ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

文字の大きさ
4 / 157
~一章 野望の剣士編~

三話 逸脱の森

しおりを挟む


 街の外の平原はいつも長閑のどかである。逸脱の者が来ても見渡しが良いので、すぐに街の見張りが危機を知らせてくれるのが、この街を長い間平和にしてくれている証拠だ。
 だが、普段は見張りが二人程なのだが最近現れた逸脱のせいか、街の正面の門には倍以上の見張りと門番が警戒している。

 過去にも逸脱の者が街に来たこともあったが、街の守衛が数人で退治できる程度の奴しか来なかったらしい。だから今回の逸脱はいつもとは一筋縄ではいかないと言うことだろう。どこか守衛隊の連中はいつもより険しい顔付きをしている。
 本来ならば俺とディーノはこの街の守衛隊に就職する予定であった。守衛隊の中にはブレシア師匠の元弟子達が多くいる。中でも優れた者はここから王都の方へと行き、王族の近衛兵へと出世するわけだ。

 もちろん俺とディーノなら一年も経たずに王都へと行ける素質が充分にあるが、それを蹴ってでもやはり自分達の夢を追いたいのだ。

「バッジョ。裏門からこっそりと街を抜けよう。守衛隊の先輩方につかまると面倒だからね」

「そうだな。どーせ『やめとけ』とか文句言われるだろうからな」

 俺達は街の裏門に行くと、ディーノはその横にある少し崩れた外壁をよじ登り、街の外へと降り立った。
 俺も外壁を登ってディーノの隣に着地すると、剣の重みでズボンとパンツがズルンと真下に下がった。

「おい、お前の名剣見えてるぞ。それで旅するのか?」

「わりーな。まだ新品未使用なんだ」

「「はっははは!」」

 実に下らない事で笑う。俺は気を取り直してパンツとズボンを上げると、

「よしっ行くか」

 キリッとした顔で言う。

「いや、下半身丸出しだった奴が言っても全然締まらないな」

 ディーノが腹を抱えて変な笑い声を上げながら言った。
 


 しばらく歩くともう街の灯が見えなくなった。さて、これからが大変だ。後には引けない冒険が始まったのだ。

「この辺りまで離れれば、誰の目にも届かないな。バッジョ、今日はここで寝よう」

俺とディーノはとりあえず近くにあった大きな木の下で一晩を過ごすことにする。冒険をする上で最も重要な事は、安全な寝床の確保と活動力となる飲食の有無である。最低限この二つを守れていれば人間どこでも生きていけるものだ。
 木の下を選んだ理由は、木が雨を凌げる傘となるからであり、そして背を預けられるからである。これも師匠の教えであることは言うまでもない。

 俺達は互いの背で木を挟む形で座る。これで全方向の監視もできる。そしてゆっくりと襲ってきた睡魔と共に剣を抱いて眠る。

 近くに気配があれば直ぐに起きれる訓練をしているので問題は無いが、それでもやはり不安があった。生まれてこの方、旅を経験したことの無い若者にとってはすべてが新鮮で、そして恐怖でもあった。


           ・


 ──朝の日差しが差し込む。
 ゆっくりと体を起こした俺は、すでに目覚めて朝の体操をしている相棒に声をかける。

「……おはよう」

「おはようバッジョ。相変わらず寝癖がすごいな。いや、元からか?」

 さらりとした青髪を揺らしながらディーノは笑った。

「今日はいよいよ森へと行くぞ。俺達の足ならここから数時間で着くだろう」

「よっしゃ、もしかしたらそいつ禁断の花園の在処を知ってるかもな!」

「だったら苦労しないけどね。でも花園に行くには守護者を倒さなくてはならないのは知ってるだろ? せめてその一人でも分かればいいんだけどな」

「その守護者って奴はほんとにいるのかよ? だって誰も見た事ねーんだろ? 何か噂が独り歩きしてる気がしねーぜ」

「逆に考えるんだ。守護者がいるから目撃者がいないんだ。目撃した者は多分この世から消されたのだろう。だから誰も知らないんだ」

「じゃあどうすんだ? 手掛かりゼロってやばくね?」

「だから逸脱を倒すんだよ。花園には逸脱の国があるとも言われている。逸脱を倒して行けば必ず情報が掴める筈だ。より強い奴ほどおそらく花園に近い者だ。強い逸脱ならもしかしたら守護者とも繋がっているかも知れないし、その花園から自由に出入りしてる可能性もある。大丈夫だ。地道だけどこの方法なら必ずたどり着くだろう」

「へっ、自信まんまんじゃないの」

「怖じ気づいたかい?」

「まさか。楽しくなってきたじゃんよ」

 昨日までの日常が嘘のように聞こえるほどスリルに満ちた話だ。

「ふふ。なら行こうか」

 ディーノはどこか嬉しそうに言った。


           ・


 ──孤児院から持ってきた、くっせえ燻製肉をかじること数時間。まだ日の高い内に目当ての森へと俺達はたどり着いた。
 この森は凶暴な獣もいない所だ。だからたまに薬草となる『ミラの花』を取りに街から人が来る比較的安全な森である。

 ……だと言うのに、どこか血生臭い臭気が森を包んでいた。

「バッジョ。気をつけて行けよ。ここからは一瞬の隙が命の明暗を分ける」

「ああ。用心していこーぜ」

 進むごとに森はその深さを増して行き、日の光は僅かにしか入ってこない薄暗さだ。

 周囲に気を張りながら進む。体力よりも精神力がものを言わすような空気だ。

「! バッジョ。あれを見ろ」

 ディーノが突然止まり指を差すと、そこには街の守衛隊の死体がごろごろと無造作に散らばっていた。死体はどれも挽き肉の如く潰されており、おぞましい光景が広がっている。

「……ひどいな」

「逸脱が近いかも知れない。注意しろ」

 微かな物音でさえも敏感になる。淀んだ死体の腐臭が鼻の奥に染みるようだ。

「…………?」

 ディーノが死体をまじまじと見て不思議そうな顔をした。

「どうしたんだ」

「いや……剣と盾が無いんだ。ここにあるのは死体だけだ。守衛隊である彼等の武器がどこにもない……」

 確かに死体を見ると、服とミンチにされた肉片しか無いのだ。

「逸脱から逃げる時に捨てたんじゃないのか? 走る時に邪魔になるからさ」

「……それなら相手はかなり足の早い奴だな。ここにいる守衛隊は仮にも街を守るために集められた精鋭だ。全員をこの場で殺せるほど相手は素早いぞ」

「なーるほどったらなーるほど」

 俺はわかったようなわからんような返事をする。

 数ある死体に一礼し、奥へと進むと日の光が降り注ぐ開けた場所へと出た。

 そしてその広く開けた場所の真ん中に、銀色に光る歪な形をした大きな球体のような物があった。

「なんだ……あれ」

 俺が言うと、その謎の球体は俺達の気配を感じ取ったのかゆっくりと動き出した。

 球体に見えた何かは、畳んであった大きな手を左右広げ、折り込んだ長い足をぐんと伸ばし、その巨体を山のようにそびえ立たせた。

「また俺の邪魔をしに来たか──」



 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...