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とある藩の乱1
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寒暖、どちらともつかぬ季節、四年前に藩同士の戦が終わった。自分たちの藩が負け、他の藩の支配下に堕ちるのは必然のことである。戦に負けながら、一生懸命生きて帰った彼らに恩恵はなく、指名手配の紙が飾られているのみである。少なくとも三人のそれが貼られ、凛々しい絵はどこかをじっと見ているように見える。
侍について、己に厳しく学ばせた我が父も、彼らと同じ戦に出た末に首だけとなって故郷へと帰ってきた。
”侍の息子なら侍であれ。侍ならば涙など見せるな。侍であれば姿を隠さず堂々としていろ。侍ならば戦え……侍ならば他に命を奪われるな。自身で自身を殺すのだ。”そう竹刀片手に言い放った父の最期はどうだっただろうか。静かな顔で飾られた父からは何も分からない。だが、死を恐れずに戦えたのかだけでも知りたかった。
しかし死人に口なし。父は何も語らない。気がつけばそれは腐り、父ではなくなった状態で撤去された。一体どこへと消えてしまったかは、今更知るよしも無いことである。
だが、そんな父の言葉を忘れぬために己は侍となった。泣かず、そして敵には刀を振るう。きっとそれなりには強くなれた気がする。こんなものが侍であるのか、武士であるのかという疑問は見ないフリをした。だって、これが父のいいつけであるから。物分りの悪い自分に竹刀を振り上げるほど大切なことであるはずだから。
もしこれが間違いだと言うのならば、あの痛みに意味がなかったということである。それだけは嫌だった。耐えたあの時間の意味を消したくなかったのだ。
――例えそれが、弱虫と罵られるようなことであったとしても。
暖かな春から季節が変わろうとしている。桜は花弁を散らして、新たに緑を携えている。周りを歩む人々は楽しげに会話を繰り広げながら光時の横を通り過ぎていった。それと打って変わって、光時は無表情であった。
十五という幼い顔でありながら、腰には刀を携えている。鞘は緑で艶濃く美しくはあれど、手持ち部分は随分と使い込まれたのかボロボロになっている。髷を結っているためか少しばかり貫禄さえある。だがそのまわりには人っ子一人おらず、むしろ避けられているほどだ。
敗戦した藩は、負けた相手に服従して守ってもらうことも多い。そのため、この場に侍は存在する必要は無いということだ。むしろ、侍を全面的に出せば、戦に出陣したのかもしれないと恐れられることの方が多い。つまり、この反応が普通であるということだ。
別に光時も気にしてはいなかった。 三枚の指名手配書を見るまでは。
色褪せたそれは見たことの無いほど、まっすぐ前を見つめた三人の絵が描かれている。1人は驚く程無表情で、もう一人は満面の笑みをうかべているし、もう一人は仏頂面である。
雪代と書かれた無表情の男を中心に、結羽という笑顔の男と仏頂面をしている七兵郎を率いて前線を駆け抜けた我が藩にとっては英雄な彼ら。しかし、侍の末路はこれなのだろうと察してしまう。一度の敗北で仲間は敵となり、死が常に隣り合わせとなる。
それにしても彼らはどこに行ってしまったのだろう。自分の知っている侍ならば見つかってきてもおかしくないはずだ。だがそんな話は聞いたことがない。こんな何小さな街では、噂が広がらないはずがないというのに…。
もしかしたら、侍は俺が思っているよりも全然。
そう考えそうになり、頬を叩く。思っていたよりも目立たないだけかもしれない。きっとそうだ。
眉間にシワがよったのを指でほぐしながらそれらに背を向ける。現実に背を向ける…否、逃げ出すかのような自分の行動に、思わず拳が固くなる。違う、俺は逃げてるんじゃない。ただ、出ない答えに飽きただけなのだ。
「おにーさん、ちょっとおいでなさいな。旦那のお団子美味しいよ」
女にしては少し低めの声が横から聞こえる。右腕には掴まれている感覚がある。こちらに近づいてくるのすら珍しいのに、話しかけて触ってくるなんて…驚きに固まりながら右側に視線を向ける。そこには、腰まで伸びた髪を下ろした女がにっこりと笑っていた。橙色の着物が良く似合う良い女だった。
背の高さがなければだが。
寺子屋の中でもそれなりに高い光時と同じ程度の高さだ。ちらりと足元を覗いて見ても吐き振るされた草履が女の足におさまっているだけだ。つまりこの女、本人の背の高さだけで男の己と同等の背になっているということだ。
