ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~三章 復讐の乙女編~

二十六話 脱衣王ギャラス

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 二連敗! まるで子供のようにはしゃぎながらその手を観客に無邪気に振る町長と、それを受けて大盛り上がりする男達。裏の裏をかかれた攻防、どうやら敵もただでは勝たせてくれないらしい。

「さあヴィエリィ君! その靴を脱いで、そのカモシカのような細く白い脚を見せてくれ……!」

『そうだー! 脱げー!』

『生足生足ぃ!』

 ギャラス町長が言うと、周囲にはびこる野郎共も汚い言葉でまくしたてる。

「この変態ども……! くっ……ヴィエリィ、すまないわね……」

「大丈夫、平気よ。別にまだ負けた訳じゃないんだからこれからでしょ!」

 そう言ってバラコフの背中をバシンと叩いて私は気合いを入れる。履いてる靴を脱いでポイと投げ捨てると、観客はそれを見て猿のように喜ぶ。

「ふっふっふ。次に負けたらその上着のどちらかだ……! 覚悟はできてるね?」

「変態町長め! もうあんたには一勝もさせないわぁ! オカマの本気、見せたるわぁ!!」

 バチバチと火花を散らすようにバラコフは啖呵を切る。

「白熱して参りましたー!! ギャラス町長、背水の陣で二連勝! 調子が出てきました! 続く五回戦も勝利なるかー!? それでは、ネクストラウンド、いってみましょーーおう!!」

 五回戦──あいまみえる両者、その手は熱く、力がこもる。

「(あいつは三連続のパー……。ならば次はグーかチョキか……)」

 冷静に分析をする。流石にこの状況で四連続のパーは暴挙であろう。だが──

「(いや──こいつは押してくる……! 絶対にあり得ない四連続のパー……! こいつはそういう男っ……!)」

 それは無謀や強引の手。しかしながらバラコフはこの短時間でこの男、ギャラス町長を理解し始めていた。

 この男は腐っても勝負師ギャンブラーなのだ。仮にもこの町を仕切るだけと言うことがあるのか、その心の内は博徒の魂一色に染まっているのだろう。

 そして奴はこの土壇場、後が無いのをいいことにこちらの安定、確実、堅実な手の裏を突いてくるのだ。

 心が弱い方向に流れれば死ぬっ……! 今はそんな状況なのだ。だから奴は次の手も恐らくパー……! こちらの弱い心を狙い打つパー……!

 逃げる場面じゃない、立ち向かう場面なのだ。その暴挙、このチョキで討ち取る──!


『アウトォ! セーフ! よよいの──』


 勝ち気、勝つためのチョキ! オカマはその手に信念を乗せて振り下ろす──!


「「よぉい!!」」


 出されしは暴走を断ち切る鋭きチョキ──!


「────その意気、砕いてやろう」


 それは、こちらの手を読みきったかのような一言。言葉の先にあるのは互いの手。オカマのチョキと、町長の……グー・・である──!

「勝者! チャンプーー!!」

「なっ……にぃっ!?」

 オオオオオオーーーーッッ!!!!

 大歓声である! これで三連勝!! 町長の連勝に飲めや歌えやの騒ぎに会場は包まれた!

「そ、そんなぁ……!」

「はははは!! 私が四連続でパーを出すとでも? 馬鹿いっちゃいけないなあ! ここは冷静に他の手が定石だよ君ぃ!」

『よくやったー! いいぞ町長ー!』

『町長あんた流石だよ! さっさと脱げよおお!』

 読み合いの軍配はまたもギャラス町長に上がった。観衆は称賛の言葉を投げると、またも興奮するようにこちらの脱衣を促してくる。

「またしても! またまた勝ちです! 挑戦者チャレンジャー! 規定に従い、上着のどちらかをお脱ぎ下さい!」

「…………」

 私はしょうがなく自分のズボンに手を掛けると、それをゆっくりと下へとおろす。白い磨かれたような綺麗な太ももが徐々に顔を出すと、

 おおおおおおーーーー!!

 その一連の動作に男共は鼻の下を伸ばしながら食いつくように見てきた。女の私にはわからないがすごい反応だ。まるでその目は飢えた獣のような眼光、いや、それ以上か……。

 完璧にズボンを脱ぎ終わると、私は上に着ている服を下方向に手で引っ張りながら腰周りの下着を隠した。

『いーい生足だあ!』

『もっとくれよくれよくれよくれよ!』

『恥ずかしがってらあ! た、たかまる~う!』


 私のその姿を見て、変態発言がそこら中から聞こえてくる。

「……ごめんヴィエリィ」

「なーにへこんでるのよ! まだよ、まだ終わってないわ。大丈夫よ、あなたならやれるわ。自信を持ちなさい」

 私は平静をたもって語り掛ける。ここで慌ててはそれこそ奴の思うつぼだ。仕切り直すこと、それがいま一番大事な事である。

「ナイスだ……。すごくナイスだよ。その恥ずかしがる姿……それが見たくて、服を脱ぎ、恥ずかしがる女の子を見たくて私はこの勝負をやっているといっても過言では無いよ……」

「ふん。変態もここまで極まるとどうしようもないわね。次よ、次で勝つわ。うちのオカマをなめんじゃないわよ!」

「その格好で強がる姿……ナイスだねえ!」

 私の言葉をものともしない町長はいやらしい目で私の足を眺めてきた。

「これで挑戦者チャレンジャーのライフは残り三つ! あと三回負けたら終了です! ここまではチャンピオン怒涛の三連勝! この調子、どこまで昇るかあー!? それでは、試合も残り少なくなってきた六回戦! 両者かまえて下さい!!」

