13 / 157
~一章 野望の剣士編~
十二話 放火魔
しおりを挟むテインから数キロ離れた所で夜営する一行。ディーノを怒らせた俺とティエナは絶賛反省中であった。
パチパチと聴こえる焚火の音が、会話の無い静寂さを引き立てる。
いま俺達は結構ピンチであった。まず金が無い。すると船を見つけてもチケットが買えない。そして逸脱を倒して褒賞金を稼ごうにも、すでにおたずね者として自分達も指名手配されてる事を考えると王都には近づけない。つまり何が言いたいかと言えば──万策尽きたのだ。
「……」
ティエナが虚ろな目をして港町で買った、変なコップのような形をした謎の人形を見つめている。その姿たるや、なんと哀愁漂うことか。
「……」
そんな俺も体育座りしながら、虚空を見据えて棒状の甘い菓子をぽそぽそと食べている。その姿は唐突に職を失った浮浪者の如くである。
「……おい」
「「!」」
ディーノの一声で俺達は我に返る。
「考えたんだが、放火魔を探そう。いま出来る事はそれが最良だ」
真剣な顔をしてこのイケメンは言う。沈黙が続いていただけに、その言葉はどこか深く感じる。
「テインの町の連中は、船を燃やした犯人探しで躍起になっている。放火魔を捕まえれば船着き場の連中から謝礼金も少しは出るだろう。それに船だって出せる筈だ。幾らか安くもなるかもしれん」
「な、なるほど……!」
「それだわ……!」
頭脳明晰の相方に感動を覚える。だが、ある疑問点が俺とティエナの頭に浮かぶ。
「──そんで……どうやって見つけるんだ……?」
「漁師の言葉を思い出せ。犯人は昨晩に全ての船を燃やした──。この事から並大抵の手際の良さではない。あそこは港町だからな、夜でも人が結構賑わっている。そんな中で全ての船を燃やすなど"普通の人間"には出来ないんだよ」
「──! そうか、犯人は逸脱ね!」
「その通りだ。次に考えるのは何故に船を燃やしたかだ。犯人は船を燃やす事で何らかのメリットがあった筈だ。それが何かわかるか?」
「うーむ? 理性のイカれた逸脱だから自分の快楽のためにやっただけじゃねーの?」
「それならば町も燃やすだろう。まあそいつが船に強い憎しみを持ってる奴とかなら話は別だが、そんな偶然は今は考えにくい。なぜなら船を燃やす事で、いま一番困る者がいる状況でそんなピンポイントな逸脱が来るなんて偶発的な事はあり得ないと断言しておこうか」
「いま一番困る者?」
「そうさ、ここにいるじゃないか」
「──私達……!」
「そう、ここにいる三人だ。逸脱は俺達が逃げられないように先回りして、船を燃やしたのだ」
「ちょっ、ちょっと待てよ! 何で逸脱がそんな事するんだよ!?」
「私、聞いた事があるわ。セドフ王が逸脱狩りになんであんなに積極的なのか……。その理由が逸脱を使って他国に負けない軍事力を作ってる噂があるの──。だから放火魔の逸脱も、もしかしたらセドフ王の手先の可能性が……?」
「いい推理だティエナ。俺もその噂は耳にしたことがある。恐らく君のような理性のある逸脱を飼い慣らしているんだろうね。ティエナを捕まえたのも政治利用しようとしたんじゃないかな。何にせよ、ろくなものじゃない」
「じゃあその逸脱は俺達を狙ってると言う事だな」
「そう言うことだ」
俺と相棒は剣を握ると、
「「出てこいッッッッ!!!!」」
暗闇に向かって一喝した。
「へえぇ。僕の気配がわかるんだ」
暗闇から這い出るように、二つの目玉がギョロリと浮き出る。月明かりに照らされたその男はひょろりとした外見で、ピエロのような格好をしていた。
「なにもんだぁ……てめえ」
「初めまして──。僕はコーリー。人呼んで『炎熱のコーリー』って言われてるよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる