まだ手伝う事ありますか?

宙 : いや、多分無いよ。

仁深 : あ、は、はい!それなら良かったです。

柊里 : おはよう……って、人口密度すごっ!?

輝流 : そのセリフ、さっきも聞いたなぁ。もうお皿も並べてあるし……食べようよ。冷めたら味が半減しちゃうからさ。

柊里 : お、おお!寝て起きたらご飯が出てくる生活……ええなぁ。

仁深 : はいはい、とりあえず座りましょう。

翔誠 : ……考えてみたら、僕たち初対面なのか。

柊里 : 凄いなぁ、一日で同じ席に着くて。普通に考えたら驚愕もんやで。

ひとや : 嫌なのであれば私はあとから食べるけど。

仁深 : そんなこと言ってないじゃないですか!とにかく、食べましょう?いただきます。

輝流 : うんうん、俺も、折角なら美味しいまま食べて欲しいしねぇ。

宙 : そうだね、それではありがたく……いただきます。

柊里 : うんまっ!?なんやこれ、豪華ホテルの朝食やん!……食べたことないけど。

翔誠 : せめていただきますくらい言え。あと、豪華なホテルだからって美味しい訳じゃないぞ……ふむ、なかなかだな。

柊里 : あんたも言ってないやん!

翔誠 : あ。

宙 : ふふ……って、ひとやくん?いつまでそうやって眺めてるんだい?

ひとや : あ、いや……。

宙 : 大丈夫、毒なんて入っていないよ。

輝流 : 確かに初対面の人にご飯なんて作られても、怖いか……。

ひとや : いえ、そういう訳じゃ……。

輝流 : じゃあ、アレルギー?さっきはないって言ってたけど、本当は卵アレルギーだったとか……!?

ひとや : ち、違うから!食べる、食べるから気にしないでよ!

輝流 : いや、無理はしなくともいいんだよ……?

ひとや : いえ……(食べて)

宙 : どう?ひとやくん。

輝流 : ……。

ひとや : おい、しい……。

輝流 : お!嬉しいなぁ。

柊里 : え、僕らもいったんやけど!?

翔誠 : お前は子供か。それとこれとは違うんだろう。

柊里 : はぁ~?じゃあ、あんたはズルい思わんの!?

翔誠 : いや、特には。

柊里 : 何でなん!?

仁深 : まあまあ……食事の席で喧嘩は良くないですから、落ち着きましょう?

輝流 : ここまで喜んでくれるとは思わなかったなぁ、さて、今晩は何を作ろうか?

宙 : 夕ご飯も楽しみにしてるよ。

輝流 : ご期待に添えるように頑張らなきゃだなぁ、いっぱい食べてくださいね。

 : 

仁深 : (背伸びをしつつ)朝からいい食事にありつけました!流石はカフェを経営している輝流さんですね。

輝流 : そう言ってくれると嬉しいなぁ。俺は、母さんの味を覚えて、それを取り扱ってるだけ、ではあるんだけどね。

柊里 : 謙遜けんそんはやりすぎると嫌味になるから気ぃつけぇや。僕なんて料理もしいひんのに。

翔誠 : まあいいんじゃないか。さて、今日は何をするか……裏に山があったからな、そこで写真を撮るのもいいな。

ひとや : あんまり汚れて帰ってこないでよ。掃除するの私なんだから。

宙 : まあまあ……私はいつも通り村のみんなの様子を確認しないと……誰か一緒に来るかい?良ければ案内するよ。

仁深 : え、いいんですか!?それなら是非!

宙 :とは言っても、軽く村の中を歩き回りながら挨拶をするだけなんだけどね。

仁深 : いえ、いいんです!今はちょっと色々と見なくちゃ行けなくて……。

宙 : へぇ?良くは分からないけど……まあ、来るなら歓迎するよ。

ひとや : 私も行きたいんですけど……ちょっと今日は用事が……。

宙 : いいよ、ひとやくんは忙しいだろうし。他に着いてくる子はいる?

柊里 : 僕はええかなぁ。どっちかって言うと身体動かしたいわぁ。美味いからって食べすぎた。

翔誠 : じゃあ僕と来るといい。山登りは体力を使うぞ。

柊里 : 考えとくわ。

翔誠 : じゃあ、汚れてもいい服を着ろよ。十時には出るぞ。

柊里 : 強制なん!?

輝流 : 僕は食材とかを見たいからなぁ……ちょっと悩む……一人で行ったほうがゆっくり見れそうだし、やめとこっかなぁ。

宙 : そうかい。じゃあ、一緒に行くのは仁深くんだけだね。

仁深 : な、なんかすみません……。

宙 : いいのいいの。私はみんなと仲良くなりたいんだよ。

仁深 : それは……素敵ですね。私も色んな人と仲良くなりたいです。

宙 : なれるさ、仁深くんなら。

仁深 : え、そ、そう、ですかね……?

宙 : さて、そろそろ行こうか。翔誠くん達も気をつけて行ってくるんだよ。

翔誠 : どうも。あんたらも気をつけて……って、言うこともないだろうけどな。

柊里 : 着替えてきたで。

輝流 : 柊里さんも、なかなか乗り気だよねぇ。

柊里 : 動くとイライラしなくなるから、ええんよ。山登りは特に……やったことはないけど。

ひとや : というか、行くなら早く行ってくれない?鍵閉められないから。

輝流 : 俺はもう出られるよ~。田舎の野菜とか山菜は美味しいから、楽しみだなぁ。

ひとや : この村の特産品は卵だよ。

輝流 : じゃあ、もしかして今日の朝食べたのも……!

