ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~四章 忘却の男編~

五話 雪の盗賊

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──────────────────


 また深い眠りが今日も僕を迎える。夜から朝にかけるこの刹那的であり、悠久でもあるようなこの時間は僕にまた例の夢を見せるのだ。

 黄金に染まる花畑、澄み渡る青空、誰もいないこの静かで何とも心地の良い空間の中に僕はいる。

 いつもの夢と同じ、しかし見飽きる事の無い美しき景色、そして決まって必ずその花畑の中心にいるのが安楽椅子に座った謎の人物──。


『──お前は、必ずここに戻って来る。ここに戻って来なくてはいけないのだ』



 見知らぬ誰かのその言葉を境に、僕は再び忘却した現実へと引き戻されるのだ────。


──────────────────



「──さん! ハザマさん! 起きて下さい!」

「…………あ……朝か……」

 ファリアの呼び掛けで目を開けると、僕はまた見慣れぬベッドの上にいた。ぼんやりとする思考、ここはどこなのか……僕は目を遠くさせる。

「ここは……」

「うふふ。ハザマさんまだ寝ぼけてますね。ここはロトルです。昨日の夜にこの町へ着いて、そのまま宿屋に入ってすぐ眠ってしまったじゃないですか」

 ああ、そう言えばそうだったと僕はやっと状況を理解する。なんせ起きる瞬間までは僕は夢の中でどこか綺麗な絶景にいるもんだから現実とのギャップに少々違和感があるのだ。

「……どうしたんですか? ぼーっとして」

「あ、ああいや何でも無い……。なんだか不思議な夢を見ていてね……」

 僕はベッドから起き上がって少し身体を伸ばすと、上着を着て部屋の窓の外を覗いた。ロトルの町は家々の出入口が少し小高い設計で作られた町である。それは扉が雪に埋もれてしまわないように作られた設計で、今日も雪は朝からしんしんと降り注いでおり、どの家の屋根からも暖炉の煙がもくもくと空へと昇っている。

「静かでいい町だね。ちょっと寒いけど」

「ロトルにはたまに買い物で来るけどいい町ですよ。観光的な見所は無いですが人が優しく平和な町です。ここで少し色んな話しを聞きましょう」

「そうだね。ここ最近で変わった事がないか聞いてみよう」

 僕は身支度をすませると、二階にある部屋から彼女と宿屋の下に降りる。

「ハザマさんお腹減ってませんか? 朝食はどうします?」

「あとでパンでも買って簡単に食べるよ。ファリアは?」

「私はもう頂いたので大丈夫です。それじゃあ外に出ましょうか」

 宿の外へ出ると一気に凍てつく空気が顔面を襲った。耳の先まで冷えるこの空気はやはりまだ慣れない。白い息を吐きながら僕と彼女は町の広場の方まで歩く。

「そう言えばファリア、宿代なんだが……」

「宿代?」

「いや、僕は昨日ちゃんと払ったかなと思って……」

「ハザマさん忘れちゃったんですか? 昨日の夜、私がハザマさんの分も一緒に出そうとしたら『自分の分は自分で出す』って言って払ったじゃないですか」

 彼女が答えると、僕は一瞬混乱した。

「えっ、でも僕はお金なんて……」

 僕は自分のポケットに手を入れると、そこに何か・・があるのを感じてそれを引っ張り出した。

 その何かは二十枚ほどの紙幣であった。しかも一番高い一万Gゴールドの万札、それが僕のポケットに無造作に入っていたのだ。

「あれ……? なんだこのお金──僕、こんな持ってたっけ……?」

「私もびっくりしましたよ。ハザマさん結構手持ちがあるんですね! これならこの先の旅もそこまで心配なさそうですね」

 まったく記憶に無いがどうやらこれは僕の所持金らしい。記憶を失う前に手にしていたものだろうが、とにかくこれは幸いだ。所持金無しなんて事よりはよっぽど役に立つ。不幸中の幸いだと思って僕はこの事に感謝した。

「ハザマさん。広場にいる人達に話しを聞いてみましょう」

 町の広場に着くと朝から散歩や買い出しに出てる人達がちらほら見られる。僕は道行く通行人の一人に声をかけて、最近この辺りで何か変わった事などはないかとを聞いてみる。

「変わったことねえ……うーん……あっそうそう! 最近なんだけどねこの辺りに盗賊が出るんだ」

 通行人の男性は思い出したようにそれを言った。

「盗賊? 危険な奴なんですか?」

「いやあ自分は被害にあった事は無いから何とも言えないがね、何でも単独で行動する凄腕の盗賊らしくてそいつに狙われたら必ず自分の大事なものを盗まれちまうらしいんだ。昨夜も酒場で飲んでた奴が帰り道に襲われて金を持っていかれたらしい。そいつは賭け事で勝ったらしくて大金を持っててな、たぶんずっと狙われてたんだろうなあ」

