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プロローグ
出会い
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高校生になって一年が経ち、佐々木康二は高校2年生の初日を迎えていた。
康二の通っている高校である翔台高校は自分の住んでいる場所からは少しばかり離れていて、中学が同じだった人たちはあまりいない。別に中学生の頃にいじめられていたわけではなかった。では、なぜ康二が翔台高校を選んだかというと、一度自分を包んでいる環境を変えるためであった。そうすれば、自分の中の何かが変わり、変わり映えしないこの人生を変えられると思ったのだ。
だが、実際はそう上手く行くわけではなかった。一年生の初めの方は期待していたが、11月ごろになっても中学の頃と殆ど同じような生活を送っていることに安心と呆れを感じていた。次第に自分は平凡な学生生活を過ごすのが1番にあっているのか、と勝手に納得するようになっていっていた。
「よぉ!康二!おんなじクラスだったのか!この一年もよろしくな!」と、新たな教室に変わらない顔をした正木雅史が席に座ると挨拶してきた。
「マサは相変わらず元気だな。春休みの間に何かいいことでもあったのか?」
「実はな…春休みの間、琵琶湖一周打電の旅してたんだけどよ、そこで美人の姉ちゃんと知り合って半日旅を一緒にしたんだよ!」
「…琵琶湖一周打電の旅?」
マサのまさかの発言に康二は質問する。
「え、普通にモールス信号打ちながら琵琶湖一周するだけのことだぜ?ってそんなことは置いておいて、そこで知り合った姉ちゃんとメアドを交換することができたんだよ!」
…たしかにそうだった。マサは古い男だった。カインだとかイロスタだとかが台頭してる今でもまだメアドと絵日記交換を続ける、今どきとも高校生とも思えない男であったのだ。そんなマサが相変わらずに打電していることに何か嬉しさを感じていた。
「でさ、そのねぇちゃんとー」
マサが話しているのにも関わらず、康二は教室に入ってきたとある少女に目を奪われていた。別に変なことをしているわけでもないし、可愛さに見惚れただけでもなかった。何か、惹かれ合うものがあるのように感じたのだ。
「…さーん、席についてくださーい」
先生のこの言葉でようやく康二は目を醒ました。こんなに初めて見た女性を凝視することなんてなかった康二は、こんな自分自身に驚いていた。恋だとかそういう男女の青春云々をしたことがなく、もしかしてこれが一目惚れなのか、と何か違う自分にワクワクしていた。
「新学期なので、今日のホームルーはみなさんの自己紹介の時間にしましょうか。」
ご定番の自己紹介タイムが来た、といつもの康二なら淡々と流れる時間を見ていただろう。だが、今回は違う。あの少女の名前はなんというんだろう、とワクワクしながら少女の番を待っていた。
康二もマサも自己紹介を終え、まだかまだかと待ちわびているとその時はやってきた。
「嶺淵希です。一年間お願いします。」
彼女はそう言って簡単に自己紹介を済ませて座った。最初見た時、見入りすぎてしまいはっきりとどんな人かというのは頭に入ってなかったので、真の意味でのファーストコンタクトはこれであった。
彼女の容姿は少し髪が短く、スタイルも良く、顔も整っている。だが、明るいとは真反対の、他を寄り付かせない、相反する性質を持ちあった少しミステリアスな少女であった。いつもの康二ならここで止まって話しかけず終わるのだろうが、今日の康二は何か違った。話しかけたくてたまらない、気になってたまらないという気持ちが先行し過ぎて、放課後を待ちきれなかったのだ。
学年はじめの諸々が終わり、ようやく康二が話しかけるチャンスが生まれた。
「康二ー、昼で終わったから昼飯食べに行こうぜ」
「マサごめん、家にご飯あるから今日は遠慮する。また今度の機会にでも行こうか。」
「そっか、なら他のやつに当たるかぁ。じゃあな」
少しマサは不思議そうな顔をしていた。いつもの康二なら誘いを断らないからだ。康二は昼飯が作られているということは無く、いつも自分で作っているのだ。それのお陰で料理のスキルが上がっており、何度かマサには振る舞ったこともある。だが、康二は料理が好きだというわけでも無く、作らずに済む外食を誘われたらいつも行くのだ。
不思議そうな顔をしているマサに勘繰られたくないと思った康二は、どうにかして希に隠れて話しかけようと思っていた。兎にも角にもその希がいる必要があるので教室を見渡した。だが、もう教室にはいなかった。まだホームルームが終わって2分も満たない間である。いくらなんでも早過ぎないか、と思いながら、康二はマサにじゃあな、ということを忘れて急いで教室から出ていった。
翔台高校の近くには1つの駅しかなく、自転車登校の生徒は少ないし、バスもない。そして、学校から駅までの道は2つしかない。商店街か、一般道かのどちらかである。康二は一般道であると信じてその道をかけ走った。
少し走っていると、康二は前に1人歩く少女を見つけた。一歩ずつしっかりと道を歩む少女を見つけたのだ。
「嶺淵さん!」