ひとや : そう。たまに、お礼ってことで卵を貰うんだ。

宙 : そろそろ行かないと、日が暮れてしまうよ。

仁深 : あ、はい!

 : 足音。

宙 : みんな凄いね。ひとやくんが、あんなにすぐに心を許すなんて……珍しいよ。

仁深 : 嗚呼……確かに。結構敵意むき出しだったのに、今は大分慣れてそうですもんね。

宙 : あれでも、結構警戒心が高くて……なかなか心を許さない子なんだよ。信じられないかもしれないけど。

仁深 : いや、そんな気はします。他のみんなが……きっと凄いんですよ。

宙 : そうかもしれないね。けど、仁深くんも凄いよ、全員の強いところを上手く中和ちゅうわしてる。

仁深 : 中和ちゅうわ……?

宙 : なんというか……話が脱線しても上手く元に戻してるだろう?

仁深 : そうですかね?

宙 : そうだよ、人の褒め言葉は胸を張って受け取るべきじゃないかな?

仁深 : あ、は、はい。ありがとうございます 。

宙 : よし、素直でよろしい。  

仁深 : あはは……宙さんって、どこのご出身なんですか?

宙 : ん?なんでかな?

仁深 : いや、なんというか……私の、母に何となく似ている気がするんです。実は、お知り合い……とかないかなぁって思いまして。

宙 : それは、どうだろうね。私が21であっても、ありうる年齢ならば知り合いの可能性もあるね。

仁深 : 21!?

宙 : え、あれ、老けて見えるかな?これでもピッチピチの21なんだけど。

仁深 : あ、いや……包容力というか……雰囲気が大人っぽいからてっきり……すみません……。

宙 : ふふ、まあ構わないけどね。

仁深 : うう、すみません……。

宙 : そんなに謝らないでいいよ。包容力がある、なんて言われたら嬉しいものだしね。

仁深 : いや、うーん……。

宙 : ふふ……そうだ、ここに石段があるだろう?ここを登ると寺があるんだ。立地がいいのかな、そこでボーッとしていると良い風が吹いて心地がいいんだよ。今度、言ってごらん。

仁深 : え、あ、はい?あんまり信仰深くはないんですけど……。

宙 : 良いんだ。どうせ……もう祀られてるまつられてるものなんて居ないんだから。

仁深 : え?

宙 : なんてね。それで、ここの砂利道を歩いていくと村民の集落がある。あそこの会館は少し登ったところにあるから大変だっただろ。

仁深 : あ、そう……ですね……離れていたから、本当にこの道で合ってるのかって不安になりました……。

宙 : まあそんなものさ、田舎なんて。

仁深 : 言い方に棘がありますね?

宙 : そう聞こえる?

仁深 : はい。

宙 : はっきり言うね。まあ……私はここに、いい思い出はないからね。

仁深 : 何か、嫌なことでも?

宙 : 少し、ね。もう少ししたら話すから、そこまで待っててよ。さて、そろそろ軽くでも、カウンセリングをしてこなきゃ。仁深くんはその辺で時間でも潰してて。

仁深 : はい。

宙 : あ、こんにちは~。

仁深(M) : ……時間を潰せって言うけど、こんな所で何してればいいんだ……。記事を探せって言われたって、こんな場所に、面白いネタなんてないでしょ。村といえば、因習村っていうのがあるけど……ここがそうとも限らないし。何か、いいネタ無いかな……田んぼの中に死体が~とかあるわけもないし。村民との会話でどうにか……
 
仁深 : あれ、そういえば……。

宙 : 仁深くん、そろそろ次に行くよ。早く来ないと置いていくからね?

仁深 : え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!案内は!?

宙 : 大丈夫、最初はちゃんと案内したし、あとは歩けば慣れる!

仁深 : なんで根性論なんですか~!!って、置いてかないでってば!

 : 

 : 村民会館。

 : 

仁深 : ひ、酷い目にあった……もう、足パンパンなんですけど……村、広すぎ……。

宙 : おっと、仁深くん体力ないね?

仁深 : 宙さんがありすぎなんです……!!私は、普通よりある方なんですから!

宙 : そうは見えないけどなぁ。

ひとや : 宙さん、と……仁深さん。お帰りなさい。

宙 : ただいま、ひとやくん。
 
仁深 : なんだかすごく差をつけられた気がしますが……。

ひとや : 気のせいだよ、気のせい。

仁深 : 納得いかない……。

柊里 : ただいま~。お、ひとみんらも丁度帰ってきたタイミングか!なあ、聞いて聞いて!

仁深 : え、どうしたんですか?

翔誠 : 山登りをしていたら、途中で綺麗な川を見たんだ。折角の夏だから、みんなでそこで涼まないか?

柊里 : なんで先にゆうたん!?僕が言う言うたやろ!

翔誠 : 残念、早い者勝ちだ。

ひとや : ……確かに、山の中の川なら綺麗だろうけど……。

仁深 : この歳で川遊びって……。

宙 : ふふ、良いじゃないか。別に毎日やらないと行けない訳でもない仕事だ、明日くらい休んでぱーっと遊ぼう!

ひとや : え、本気なんですか!?でも濡れていい服なんてないでしょう!?

宙 : 大丈夫大丈夫。濡れても乾かせばいいんだよ。

ひとや : そういう問題ですか!?

輝流 : みんな、そんなに騒いでどうしたの?中にまで響いて来てたよ?

翔誠 : そうだ、聞いてくれ。実はかくかくしかじかでな。

ひとや : それで伝わるわけないだろ!?

輝流 : なるほど……。

ひとや : え、伝わるの……?

輝流 : よく分からないから、後で聞くよ。それよりも先に……ご飯食べない?僕、早めに帰ってきてから料理作ってたんだけど……作ってたらお腹すいてきちゃったぁ。

柊里 : 伝わっとらんやないかい!

ひとや : こんなに騒がしいの、初めてだよ……。

宙 : まあ、これも楽しいだろう?ひとやくんも、少しは気力が湧いたかい?

ひとや : ……別に。

宙 : ……そうか。

輝流 : あっため直すから早く来てよ、時間が経つと美味しくなくなっちゃうからねぇ。

翔誠 : 先に風呂にはいりたいんだが……。

輝流 : お風呂は後々!お腹が減って動けなくなる前にねぇ。

柊里 : おかしない?まだ四時なんやけど……。

輝流 : あんまり騒ぐと夕飯なしだからな~?

柊里 : え、それは困る!

翔誠 : ほら、早く行くぞ。

仁深 : 明日、筋肉痛じゃ無ければいいけど……。

宙 : ほら、行こう?ひとやくん。

ひとや : ……そうですね。

 : 騒がしい喧騒。段々フェードアウト。

 : セミの鳴き声。深夜。ノックの音。

ひとや : ……嗚呼、全く……最悪……。

 : 足音。

ひとや : こんな夜中になんの用?

ひとや : 嗚呼、いつものね。けど……は?明日?いや、明日は……。

ひとや : っ!化け物化け物うるさい!分かった、分かったから、さっさと出てけよ!

ひとや : ……人のこと化け物呼びしやがって、どっちが人でなしだよ……

 : 蝉の声。フェードイン。

ひとや : 人間に優しくされたからって勘違いするな、か……分かってんだよ、分かってる……嗚呼……

 : 蝉の声が止まり。

ひとや : 死んでしまえれば、楽なのに。

 : 

 : 朝。ニワトリの声。

 : 

柊里 : おはよう……て、何?この変な雰囲気。

翔誠 : 相変わらず遅いな。もう十時だぞ。

柊里 : うるさいわ。休みの日に好きなだけ寝たくなるのは誰だってそうやろ。いや、結局なんなん?この雰囲気。

輝流 : いやね、今日みんなで川遊びしようって話してたんだけど……。

宙 : ひとやくん、用事が入っちゃったらしくて行けなくなったらしいんだ。

柊里 : なるほど?

翔誠 : それなら明日にするかって話になったんだが、仁深くんも用事があるからと出てってしまってな。だから、各々おのおの好きにしてるんだ。

柊里 : なるほどなぁ。そんなら、僕は二度寝しよかな。

輝流 : 大丈夫?寝すぎじゃない?

柊里 : ええのええの、休みならちゃんと休まな!

輝流 : それは確かにそうなんだけど……。寝すぎるのも体に悪いって言うだろう?

柊里 : そんなん知らん知らん。今僕が元気にいるのは沢山寝たからや。だからええの。

翔誠 : 食べてすぐ寝ると牛になるぞ。

柊里 : 食べてないから太らんし~。

翔誠 : 朝は食べた方がいいって言うがな。

柊里 : なんでそないに突っかかってくるん?別に僕の好きやろ!?

輝流 : ちょ、ちょっと!落ち着こう?ね?

柊里 : こいつが僕に突っかかってくんが悪いんやろ!?僕は悪うない!

宙 : ……そこら辺にしないと、私も怒るよ?

 : 引き戸の開く音。なにかの倒れる音。

宙 : っ!

柊里 : あ?なんや?

翔誠 : 仁深くんが筋肉痛で倒れたんじゃないか?

輝流 : いやいや、そんなに呑気にしてる事じゃないよ!?

宙 : ひとやくん!

翔誠 : ん?ひとや?

ひとや : (荒い息)……だい、じょうぶ、です……少し、蛇に、噛まれた……だ、け……。

輝流 : あ、ほんと……って、顔色がすごく悪いよ……!?と、とりあえず部屋に運んだ方がいい!?

翔誠 : 蛇の毒なら、まずは傷口を洗おう。ある程度知識はある。

柊里 : ど、どないするん!?えっと、まずは……えーっと……お、お医者さんは!?おらんの!?

宙 : ごめんよ、輝流くん頼んだ。医者は……いるにはいるけど……。

ひとや : 無駄、だと、おもう……うっ……。

輝流 : 吐きそう……!?

ひとや : まだ、へい、き……。

柊里 : 無駄!?まずは呼んでみな分からんやろ!どこ!?

宙 : 集落でいちばん大きい家屋かおくだよ。行ってみるだけ、行ってみて欲しい。私は……ひとやくんを見ているから。

翔誠 : 一番大きい家だな。行くぞ、柊里。

柊里 : あんたに言われんでも行くわ!ここ電波も届かんの嫌やわ……!!

ひとや : ……かあ、さ……。

輝流 : え?

宙 : 意識が途絶えたみたいだ……輝流くん、ひとやくんの部屋はこっちだよ。……大丈夫、大丈夫だよ。ひとやくん。私はここにいるからね……。

 : 

ひとや : (穏やかな寝息)

輝流 : とりあえず、落ち着いた……?

宙 : 恐らくは……。

 : 引き戸を力任せに開く音。

翔誠 : (舌打ち)

柊里 : あの反応はないやろ、人の命かかっとんのやぞ!田舎だからどうのの話やない、あれは!

輝流 : おかえり、どうだった……?

柊里 : 再っ悪やわ!毒蛇に噛まれた急患がおる言うて声掛けたら……一言目が『誰のことだ?』やで!?

