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~四章 忘却の男編~
十一話 黄金の女帝マダム・シアラー
しおりを挟む奇妙な再会であった。茶髪の男は僕の姿を見て最初こそ驚いていたが、次の瞬間には今にも斬りかかってきそうな雰囲気を醸し出し空気を震わせた。
「なぜお前がここにいる。答えろ」
返答次第では僕の首は床へと落ちるだろう。全身から汗が吹き出る。この男はこの豪邸を守る用心棒なのだろうか? それならば誠意をもって謝らなければならない。僕は入ってはいけない部屋へと今入っているのだからである。
「僕は──」
バッ
僕が口を開くと同時に部屋の灯りが急に点いた。改めて広間を見ると、壁際には眩しいほどの沢山の黄金の彫像が並び、他にも美しい金色の壺や絵画、加工されたかのような金の花の束が部屋を黄金一色に染めるように飾ってある。
「!? ──ちっ!」
茶髪の男が明るくなった広間を見て大きく舌打ちすると、広間の入り口からシアラーさんがメイドを三人ほど引き連れて優雅に入って来た。
「あらまあ。こそこそとネズミが入り込んだと思ったら、まさか二匹もいるなんて思いませんことよ」
シアラーさんは僕とその茶髪の男をじろりと見ながら言った。
「そこのあなた、どこのスパイかしら? まあ、大方予想はついていますわ。白状した方が身のためですわよ」
マダムの目がより一層厳しく男を見ると、男は睨み返して僕に向けていた剣を下げて彼女へと向けた。
「……なるほどな。どうやら最近、北の大陸が各大陸から武器や資源を大量に黄金と交換していると聞いたが、やはりここにその秘密があるらしいな。北の大陸には元々そんなに金の採掘が出来るような所では無い。マダム・シアラー、あなたがあの莫大な量の黄金を生み出しているのだろう?」
茶髪の男は毅然とした態度で言う。
「東からのスパイのくせによく知っていますわね。下調べは万全……と言った感じかしら。褒めて差し上げましょう」
「……見つかるつもりは無かったがな。しかし収穫はあった。私の任務は偵察にすぎないからな。ここで失礼させてもらうぞ──!」
男はそう言うと外に通じる大きな窓ガラスの方へと走る。おそらくガラスをぶち破って逃げるつもりであろう。
「ふっ!」
男が肩口から勢いよく窓ガラスに体当たりをかける──すると、
ドガッ!
──と、窓ガラスから予想外の鈍い音がしたのだ。そして体当たりをした男は跳ね返されるように尻餅をついて窓ガラスの前へと倒れる。
「な、なに!?」
大の男が体当たりしても破れない。それは窓ガラスの形をしていてガラスでは無かった。否、それは先程までは確かにそれはガラスであったのだが──
「これは……金だ……。金の、壁だ……」
男は窓ガラスへと手を向けて触り、叩く。それはまごうことなく黄金である。さっきまで薄く透明なガラスは金の分厚い壁と化していたのだ。
「ほほほほ。どこへ行こうと言うんですの? あなたはここからは二度と出られませんことよ」
マダムは優雅に笑いながら男に言う。
「シアラーさん! これはいったい……それに、あのファリアの彫像はなんですか? 彼女はいったいどこに──」
「あら……そういえばもう一匹ネズミがいたのを忘れてたわ。あなたの彼女なら、ほらそこにいるじゃないの」
マダムは太い指でファリアの彫像に指差す。僕はそれを聞いてますます混乱をする。
「……え? それは、どういう……」
『正面! 下から来ている! 攻撃されるぞ!!』
会話を裂く声が僕の頭に響いた。僕は視線を下に落とすと、マダムの足下にある赤いカーペットが敷かれる床から金色の水銀のようなものが浸水するように僕に向かって延びてくるのがわかった。
「──っ!?」
加速し、襲うようにその金色の何かは僕の足に絡みつこうとしたが、僕はギリギリでそれを後ろに跳んで避けてみせる。
「……勘がいいのか悪いのか、あなたわからないわねえ」
「マダム、あなたは……」
「そうですわよ。私はシアラー、ひとよんで黄金の女帝マダム・シアラー。"逸脱"でしてよ。そしてこれが私の能力──『増殖金』。私の操る金に触れたものはどんなものでも黄金になる!」
マダムは手を大きく広げると、部屋中がみるみるうちに金色に染まり始める。扉も床も、赤いカーペットさえも金色に染まる!