さすがと言うべきか、あまりのことに畏怖すべきか…迷っている間に、建物の前の赤い席に座らされた。中は人が多いらしく、がやがやと楽しげな声が響いている。その中には”お雪ちゃん”という名が多く呼ばれ、目の前の女はそれに返事をしていたため、おそらく彼女がお雪なのであろう。
「ちょいとお待ちよ。お兄さん、お品書きはこれね。ちなみに私のオススメはみたらし団子よ。決まったら呼んでなぁ」
そう言って女は店に入っていった。忙しそうに働き、客に笑いかける女に見蕩れつつお品書きに目を通す。
ぜんざいや汁粉などの甘いものばかりである。ここは甘味屋なのか、そう一人納得する。おなごが客寄せをしている理由も、団子がオススメと言われることも。
特に目を惹かれるような…というよりも、食欲がそそられるものは無く、とりあえずみたらしで良いかと中を覗く。なかなかの大盛況なのか、娘は早歩きを繰り返して歩き回っている。
呼びかけようか迷いながら空を見上げる。鮮やかな青空と透き通るような雲、優しく静かに頬を撫でていく風が心地よい。あまり日常生活では感じようとはしないこの感覚に、光時は目を細めてただ馴染んでいた。仄かな甘みのある匂いも自身の一体になった気もしてくる。
こんなに穏やかな時間はいつぶりだろうか。父がいた頃は稽古三昧に泣き寝入りし、最近は己の格好にこじつけて刀を振るってくるものばかり。この暖かでゆっくりとした時間に、ふと亡き母の姿が浮かぶ。青白い顔で微笑み、優しく背を撫でてくれた…顔には所々痣のようなものはあったけれど、美しく優しい母だった。
十年以上前のことでも、まるで昨日のことのように思い出された。鈴のような声で紡がれる昔話はどれも鮮明だった。山での話も海での話も…どれもこれも想像が容易かった。
そよ風が母の声のように聞こえて目を開けると、不思議そうな顔のお雪と呼ばれた女が立っていた。女はしゃがんで下から覗いていたようで、笑いながら立ち上がった。やはり背が高くて顔を上げると首が痛いほどだ。
「なんだい?そんなに油断しきった顔しちゃだめじゃないか。お侍さんだろ?で、注文は?」
「み、みたらし団子で…」
「分かった、ちょいとお待ちくださいね」
油断しきった顔、と聞いて思わず体が固くなる。そんなに緩みきった表情していただろうか。そよ風に吹かれて平和に委ねていたのは確かだが、そこまで緊張は解いていないはずである。
女が離れていくのを見つめながら、眉間に力が入るのを感じる。先程解したばかりだが、さすがに機嫌を損ねればすぐに戻ってしまう。そもそも油断しているなんてこと、町娘なんぞにわかってたまるかと思う。
空は軽快な雰囲気から一変して馬鹿にしているような雰囲気に思えてしまう。今すぐにでもこの下ろしていた腰を引き上げて、この店から立ち去りたいところだが、注文した手前に金を払わずに出るのはあまりに非情である。少なくとも自分にそんなことをする勇気はなかった。否、侍としてそんなことをする訳には行かなかったのだ。
この怒りを鎮めようと一度息を吐くも、苛立ちが消えること無く足に出てしまう。まだ数刻とも経っていないのにまだ来ないのかと新たな苛立ちも生まれる。
このまま負の連鎖が繋がる前に来て欲しいと考える中、隣に皿が置かれる。4つ綴りの団子が2本あり、醤油の香ばしい香りが鼻をくすぐる。
口の中に唾液が溢れ、その串を掴む。女は笑顔で己が団子を口に運ぶ様を眺めていた。その視線に気まずさを覚えながら一個を口に含める。
甘味屋らしい砂糖の甘さは無いが、醤油の中に仄かな別の甘みがある。さらに団子もモチモチとした食感ながらに食べ応えのある素晴らしいものであった。
美味いと小さく呟くと、目の前から楽しげな女の声が聞こえた。「でしょう?」と勝ち気に笑う女に、そのまま肯定する気にもなれずにひとつ頷いてから次の団子にかぶりつく。素朴な味にまたもや声が漏れそうになるのを押さえ込み、1本の団子を食べきった。
確かにこれは人が集まるのも無理は無い。女から目を逸らすために中を覗き、ワイワイとした雰囲気に少しばかり羨ましく思う。だが己にはあそこに入る勇気はなかった。
もう一本の団子をつかみ、女に代金を払って立ち上がる。暖かな陽気の中で歩きながら食べたいと思ってしまったのだから仕方ない。川沿いを歩く光時の背後から、女の「またおいでよ」という掛け声が響く。
光時はそれを無視して空を見上げることにした。あの暖かな青空の向こうに母の面影を写しながら。
