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~三章 復讐の乙女編~
三十七話 完治
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暗闇の中だ。ここはとても暗いところだ。意識だけがふわふわと浮いてるような感覚、そこに誰かが私を呼ぶのが聞こえた。
呼ぶ声は近くて遠いようなそんな声。そして段々とハッキリ聞こえてきた。
「……ヴィエリィよ──よくぞ呼吸を我がものとし、流術の奥義を開眼したな。わしは嬉しいぞ」
「おじいちゃん──!」
それは祖父の声であった。行方不明になった私のおじいちゃん──間違いはない。
「お前がまだ生きているのはこれまでの練習の賜物だ」
「おじいちゃんどこ!? どこにいるの!?」
「いいか、わかったと思うがお前より強い者はこの世にごまんといる。それをゆめゆめ忘れるな……武を極め、友を愛せ──」
────────────────
「──おじいちゃん!!」
「どわぁあっ!」
私はいなくなるような声の祖父を呼んでベッドから飛び起きた。
「え? あれ? ここどこ?」
乾いた木の匂いが広がる部屋のベッドの上、私は混乱していると横にはひっくり返ったバラコフがいた。
「何してんの? バラコフ」
「リリアンよぉ! あんたがやっと起きたと思ったらいきなり叫ぶからびっくりしたわよぉ!」
「ん? そういえばなんか夢を見てたような……。うーん思い出せない……」
頭をぽりぽりとかいて思い出そうとするが、起きたばかりでうまく頭が回らない。
「ヴィエリィ! やっと起きましたか!」
「ヴィエリィ──ヨカッタ。身体ハ、大丈夫デスカ」
「あ! カー君! サンゴー! なんだかずいぶん久しぶりのような変な感じだわ……?」
一気に賑やかになる部屋で私はまだ今の状況がよくのみこめない。
「当たり前よぉ。あんた三日間も寝てたのよぉん。しかし──よく生きてたわねぇ、あんたのおかげでみんな助かった。ありがとヴィエリィ」
「え、三日間……? なんで私そんな寝て──」
バラコフの言葉にどこか引っ掛かった。その刹那、自分の脳内に先日の死闘が雷に打たれたようにフラッシュバックした。
「あーーーー!! あいつは!!?? 勝負は!? どうなって……」
私はベッドから跳ねるように立ち上がる。そして私が求める回答は部屋にいるみんなの顔が物語っていた。
「…………そうか。私、負けたのか……」
「それは違いますよ、ヴィエリィ」
「そうよぉ! カーニヒア様の言ってる通りあんたは負けてなんかないわぁ! 現にこうやってみんな生きてるんだものぉ! これを勝利と呼ばずに何と呼ぶのよぉ!」
「ヴィエリィ……私ハ、動ケマセンデシタガ、アナタノ闘イヲ見テマシタ。内容ハ互角ト言ッテモ過言デハ無カッタデス。私ハ、マタヴィエリィニ助ケラレマシタ。アリガトウ、ヴィエリィ」
落ち込む私を仲間達が励ます。握り拳を力強く震わせると私は歯を食いしばった。
「──ありがとうみんな……。でも、これほど悔しいことはないわ。今まで武術では絶対に負け無い、それだけを誇りに生きてきたから、やっぱりなんていうか、言葉にできない悔しさが腹の中をいっぱいにして口から吐き出しそうなほど…………悔しい……!」
「バッカ! あんたねぇ! あの男だってもうあたし達の止めなんか刺せないくらいふらふらだったってのぉ! あいつは俺の勝ちとか言ってたけどこんなもん"引き分け"よ!引き分け!」
「バラ……リリアンさんの言う通りだね。ヴィエリィ、あなたはやはり凄い武人だ。私ではあの男に手も足も出なかったのだから……」
バラコフとカーニヒアはまっすぐと私の目を見て言ってきた。でも、私はこう言った。
「……それでも、最後に立ってたのはヴライで間違い無いわ。いつの世も、勝者は敗者を見下ろすものよ。──私はこの『敗北』を胸に刻む必要がある。大切なのは受け入れる"勇気"だ……私は素直に未熟さを噛み締めて、自分を奮い起たせて更に上を目指すことにするよ」
「ヴィエリィ──殊勝デスネ。機会デアル私ノ胸ニモ、ソノ魂ノ熱サガ伝ワッテクルヨウデス」
「……はは! ありがとサンゴー。よーし! 次は絶対勝つ!!」
「あんたもほんとこりないわねぇ……。あいつは言ってたわ、次に会うときが真の決着だって……。旅をしてればいつか何処かで会えるかもねぇ……あたしゃごめんだけどね!!」
やっと私の顔に笑顔が戻ると、みんなはやれやれといった感じで一緒に笑った。
「でもあいつなんでサンちゃんを狙ってたのかしらぁ?」
「アノ男ハ、正確ニ私ノ弱点ヲ突イテ来マシタ。マルデ以前カラ知ッテルヨウナ、ソンナ素振リデシタ」
「そうだね……。でも大丈夫! 次は勝ってちゃんと聞いてみるから! あっそうだ、カー君あのねサンゴーは……」
「大丈夫よ。サンちゃんのことはあたしがもう説明済みよぉ。それより村のことを調べるのが最優先! あたし達の旅の目的はあんな男に構ってなんかられないわよぉ!」
バラコフが興奮気味に言うと、部屋の出入口から小太りの男がやって来た。
「アイヤー! お嬢ちゃんやっと起きたネ! よかったよかったネ!」
「……? この人は?」
「あんたの命の恩人、アンジョンちゃんよ。感謝しなさい」
「そうなのね! ありがとう! アンジョンさん!」
「別にいいアルよ! 友達の友達困ってたらお互い様ヨ! それにしても凄いネ! 普通なら死んでもおかしくないのに、もう完治と言っていいほど回復するなんてビックリ仰天ネ!」
アンジョンはそう言うとにこやかに私の手をとって握手してきた。
「話しは色々とリリアンちゃんから聞いているアルよ。村の人達がいなくなって大変なんだってネ。ワタシも方々に出張に行くから噂は聞いたことあるネ。服だけ残して消えるなんて怖いネ……」
「ヴィエリィ、私も色々と調べてこのパラカトの町まで来ました。調べたその結果、驚くことがわかりました。どうやらここ最近でヴァスコ村のように住民が消えた村が三つもあるのです」
「なんですって!?」
カーニヒアの言葉に私は目を丸くする。
「私はその内の一つの村を訪ねたのですが……そこにはつい先日まで普通に生活していたような痕跡、そして村人全員とも呼べるほどの衣服がそこかしこに散乱していました。もちろん人は誰もいなかったです……。まだ調査中ですが、調べればもっと同じ状況の村が出てくるかも知れません」
「これはおかしいことよぉヴィエリィ。私達のど田舎だけじゃなく、この南大陸のあちこちでおかしな事件が起きてるみたいねぇ……」
刻一刻と深刻になる事件は私達の予想を遥かに越える事態と化していた。誰もが眉間にシワを寄せ、押し黙る。
「早く……解決しなきゃいけないね。──よし! みんな出発よ! さあさあ! ボサッとしてられないわよ!」
目指すは『ブリガディーロ遺跡』──五十年前にこの遺跡の近辺で起きた事件、まずはそれを洗うのだ。
そして私達はその日のうちにパラカトの町から馬車に乗り、再び長旅を再開させた。
──そう、次に向かう所での衝撃など知らずに…………。
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