ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

文字の大きさ
77 / 157
~三章 復讐の乙女編~

三話 売り上げ

しおりを挟む

 おしゃべりをしながら軽快な足取りで山を下り、険しい道を慣れたように進むと四時間足らずで港町が見えて来た。

「おっ。もう着いたね」

「あんたと一緒だとペースが速くてさっさと着くから嬉しいけど、そのぶん倍疲れるわね……」

「えっそうかな? こんなの準備運動にもならないよ」

「あんたのスタミナがおかしいのよ! たまにはもうちょっと女の子らしいこと言ってみなさいよ!」

「はは! バラコフよりは私だって乙女さ」

「本名言うな! その乙女の片鱗が無いから言ってるのよ! まったく昔から何にも変わらないわね……」

 バラコフは肩で息をするように言う。私はと言うと、一滴の汗も流さずに息一つ乱すこと無く彼を見て笑っていた。

 急ぐように港町まで移動した私達はさっそく船着き場に向かう。ヴァスコ村と違い港は今日も色んな人がいて賑やかだ。港にいる顔馴染みの漁師や屋台の店主に挨拶をしながらお目当ての商人が乗った船を探していると、丁度よく水平線の向こうから私が依頼した商人の船が帰って来たようだ。

「あっ! 帰って来た!」

「帰って来たわね……」

「今日は私がご飯奢ってあげるよ! うろうろくんの売り上げ金で!」

「期待しないでおくわ。あんなのが売れるわけないでしょ」

「またそんなこと言う! 逆に売れない道理がないでしょ!」

「(この子の謎の自信はどこから沸いてくるのかしら……)」

 船が波止場に止まると、やつれた顔をしながら商人がふらふらと降りてきた。

「おじさーん! ヴィエリィです! うろうろくんの売り上げをくださーい!」

 私は元気いっぱいに声をかけて、期待まんまんに両手の手のひらを差し出した。すると、商人はムスッとした顔をして私のその手のひらに、たったの二百Gゴールドをチャリンとのせてきた。

「…………? これは?」

「売り上げだ」

「なんの?」

「お前さんの変な人形のだ」

「えっ──ええええええええっ!!??」

 衝撃の言葉である。一心不乱、誠心誠意をこめて作った渾身の人形は売れなかったのだ──!

「ま、待って待って待って! えっなんで!?」

「こっちが聞きたいわい! お前さんのあの変な人形はたったの一つしか売れなかったんだよ! おかげでこっちは大損だ! こいつのせいで船の積載量は圧迫するし、はるばる東大陸まで行ったってのに誰も見向きもしねえ! 時間と労力の無駄とはこのことだ! 手数料分も儲からねえこんな仕事は始めてだぜ! さっさとこのガラクタを引き取って失せやがれ!」

 商人は船から大量のうろうろくんを私に投げつけると、がに股に鼻息を鳴らしながら去っていった。

 山のような人形に埋もれた私を見てバラコフは遠い目をしている。それは哀れな者を見るような目でもあるし、ある意味では同情を誘うような目でもある。

 私は放心状態で固まっていた。自分の先見性の無さや多額の投資、どうやっておじいちゃんに顔を会わせればいいのかと頭の中で様々なことが渦巻いている。

「……ヴィエリィ。わかったでしょ。あんたにはセンスが無いのよ……」

「──うっ。うぐぅ~~~~!」

 声にならない悔しさが喉元から捻り上がると、私は静かにうなだれた。

「どーしたんだ?」

「なんだヴィエリィまた変なことやらかしたのか?」

「なんだよ、その人形。すげえだせえな」

 私の悔しそうな顔を見に来たのか、港町で漁師をやってる知人がぞろぞろと集まってきた。

「あらん。みんなちょっと聞いてよぉ。この子ったら変な人形を量産して大損こいたとこなのよぉ」

 バラコフがオカマ口調でそう言うと知人達は遠慮無しに笑いだした。

「はっはは! ヴィエリィお前もこりないなあ。こんなセンスの無い人形初めて見たぞ」

「確か前は村にシンボルとなる銅像を作るとか言って奇妙な像を作って子供を泣かせてたよな? お前は伝統ある家柄の娘なんだからもっと落ち着けないのかね」

「そうそう。そんなんじゃ嫁の貰い手もねえぞ! だはは!」


 お構い無しに好き勝手に言う彼等。しかし、私の静かなる殺気が全員の笑いを止めた。

「──あ? もういっぺん言ってみろや」

 怒りを込めた口調で彼等に言う。それを聞いて青ざめた顔をした知人達は、身の危険を感じ必死に弁解を始める。

「じょ、冗談だよヴィエリィ。よく見たら素敵な人形じゃないか……」

「そ、そうそう! なんつーか気品があるっつーの……? 家柄が出てるねぇ~!」

「い、いやあこんな事ができるのは可愛くてスタイルのいいヴィエリィだけだぜ! 惚れちまいそうだ!」

 次々に手のひらを返すように彼等は目を泳がせながら言った。

「──ほう。ならてめえらこれを買い取れ」

「「「え?」」」

「カッコいい人形だろ? 買い取れ」

「「「いやあ……それは……」」」

「買え」

「「「はい……」」」

 私の一睨みが有無を言わさない。彼等は渋々とお金を払うと、その大量の人形を抱えながら暗い顔でいそいそと去っていく。

「ヴィエリィ……なんて恐ろしい子なの……」

 バラコフが引きながら私を見つめた。

「──ようし! 全部売れたね! 飯でも食いに行きますか! わはは!」

 私は何事も無かったように高笑いをしながら船着き場を闊歩かっぽする。終始バラコフがドン引きしてたが気にしない。だって私は悪くないもの。

「今日は美味しい肉でも食べちゃおうかしら! お金があると心も豊かになれるわね!」

「さっきまで豊かの『ゆ』の字も無かったのによく言うわよ……」

「あはは! なんのことかな! ──ん? あれは……」

 在庫も捌けて気分良く歩いていると、普段はあまり見ない露店商が妙な物を売っているのを発見した。きらびやかなアクセサリーが並ぶその横に、大きな鉄で出来たまるで一人の人間のような人形が置いてあったのだ。

「うわっ! なにこれなにこれ! すごい……! カッコいい……!」

「ちょっとヴィエリィ。あんた只でさえ無駄遣いが激しいんだからさっさと行くわよ。それにもう人形はいいでしょ。まだ懲りないの」

 子供のように目を輝かせながら鉄の人形を見つめる私。すると露店商のおじさんがこう言ってきた。

「お姉ちゃんお目が高いねえ。こんなに大きな鉄の人形なんか滅多にお目にかかれないよ」

「すごいですねこれ! どうやって、誰が作ったんですか!」

「実はな、こいつは北の大陸近くの漁師が海から引き上げたんだよ! 魚と一緒に網に絡まってたそうだ。誰が何の目的で作ったか知らないが見る限り中々の代物には違いない! どうだお姉ちゃん! 買ってみないかい!」

 露店商は交渉する。鉄の人形のその銀色に光る胴体が私の心を揺らす。

「ちょっともう行くわよ! そんな怪しいもん買ってどうすんのよ! またおじいさんに怒られるわよ!」

「…………いくらですか」

「へい! こちら十万Gだよ!」

「高っっっっか!! 誰が買うのよそんなもん! バカでも買わないわよ!」

「買うわ」

「バカーーーーーん!!」

 バラコフの忠告を無視して私は先ほどの売り上げ金の全てを使ってその人形を購入した。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...