それから3日という日が流れ、街の闇に包まれて光時は歩みを進めていた。黄昏時と呼ばれるその時は、妖に乗じて悪人もよく事を起こす時刻だ。そのために人が歩いているのは酷く珍しいことである。侍の己を含めてもだ。特に行き先も決めずに歩き回った末、見たことも無い場所へと着いてしまったのだ。帰路へ着いたのは陽が傾ききった頃だった。
久々にこんな時間まで外にいたものだと息を吐く。何度追い払ったとて厄介な人種は1人では無い。数日前によったばかりの団子屋の近く、つまり町中であってもそれは変わらない。
「おい、兄ちゃん。侍の真似事なんてして何してんだい?」
ほぅら、こんなふうに。
背後からの声に応えるように、光時は振り返って刀に手を構えた。その先には男が三人、ニヤニヤと笑いながら刀に手を掛けている。こういうヤツらだって何度も対峙してきた。そして血に伏せてきた。
相手よりも早く行動に移すのが必勝法である。柄に力を込めて引き抜き、おおきく振りあげる。しかしそれをものともしないというふうに受け止められた。少し驚きはしたが、己の刀を止めたのは何もこいつだけでは無い。気を引き締め直し、1度後ろへと下がる。刀を抜いているのは先頭の男一人だ。後ろの二人は邪魔をしないようにか、離れた所へ避難していた。
さっきまで構えていたのはなんだったのか…恐らくただの取り巻きなのだろう。一対一の戦いになり、内心ほっとしながら再び刀を振りかぶる。
縦、横、横。思った通りの剣筋が作れるほどに調子が良いはずだが、男はそれを軽々といなしていく。それに焦るなという方が無理な話である。
焦りが勝り、剣筋も大雑把になっていくのを自分で感じた。己はここまで全力でやっているというのに、相手はまるで疲れを感じさせずに刀を振るっている。一際大声を出して刀を振り下ろすが、それも相手にとっては想定内の事だったらしい。簡単にはじき出されたそれは、美しい弧を画いて背後の離れた位置に落ちた。
キィンと高い音が鳴る。
そのたった一音で己の死を悟る。それと同時に、その男の目に恐怖した。自分の目的のためなら死をも厭わないと言っている瞳だ。そしてやっと理解した、否、理解してしまった。光時が相手にしてきた待は、雑魚どうぜんであったということを。戦いはしたいが死にたくも殺したくもない。その程度の覚悟であった。それで強くなったというのは思い上がりに過ぎない。
「この程度か。まぁ、戦に出ていた俺と渡り合えるなら十分か」
男は嘲笑を浮かべて力を振り上げる。逃げろと警報が鳴るが体が動かない。
「へえ、そうなんだあ」
突然砂を踏む音が響く。男は刀を降ろしてそちらを凝視している。顔を少しだけ横に向けて視線を後ろに流す。そこには艶やかな黒髪の女が、提灯片手に歩み寄ってきた。人がきられかけているというのに、この女は悲鳴どころか反応でさえろくなものではない。一体なんだこの女。
「じゃあ、見せてもらおうか、その実力」
提灯を下に置き、ゆったりとした動作で光時の刀を拾う。その一瞬、女の顔 が照らされた。血肉に飢えた犬のような瞳が、ギラギラと獲物を見定めていた。
その時ふと、この声に聞き覚えがあることに気がついた。女にしては低めの声。
現状に見合わない名を呼ぼうとして、女を見つめて口を開きかける。しかし”お”と喉が鳴った途端に風が巻き起こり、自身には生温い雨が降る。しかし、雨にしては妙に鉄の臭いがする。
重たい音が隣から聞こえ、さらに女の低い声がさらに低くなって言葉を紡いだ。 まるで怒りを抑えこんだような声だ。
「まぁ、お前みたいなごくつぶし。見たことないけどな」
嘲けるような表情をしてから、女の顔は無を興じる。その顔はどこかで見たあの顔だった。ずいぶんと髪は長くなってしまったけれど。
つまりあの戦を生き残った侍は、女の装いをして団子屋の娘としてのうのうと過ごして いるらしい。父の言う侍の欠片もない女…いや、男がいたことに驚愕と絶望に言葉一つ出てきやしない。光時の心中を独占する男は叫びながら逃走する二人を追いかけ刀を振り回している。
絶望が理不尽な怒りに変わった時、男、雪代は長い髪をかき上げて血塗れの刀から血を振り払った。そしてカランとその場に刀を落とす。
勢いよく走り回ったためか、乱れている髪を耳にかけながら、女同様の姿をした雪代は提灯を拾う。眠たそうにあくびをしながら己に背を向けて歩き出していく。 光時は刀を拾い上げて「おい」と声をあげた。「あん?」と雪代は応えてこちらを振り返る。その目は不機嫌そうに細められ、光時をにらみつけている。しかし、怒りを原動力に動く光時には関係がない。
「アンタ、雪代だろ?お雪さん」