翔誠 : そこまではいいだろ。用意をしだしてたしな。ただ、ひとやの事を話した途端に、『あの化け物なら心配いらん』だと。人を化け物呼びするのもおかしいが、そもそも……危険な状態だと伝えているのにあの反応は無い。

柊里 : 無理やり連れ出そうとしたら、むしろ僕らが悪者扱いなんやで!?頼りに来た人を追い出すなんてある!?人間の心ないんやないか!?あー、腹立つ!

宙 : ……やっぱり、か……。

翔誠 : ……そうなると、わかっていたのか?

宙 : まあ、そんな気はしていたんだ。

柊里 : な、なんで?なんか、やったん?ひとちん……。

輝流 : ……ひとちん?

柊里 : ひとやのことや。ひとやんでもええんやけど、なんやしっくり来なくてなぁ……。

翔誠 : そこじゃないだろう、まあとにかく……医者は期待できない。ならどうするか考えるべきじゃないのか?

輝流 : そう、だよね……救急車……!は、電波的に無理……か……。

翔誠 : 電車に乗るのも手だが、一、二時間は揺られることになる……大丈夫なのか……?

柊里 : やめといた方がええやろ。毒が全身に回ったりするんやないの?

翔誠 : 可能性は、無くはない……。

ひとや : たす、け……おか、さ……。

宙 : いるよ、私はここに。

輝流 : ど、どうしたら……。

 : 引き戸の開く音。

仁深 : ただいま……みんな、ちょっと聞いて欲しいことが……って、みんな集まってどうしたんです?

翔誠 : 仁深くんか……ひとやくんが、蛇に噛まれたらしいんだが……救急車も呼べない状況なんだ。何か、知識はないか?

仁深 : ち、知識って言われても……私も、そんな状況になったことなんかないです!ど、どうしたら……。

宙 : ……仁深くん、どこに行ってたんだい?

仁深 : え、わ、私ですか?

宙 : そう。あの神社にでも、いったんじゃないのかな?

輝流 : え、えっと、そんなこと話してる場合じゃないんじゃ……。

宙 : 大丈夫だよ、ひとやくんは。だから、まずは話を聞きたいんだ。ね、仁深くん。どうなんだ?

仁深 : え、っと……そう、です……。

宙 : そこで、何を見つけたのかな?

翔誠 : 輝流くんの言う通りだ。そんなこと話してる場合じゃない。毒が全身に回ったら取り返しのつかないことになる。なんの蛇かも分からない今、もっとやることがあるはずだ。

宙 : ……私が助ける。だから、問題ないんだよ。頼むから、話を続けさせて欲しい。

輝流 : ……まあ、それ、なら……?

翔誠 : っ、はぁ……好きにしたらいい。

宙 : ありがとう。それで、仁深くん。続きを。

仁深 : は、はい……その、宙さんに教えてもらった神社……なんだか、無性に気になったんですよね……一昨日来た時に、声をかけた人から聞いた【伝承】っていうのも気になってましたし。

輝流 : そういえば、そんなこともあったね……同じ顔って言われてたはず。

仁深 : そうなんです。神社に何も無ければ、その後教わった資料館に行くつもりだったんですけど……そこで、すごいものを見まして……

柊里 : すごいもの?伝承の内容?

仁深 : はい。この村には昔、仏様とこの村のたみの橋渡しをする役割を担ったになった巫女みこがいたそうです。しかし、その巫女は役割を放棄して子供を身篭ったみごもった。純血の女しかなり得ない巫女が子を作ったことで、村人は怒り狂いました。仏の子だと告げる巫女の言葉は誰も聞かず、生きたまま……巫女の腹を引き裂き、六人の子供を引きずり出したそうです……。

翔誠 : ……悪趣味だな。

仁深 : そう、ですね……私も、途中で読むのをやめようかと思ったんですけど……その続きに、恐ろしいことが書いてあったんです。

輝流 : 恐ろしいこと……?

仁深 : ……その子供達に、名前がつけられていたんです。そら、ひとみ、しゅり、かせい、きりゅう、ひとや……それぞれ、天空の天と書いてそらと読み、人を見ると書いてひとみと読む……

宙 : 阿修羅あしゅら修羅しゅらからとってしゅり、家畜の畜生ちくしょうからかせい、餓鬼がきの鬼と隆起のりゅうを合わせてきりゅう、最後に地獄のごくと書いてひとや……これで、六人の子に……六道輪廻ろくどうりんねの名に因んだちなんだ名前がつけられた。仏に謝罪を告げるために。

仁深 : っ!?知ってるんですか……!?

宙 : 当然だろう?ひとやくんの次に、私はここにいるんだからね。

輝流 : ……待って、待ってよ……それって……

翔誠 : 僕たちの名前と、全く同じ……か。

柊里 : 待ってや!でも漢字が違うんやろ!?それに、その子らがどうなったかもわからん……!伝承言うたら、僕らが生まれるずっと前にできてるもんのはずやん!

仁深 : でも、伝承の書かれた板には……私の、生まれた歳が刻まれていました……。子供がどうなったのかは、私も、分からないんですけど……。

ひとや : ……だから、さっさと帰れって、言ったのに……。

輝流 : ひとやさん……!起き上がって大丈夫?

ひとや : このくらい、平気……よくある事だし……。

翔誠 : よくある事?蛇に噛まれることがか?

ひとや : いいや……死にかけることが近い。

柊里 : 死にかけること……?ほ、ホンマに言うとん?

ひとや : 安心してよ、私は……死なないんだ。

仁深 : はい?死なない……?