康二はようやく声をかけることができた。
康二の通っている高校である翔台高校は自分の住んでいる場所からは少しばかり離れていて、中学が同じだった人たちはあまりいない。別に中学生の頃にいじめられていたわけではなかった。では、なぜ康二が翔台高校を選んだかというと、一度自分を包んでいる環境を変えるためであった。そうすれば、自分の中の何かが変わり、変わり映えしないこの人生を変えられると思ったのだ。
だが、実際はそう上手く行くわけではなかった。一年生の初めの方は期待していたが、11月ごろになっても中学の頃と殆ど同じような生活を送っていることに安心と呆れを感じていた。次第に自分は平凡な学生生活を過ごすのが1番にあっているのか、と勝手に納得するようになっていっていた。
「よぉ!康二!おんなじクラスだったのか!この一年もよろしくな!」と、新たな教室に変わらない顔をした正木雅史が席に座ると挨拶してきた。
「マサは相変わらず元気だな。春休みの間に何かいいことでもあったのか?」
「実はな…春休みの間、琵琶湖一周打電の旅してたんだけどよ、そこで美人の姉ちゃんと知り合って半日旅を一緒にしたんだよ!」
「…琵琶湖一周打電の旅?」
マサのまさかの発言に康二は質問する。
「え、普通にモールス信号打ちながら琵琶湖一周するだけのことだぜ?ってそんなことは置いておいて、そこで知り合った姉ちゃんとメアドを交換することができたんだよ!」
…たしかにそうだった。マサは古い男だった。カインだとかイロスタだとかが台頭してる今でもまだメアドと絵日記交換を続ける、今どきとも高校生とも思えない男であったのだ。そんなマサが相変わらずに打電していることに何か嬉しさを感じていた。
「でさ、そのねぇちゃんとー」
マサが話しているのにも関わらず、康二は教室に入ってきたとある少女に目を奪われていた。別に変なことをしているわけでもないし、可愛さに見惚れただけでもなかった。何か、惹かれ合うものがあるのように感じたのだ。
「…さーん、席についてくださーい」
先生のこの言葉でようやく康二は目を醒ました。こんなに初めて見た女性を凝視することなんてなかった康二は、こんな自分自身に驚いていた。恋だとかそういう男女の青春云々をしたことがなく、もしかしてこれが一目惚れなのか、と何か違う自分にワクワクしていた。
「新学期なので、今日のホームルーはみなさんの自己紹介の時間にしましょうか。」
ご定番の自己紹介タイムが来た、といつもの康二なら淡々と流れる時間を見ていただろう。だが、今回は違う。あの少女の名前はなんというんだろう、とワクワクしながら少女の番を待っていた。
康二もマサも自己紹介を終え、まだかまだかと待ちわびているとその時はやってきた。
「嶺淵希です。一年間お願いします。」
彼女はそう言って簡単に自己紹介を済ませて座った。最初見た時、見入りすぎてしまいはっきりとどんな人かというのは頭に入ってなかったので、真の意味でのファーストコンタクトはこれであった。
彼女の容姿は少し髪が短く、スタイルも良く、顔も整っている。だが、明るいとは真反対の、他を寄り付かせない、相反する性質を持ちあった少しミステリアスな少女であった。いつもの康二ならここで止まって話しかけず終わるのだろうが、今日の康二は何か違った。話しかけたくてたまらない、気になってたまらないという気持ちが先行し過ぎて、放課後を待ちきれなかったのだ。
学年はじめの諸々が終わり、ようやく康二が話しかけるチャンスが生まれた。
「康二ー、昼で終わったから昼飯食べに行こうぜ」
「マサごめん、家にご飯あるから今日は遠慮する。また今度の機会にでも行こうか。」
「そっか、なら他のやつに当たるかぁ。じゃあな」
少しマサは不思議そうな顔をしていた。いつもの康二なら誘いを断らないからだ。康二は昼飯が作られているということは無く、いつも自分で作っているのだ。それのお陰で料理のスキルが上がっており、何度かマサには振る舞ったこともある。だが、康二は料理が好きだというわけでも無く、作らずに済む外食を誘われたらいつも行くのだ。
不思議そうな顔をしているマサに勘繰られたくないと思った康二は、どうにかして希に隠れて話しかけようと思っていた。兎にも角にもその希がいる必要があるので教室を見渡した。だが、もう教室にはいなかった。まだホームルームが終わって2分も満たない間である。いくらなんでも早過ぎないか、と思いながら、康二はマサにじゃあな、ということを忘れて急いで教室から出ていった。
翔台高校の近くには1つの駅しかなく、自転車登校の生徒は少ないし、バスもない。そして、学校から駅までの道は2つしかない。商店街か、一般道かのどちらかである。康二は一般道であると信じてその道をかけ走った。
少し走っていると、康二は前に1人歩く少女を見つけた。一歩ずつしっかりと道を歩む少女を見つけたのだ。
「嶺淵さん!」
康二はようやく声をかけることができた。
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*作者ご都合主義の世界観のフィクションです
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