「…団子屋の客かよ。まあいいや。死にたくねえならその刀下ろせ」
「いや、刀を持ってんのは俺だ。アンタには負けねえ」
「お前なんぞの刀じゃ死なねえよ」
嘲笑しながら提灯をその場に置いた。提灯の内側にあるろうそくの火がゆらゆらと辺りを照らす。まるでお互いの気持ちを表すかのようだ。足すら動かすことができない程の緊迫感が走る。静かな町中に、柳のこすれる音、赤色の世界、二人の視線がひたすらに重なり合っている。
そしてそれを裂いたのも雪代の乾いた笑い声だった。
「なんだってんだよ、俺は怒られるようなことをした覚えがないぜ」
「…なんで…」
「あ?」
光時は視界が歪むのを感じ、歯を食いしばる。しかし、そんなことは知らぬとばかりに頬に温い心地が流れる。
「なんでそんな格好してまで隠れてんだよ」
「…はあ?」
「侍なら堂々としてんだろ!?侍なら戦わなくちゃいけないんだろ…?なぁ…」
冷たい視線はまっすぐに光時を射抜く。それのせいか手からも力が抜け、刀の先が震えている。冷静な判断が命を左右するこの状況で、この心理ではいけないのは分かっている。だが高ぶる感情は行動に明らかになってしまう。
「勝手に侍にイメージを持つのは構わねえよ」
だが…、と小さい声に続いて雪代は動き出す。早い動きによって光時の利き手側に寄って蹴り上げられる。手首にぶい痛みが走り、いつのまにかこちらに刀が向けられて有利不利が逆転してしまった。
「それを人に押しつけんじゃねぇよ」
鋭い眼光が光時を貫き続けている。あぁ、俺はここで死ぬのだろうか。
あまりの絶望的過ぎる現状と冷めてきた感情に振り回された疲労感で、何も言えずに息を吐く。提灯の輝きが刀を色めき立たせている。己の早くなった鼓動音と呼吸音は静かな空気に反響している。特に二人しかいない街は闇夜の星に照らされていた。
「俺には俺の信念がある。そして、死ねねぇ理由もあんだよ。だから責められるいわれもねぇ」
その言葉にうつむき、ふと足元に流れている赤色が目に入る。俺もこの一部となるのだろうか。そう淡々と考えていると、その血の池に刀が落とされる。ボロボロの柄が赤色に染まっていくのが見える。
「俺が気に入らねぇっつうんならそれでもいい。だがな、俺のこともろくに知らねぇのにイチャモンつけられる節合はねぇ。俺は俺が好きなように生きてる。それでいい。俺もお前のことは知らねえからな」
その言葉がストンと胸に留まった。好きに生きる、父の言葉に支配されて生きてきた己とは程遠い言葉だった。
「客だろうがなんだろうが構わねえ。会いたくねぇなら二度とうちの団子屋に来なきゃいい。あと、一つ言わせてもらうが、このことは他言無用だ。まあ、言ったって無駄だろうがな。そういう噂が少しでも拡がってたら、覚悟しとけよ」
草履の砂を踏む音が離れていき、そう続けるように「じゃあな」と聞こえた。 血を吸った刀、倒れこむ一人の男、呆然と立ちすくむ光時。まるで己が男を殺したような状況。
くっと喉を鳴らして刀を拾い上げて、今までのことを忘れるかのように帰路へとついた。雪代という男の言い様、父の言葉。いくつもの言葉が頭をクルクルと回っている。きちんと考えろといわれているかのようで、ため息をついて空を見上げた。
その翌日も、団子屋は大盛況の一言であった。娘は楽しげに笑いながら接客業を続けている。時節、旦那と声をあげて糸目の優しげな男を呼びかけては、忙しなく行き続けている。
青色に白の菊が輝く着物に見蕩れている者も少なくないなか、ふと常連の一人にお雪ちゃんと声を掛けられた。
「はぁい」
「あの子が君に逢いたいってよぉ、お雪ちゃんも隅に置けないねぇ。そろそろ嫁入りかい?」
「何言ってんですか、松田の旦那。私には旦那がいるから、そういうのは無いの」
「そうかいそうかい」
はっはっはと豪快な笑い声につられて軽く笑ったお雪は、先程松田が指さした方面を眺めて思わず固まった。先日勝手に怒り狂い、己に刀を向けてきた男が立っていた。その腰には何も携えていないとはいえ、口の端が震える。
あれだけ騒いでいたくせに何をしに来たのだろう。顔を解してニッコリと笑いかける。
「あらお兄さん、お団子でもご所望ですか?」
「あの…」
余計なことを言いやがったら殺すという気持ちを込めてさらに笑いかけると、男は視線を迷わせた末に、砂をまき散らせて目前から消えた。
余りの状況に、お雪は思わず無表情に変わり、下を見降ろす。他の客も顔を引きつらせて固まっている。唯一、旦那の「なんだぁ?」という気の抜けた声だけが音を奏でる。