ひとや : そう。私は死なない……いや、死ねないんだよ。だからこそ、地獄を司るひとやの名前を継いだんだろうけど。

宙 : ……ひとやくん、震えているよ。

ひとや : ……大丈夫ですよ。痛いのにも、苦しいのにももう慣れたから。私は生まれてからずっと……死にかけても決して死ななかった。流行病にかかっても、蛇に噛まれても……熊に食べられても、崖から落ちても……死ななかった。見てよ、五体満足だろ?

翔誠 : ちょっと待て、くまに食べられても生きていたって?

輝流 : それもそうだけど……崖から落ちてもって……痛くなかったの!?

柊里 : ……何となくわかったわ。あの医者の反応……。

仁深 : ……。

ひとや : よくおわかりで。そうだよ、私はどれだけ死ぬようなことをしても死ななかった。肉を食われても、全身の骨が折れても、決して、ね。痛みはあったけど……もう慣れたよ。危ないことは全部任せられたからね。

仁深 : 辛く、なかったの……?

ひとや : 辛かったさ。けど、誰も助けてくれなかった。知ってる?さっきの伝承には続きがあるんだ。五人の子供たちは、仏への供物くもつになる前に、助けられたってさ。母親を名乗る異端者によってね。私も、本当なら、何も知らずにいるはずだったんだ!覚えてる……私にも、母がいたんだから……!

宙 : ……ひとやくん、ゆっくり呼吸を。

ひとや : っ、はい……。(深呼吸をして)……まあ、私が八つになった日に、亡くなったけどね。血眼で探していたあいつらに、殺された。酷い状態だったよ……離れて震えてた私に、血がかかるほどにね……!

翔誠 : ……それなのに、お前は……助かったのか……。

ひとや : 子供ってさ、七つまでは仏の子、って言われるんだよ。神の子だっけ。そこは忘れたけど……まあ、丁度八つになったばかりだったからさ。余計に殺すくらいなら、働かせばいいんじゃないかって誰かが言ったんだ。一人ずつ殺すより、全員が集まってから殺すべきだってさ。だから、今は生きてる……。

輝流 : っ、それは、辛い、よね……わかる、なんてとても言えないけど……。

ひとや : 同情なんていらない。私は化け物として生きてるんだよ。あんたらは普通の人間だろうけど。

翔誠 : でも、本当にその子供たちが僕たちならば……僕たちにもなにかあるんじゃないのか?

仁深 : ……六道輪廻ろくどうりんねは確か、天人が住む天道てんどう、人間が住む人間道にんげんどう、嫉妬や怒りが蔓延るはびこる阿修羅道あしゅらどう、動物たちの世界である畜生道ちくしょうどう、飢えと乾きに呻く餓鬼道がきどう、そして地獄を司るつかさどる地獄道じごくどう……この六つになる。

輝流 : えっと、じゃあ……天道てんどうが宙さんで、人間道にんげんどうが仁深さん。阿修羅道あしゅらどうが……話の流れ的には柊里さん、で、畜生道ちくしょうどうが翔誠さん?餓鬼道がきどうが俺で、地獄道じごくどうがひとやさん……ってことだからぁ……。

ひとや : 宙さんは、悟りを開いてそうなところ……というか、人に寄り添うのがうまいところ、だと思う。

柊里 : そんなら、ひとみんは仲裁が上手いとこ?

翔誠 : 柊里はイライラしやすい所じゃないか?

柊里 : なんやと!?

輝流 : 翔誠くんは、生き物に対して同じ立場に立てるとこ、とかかなぁ?

宙 : それなら、輝流くんはお腹がすきやすいところ、とか。

ひとや : まあ、どっちにしろ……化け物呼びされることはないじゃん。

翔誠 : 本質を追い出したら、化け物らしい面も出てくるかもしれないがな。

ひとや : 死なない、以上の化け物の一面ってどんなんなんだろう……。

輝流 : うーん、毒とか人とかも食べれちゃう、とか?

柊里 : 確かにそれは化け物やんな……。

翔誠 : まあ……それでも僕たちが血の繋がった兄弟であることがわかったんだ。それだけでも上々だろう。

ひとや : ……随分とおめでたい頭をしているのは分かった。会って数日も経ってない人と兄弟って言われたって、普通受け入れないだろ……。

輝流 : それを言ったら、伝承の話だって……死なないって話だって受け入れられ無くなっちゃうからさぁ?

宙 : ふふ、そうそう。細かいことは気にしないんだ。ね、ひとやくん。

輝流 : それにしても、ひとやくんはもう大丈夫なの?

ひとや : 何が?

輝流 : いや、体調……もう体を起こしてるけど……しんどくないかなぁって。

ひとや : 嗚呼……もう大分ましになったから大丈夫。心配どうも。

宙 : さーて、色々話がまとまったし……皆に提案があるんだ。

柊里 : 提案?

仁深 : なんです?

宙 : ……みんなで、ここを逃げないか?

ひとや : 逃げる?

翔誠 : ……なるほど、確かにな。今の話を聞いてもここが危ないのはよく分かる。真実たとしても、真実じゃないとしても……ここにいる意味はない。

輝流 : そうだねぇ、こんなに楽しく話せる人たちができたんだし……こんな狭いところじゃなくて、もっと楽しいところで話したい。

柊里 : ええと思うわ。僕、こんなんだから人付き合いなんてできひんと思っとったんやけど……あんたらは、受け入れてくれたし。

翔誠 : 別に受け入れた訳じゃないがな。

宙 : はいはい、茶々を入れない。早速作戦会議にしよう……と、言いたいところだけど。

仁深 : ……なんか、焦げ臭い匂いが、しません?

