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~三章 復讐の乙女編~
~三章 復讐の乙女編~
しおりを挟む──吹き荒れた乾いた荒野に、古代の人達が使っていたとされる遺跡があった……。辺りは建造物であったものの瓦礫が散乱する。その奥に、隠れるように地下へと続く怪しい階段があるのだ。
真っ赤に輝く太陽の下、そんな辺鄙な所に揺らめく三つの影があった。
影は砂ぼこりを浴びながら肩をいからせるように歩む。まるで、軍隊の行進のような迫力であった。
「侵入、開始」
「行くわよぉ、みんな」
「間違いないわ──この先に……!」
その影は怒りを抱いていた。その怒りは燃える太陽の如し、熱き炎となって臓物を煮えたぎらせるようだ。
見よ! この鋼鉄の体を!!
見よ! この顔面と性格の矛盾を!!
見よ! 幾度の激戦を勝ち抜いた熱き魂を!!
そう! 悪を叩く時が来たのだ! 正義の名のもとに人を助け、仇を討つ時が来たのだ!!
これは、己が拳と故郷を愛した乙女の物語!!
物語は今より少しだけ遡る──!
──────────────
────────────
──────────
────三週間前。
「なんでよ! おじいちゃん!!」
「駄目じゃ!! お前はセンスが無さすぎる!!」
南大陸の片隅にある人口百人に満たぬ小さな小さな村……『ヴァスコ村』で、口うるさい白髪の祖父と長く黒い髪を束ねた孫が今日も喧嘩をしていた。
白い胴衣を来た祖父は、怒りを表さんといつもより一段と眉間のシワがよっている。
同じく軽そうな白い胴衣を来た孫は、その頭に付けた白いカチューシャをきらりと光らせながら祖父になにやら猛抗議をしている。
「なんで私の作った『うろうろくん』が駄目なのよ!」
「そんなもんを村の名産品にする訳にはいかん!! 世界中の笑い者にされるわい!!」
「別におじいちゃんに認めて貰うつもりはないわ! 他の大陸の人だってきっとこの人形のかっこよさに気づいてくれる筈よ!」
「アホか!! お前は村を潰す気か!!」
家の目の前で喧嘩するその姿を、村の人は特に気にしない。いつもの事だから。そしてこの喧嘩は引き下がれない。だって私はこの力作の人形を村の名産品──マスコットキャラとして確立し、この何も無い村を少しでも盛り上げて行きたいからだ。
「ふん! 今に見てなよ! 結果を出せばおじいちゃんも文句言えないわ!」
「どういうことだ!」
「なんと! もう『うろうろくん』は東大陸に渡る商人に大量に渡してあるのです!」
私はえっへんと大きな胸を張ると、おじいちゃんは膝に手をついて落ち込むようにうなだれる。
「ぐっ……! 馬鹿なことを……!! 我が孫ながら、なんと情けない……! お前を育てたわしの十九年はなんだったのじゃ……」
「私は村を思って行動してるのよ! ちょっとは応援してよ!」
「ヴィエリィ……。お前は誰よりも真っ直ぐで快活なのが良いところだが、もの作りのセンスが無さすぎる……! もうちょっと何かあるじゃろ……! 子供の方がまだ良いもん作るわい……!」
口を尖らせながら言うおじいちゃんのその言葉にカチンとくる。
「あっそ!! なら結果を見せてひっくり返らせてやるんだから!!」
私はそう言うと、村の出口に向かってその細くしなやかな健脚を走らせる。
「こら! 待たんか!! ヴィエリィ!!」
祖父の言葉を無視するようにダッシュする。薄手の軽装を纏い、束ねた髪を風に乗せながらわたしは村の外へ飛び出した。
向かう先はここから歩いて五時間ほどで着く港町だ。そこに東大陸から帰ってくる商船が今日帰ってくる予定だ。そこで私の作った『うろうろくん』がどれだけ売れたのか分かる。商人から売り上げを貰って、おじいちゃんをたまげさせてやるのだ。
「見てなさいよね……! 私のセンスは絶対に間違ってなんかないんだから──!」
私はいつだって前向きだ。わたしはわたしの村が大好きだ。ヴァスコ村は今は名産品が何も無い村だけど、村の人達は優しくて陽気だし、空気は美味しいし、何より自然の広がる緑に囲まれた美しい場所だ。
この自慢の村をもっと色々な人に知って貰いたい……。そして実際に来て、楽しんで貰いたい。そのためにまずは人目のつきやすいイメージを持って貰うため、村を代表するイメージキャラクターを私は考えたのだ。
これを考えた時、自分は天才なんじゃないかと思った。この愛らしい丸い二つの目と口……。大人から子供まで認めさせるシンプルでカッコいいコップ状のフォルム……! アンバランスな細い手足をつけて頭からは飛び出すような髪の毛をつけたら──完成!
名前は『うろうろくん』。その辺にうろうろしてそうだから、うろうろくん。うん、完璧だ。
私の計算では全部売れただろうから、まずはその売り上げでもっと人形を量産しよう。そして次は西大陸と北大陸に手を伸ばし世界的なキャラクターにするんだ。
妄想は止まらない。楽しい妄想はいつだって心を賑やかにしてくれる。少なくとも私はこの生きてきた十九年で陽気に暮らし、おじいちゃんと村の人達と楽しく過ごしてきた。
大切でかけがえのない村に恩返しするんだ。あの愉快で楽しき村をもっと発展させて、盛り上げる事が最大の夢だ。
保守的では駄目なのだ。もっと攻める事が、この私の最大の強みなのだから。
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