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~二章 献身の聖女編~
四話 親子の秘密
しおりを挟む私とお父さんは──"逸脱"である。
それは先天的なものでなく、後天的なもの。その覚醒のトリガーを引いたのは、紛れもなく家族の不幸によるものだ。
お父さんはお母さんが亡くなった時に、そして私はコネホがいなくなった数日後に覚醒した。
青天の霹靂のような、不思議な感覚であった。私が小さい頃にブンデスの街で、狂暴な逸脱が暴れた事件があった。逸脱は近くにいた罪無き人達にその歯牙を向け、多くの犠牲者が出てしまった。その後は街の用心棒が逸脱を討伐してくれたが、私はあの理性の欠片も無い恐ろしい存在がこの世にいるのだと、深く記憶に残っている。
……だからそんな逸脱に自分がなるとは思わなかった。言い訳をすれば、これは誰にも防ぎ用のない病気なのだ。突然に発症し、異能の力を天から授かる。そのはずみで、理性をも無くし本能のままに生きる者もいれば、絶望し自身の命を絶つものもいるだろう。
でも、私とお父さんはそうはならなかった。運が良かったのか、それとも自身を律する精神力のおかげなのか。──私はどちらも違うと思う。
この能力は、神様が妹コネホを探せと授けてくれたもの──。私に使命を、そして苦難の試練を越えんがするための武器として与えたもうたもの……。
お父さんもまた、私達家族を愛してくれているからこそ理性を保ち、自身の本能に呑まれないのだろう。
そしてそんな私達家族を、逸脱とわかりながら教団に招いてくれたパウロ神父には感謝しかない。
神父は私達が逸脱だとバレぬよう、様々な事に根を回してくれた。幸い私の能力はバレにくいものだが、お父さんはそのガタイの大きさもあって周囲から不自然に思われた事もあった。お父さんは逸脱になる前は、もっと普通の体格だった。だが、逸脱になると同時に体格が大きく変化したのだ。
父を見て不審に思う街の住人に、神父がお父さんをかばい、弁明してくれた。『この者は逸脱によって呪いをかけられたのだ。姿は変われど、その心は何も変わらぬ。我々と同じ人間だ』そう言って神父は証人となり、事なきを得た。
今では街の住人達は、お父さんを普通の人間として見てくれているし、仕事だってちゃんとある。
そんな私達に尽くしてくれる神父の願いを、無碍にする訳にはいかない。
「まかせて下さい神父様。俺が隣町まで様子を見に行ってきます」
「お父さん。私も行くわ」
「駄目だサビオラ。もしかしたら危険な目に遭うかもしれん。ここでお留守番してるんだ」
「お父さん! 私だっていつまでも子供じゃないわ!」
「サビオラ……。わかってくれ。パパはすごく心配なんだ。もし、サビオラに何かあったらと思うと──いや、考えただけでパパはおかしくなりそうだよ」
お父さんは私の肩を掴むと、とても寂しそうな目をした。
「お父さん……。私の事を思ってくれてすごく嬉しい──。けど、これは私達家族の問題でしょ。私にだって、コネホがいなくなった責任がある。それにパウロ神父は"私達"を頼って依頼してるんだよ。絶対に足手まといにはならない。お父さんと私で、この事件を解決してみせようよ!」
私は確固たる意志をぶつけ、父の目を真っ直ぐに見た。
「スタム。どうやらサビオラの決意は固いようだ。このままだと黙っていても、彼女は飛び出して行くかもしれないね。もう、我々が思っているほど子供ではないのかもな」
「サ、サビオラ……」
「お父さん。私は行くよ」
お父さんは頭を抱え、身体を何度も曲げて苦悩したが、
「ぐぬぬぬぬ……。──わかった……。でも、パパの側から離れちゃ駄目だぞ!!」
やがて根負けしたように認めてくれた。
「どうやら決まったようですね。二人とも、危険な依頼をしてしまいすまなく思ってる。恥ずかしいが、我々のような無力である普通の人間では、もし犯人がわかっても殺されてしまうだろう。……くれぐれも無茶はしないでくれ。危険だと思ったらすぐに帰ってくるんだ。ちょっとした報告だけでもいい。生きて帰ってくるのが、一番の成果であるのを忘れないでくれ」
「大丈夫ですパウロ神父! 私とお父さんなら何だってできちゃいます! 期待して待っていて下さい!」
「サビオラ──。パパは心配だけど、サビオラがこんなにも、自分の意志を持った強い子に育ってくれていて今、感動してるよおおおお!!」
お父さんはそう言うと私に抱きつこうとしたが、私はそれをひらりとかわした。
「な、なんで避けるんだい!? サビオラ!?」
「お父さん……。人前で恥ずかしいからだよ」
「じゃ、じゃあ後で──」
「恥ずかしいからやらない!」
「なぜだーー!?」
私の一言で、お父さんはひどく落ち込んで床に崩れた。
「ははは。仲の良い親子だ。それでは頼むぞ二人とも。これは依頼の料金だ。先に渡しておくよ」
「ありがとうございます! 明日から早速向かいますね!」
神父は二週間ほど快適に旅ができそうな賃金を机に置いて、去っていった。
「よーし! 頑張ろうねお父さん!」
「…………」
「いつまで落ち込んでるの! 明日から出発するんだから早く旅支度しなきゃだよ!」
・
──翌朝。
早朝から家の中はバタついていた。私は自分の準備の最終チェックを何度も行うように、慌ただしく動き回る。
「これで……よし、かな……?」
木で作られた大きめのアタッシュケースに、衣類や必要最低限の生活用品を詰め込むと、家の戸締まりを確認する。
「お父さん準備できた?」
「ああ。パパはいつだって準備万端さ! それよりサビオラ……その格好で行くのかい?」
「え?」
私は裏表逆に着たパジャマをお父さんに指摘されると、寝ぼけた頭に電流が流れるような、自分がすごく恥ずかしい格好であることに気づいた。
「ふええ!? 間違えたあ……」
私は急いで自分の部屋に戻ると、巡礼用の修道服に大急ぎで着替える。キラリと部屋にある鏡が私を映すと、パジャマだけでなく、頭も寝癖がついてて最悪だった。
「うううう……。なんで私ってこんなドジなの……」
涙目になりながら支度を済ますと、外ではお父さんが朝の体操をしながら待っていた。
「お、お待たせ、お父さん」
「はっはっは! かわいい娘のためならいくらでも待つさ。でもサビオラ、その巡礼服ちょっと肌の露出が多くないか……?」
「たぶんサイズがもう合わないんだと思う……」
私が持ってる巡礼用の修道服は二年前にもらった物なのだが、私の身体の成長が著しく大きくなったため、所々が破けてしまったので勝手に自分で改良した結果、足のスリットが見え、腰周りの衣類を取り、胸元が妙に強調されるような服になってしまった。
「──駄目だ……。こんなエッチな服じゃ悪い男が寄ってきてしまう……!」
「ええ!? だ、大丈夫だよ。それに私、修道服を転んだりして破きまくってるから、もう教会から新しいやつを受け取りづらいんだよ……」
「安心してくれ。パパがサビオラに言い寄るクソ男がいたら捻り潰してあげるからね!」
「お父さん目が恐いよ! 冗談に聞こえないよ!」
父の目がマジだったのは置いておく。私は荷物の入ったカバンを持とうとすると、お父さんがそれをひょいと取り上げた。
「重たい物はパパが持つよ」
「ありがとうお父さん。──それじゃあ隣町『ボルシア』に向けて出発ね!」
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