踏みつけてやろうか迷いながら、頭を土にこすりつける…いわゆる土下座をしている男をじっと見つめた。
「俺を…」
「俺を?」
「弟子にしてください!!」
「は?」
その静寂に、逆の驚きに満ちた声が広がるのも、その後数秒もしないうちのことである。
侍について、己に厳しく学ばせた我が父も、彼らと同じ戦に出た末に首だけとなって故郷へと帰ってきた。
”侍の息子なら侍であれ。侍ならば涙など見せるな。侍であれば姿を隠さず堂々としていろ。侍ならば戦え……侍ならば他に命を奪われるな。自身で自身を殺すのだ。”そう竹刀片手に言い放った父の最期はどうだっただろうか。静かな顔で飾られた父からは何も分からない。だが、死を恐れずに戦えたのかだけでも知りたかった。
しかし死人に口なし。父は何も語らない。気がつけばそれは腐り、父ではなくなった状態で撤去された。一体どこへと消えてしまったかは、今更知るよしも無いことである。
だが、そんな父の言葉を忘れぬために己は侍となった。泣かず、そして敵には刀を振るう。きっとそれなりには強くなれた気がする。こんなものが侍であるのか、武士であるのかという疑問は見ないフリをした。だって、これが父のいいつけであるから。物分りの悪い自分に竹刀を振り上げるほど大切なことであるはずだから。
もしこれが間違いだと言うのならば、あの痛みに意味がなかったということである。それだけは嫌だった。耐えたあの時間の意味を消したくなかったのだ。
――例えそれが、弱虫と罵られるようなことであったとしても。
暖かな春から季節が変わろうとしている。桜は花弁を散らして、新たに緑を携えている。周りを歩む人々は楽しげに会話を繰り広げながら光時の横を通り過ぎていった。それと打って変わって、光時は無表情であった。
十五という幼い顔でありながら、腰には刀を携えている。鞘は緑で艶濃く美しくはあれど、手持ち部分は随分と使い込まれたのかボロボロになっている。髷を結っているためか少しばかり貫禄さえある。だがそのまわりには人っ子一人おらず、むしろ避けられているほどだ。
敗戦した藩は、負けた相手に服従して守ってもらうことも多い。そのため、この場に侍は存在する必要は無いということだ。むしろ、侍を全面的に出せば、戦に出陣したのかもしれないと恐れられることの方が多い。つまり、この反応が普通であるということだ。
別に光時も気にしてはいなかった。 三枚の指名手配書を見るまでは。
色褪せたそれは見たことの無いほど、まっすぐ前を見つめた三人の絵が描かれている。1人は驚く程無表情で、もう一人は満面の笑みをうかべているし、もう一人は仏頂面である。
雪代と書かれた無表情の男を中心に、結羽という笑顔の男と仏頂面をしている七兵郎を率いて前線を駆け抜けた我が藩にとっては英雄な彼ら。しかし、侍の末路はこれなのだろうと察してしまう。一度の敗北で仲間は敵となり、死が常に隣り合わせとなる。
それにしても彼らはどこに行ってしまったのだろう。自分の知っている侍ならば見つかってきてもおかしくないはずだ。だがそんな話は聞いたことがない。こんな何小さな街では、噂が広がらないはずがないというのに…。
もしかしたら、侍は俺が思っているよりも全然。
そう考えそうになり、頬を叩く。思っていたよりも目立たないだけかもしれない。きっとそうだ。
眉間にシワがよったのを指でほぐしながらそれらに背を向ける。現実に背を向ける…否、逃げ出すかのような自分の行動に、思わず拳が固くなる。違う、俺は逃げてるんじゃない。ただ、出ない答えに飽きただけなのだ。
「おにーさん、ちょっとおいでなさいな。旦那のお団子美味しいよ」
女にしては少し低めの声が横から聞こえる。右腕には掴まれている感覚がある。こちらに近づいてくるのすら珍しいのに、話しかけて触ってくるなんて…驚きに固まりながら右側に視線を向ける。そこには、腰まで伸びた髪を下ろした女がにっこりと笑っていた。橙色の着物が良く似合う良い女だった。
背の高さがなければだが。
寺子屋の中でもそれなりに高い光時と同じ程度の高さだ。ちらりと足元を覗いて見ても吐き振るされた草履が女の足におさまっているだけだ。つまりこの女、本人の背の高さだけで男の己と同等の背になっているということだ。
さすがと言うべきか、あまりのことに畏怖すべきか…迷っている間に、建物の前の赤い席に座らされた。中は人が多いらしく、がやがやと楽しげな声が響いている。その中には”お雪ちゃん”という名が多く呼ばれ、目の前の女はそれに返事をしていたため、おそらく彼女がお雪なのであろう。