「なるほどそんなことが……それで襲われた人はどうなったんです?」

「ああそれなら大丈夫だ。後ろから殴られて気絶させられただけで、命までは取られなかったよ。ただ大金を奪われたのが痛手でな、そいつは朝早くに"ザカン"の方まで出稼ぎに行っちまったよ。あんたらも何か調べてるんならこんな小さな町じゃなくてザカンの方へ行った方がいいよ、あそこなら人も沢山いるからな」

 男性は僕達にそう伝えると去って行った。僕は今の会話で気になった事をファリアに聞こうとして彼女を見た。

「盗賊……盗賊か。ファリア、たぶんだがそいつは君のおじいさんを殺した犯人じゃないと思う。もし犯人が盗賊なら金品を奪ってた筈だ。しかし現場を見る限りではその痕跡は無かったからね、犯人はもっと別の人物だろう」

 僕は自分の考えを彼女に言う。

「私もそう思います。あの小屋の中はまったく荒らされていませんでしたからね。もう少し色んな人に聞いてみましょう」

              ・

「……手がかかり無しか」

「そうですね……。駄目みたいです」

 僕達はその後も数時間ほど市場や行商人、パン屋から酒場まで聞き込みをしたが、今このロトルでは盗賊の話し以外の情報は何一つ得られなかった。

「そう言えばファリア、ザカンってどこなんだい?」

「ザカンですか。ザカンはここから東に向かって二日ほど歩くと着く大きな町です」

「そうか……。この町で有力な情報を得られないならそちらに向かった方がいいかもね」

 僕は途中で買ったパンをつまみながらポツリと口にする。

「それならばハザマさん、急ぎましょう。町の人達の話しでは私達のような旅人も盗賊に狙われてるみたいですから、この町からは早く出た方がいいかも知れません」

「そうか、そうだね。ならザカンに行こう」

 僕は彼女が不安そうに言うのでその提案に乗る。僕としてもできれば盗賊なんかには会いたくない。僕達は昼過ぎのロトルの町からまた外の雪原へと出る。

「この道を道なりに行けばザカンに着きます」

「へえ、しっかりした道じゃないか」

 ザカンまでの道はここまでの悪路と違って除雪された幅広い道がまっすぐと延びている。

「この道は商人達が往来する道ですからね。結構しっかり作られているんです。でも気をつけて行きましょうね、盗賊が近くにいるかも知れません」

「大丈夫、ファリアは僕が守るよ。命の恩人だからね、何としても守ってみせるさ」

 僕が大層なことを言うと、ファリアは少し恥ずかしそうにうつむいた。僕は自信ありげに彼女を守ると言ったが正直僕は弱いと思う。でも、だからこそ彼女を全力で守らなければならない。仮に盗賊が襲って来たとしたらこの命に代えても彼女だけは助けようと僕は心に誓った。

 景色の変わらない雪原の道をひたすらに進む。しばらく歩きながら彼女に僕は質問をしながら足を動かす。

「ザカンまでは歩いて二日なんだろう? 今夜はどこに泊まるんだ?」

「それなら安心して下さい。この先に旅人や商人達が宿泊できる簡素な小屋があります。今夜はそこで過ごして明日の朝にまた出発といった感じですね」

 雪国ならではの簡易宿泊所という訳か。僕は納得しながら歩を進める。他にも僕は彼女にこの大陸の食べ物や文化について雑談をしながら歩いていると、道の先から一人のローブを被った旅人らしき人物が歩いてきた。

「あら、旅人さんでしょうか。こっちの方に来るのは珍しいですね……」

 ファリアが言うと、僕も足早に歩いて来るフードの人物を見る。


『──気をつけろ……』


「えっ? ファリアいま何て……」

「? どうしたんですかハザマさん?」

 ──誰かの声が聞こえた。それは急に声をかけられたような感覚、そして何か忠告のような言葉。周りを見渡すが僕とファリア以外は誰もいない。僕は不思議に思いながらまた正面を見ると──


『避けろ──!』


 ハッキリとした言葉が僕の身体に響いた。僕はその言葉に驚くが、その何者かの声のおかげで正面から斬りかかってきた攻撃を咄嗟に後方へ跳んで避けられた。

「ハザマさん!」

「敵か!?」

 僕にいきなり攻撃して来たのは正面から歩いて来たフードを被った旅人であった。

「あらら、やるねえ。当たったと思ったのにギリギリで避けるとは……中々のやり手かい?」

 その者は右手に持った短剣をくるくると回しながら言う。ゆらりと動く左手でフードを取ると、中からは茶髪の若そうな男がニヤリと笑いながらこちらを見てきた。

「ファリア下がって! 何者だ!」

「はは、なあにあっしはただのケチな盗賊ですよ。旦那から金の臭いがしますんで襲わせてもらいやした。大人しく金目のもんを出してくれれば痛い目は無しでさあ……どうしやす? あっしと戦いやすか──?」




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