僕はその能力に圧巻された。間違いなくそれは自分が戦ったあのガンツとかいう盗賊よりも格段に上──もの凄い能力であったからだ。それと同時に僕は絶望もする。それは自分の横にあるこのファリアそっくりの彫像はまさに彼女本人であるからだ。彼女はマダムの手によって黄金にされてしまったのだ。
「くそ……! 退路を塞がれたか!」
「ファリア……! マダム・シアラー! あなたは何故こんなことをするんだ!」
僕と茶髪の男は互いに苦しく息を巻く。マダムはそれを見てほくそ笑んだ。
「私は黄金が大好きだからですわ。だからあなたようなふらふらとさ迷う旅人を見つけては黄金に変えて私はコレクションにしたり、できの悪い造形ならば売りさばいてこの大陸の経済を回してあげてるんですわよ。旅人や身分の低い者は例え急にいなくなっても足がつきにくい……。人が"金"に変わるだけの話し、幸福度が薄い人生を送るくらいなら黄金になった方が世のため人のため、そして私のため。安心なさい、あなたも黄金にしてこの娘と並べて飾ってあげますわ」
マダムが手で合図をすると、三人のメイド達が細い金の剣を持ってこちらに飛びかかってきた。
「(や、やられる!)」
僕は何とかしようとするが、いつもの頭に響く何者かの助言は無い。三人のメイドがその剣を三方向から僕の身体めがけて切り裂こうとした。
「はっ──!」
キキィンッ──!
鋭い音が鳴り、ばらばらと細い金の剣が床に散らばった。
「助かった……」
僕を死の寸前で助けたのは茶髪の男であった。
「おい! 逃げるぞ!」
男は僕に急かすように言うと、僕の腕を引っ張って開いていた広間の入り口の扉の方へと走る。
「ほほほ。この黄金邸で鬼ごっことは笑わせますわ。逃げれるものなら逃げてみなさいな」
広間を飛び出した僕達をマダムはただあざ笑うだけで追わない。僕と茶髪の男はすぐに階段を降りて敵から距離を取った。
「まっ、待ってくれ! あそこにはまだファリアが……」
「気持ちはわかるがそれは後だ! 第一お前に何ができる! 今はここから出ることを考えろ!」
僕は男の気迫に諭される。悔しいが男の言う通りだ。無力な僕は現にメイドの攻撃さえも躱せなかった。僕は引っ張られて一階にある正面の出入口へとやってくると、男は扉を思い切り蹴りあげる。
ドガッ! ドガッ!
──何度も蹴るが、扉はびくともしなかった。それもそのはず、扉はすでに壁と一体になるように厚い黄金と化していたのだ。さらに扉だけでは無い、よく見るとそこかしこの窓や扉が黄金の壁となっているのだ。
「くそっ! 窓も駄目、扉も駄目か……!」
「そんな……ここからは出られないのか……!」
僕と男は落胆する。今やこの豪邸は黄金の壁に囲まれた迷路のような作りとなっていたのだ。
「いったいどうすれば──」
二人は困る顔をするが、しかしそんな呑気には構えてられなかった。僕達が降りてきた階段の上から物音がする。さっきのメイドが追いかけて来たのだ。
「ぼやぼやしてられんか……おい! こっちだ」
男は僕の肩を叩くと一階の廊下の奥へと走り出す。僕は慌てて着いていくと、その時例の声が頭に響く。
『……待ち伏せだ──奥の角にいるぞ!』
その声を聞いて僕は足を止め、腹一杯叫ぶ。
「奥の角にいます! 待ち伏せされてる!」
「なにっ!?」
男はあと少しで廊下奥の角を曲がろうとした所で急停止する。その瞬間一人のメイドが男めがけて斬りかかってきたのである。
「危ない!」
僕が叫ぶと、男は腰に携えた剣を思い切り振った。
「『衝波斬』!!」
男が振った剣先から空気を震わせる衝撃の波が出た。その衝撃の波はメイドに向かって激しく当たると、メイドは吹っ飛んで壁へと叩きつけられたのだ!
「なんだ!? 剣から!?」
僕は男のその技を見て驚くと、
「悪いな、俺も逸脱なんだ」
そう言って男は剣を鞘にしまう。男もまた、強者であったのだ。
「……助かった。お前が教えてくれなきゃ私は殺られてたかも知れん」
「僕の方こそあなたがいなかったらもう死んでいる。助けてくれてありがとうございます」
僕は初めて男が見せたその清らかな目を見て答える。
「……名前を聞いてもいいか?」
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