「ちょいとお待ちよ。お兄さん、お品書きはこれね。ちなみに私のオススメはみたらし団子よ。決まったら呼んでなぁ」
そう言って女は店に入っていった。忙しそうに働き、客に笑いかける女に見蕩れつつお品書きに目を通す。
ぜんざいや汁粉などの甘いものばかりである。ここは甘味屋なのか、そう一人納得する。おなごが客寄せをしている理由も、団子がオススメと言われることも。
特に目を惹かれるような…というよりも、食欲がそそられるものは無く、とりあえずみたらしで良いかと中を覗く。なかなかの大盛況なのか、娘は早歩きを繰り返して歩き回っている。
呼びかけようか迷いながら空を見上げる。鮮やかな青空と透き通るような雲、優しく静かに頬を撫でていく風が心地よい。あまり日常生活では感じようとはしないこの感覚に、光時は目を細めてただ馴染んでいた。仄かな甘みのある匂いも自身の一体になった気もしてくる。
こんなに穏やかな時間はいつぶりだろうか。父がいた頃は稽古三昧に泣き寝入りし、最近は己の格好にこじつけて刀を振るってくるものばかり。この暖かでゆっくりとした時間に、ふと亡き母の姿が浮かぶ。青白い顔で微笑み、優しく背を撫でてくれた…顔には所々痣のようなものはあったけれど、美しく優しい母だった。
十年以上前のことでも、まるで昨日のことのように思い出された。鈴のような声で紡がれる昔話はどれも鮮明だった。山での話も海での話も…どれもこれも想像が容易かった。
そよ風が母の声のように聞こえて目を開けると、不思議そうな顔のお雪と呼ばれた女が立っていた。女はしゃがんで下から覗いていたようで、笑いながら立ち上がった。やはり背が高くて顔を上げると首が痛いほどだ。
「なんだい?そんなに油断しきった顔しちゃだめじゃないか。お侍さんだろ?で、注文は?」
「み、みたらし団子で…」
「分かった、ちょいとお待ちくださいね」
油断しきった顔、と聞いて思わず体が固くなる。そんなに緩みきった表情していただろうか。そよ風に吹かれて平和に委ねていたのは確かだが、そこまで緊張は解いていないはずである。
女が離れていくのを見つめながら、眉間に力が入るのを感じる。先程解したばかりだが、さすがに機嫌を損ねればすぐに戻ってしまう。そもそも油断しているなんてこと、町娘なんぞにわかってたまるかと思う。
空は軽快な雰囲気から一変して馬鹿にしているような雰囲気に思えてしまう。今すぐにでもこの下ろしていた腰を引き上げて、この店から立ち去りたいところだが、注文した手前に金を払わずに出るのはあまりに非情である。少なくとも自分にそんなことをする勇気はなかった。否、侍としてそんなことをする訳には行かなかったのだ。
この怒りを鎮めようと一度息を吐くも、苛立ちが消えること無く足に出てしまう。まだ数刻とも経っていないのにまだ来ないのかと新たな苛立ちも生まれる。
このまま負の連鎖が繋がる前に来て欲しいと考える中、隣に皿が置かれる。4つ綴りの団子が2本あり、醤油の香ばしい香りが鼻をくすぐる。
口の中に唾液が溢れ、その串を掴む。女は笑顔で己が団子を口に運ぶ様を眺めていた。その視線に気まずさを覚えながら一個を口に含める。
甘味屋らしい砂糖の甘さは無いが、醤油の中に仄かな別の甘みがある。さらに団子もモチモチとした食感ながらに食べ応えのある素晴らしいものであった。
美味いと小さく呟くと、目の前から楽しげな女の声が聞こえた。「でしょう?」と勝ち気に笑う女に、そのまま肯定する気にもなれずにひとつ頷いてから次の団子にかぶりつく。素朴な味にまたもや声が漏れそうになるのを押さえ込み、1本の団子を食べきった。
確かにこれは人が集まるのも無理は無い。女から目を逸らすために中を覗き、ワイワイとした雰囲気に少しばかり羨ましく思う。だが己にはあそこに入る勇気はなかった。
もう一本の団子をつかみ、女に代金を払って立ち上がる。暖かな陽気の中で歩きながら食べたいと思ってしまったのだから仕方ない。川沿いを歩く光時の背後から、女の「またおいでよ」という掛け声が響く。
光時はそれを無視して空を見上げることにした。あの暖かな青空の向こうに母の面影を写しながら。
それから3日という日が流れ、街の闇に包まれて光時は歩みを進めていた。黄昏時と呼ばれるその時は、妖に乗じて悪人もよく事を起こす時刻だ。そのために人が歩いているのは酷く珍しいことである。侍の己を含めてもだ。特に行き先も決めずに歩き回った末、見たことも無い場所へと着いてしまったのだ。帰路へ着いたのは陽が傾ききった頃だった。