翔誠 : これは、木の焼ける匂いか……輝流、ちゃんと火は止めたんだろうな?

輝流 : 俺がそんな初歩的なミスする訳ないよ、指差し確認はしてるし!

柊里 : ……なぁ、ちょお待って。なんで、こんなに人に囲まれとん……?

ひとや : っ!?

輝流 : ほ、ほんとだ……磨りガラス越しに人の影が……!

翔誠 : まさか!

 : 足音。

仁深 : え、何、何が起こってるんですか!?

翔誠 : 扉が開かない……!外に出る扉は全部な。裏口からは火が見えた……。

輝流 : そんな……!じゃあ、窓は!……んぐぐ……なん、はぁ!?押さえつけられてる……!

ひとや : はぁ!?なんで、急に……用が無い限り人なんて来ないはずなのに……!

宙 : ……翔誠くん、柊里くん、君たち……医者を呼ぶ時に……お互いの名前、呼びましたか?

翔誠 : 確かに呼んだ気がするが……それが何か関係あるのか?

柊里 : ……確か、苛立って大声で翔誠の名前呼んだ気がするわ……。

宙 : やはり……!

ひとや : え、な、なんです?何か分かったんですか……?

宙 : お二人の名前と、私の名前、そしてひとやくんの名前を知った村人の仕業しわざであることを確信したんだ。

仁深 : あ、け、煙がこっちにも!まずは伏せて!ハンカチ……忘れてきた……!!(咳まじりに)

輝流 : 犯人が誰であるか、なんでそうなったのかは後にしよう!まずは外に出ないと……!

柊里 : でもどないすんの!?周りには人がぎょうさんおるし、扉は開かん!煙だって、こっちに来とる、一酸化炭素中毒で死ぬで!?

翔誠 : ……四の五の言ってる場合じゃない……悪いが、ひとや……ガラスぶち破る!

ひとや : え、ちょ、何を……!

 : ガラスの割れる音。

仁深 : ひっ!

柊里 : っ、ちょ、なん、急にフライパンて……!

翔誠 : 言ってる場合か!本当は靴も欲しいがそんなこと言ってる場合じゃない!行くぞ!

輝流 : そうだね……とにかく、外の人には退いてもらわなくちゃ、ねっ!!

 : 人の倒れる音。

輝流 : さ、行こう!

ひとや : っ、くっ……。

仁深 : ひとやさん……力が上手く入らないんですね、私に捕まってください。

ひとや : いや、でも……。

柊里 : こういう時は助け合わな!僕にも捕まり。

宙 : ……大丈夫、気をつけて出ておいで。

ひとや : 宙さん……。

仁深 : よい、しょっ、と!まずはひとやさんから!私の手に捕まってください!

輝流 : 俺も手伝うよ。

翔誠 : というか、なんなんだこいつらは!人に殴りかかっては行けませんって教わらなかったのか!?

宙 : そう言いつつ、フライパンで倒してるじゃないか。

翔誠 : っ!はは、正当防衛、だ。

宙 : うーん、確かに。

柊里 : よし、みんな出たで!逃げよ!

輝流 : ひとやくん、ちゃんと捕まっててねぇ。

ひとや : ……分かってる。

 : 

柊里 : はぁ、はぁ……やっと、たどり着いたわ……駅まで、遠……足いった……このまま電車乗ったら、駅員さんに迷惑かけん?

仁深 : はぁ……ふー、確かに……血まみれですしね……昔はこのまま外を駆け回ったとか想像できないです……。

翔誠 : ふぅ、ふぅ、今と、昔は、違うんじゃないか……?

輝流 : ひとやくん、下ろすよ。

ひとや : ありがとう……。

輝流 : うい、しょっと。……はぁ、疲れた……。

ひとや : なんか、本当に……申し訳ないな……あんなに嫌な態度取ってたのに……。

翔誠 : 今更だ。しかし、次の電車は……二時間後、か……その間に村のやつらが追ってくるんじゃないか?

仁深 : そこは、確かに不安なんですよね……。

宙 : 大丈夫だよ、その時は……私が守るから。

柊里 : こいつは頼りになる話やで……でも、ちょっと休みたいわぁ……。

輝流 : しかし、なんで村人が犯人ってわかったの?

宙 : ん?ああ、簡単な話だよ。ちょっと前の、ひとやくんの話を思い出して見て欲しい。それと、翔誠くんの名前は大分特殊だからね。

仁深 : ……なるほど。四人名前が割れていて、みんな同じ顔をしてる……今集まっている六人が、伝承の子供たちの可能性が高い。それで、ひとやさんの言ってた『全員が集まって殺すべき』……それが、今の状態だった、ってことですね……。

翔誠 : しかし、なんで漢字しか変えなかったんだろうか。音も変えれば完璧だっただろうに。
 
宙 : きっと、巫女が……母親が、つけてくれた名前でもあったからじゃないかな。酷い扱いを受けた巫女の、最後の宝物たちなんだ。

輝流 : だけどさ、その……巫女になれるのは純血……まあ、嫌な言い方をすると、処女しょじょしかなれないってことだよね……それなのに、子供ができたら不安になるのも、分からなくは無い……まあ、酷いことをしたのは許されないけどさ。

宙 : ……でもね、誓って……巫女は綺麗なままだったよ。仏様に愛された子だから、その贈り物として六つ子が預けられたって考えたいな。

ひとや : ……宙さんは、巫女様が……いえ、母さんが、大好きなんですね。

宙 : うーん、そういう訳じゃ、無いけどね……ただ、誤解して欲しくないんだ、私は。

柊里 : 誤解?

