ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

文字の大きさ
7 / 157
~一章 野望の剣士編~

六話 王都ウベンスト

しおりを挟む


「これからどうする?」

 森からの帰路、俺達は殺された守衛隊達を埋葬し弔うと、相棒に聞いた。

「これから王都へ向かおう。個人で逸脱を倒した者には褒賞金が貰えるからな」
 
 ああそんなもんがあったなと、俺は感心する。

「いま俺達に足りないのは情報だ。王都なら色々な人から逸脱の事を聞けるはずだ。ケガの完治も兼ねて少し王都でゆっくりしようじゃないか。褒賞金があるから金には困らないだろう」

「そうだな。それにしても体中が痛ぇぜ……」

 勝ったのはいいが二人は傷だらけである。

「この森は幸いにも薬草が豊富だ。──ほら。そこにもミラの花があるだろ? 適当にとって消毒しとけばいいさ」

 ディーノは近くにある青い花弁の花を見た。

「おおっ、こりゃ助かる」

 俺はミラの花を数枚採ると、それを握り潰して絞り出された汁を傷にかけた。

「だーッ! 染みるぅ!」

 焼くようにじわりと体に溶け込む。幼少の時からこの消毒方法は苦手だ。さっさと治すためには仕方がないと、俺は近くにあったミラの花を大量にかき集める。

「おいバッジョ。お前それは『ロマの花』だぞ」

 よく見ると青い花弁の花の中に、水色の花弁の花が紛れている。

「師匠から習っただろう。"この世には必ず対となる存在がある"って。似ているがそれは毒だぞ」

 綺麗な水色のこの花は、ロマの花と呼ばれている毒草だ。死ぬような猛毒では無いが、しばらく痛みが取れないやっかいな物で、たまに新米の行商人がミラの花と間違えて採ってきてしまう事故が年に数回ほどある。

「おっとぉ! あぶねえあぶねえ」

 俺は水色のロマの花を分けて捨てると、ミラの花の花弁を強引に引きちぎり口の中に放り込んで咀嚼した。

「苦げぇえええ」

 親の仇のような苦さだ。全身の血に薬草の独特臭気の汁が巡り渡る感覚がする。

「この世でそんな豪快な治しかたするのお前と師匠くらいだな」

 俺とて本望では無いが、この治しかたが一番手っ取り早いのである。実際に直で食うと風邪とかも一発で治るからだ。

「さて、王都まではここから歩いて三日といったところだ。はやいとこ行こう」

 足早にディーノは進む。

「乗り物とかあればすぐに着くんだけどな。昔の人間は機械の乗り物を操ってたんだろ? 便利だよなー」

「そうだな。五百年前までは機械が世界に繁栄していたらしいが、今は逸脱に対抗するための銃や、水力発電や風力発電を使った生活のための必用最低限のものしか残されていないからな。昔よりは不便だな」

「なんでまた開発しねーんだ? 頭のいい奴なんて世界に沢山いるだろ」

「原因は様々だ。逸脱の手による街の破壊で技術や資源が滅ぼされたり、中には科学者などの高名な学者だけを狙って殺す逸脱なんかもいるらしい。そして一番の原因は前の戦争によってその大半の技術力、発明の数々がどういうわけか消えてしまったらしい」

「なんだそりゃ。訳も分からずに消えたのか?」

「そう言うことだ。だから人々は禁断の花園を探すのかもな。そこにロスト・テクノロジーがあると信じている者も少なくない。──もちろん、俺もそんな夢が詰まった場所だと思ってるよ」

「へへっ。ますます楽しみじゃねーか」

「……と言うか、この説明を師匠が毎日のように授業で言っていたんだが」

「え? まじで?」

 ディーノは呆れた顔をした。だがそれは日常茶飯事であり、こうでなければ逆にバッジョでは無いだろうと納得したようであった。

 そんな話をしていると森の出口が見えてきた。
 これより王都へと向かう旅路、相棒の雑学があれば退屈することもないだろう。


           ・


 ──三日後。

「やっと着いた……」

 野を越え、山を越え、荒野を歩いた先に辿り着いたここは王都『ウベンスト』。東大陸の西側に位置する最大の首都である。逸脱の侵入を防ぐために造られた堅牢な門をくぐると、賑やかな城下街が俺達を迎えた。