久々にこんな時間まで外にいたものだと息を吐く。何度追い払ったとて厄介な人種は1人では無い。数日前によったばかりの団子屋の近く、つまり町中であってもそれは変わらない。
「おい、兄ちゃん。侍の真似事なんてして何してんだい?」
ほぅら、こんなふうに。
背後からの声に応えるように、光時は振り返って刀に手を構えた。その先には男が三人、ニヤニヤと笑いながら刀に手を掛けている。こういうヤツらだって何度も対峙してきた。そして血に伏せてきた。
相手よりも早く行動に移すのが必勝法である。柄に力を込めて引き抜き、おおきく振りあげる。しかしそれをものともしないというふうに受け止められた。少し驚きはしたが、己の刀を止めたのは何もこいつだけでは無い。気を引き締め直し、1度後ろへと下がる。刀を抜いているのは先頭の男一人だ。後ろの二人は邪魔をしないようにか、離れた所へ避難していた。
さっきまで構えていたのはなんだったのか…恐らくただの取り巻きなのだろう。一対一の戦いになり、内心ほっとしながら再び刀を振りかぶる。
縦、横、横。思った通りの剣筋が作れるほどに調子が良いはずだが、男はそれを軽々といなしていく。それに焦るなという方が無理な話である。
焦りが勝り、剣筋も大雑把になっていくのを自分で感じた。己はここまで全力でやっているというのに、相手はまるで疲れを感じさせずに刀を振るっている。一際大声を出して刀を振り下ろすが、それも相手にとっては想定内の事だったらしい。簡単にはじき出されたそれは、美しい弧を画いて背後の離れた位置に落ちた。
キィンと高い音が鳴る。
そのたった一音で己の死を悟る。それと同時に、その男の目に恐怖した。自分の目的のためなら死をも厭わないと言っている瞳だ。そしてやっと理解した、否、理解してしまった。光時が相手にしてきた待は、雑魚どうぜんであったということを。戦いはしたいが死にたくも殺したくもない。その程度の覚悟であった。それで強くなったというのは思い上がりに過ぎない。
「この程度か。まぁ、戦に出ていた俺と渡り合えるなら十分か」
男は嘲笑を浮かべて力を振り上げる。逃げろと警報が鳴るが体が動かない。
「へえ、そうなんだあ」
突然砂を踏む音が響く。男は刀を降ろしてそちらを凝視している。顔を少しだけ横に向けて視線を後ろに流す。そこには艶やかな黒髪の女が、提灯片手に歩み寄ってきた。人がきられかけているというのに、この女は悲鳴どころか反応でさえろくなものではない。一体なんだこの女。
「じゃあ、見せてもらおうか、その実力」
提灯を下に置き、ゆったりとした動作で光時の刀を拾う。その一瞬、女の顔 が照らされた。血肉に飢えた犬のような瞳が、ギラギラと獲物を見定めていた。
その時ふと、この声に聞き覚えがあることに気がついた。女にしては低めの声。
現状に見合わない名を呼ぼうとして、女を見つめて口を開きかける。しかし”お”と喉が鳴った途端に風が巻き起こり、自身には生温い雨が降る。しかし、雨にしては妙に鉄の臭いがする。
重たい音が隣から聞こえ、さらに女の低い声がさらに低くなって言葉を紡いだ。 まるで怒りを抑えこんだような声だ。
「まぁ、お前みたいなごくつぶし。見たことないけどな」
嘲けるような表情をしてから、女の顔は無を興じる。その顔はどこかで見たあの顔だった。ずいぶんと髪は長くなってしまったけれど。
つまりあの戦を生き残った侍は、女の装いをして団子屋の娘としてのうのうと過ごして いるらしい。父の言う侍の欠片もない女…いや、男がいたことに驚愕と絶望に言葉一つ出てきやしない。光時の心中を独占する男は叫びながら逃走する二人を追いかけ刀を振り回している。
絶望が理不尽な怒りに変わった時、男、雪代は長い髪をかき上げて血塗れの刀から血を振り払った。そしてカランとその場に刀を落とす。
勢いよく走り回ったためか、乱れている髪を耳にかけながら、女同様の姿をした雪代は提灯を拾う。眠たそうにあくびをしながら己に背を向けて歩き出していく。 光時は刀を拾い上げて「おい」と声をあげた。「あん?」と雪代は応えてこちらを振り返る。その目は不機嫌そうに細められ、光時をにらみつけている。しかし、怒りを原動力に動く光時には関係がない。
「アンタ、雪代だろ?お雪さん」
「…団子屋の客かよ。まあいいや。死にたくねえならその刀下ろせ」
「いや、刀を持ってんのは俺だ。アンタには負けねえ」
「お前なんぞの刀じゃ死なねえよ」
嘲笑しながら提灯をその場に置いた。提灯の内側にあるろうそくの火がゆらゆらと辺りを照らす。まるでお互いの気持ちを表すかのようだ。足すら動かすことができない程の緊迫感が走る。静かな町中に、柳のこすれる音、赤色の世界、二人の視線がひたすらに重なり合っている。