宙 : そう。私にとっては、貴方たちは……私の愛する子供たち、だからさ。

翔誠 : いやいや、きっと同世代だろ?僕と君は。それなのに、親のようにされても……困る。

仁深 : それに、私の母は……あの人だけです……。

宙 : ……そっか。

柊里 : まあ、僕は母さんが二人いても良いけどなぁ。

宙 : 柊里。

柊里 : ん?なんや、急に呼び捨てして。

宙 : 貴方は元気な子だ。わざわざ関西弁なんて使わなくても、人は集まってくるよ。

柊里 : な、なんなん急に!?

宙 : ただ、阿修羅の闘争心は……今の貴方には必要なかったみたい。大丈夫、次に起きたらちゃんと消えているからね。

柊里 : な、何!?ちょ、近づいてこんといてや!

宙 : 愛してる。(可能であればリップ音)

柊里 : 額にキスとか、ちょ、っと、待って……あれ、なんや、ねむ、く……。

仁深 : え、柊里さん?なんで急に……!

輝流 : ま、まさか宙さんも敵だったとか、言わないよね……!?

翔誠 : ……そうだとしても、僕にはもう逃げる気力は無い。足も痛いしな、もうお手上げだ。

宙 : 輝流。

輝流 : つ、次俺ぇ!?

宙 : 貴方は穏やかな子。みんなの緊張を和らげるのが得意だったからね、それを続けてね。

輝流 : わ、笑ってるのは、好きだから……良い、けど……。

宙 : 貴方の料理は美味しかった、けどそれは……餓鬼の性質で困らされた結果だろう。大丈夫、もう、飢えと乾きで泣くことはないよ。

輝流 : え、そ、それは昔の話だし、最近は慣れたよ……?

宙 : それでも学生の頃は友人と遊びに行くのも控えてたからね、もう……そんなことはしなくていいんだ。愛してるよ。(可能であればリップ音)

輝流 : それを知ってるのは、母さん、だけ……!ま、さか……かあ、さ……。

宙 : そして、翔誠。

翔誠 : ……。

宙 : 貴方は昔から生物が好きだった。色んな子と戯れてたわむれて帰ってくれば泥んこだったね。

翔誠 : ……確かに、そうだったかもしれないな。

宙 : だからって、生物と一緒になろうなんて考えてはいけないよ。貴方は今、人間なのだから。野生に帰ろうとする心は、私が持っていくよ。

翔誠 : 考えてる事はお見通しってわけだ。

宙 : 当たり前。だって私は……貴方のことを愛しているんだから。(可能であればリップ音)

翔誠 : その言葉、生きてる時に、聞きたかった、よ……。

仁深 : ひ、ひとやさん……!

宙 : 仁深。(遮るように)

仁深 : っ!

宙 : 貴方はとても優しい子。皆の間に入って仲裁ちゅうさいすることも多かったね。

仁深 : ……そう、かも……。

宙 : だからこそ、貴方は嬉しいことも悲しいこともいっぱいあった。けれど、決して壁は作ってはいけない。歩み寄らなければ、本当の幸せは得られないんだから。

仁深 : っ、うん、分かりました……ううん、わかった……わかったよ、母さん……。

宙 : その壁も、私が持っていこうね。愛してる。(可能であればリップ音)

仁深 : わたしも、あい、し、てる……。

宙 : そして、ひとや。

ひとや : ……ここに、ずっと傍に、いたんだね、母さん。

宙 : ……助けられなくて、ごめんね。

ひとや : いいよ、宙さんが来たのは、全部終わってからだったしね。

宙 : ずっと、みんなのことを見ていたの。仏様に許されてからずっと。助けられるのは、私の力の残るうちだけ……だったから……。

ひとや : いいんだよ、地獄みたいな日々だったけど、宙さんが……母さんがいてくれた日々は、幸せだったから。

宙 : 貴方に与えられた不死ふしは……貴方を追い詰めるだけだったね。大丈夫、持っていくから。

ひとや : 待って、持ってかなくていい。

宙 : ……いいの?

ひとや : 良い。だから、私も連れて行って。
 
宙 : けれど、そうなったら貴方は二度とここには戻ってこられない。

ひとや : 何となく、わかってる。地獄道の導き手に、なるんでしょ?

宙 : ……ええ。この世界への産み落としの代わりに、貴方達に課せられた義務。その道を進むものたちの道標みちしるべとなる……。もう、この世界で楽しむものは、ないの?

ひとや : ない。私は、もう……この世での地獄を見てきたつもりだから。もう十分。

宙 : そっか……なら、一緒に行こう。

ひとや : うん、ありがとう。愛してる。

宙 : 私も、愛しているよ。(リップ音)

 : 魂の離れる音。そして、人の倒れる音。

宙 : それじゃあ……最後に、この村にはそれ相応そうおうの罰を受けてもらう。

巫女 : ……そう、審判しんぱんの時だ。

 : 喧騒。

巫女 : 貴方たちは、仏の言葉も無視して人を殺めあやめ、無実の子供たちに過激なる悪意に晒した。その罪は、導かれし地獄にて制裁せいさいされることだろう。精々せいぜいそのとがを抱え……残りの生を楽しむことだ。

 :  
 : 風の音。

 : 

仁深(M) : そうして、目が覚めたのは病院だった。電車の中で気を失っていた私達を、誰かが通報してくれたらしい。ガラス片や石で傷付いた足は治療され、そのまま一日様子見の入院を余儀なくされた。

柊里 : ……あれって、実は夢だった、みたいなオチやないやろか。

翔誠 : だったら、なんで僕らは初対面じゃないんだ。それに、ガラス片を裸足で踏むなんてありえないだろ。

柊里 : 確かに。けど、やっぱり実感わかんわぁ。

輝流 : まあ、そうだよねぇ。俺も湧かないもん。夢だったって言われた方が納得がいくし。

仁深 : しかし、あの、宙さんって人はなんだったんでしょうか……。

柊里 : 知らんし、もうええんでない?それより、今後のこと考えよ。

輝流 : 今後?

