ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~二章 献身の聖女編~

十五話 救出作戦

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「はっはーッ! 腹いっぱいだぜーッ!」

「ごちそうさまでしたあ! とっても美味しかったです!」

 テーブルに積み重なる山のような皿、この父娘はその全てをあっという間に平らげたのだ。父の方は分かる。そのガタイ通りの胃袋を持つのだろう。しかし娘の方は納得いかない……! あの普通の体型、よく言えば少し肉付きのある身体のどこに飯が入るのだ。顔立ちの良い剣士は困惑する。彼等のとんでもない暴食を、そして帰り際に払った多額の会計に思わず顔が引き締まった。


「元気ガンガガンだぜ! マルセロ! さっさとお前の奥さん助けに行くぞ!」

「はやくレジーナさんを迎えに行きましょう!」

「あっ、はい。……元気が出たなら何よりです。それで──作戦なのですが」

 村の広場にある腰掛け椅子に三人は座ると、マルセロさんは木の棒を持って地面に図を描いた。

「今ここがマインツの村で、一時間ほど歩いたここから北東にある教会に奴はいます。そこで僕が考えた作戦が──」

「正面突破でいこうや」

「そう、正面突破……え?」

「男なら殴りこんでなんぼよ」

「スタムさん。気持ちはわかりますが──」

「異議ある感じか?」

「……無謀ですね。敵の能力も分からないうちは危険かと」

「駄目に決まってるでしょお父さん! それにあっちはレジーナさんを人質に取ってるんだからそんな無茶できないでしょ!」

「うっ……。すまねえ。どうしてもこういうのは熱くなりがちでよ……」

「マルセロさん。相手とは話し合う事はできないでしょうか。私達は教団の戒律で殺生を禁じられている身です。どうにか穏便に解決する方法を考えることはできませんか?」

 私はマルセロさんに譲歩するが、彼の顔はそれを聞いて曇る。

「すまないが、僕はこの西大陸の宗教感は受け入れ難い……。悪を悪と裁くのは神では無く、己自身。必要とあればそれを斬り捨てることもやむ無しと、僕は少なくとも東大陸ではそう教わりここまで生きてきました。あなた達の生き方を否定する訳ではありません。ただ──僕には僕の生き方、やり方がある。不殺は悪いですが誓えません。それに、奴は全力で我々を殺しに来るでしょう。死力を尽くさなければ、殺られるのはこちらです……!」

「……そうだな。お前にはお前の信念がある。それにケチをつけるのはお門違いだな。それに俺も家族が拐われたら、そんな悠長なこと言ってられなくなるだろうから気持ちはよーくわかるぜ」

「そうですか……わかりました。それもまた貴方が貴方を信じる信仰心なのですね」

「ありがとうサビオラさん。理解して貰えて嬉しいですよ」

「私はお父さんみたいに荒事はできませんが、マルセロさんが傷ついたらすぐに治すだけの力はあります。激しい戦いになるかも知れないけど、私は精一杯にサポートしますね」

「俺の娘は何て聞き分けが良くて、可愛いい良い子なんだ……!」

「ちょっとお父さんそれやめてよ! 恥ずかしいから!」

「ははは。本当に仲の良い父娘で羨ましいですよ。それじゃあ本題に入ります。作戦は──二人とも"死んでもらいます"」



           ・


 マインツの村からゴトゴトと大きな荷台を引く剣士は、年期の入った古びた教会へとやって来ていた。

 教会のボロついた木のドアをゆっくりと開けると、中にはガランとした礼拝堂が視界に広がる。荷台を中にいれてドアを閉めると、ステンドグラスの窓から入ってくる光が教会内の細かな埃を映し出した。

「約束通り二名の死体を持って来たぞ! 出てこい!」

 銀の剣士の声が反響する。すると、奥の祭壇からぬらりと目当ての男が出てきた。

 その水色の髪の毛から触覚のようにツンとした二本の髪が目立つ男。細身の身体はやや腰を曲げて、首をコキコキと動かす。こちらを嘗め回すように見る細い視線。その眼はまるで蛇を連想させるようだ。

「ああ、持ってきたか。やればできるじゃん。でももう少し速くしてくれよ、退屈だろう」

冷ややかな声で男は言う。

「レジーナを返せ! お前との約束は守ったぞ!」

「うるせえな……。ちゃんと確認してからだ。これだから熱い男は困る。熱い奴は態度も厚いからな。その荷台に入ってんのか? それをこっちに押せ」

 荷台に入った二人の死体を一瞥すると、ぐんとそれを押して奴の傍にやった。

「はー。こいつでっけえな。こいつがキエーザを倒したのか。ま、逸脱ならそんな不思議でもねえか。もっとデカイ奴だっているしな。前に東大陸で見たんだ。名前なんだったかな、オオトロみたいな名前だったな」

「そんな事はどうでもいい! レジーナを返せ!」

「ん? ああ、そんな約束してたなあ。ふぅ……じゃあ目的も済んだし、てめえも殺して帰るとするか」

「!! 貴様……ッ!」

「そんな約束守る無いだろ。冷静に考えろよ、熱くなるなって。俺が冷たい男だってことくらいよく見ればわかるだろ」

 二人は構える。一方は怒りに燃え、一方は冷徹に笑う。


「冷たく殺してやるよ──死ね──」


「てめえがなあッ!!」


 敵の背後を取るのは死体と思っていた大男であるッ! 大男はその怪腕で敵の両腕を握り潰す勢いで掴んだ!

「なにっ!?」

「いまだマルセロ!!」

「ふっ──!!」

 一瞬の間にその剣閃が敵の両腕を根本から切り落とし、致命となる袈裟斬りを左の肩口からズバリと引き裂いた!!

「クリンスマン! 急所は避けた! 命欲しくば妻を返して貰おう!」

 ガクリと膝から崩れ落ちる水色の悪漢は、何も口に出さずに黙っている。

「貴様! レジーナはどこ────なっ、これは……!」

「な、なんだこりゃ!?」


 確かに斬った筈の敵はボロボロとその身体を崩した。それは肉では無い、"氷"だ。頭から足先まで、さらには切り落とした両腕も氷の塊であった。

「偽物──!? じゃあ本物は──」

 私は目を丸くして辺りを見渡す。すると、急に教会の中の気温が冷えだした。涼しいというレベルでは無い。どんどんと肌が冷たくなっていき、息が白くなる。指先が痛くなるような凍てつく寒さである。


「どうなってやがる!? 野郎! 出てきやがれ!」

 それは、天井に付くステンドグラスの窓から聞こえてきた。

「くくくくく──。マルセロ、奇襲とは中々クールじゃないか。気に入ったよ。俺も全力で相手をしてやる」

 三人は一斉に上を見上げて敵を視認した。先とは違う氷の鎧に身を包んだクリンスマンが、こちらを見下ろす。

「あなたは──何者なのですか!」

「俺は裁きの門ゲート・オブ・ジャッジメントの一人『絶対の零度クリンスマン』。行方不明の事件に首を突っ込むお前達の始末をまかされた死刑の執行人さ──!」


 




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