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第1話 夢見る都市の朝
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チリリ、と軽快な音が鼓膜を震わせた。それは機械的なアラームではなく、どこか遠い森で囀る小鳥の声にも似て、澄んだ響きをしていた。昨夜見た夢の、心地よい余韻が形を変えて残ったもの――リアル・ファンタズムによる、ささやかな朝の贈り物だ。
カイリはゆっくりと瞼を開いた。意識が覚醒するにつれて、鳥の声は淡い光の粒子となり、朝日が差し込む部屋の空気へと溶けていく。
部屋の中は、柔らかな朝の光で満たされていた。壁には、彼女が夢の中で見た風景をスケッチしたものが何枚も飾られている。色とりどりの花が咲き乱れる空中庭園、現実ではありえない幾何学模様を描く雲、不思議な生物のシルエット。それらはカイリの記録であり、この都市ミスティリアでの日常の一部だった。
窓の外に広がるのは、まさに夢と現実が織りなす光景だ。ガラスと金属で構成された流線形の超高層ビル群が、天に向かって伸びている。しかし、その無機質な線と隣り合うように、古代魔法の力で宙に浮かぶ緑豊かな庭園が点在し、朝日にその葉をきらめかせている。テクノロジーと魔法が、ここでは奇妙な調和を保ちながら共存しているのだ。
「んっ……もう朝か」
小さく呟き、カイリはしなやかな動きでベッドから起き上がった。床に足をつけると、ひんやりとした感触が伝わる。大きく伸びをしてから、クローゼットへと向かった。
彼女が選んだのは、動きやすさを重視したダークトーンのパンツと、体にフィットするシンプルな白いトップス。ミスティリアの街を歩き回るには、機能性が何よりも重要だ。着替えを終え、鏡の前に立つと、肩までの長さのウェーブがかかった黒髪を、手早くシンプルなヘアピンでサイドに留めた。光の加減で深い青にも透明な水色にも見える不思議な色の瞳が、鏡の中の自分を見つめ返す。
ふと、ドレッサーの上に置かれた小さなアクセサリーケースに目が留まった。中には、彼女が夢の中で出会った光る蝶を模して手作りしたペンダントが入っている。繊細な金属細工に、魔法的な処理を施した小さな発光石が埋め込まれており、時折、微かな光を明滅させていた。カイリはそれを手に取り、そっと首にかけた。ひんやりとした金属の感触と、微かな光の温もりが心地よい。
キッチンへと向かうと、カイリは壁の一部に埋め込まれた滑らかなパネルに触れた。
「おはよう、システム。今日の朝食をお願い。栄養バランス重視で、軽めのメニューがいいな」
『おはようございます、カイリ。リクエストを承りました。最適なメニューを生成します』
合成音声が応えると同時に、空中に淡い光の粒子が集まり、ホログラフィック・インターフェースが起動する。今日の推奨メニュー、栄養成分、そして調理に必要な培養食材の残量などが立体的に表示された。
隣では、古代エテルナ文字が刻まれた銀色のコーヒーメーカーが、魔法の力で静かに湯気を立てている。培養ポッドから取り出したばかりの、鮮やかな色をした果物を洗いながら、カイリはコーヒーの香ばしい匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。テクノロジーが生み出す利便性と、魔法がもたらす豊かさ。それがミスティリアの日常だった。
生成されたメニューに従い、手早く朝食の準備を終えると、カイリは窓際の小さなテーブルについた。新鮮な野菜のサラダと、栄養調整されたシリアルバー、そして魔法の力で淹れられた香り高いコーヒー。
朝食を取りながら、手元の情報端末で今日のニュースをチェックする。ヘッドラインには、『昨夜、テクノロジー区で軽微なリアル・ファンタズムの誤作動が発生。一時的に交通システムに影響が出るも、すぐに復旧』といった見出しが並んでいた。人々が夢のイメージを現実世界に具現化するリアル・ファンタズムは、この都市の基盤であり、時折こうした小さなトラブルを引き起こす。しかし、ミスティリアの住人たちは既に慣れたもの。ニュースの扱いも小さく、特に気にする様子は見られない。それが日常なのだ。
カイリはコーヒーカップを置き、窓の外の景色に目をやった。高層ビルのガラス壁が、朝日に反射して眩しく輝いている。その時だった。
ビルの谷間を縫うように、現実のものとは思えないほど鮮やかな、七色の虹が凝縮されたような光の筋が一瞬だけ走り抜けたのだ。自然現象ではありえない、強烈な色彩と軌跡を描いていた。
「えっ……?」
思わず目を凝らすが、光は蜃気楼のようにすぐに掻き消え、後にはいつもの都市の風景が残るだけだった。瞬きをして、もう一度同じ場所を見るが、何も変わった様子はない。
「……気のせい、だったのかな」