「とりあえず宿を取って『セドフ王』のいる城へ行こう」

「そうだな。くそ疲れたぜ……」

 道中ボロボロに痛めた体に鞭を打って歩いた二人は一刻も早く、旨い飯を食って柔らかなベッドで眠りたかった。

 とりあえず目についた適当な宿屋に入って部屋を取ると、荷物を置いてそのままベッドへと倒れると、意図せずに俺達は泥のように深い眠りについた。


 ──翌日。

「しまった寝過ぎたな」

「みたいだな」

 はっはっはと笑いながらディーノは起きがけの俺に朝の挨拶をした。

「しかし、おかげで体調は万全だ。バッジョはどうだ?」

「ああ、すっかり良くなったぜ。毎日薬草食ってたおかげだな」

「普通は煎じて飲んだりするものだけどな」

 すっかり体は元気になっていた。俺は窓から降り注いだ朝日を眺める。

「王都に来るのは三年ぶりくらいか?」

「ああそうだな。前に師匠と剣の出稽古した以来だ。──あの時はバッジョがこの街の不良共に因縁つけられて面白かったな」

「あー、あったあった」

「それでお前『この街を掃除する』とか言って次の日の剣の試合すっぽかしたよな」

「そうそう。だって"掃除"が忙しかったからな。そんでディーノは試合で、この王都で一番強い剣術道場の所の奴等を簡単に倒したんだろ?」

「別に簡単じゃないさ。強い奴もいたよ。でもバッジョよりは歯応えが無かったかな」

 懐かしさに二人の話は弾む。

「おっと、そろそろ行くか。腹も減ったし、さっさと金貰いに行こーぜ」

 長話を切り上げると、俺達は宿屋から出て王城へと向かった。
 城下街は朝から市場が並び、活気がある。大通りを抜けて広場に出ると巨大な噴水が鎮座しており、その奥に見える一本道を越えれば城へと着く。

 普段は見ないような大道芸人の手品を横目に見ながら一本道を抜けると、あっという間に城の前へと着いた。

「何か御用か」

 近くにいた兵に問われる。するとディーノは、

「逸脱を倒したので報告に来ました。受付はどちらですか?」

「おお逸脱を……! それならあちらだ」

 兵に案内してもらうと、城の横にある建物に入れてもらい、一階の右横にある小綺麗な部屋に通された。

「ここが受付です」

「こりゃどーも」

 案内してくれた兵にお礼を言うと、俺達は受付にいるお姉さんに声を掛ける。

「本日はどういったご用件でしょうか?」

「逸脱を倒したのですが……」

「逸脱の討伐ですね。それならこちらの書類を書いてください」

 お姉さんは手馴れたように何枚かの書類を渡してきた。ディーノはそれをスラスラと書く。

「なあなあ。逸脱を倒しても城の中へは入れないんだな。俺はてっきり王様に会えるもんだと思ったぜ」

 俺は疑問を相棒に言うと、

「そりゃそうさ。毎日俺達のような冒険者が来るんだ。いちいち会ってるほど王様だって暇じゃないだろ」

 ディーノは書類を書き終わると、お姉さんにそれを渡す。

「ありがとうございます。それでは逸脱を倒した証明を提示して下さい」

「えっ!? 証明なんかいるのか!」

「はい。最近は虚偽の申告が多発しておりますので、証明の提示を厳しく執り行っています。」

 俺はアホみたいな声を上げる。考えてみればそれは当たり前の事なのに、ガガトロを倒した後の事なんかまったく考えて無かった。

「これでいいですか」

 そう言うとディーノは麻袋から守衛隊の勲章を取り出した。勲章にはナンバーが振ってあるのでこれで誰のものかわかるのだ。

「流石、抜け目ないな」

「当然だろ。持ってきたさ」

「それではお預かりします……」

 お姉さんはそれを受け取ると、少し難しい顔をした。

「……ディーノ様、こちらの証拠品ですと逸脱を倒したか少し不明瞭となるので審査が必用です」

「なんでじゃい!」

 俺が突っかかるとディーノは、

「難しいですか」

 と、真剣な目で言う。

「こちらの勲章ですが、行方不明届けを出されていない物もあるのと、逸脱の存在の有無が判断材料に欠けてしまいますね。例えば他の冒険者の皆様は金額が高くなる生け捕りだったり、殺した逸脱の首を持ってきたりしてますので、これだけだとやはり難しいです」

「では『鋼鉄のガガトロ』は手配書にはありますか?」

「はい。そちらの逸脱は手配書にございますので、首を持ってくるか証拠と確実に判断できる体の一部があれば……」

「俺達はガガトロを確かに倒したんだぜ! セーリエの街の北にある森に行けば死体はあるんだ! それじゃ駄目なのか!?」

「すいません。こればかりは……」

 参ったなと、二人は目を合わせる。

「君達。本当にガガトロを倒したのかね」

 急に後ろから声がした。見ると腰の曲がった老人がずれたメガネを掛けながらにこりと笑っている。

「そうなんだよ爺さん! 俺達ほんとに倒し──」

「イバン大臣様!」

 ディーノが俺の頭を掴み下げると、無礼を詫びるように礼をした。

「よいよい。二人とも来なさい。城の中へ案内しよう」

 イバン大臣はのそっと歩みを進める。

「えっ? 大臣……?」

「そうだよバカっ。しかしチャンスだぞバッジョ。もしかしたら褒賞金がもらえるかもな」

「マジかよ! あの爺さんいい奴じゃねーか!」

 俺達はこそこそと喋ると、大臣の後について行く。

「お疲れ様でございます!」

 城の門番が大臣に敬礼すると、

「この者達は逸脱を倒した勇気あるものだ。丁重に迎えなさい」

「はっ! かしこまりました!」

 その言葉ですっかり浮き足だった俺達をイバン大臣は城の中へと招いてくれた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...