ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

文字の大きさ
79 / 157
~三章 復讐の乙女編~

五話 危ない帰り道

しおりを挟む

 頭に昇った血が爆発するように酒場を飛び出して私は吼える。

「誰だぁ! 私のカッコいい人形盗んだやつ!!」

「ヴィエリィ! 恥ずかしいからやめなさい! それに犯人なんかとっくにもうこの辺にはいないわよ!」

 バラコフは私を羽交はがい締めして暴れる猛牛をなだめるように抑えた。

「絶対この近くに犯人はいる筈だわ! 取っ捕まえて両足にロープくくりつけてひたすら殴ってその後、引きずって南大陸を横断してやらなきゃ気が済まないわ!」

「こわっ! まだ十九の乙女が使う言葉じゃないわよ!」

 朝一から騒ぐ私を港町の人達はみんな『またかしまし娘が何かやってるなぁ』と、いうような目で一瞥する。

 結局私は町の隅々を見て回ったが、ガチガチくんも犯人も見つからなかった。

 さようなら私のガチガチくん。さようなら十万Gという大金。犯人よ、必ず私はあなたをぶっ飛ばすことをここに固く誓うわ。

 私はがっかりと肩を落として帰路へとつく。これから村へ帰る足取りは、いつもよりも遥かに重いものであった。大事な人形と大金を失っただけで無く、おじいちゃんにうろうろくんが売れなかったことを報告するのがとても憂鬱だ。

 あれだけ大見得を切って村を飛び出したのに、このていたらくである。

「おじいちゃんにどういう顔して会えばいいのかしら……」

「流石のあんたもおじいさんには頭が上がらないわよねえ。やっぱり恐いもんなのかしら」

「おじいちゃんは私にとっては親みたいなもんだからね。恐い、というよりかは尊敬の方が勝ってるかな。頑固で融通がきかないけど、なんだかんだ言って私の師匠でもあるからね」

 私の両親は過去に西大陸へ出稼ぎに行った時に大きな落盤事故にあって亡くなってしまった。それからというもの、おじいちゃんが私の面倒を見てくれている。厳しく、頑固な教育方針は私を素直でまっすぐと育ててくれた。そこにはやはり感謝しかないのだ。

「あんたもおじいさんを想ってるなら、もうあんな人形を量産しないことね」

「それは断る」

「頑固、受け継いでるわねぇ……」

 私の夢はこんなことでは諦めきれない。絶対にあの村を発展させる名産品を生んでやるのだ。

「でもさ、私のうろうろくんは一個だけ売れたのよ? これってすごいと思わない? 世の中には私と同じセンスの持ち主がいるってことだよね!」

「そうね。相当に残念な奴がこの世のどっかにいるってことがわかったわね……」

「残念じゃないから!」

「無念ね」

 問答のような会話。私とバラコフはそんないつもの会話をしながら山道を歩いていると、前方からあまり見ない顔の男が歩いてきた。

「ありゃ、珍しいね。この先の道は私達の村しか無いのに誰かが来るなんて……。もしかして観光客かしら!」

「観光客なんて今まで来たことないでしょ……。行商人かなんかでしょう」

 私の期待とは裏腹にバラコフは答える。その男は薄い水色の髪に鏡のようなキラキラと反射する変てこな服を着た華奢な人であった。長いまつ毛をしたキザな顔立ちは女性からはモテそうだと思った。

「あらやだぁん。いい男じゃない!」

「えー? そう? 私はあんまりタイプじゃないかな。服の趣味悪いし。どっちかと言えば嫌いだわ」

「あんたの変な人形よりかはいいわよ」

「まだ言うか!」

 男はこちらに気づいたのか近づいてくる。私はその男にどこか妙な気配を感じて少しだけ身構えた。

「やあ。君達、この先の村の人かい?」

 男はまぶしい顔をして尋ねてくる。

「こんにちわぁん! あたしリリアン! お兄さん私達の村に行ってきたのぉ? 今は何も無いけどいい村だったでしょ? なんならあたしと村の歴史とかをお話ししないかしらぁん!」

 気持ちの悪い声でバラコフは言う。すると彼は鼻で笑いながらこう返す。

「ああ。本当に何も無い・・・・村だったよ。君達はあんな辺境に住んでいるのか。おかげでろくな物が盗れなかった。丁度いい、ここまで歩いて収穫が無いのもあれだ……足りない分は君達から貰うとしよう」

 男はさっきまでのまぶしい顔を裏返すように獲物を狩るような目で私達を見る。

「──お前! 泥棒か! 私達の村を荒らしたのか!」

「うっそ! やだぁん! あなた泥棒さんなの!? ちょっと聞いて無いわよぉ!」

「気持ち悪いオカマに若い娘か。オカマ、お前は金を素直に出せば見逃してやる。女、お前は中々スタイルも顔も良いな。俺の女にしてやるから大人しくしていれば乱暴は無い。拒否権は無いぞ。さっさとしろ」

 嫌悪感溢れる上からの目線とその口調。ああ、こいつはやっぱり私が大嫌いな奴だ。私が拳を構えようとするが、バラコフが前に出てそれを止めた。

「ヴィエリィ、下がってなさい。──あんたねえ。顔はいいかも知れないけど女の子の気持ちが全然わからないタイプね。あんたみたいな奴はあたしが成敗してあげるわ」

 バラコフはそう言うと指をポキポキた鳴らしてドスの利いた声を出して相手を睨んだ。オカマは怒らせると恐い。バラコフはこう見えて、いや別に以外でも何でも無いけど見た目どおり喧嘩が強い。

 子供の頃は線が細くて泣き虫でいじめられっこだったバラコフが、成長するにつれてこんなにもガタイがよくなったのは私も驚いている。もしあのまま、線の細いままで成長したらまだかわいいオカマになれたかも知れないのは言わないお約束だ。

「なんだ? オカマ、お前やるのか」

「やるわよ。言っとくけどあたし、強いわよ」

 バラコフは『ふん』と、気合いをいれると──その浅黒い筋肉がテラテラと浮き出る。

「おおっ。バラコフ、私もこいつ殴りたいからやりすぎないでね」

「リリアンって呼びなさい! それと女の子が殴るなんて言っちゃ駄目でしょ!」

 普通の人なら圧倒されるオカマと筋肉。しかし相手はそれを見ても涼しい顔をしていた。

「こいよ、キモいオカマ野郎」

「あたしは! か・わ・い・い! オカマだあぁああ!!」


 ドゴッ!!


 相手の胸にめり込むバラコフのこぶし。間違いなく決まった重い一撃。そして倒れる相手──……では無い。何故か、バラコフが地面にドサリと倒れたのだ。

「!? バラコフ!」

「ハッ。残念だったな。俺に攻撃は効かねえんだよバーカ」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...