カイリは小さく呟き、肩をすくめた。最近、少し夢見がちなのかもしれない。そう思い直し、残りのコーヒーをゆっくりと味わった。窓の外では、相変わらず未来的な乗り物が音もなく飛び交い、空中庭園の植物が風に揺れている。
ミスティリアの、いつもと変わらない、穏やかな朝が始まろうとしていた。
カイリはゆっくりと瞼を開いた。意識が覚醒するにつれて、鳥の声は淡い光の粒子となり、朝日が差し込む部屋の空気へと溶けていく。
部屋の中は、柔らかな朝の光で満たされていた。壁には、彼女が夢の中で見た風景をスケッチしたものが何枚も飾られている。色とりどりの花が咲き乱れる空中庭園、現実ではありえない幾何学模様を描く雲、不思議な生物のシルエット。それらはカイリの記録であり、この都市ミスティリアでの日常の一部だった。
窓の外に広がるのは、まさに夢と現実が織りなす光景だ。ガラスと金属で構成された流線形の超高層ビル群が、天に向かって伸びている。しかし、その無機質な線と隣り合うように、古代魔法の力で宙に浮かぶ緑豊かな庭園が点在し、朝日にその葉をきらめかせている。テクノロジーと魔法が、ここでは奇妙な調和を保ちながら共存しているのだ。
「んっ……もう朝か」
小さく呟き、カイリはしなやかな動きでベッドから起き上がった。床に足をつけると、ひんやりとした感触が伝わる。大きく伸びをしてから、クローゼットへと向かった。
彼女が選んだのは、動きやすさを重視したダークトーンのパンツと、体にフィットするシンプルな白いトップス。ミスティリアの街を歩き回るには、機能性が何よりも重要だ。着替えを終え、鏡の前に立つと、肩までの長さのウェーブがかかった黒髪を、手早くシンプルなヘアピンでサイドに留めた。光の加減で深い青にも透明な水色にも見える不思議な色の瞳が、鏡の中の自分を見つめ返す。
ふと、ドレッサーの上に置かれた小さなアクセサリーケースに目が留まった。中には、彼女が夢の中で出会った光る蝶を模して手作りしたペンダントが入っている。繊細な金属細工に、魔法的な処理を施した小さな発光石が埋め込まれており、時折、微かな光を明滅させていた。カイリはそれを手に取り、そっと首にかけた。ひんやりとした金属の感触と、微かな光の温もりが心地よい。
キッチンへと向かうと、カイリは壁の一部に埋め込まれた滑らかなパネルに触れた。
「おはよう、システム。今日の朝食をお願い。栄養バランス重視で、軽めのメニューがいいな」
『おはようございます、カイリ。リクエストを承りました。最適なメニューを生成します』
合成音声が応えると同時に、空中に淡い光の粒子が集まり、ホログラフィック・インターフェースが起動する。今日の推奨メニュー、栄養成分、そして調理に必要な培養食材の残量などが立体的に表示された。
隣では、古代エテルナ文字が刻まれた銀色のコーヒーメーカーが、魔法の力で静かに湯気を立てている。培養ポッドから取り出したばかりの、鮮やかな色をした果物を洗いながら、カイリはコーヒーの香ばしい匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。テクノロジーが生み出す利便性と、魔法がもたらす豊かさ。それがミスティリアの日常だった。
生成されたメニューに従い、手早く朝食の準備を終えると、カイリは窓際の小さなテーブルについた。新鮮な野菜のサラダと、栄養調整されたシリアルバー、そして魔法の力で淹れられた香り高いコーヒー。
朝食を取りながら、手元の情報端末で今日のニュースをチェックする。ヘッドラインには、『昨夜、テクノロジー区で軽微なリアル・ファンタズムの誤作動が発生。一時的に交通システムに影響が出るも、すぐに復旧』といった見出しが並んでいた。人々が夢のイメージを現実世界に具現化するリアル・ファンタズムは、この都市の基盤であり、時折こうした小さなトラブルを引き起こす。しかし、ミスティリアの住人たちは既に慣れたもの。ニュースの扱いも小さく、特に気にする様子は見られない。それが日常なのだ。
カイリはコーヒーカップを置き、窓の外の景色に目をやった。高層ビルのガラス壁が、朝日に反射して眩しく輝いている。その時だった。
ビルの谷間を縫うように、現実のものとは思えないほど鮮やかな、七色の虹が凝縮されたような光の筋が一瞬だけ走り抜けたのだ。自然現象ではありえない、強烈な色彩と軌跡を描いていた。
「えっ……?」
思わず目を凝らすが、光は蜃気楼のようにすぐに掻き消え、後にはいつもの都市の風景が残るだけだった。瞬きをして、もう一度同じ場所を見るが、何も変わった様子はない。
「……気のせい、だったのかな」
カイリは小さく呟き、肩をすくめた。最近、少し夢見がちなのかもしれない。そう思い直し、残りのコーヒーをゆっくりと味わった。窓の外では、相変わらず未来的な乗り物が音もなく飛び交い、空中庭園の植物が風に揺れている。
ミスティリアの、いつもと変わらない、穏やかな朝が始まろうとしていた。
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