そしてそれを裂いたのも雪代の乾いた笑い声だった。
「なんだってんだよ、俺は怒られるようなことをした覚えがないぜ」
「…なんで…」
「あ?」
光時は視界が歪むのを感じ、歯を食いしばる。しかし、そんなことは知らぬとばかりに頬に温い心地が流れる。
「なんでそんな格好してまで隠れてんだよ」
「…はあ?」
「侍なら堂々としてんだろ!?侍なら戦わなくちゃいけないんだろ…?なぁ…」
冷たい視線はまっすぐに光時を射抜く。それのせいか手からも力が抜け、刀の先が震えている。冷静な判断が命を左右するこの状況で、この心理ではいけないのは分かっている。だが高ぶる感情は行動に明らかになってしまう。
「勝手に侍にイメージを持つのは構わねえよ」
だが…、と小さい声に続いて雪代は動き出す。早い動きによって光時の利き手側に寄って蹴り上げられる。手首にぶい痛みが走り、いつのまにかこちらに刀が向けられて有利不利が逆転してしまった。
「それを人に押しつけんじゃねぇよ」
鋭い眼光が光時を貫き続けている。あぁ、俺はここで死ぬのだろうか。
あまりの絶望的過ぎる現状と冷めてきた感情に振り回された疲労感で、何も言えずに息を吐く。提灯の輝きが刀を色めき立たせている。己の早くなった鼓動音と呼吸音は静かな空気に反響している。特に二人しかいない街は闇夜の星に照らされていた。
「俺には俺の信念がある。そして、死ねねぇ理由もあんだよ。だから責められるいわれもねぇ」
その言葉にうつむき、ふと足元に流れている赤色が目に入る。俺もこの一部となるのだろうか。そう淡々と考えていると、その血の池に刀が落とされる。ボロボロの柄が赤色に染まっていくのが見える。
「俺が気に入らねぇっつうんならそれでもいい。だがな、俺のこともろくに知らねぇのにイチャモンつけられる節合はねぇ。俺は俺が好きなように生きてる。それでいい。俺もお前のことは知らねえからな」
その言葉がストンと胸に留まった。好きに生きる、父の言葉に支配されて生きてきた己とは程遠い言葉だった。
「客だろうがなんだろうが構わねえ。会いたくねぇなら二度とうちの団子屋に来なきゃいい。あと、一つ言わせてもらうが、このことは他言無用だ。まあ、言ったって無駄だろうがな。そういう噂が少しでも拡がってたら、覚悟しとけよ」
草履の砂を踏む音が離れていき、そう続けるように「じゃあな」と聞こえた。 血を吸った刀、倒れこむ一人の男、呆然と立ちすくむ光時。まるで己が男を殺したような状況。
くっと喉を鳴らして刀を拾い上げて、今までのことを忘れるかのように帰路へとついた。雪代という男の言い様、父の言葉。いくつもの言葉が頭をクルクルと回っている。きちんと考えろといわれているかのようで、ため息をついて空を見上げた。
その翌日も、団子屋は大盛況の一言であった。娘は楽しげに笑いながら接客業を続けている。時節、旦那と声をあげて糸目の優しげな男を呼びかけては、忙しなく行き続けている。
青色に白の菊が輝く着物に見蕩れている者も少なくないなか、ふと常連の一人にお雪ちゃんと声を掛けられた。
「はぁい」
「あの子が君に逢いたいってよぉ、お雪ちゃんも隅に置けないねぇ。そろそろ嫁入りかい?」
「何言ってんですか、松田の旦那。私には旦那がいるから、そういうのは無いの」
「そうかいそうかい」
はっはっはと豪快な笑い声につられて軽く笑ったお雪は、先程松田が指さした方面を眺めて思わず固まった。先日勝手に怒り狂い、己に刀を向けてきた男が立っていた。その腰には何も携えていないとはいえ、口の端が震える。
あれだけ騒いでいたくせに何をしに来たのだろう。顔を解してニッコリと笑いかける。
「あらお兄さん、お団子でもご所望ですか?」
「あの…」
余計なことを言いやがったら殺すという気持ちを込めてさらに笑いかけると、男は視線を迷わせた末に、砂をまき散らせて目前から消えた。
余りの状況に、お雪は思わず無表情に変わり、下を見降ろす。他の客も顔を引きつらせて固まっている。唯一、旦那の「なんだぁ?」という気の抜けた声だけが音を奏でる。
踏みつけてやろうか迷いながら、頭を土にこすりつける…いわゆる土下座をしている男をじっと見つめた。
「俺を…」
「俺を?」
「弟子にしてください!!」
「は?」
その静寂に、逆の驚きに満ちた声が広がるのも、その後数秒もしないうちのことである。
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