柊里 : せや!良かったら、輝流さんのところで働かせてくれへん!?

輝流 : き、急だね……!?

柊里 : いやー、実は……お盆前に、クビになってん。

翔誠 : なんでだ?

柊里 : いや、客とちょっと揉めて、なぁ……。

輝流 : そんな話を聞いて採用する人いないと思うけど……。

柊里 : いやいや!前はよくイライラしとったんやけど、今は大丈夫やねん!

翔誠 : どうだか。

仁深 : まあ、色々とお母さん……いや、宙さんが持って行ってくださったらしいですから、大丈夫では?

柊里 : ひとみん……!!

仁深 : それより……私は記事を二つも考えなくちゃいけないんですよ!何かいいネタありませんか!?

翔誠 : それ、僕らに聞くか?普通

仁深 : 良いんです、大丈夫です!上手く編集しますから!

翔誠 : じゃあ僕が、動物豆知識を披露してやろう。

仁深 : おお!本当ですか!?

柊里 : 結構食いつくやん……ホンマになんでもええんやな……。

輝流 : ……そうだなぁ、じゃあ、僕のお店に取材しに来る?

仁深 : え、いいんですか……!

輝流 : お盆もあと三日四日は残ってるし、明日帰れば取材を受ける時間もあるしね。

翔誠 : じゃあ、僕も寄らせてもらおうか。

柊里 : ちなみに、採用通知の方は?

輝流 : ……じゃあ、お盆から年末にかけて試用期間を作ろうかなぁ。まあ、そんなに人は来ないけどね。

柊里 : ほんま!?精一杯働かせてもらうわ!

仁深 : そういえば、どこのお店なんです?

輝流 : そこは内緒。行ってからのお楽しみだよ。

翔誠 : 僕のことは無視か?

仁深 : あ、いえいえ!その、たまたま別の話題が入っただけですから!ね!?

翔誠 : ……。

仁深 : そ、そういえば~!柊里さんはなんで東京住みなのに関西弁なんです~!?

柊里 : そこで僕の話題出すぅ!?

翔誠 : で、なんでだ?

柊里 : なんであんたまで聞く気やねん!

輝流 : うーん、じゃあ……面接だと思って答えてよ。

柊里 : ええ~……いや、うーん……僕、昔からイライラしやすくて、友達もできんかったんよ……ずっと、寂しかってん……。

翔誠 : それで?

柊里 : ……ある日、関西人の子が転入してきて、瞬く間に人気者になったんや……だから、関西弁で喋れば、少しは近付けるかなって……そんだけや!

翔誠 : ふーん。まあ、理由として悪くないんじゃないか?

柊里 : なんであんたが上からやねん!

輝流 : ふふ、まあ……とにかく、明日からよろしくね?

柊里 : ちょ、スルーせんといてや……。

仁深 : ふふ……って、へ?あ、電話!部長からだ……!ちょっと出ますね……!

 : 以下は電話上の会話。

仁深 : はい、六道です。どうしました?

部長 : お疲れ。いや、安否確認がしたくてな。

仁深 : 安否確認?

部長 : 昨日からずっと胸騒ぎがしててな……まあ、無事ならいいんだ。

仁深 : まあ、無事といえば無事、というか……。

部長 : ん?どういうことだ?

仁深 : 諸事情あって、今入院してまして……。

部長 : な、なんだって!?大丈夫なのか!?

仁深 : しー!病院なのでお静かに!

部長 : あ、ああ、すまん……退院はいつになりそうなんだ?

仁深 : 今日は様子見の入院なので、明日には恐らく。

部長 : それなら良かったが……出社日、もし辛かったら無理しなくてもいいぞ。俺に一言連絡をくれれば、こっちで何とかする。

仁深 : そこまで酷い怪我じゃないから気にしないでください。ベタ記事二個も、どうにかなりそうですし。

部長 : お?はは、じゃあ楽しみにしておくよ。まあ、安静にな。

仁深 : はい、失礼いたします。

 : 電話が切れる。

輝流 : 大丈夫そう?

仁深 : 大丈夫ですよ。さて、明日は足の痛みが引いててくれてるといいんですけどね。沢山歩くでしょう?

翔誠 : 確かにな……明日のために寝とくか。

柊里 : それがええなぁ。おやすみ~。

輝流 : ええ、まだお昼なのに!

仁深 : ふふ。明日、楽しみですね。

輝流 : そうだねぇ。病院食、楽しみなような怖いような。

仁深 : 何言ってんですか、栄養食なんですから、仕方ないでしょう?

輝流 : ふふ、それもそうだねぇ。僕も、少しだけ寝よっかなぁ。

仁深 : 昨日は疲れましたからね、それがいいと思います。おやすみなさい。

輝流 : おやすみ、仁深くん。

 : 

仁深(M) : 窓際のベッドから見える空は青い。あそこに、宙さん……もとい、お母さんとひとやさんはいるのだろうか。もしかしたら、本当の宙さんもあそこにいるのかもしれない。いつか、いつか……本当に出会える日が来るのならば、全員で笑うことができるといいなと思う。……そんな日が来る時はきっと、死後の世界だろうけれど。

仁深 : ふふ、おやすみなさい……またいつか。
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