 六回戦が始まろうというのにバラコフの顔は青かった。よくない流れ、敵の連勝が気持ちを揺るがしている。

 勝負という概念には実力と運、そして目には見えないがその場の"流れ"というものが確かにあるのだ。それは周りの応援であったり、その日の体調であったり、または自分と相手の性格の相性……思考の構築によって産み出されるちょっとしたすれ違い、そんなちっぽけな事でも大局に置いては荒れる嵐の如く勝負の行方はわからなくなるものだ。

 そしてバラコフは今、その状況にいた。先ほどまでは自身の経験則に基づく心理戦を築いていたのに、気がつけば相手の手のひらの上で転がされているような感覚、出す手全てが裏を取られる錯覚に似た奇妙な流れ。

 往々にしてこの流れは十中八九負けるパターン。敵の手が闇に隠れ、自分だけが明るみに出て丸腰で勝負しているようなもの。

 勝つイメージ、それがまったく浮かばない。そんな不安だけが体に重石を巻くようにまとわりついている。

「(どうする……? どうするどうする!? 敵はまたグー……? いや、それともそれを読んでのパー……いやいや、さらに読んでのチョキ……なのか……?)」

「…………」

 まとまらない思考。町長は出す手が決まったのかはわからないが黙って渋い顔をする。バラコフは混乱をしていた。自分の手なのに、出す手が決まらないのだ。

「バラコフ! ごちゃごちゃ考えない! こういう時は出たとこ勝負よ!」

 彼の後ろから渇をいれる。オカマはその言葉でハッとすると、

「(そうねぇ……そうよねぇ。ここで変に考えるくらいならいっそ形を捨てる……! ここで出すべきは自分の一番好きな手──! これよ!)」


『よよいの──よぉい!!』


 出されしは……グー! それはオカマの信念の固さなのか、現状を打破するような気概のグー!

 対して! 町長の手──それは、

「──惜しい……実に惜しいよ。まっすぐ来たこと、それは評価しよう……! だが、現実は甘くないのだよっ……!」

 こちらをあざ笑うような広がった手、"パー"であった。

「勝者あ!! 我らの町長だああーー!!」

 ワアアアアアアアア!!

 オオオオオオーー!!

 これで四連勝……! 無法の四連勝……! 止まらない、止まらない──! 勝利の高波! それに乗りにのって町長はガッツポーズを高々と上げる!

「ぐっ……! また、また負けっ……!」

「強い……!」

 悔しがるバラコフとその土壇場である町長のジャンケンの強さに、敬意すら抱かせるような勝負強さに私は驚嘆する。

「さあ上も脱ぎたまえ……ヴィエリィ君!」

「くっ……」

 私は恥ずかしさを我慢しながら上も脱ぎ始める。これが例えば試合の最中に衣服が乱れて脱げたのなら羞恥心は無いのだが、自分から衣服を脱いで他人に見せるとなると話が変わってくる。

 自分から見せるという行為がこんなにも恥ずかしいものなのか、私は肌を露出させその下着だけとなったあられもない姿を大衆に晒した。

『うっおおおお!! いい! いい……!』

『でっっっっっ! えっっっっっっ!』

『ありがたやありがたや……』

 黒い上下の下着から見え隠れするのは大きな胸の谷間であり、後ろ髪が揺れると見える一瞬のうなじ、下着のきわどい食い込みからもれた柔らかな尻……。これほどのスタイルの女性は他にはそうはいまいと男達はますます興奮して奇声を上げるのだ。

「ナイスだ……。ナイスすぎる……! ヴィエリィ君、君は武術もすごいがスタイルもいいんだねえ! 見てくれ! 君のスタイルの良さに観客は増える一方だよ!」

 気づくと会場内は人で溢れかえっていた。明らかに最初よりも男達が増えている。席に座れない者は立ち見で、それもぎゅうぎゅう詰めである。恐らくは会場の外にも人が詰め寄せているのではなかろうかと云うほどだ。

「変態共め……! 見せ物じゃないのよ!」

「ははは! しかし変態が集まるからこそ君の報酬も上がるのだよ。この会場にいる全員分の入場料が君の勝った時の報酬になるのだ。これはかなりの金額にいくんじゃないかな? ま、勝てばの話しだがね」

 町長はそう言って軽快に笑うが、その目は笑ってはいなかった。それは獲物を刈る目、自分の勝利しか見てない傲慢で冷酷な目。私達は追い詰めたと思っていたのに、逆に追い詰められていたのかも知れない。

「これで君のライフはあと二つ! わかるね? 君は次に負ければ下着のどちらかを脱いで、更なる恥辱を味わい、その次で丸腰になるのだよ……!」

 ギャラス町長は垂れたよだれをすすりながら汚ならしく言ってくる。

「まだよ、まだ終わらせない……!」

 私は下着を隠すように右手で胸を隠して左手で下を隠す。しかしその姿自体が男達にはご褒美なのだ。全方位から視線の雨が私にそそがれる。

「わかってないな……! いま追い詰められているのは私では無く、君達だ……! この賭場に来たこと、それがもう間違い……! 改めて自己紹介だ。私はギャラス──この街の町長であり、チャンピオンだ。人は私をこう呼ぶ、脱衣王ギャラスとな!」




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