143 / 157
~四章 忘却の男編~
二十二話 誰の声
しおりを挟む「マルセロ!」
間際の一撃、ヨルゲンセンは雷の如き剣閃にて文字通りの半身となり冷たき地面へと落ちると、墓地を埋め尽くす亡者達も崩れ去るように倒れ始める。亡者が倒れ行く中でレジーナはすぐに負傷をした彼の元へと駆けていく。
「レジーナ……」
「マルセロ……」
右目からボタボタと落ちる血を彼は片手で押さえながら彼女と熱い抱擁をした。
「よかった……勝てたんですね、私たち」
「……ああ。危ない所だった」
まさにギリギリの幕切れである。この勝利の鍵は間違いなく彼女、レジーナであろう。彼女があの自身の身を投げる覚悟と決意がなければ僕達はあの亡者達にやられていた。そしてマルセロの剣術という決定打もなければどうしようも無かったであろう。
「…………」
「ハザマさん? どうしたんですか?」
「あぁ、いや……」
……激しい自己嫌悪が僕を襲った。僕は彼の助けになると思ってここへと来たのに、結局なにもできず足を引っ張るだけであった。僕は自分の能力を過信していた。あの天の声さえあればきっと上手くいく、助けてくれる。そういった考えがすでに"甘え"だったのだ。
結局それは僕の力では無く、最終的には他人任せなのだ。そもそもあの謎の声自体に頼りきっている。それに、今回の戦いでわかった事もある。
あの天の声は、決して他者を助けるものでは無い。あの声は僕だけを助ける声なのだ。前のようにマダム・シアラーの豪邸のように逃げ場が無い状況では戦う選択肢をくれるかも知れないが、今回のように逃げられる選択肢があるのならばあの声は他人を犠牲にしてでも僕を生存させる助言しかくれないのだ。
ますます僕はこの声がわからなくなってきた。天の声は僕自身の本意なのか? それならば僕はなんと冷たい人間だ。それとも記憶を失っているからわからないだけなのか、僕は本当は酷く冷酷な人間性なのかも知れない。
そう考えると、願わくばこの声は他人が僕に命令しているものだと僕は強く思う。その方がまだ自我を保てる。僕はまだ僕を信じられる──
「……さん? ハザマさん!」
「──!」
ファリアが青ざめた僕を見て声をかけてるのに僕は気づいた。
「ハザマさんどうしたんですか。顔色が……まさか怪我でもしてるのですか!?」
「いや、大丈夫。ありがとうファリア。戦いが終わって少し気が抜けていただけさ……」
心配そうにする彼女に僕は作り笑いをしてごまかす。
「二人ともありがとう。おかげでレジーナを助けられた。礼を言わせてもらう」
レジーナに支えられたマルセロが僕達に言うと、
「よしてくれマルセロ。……あんな根拠も無い大言を吐いて僕は足を引っ張っただけだ。いま僕はとても恥ずかしい気分だ……ことごとく自分の無力さを痛感しているよ」
「私もです。レジーナさんの救出をお助けできると思ったのに何にもできなくて……」
僕達はうつむいて申し訳なさそうに言う。しかしマルセロは首を横に振った。
「そんな事はない。君達は充分に役に立ってくれた。あの無数の亡者達を僕一人では決して相手できない。君達がいたから敵を分散できた。だからそんなに気を落とさないでくれ」
「そうよ。あなた達のそのここへ来てくれた気持ちだけでも私はとても嬉しい。マルセロを助けてくれてありがとう」
マルセロとレジーナはにこりと笑って答えてくれた。彼らのその言葉に多少は救われたのか、僕とファリアの口元にも少しばかりの笑みが出た。
「街に戻りましょう。マルセロの手当てもしなきゃだわ」
そうレジーナが言うと僕達は冷たく暗い墓地を後にした。
────ペミル街
街へと戻り、一夜を明かす。いつもの夢を見ながら目を覚ますと、翌日の朝には人々が朝からせわしなく働くなんてことの無い日常が宿屋の窓から見えた。
──僕は迷っていた。これから先、ファリアを守れるのかと。この己の非力さで何ができる。あの僕の能力なのかわからない謎の声は、いつか彼女を殺すような選択をするのだろうか? 僕だけが助かる無慈悲で残酷な未来が待っているのかと思うと僕は宿屋のベッドの上で震えた。
「ハザマさーん。おはようございます。起きてますか?」
扉の外からファリアの声が聞こえると、僕はゆっくりと起き上がって扉を開ける。
「おはよう……ファリア」
「おはようございますハザマさん。早速ですがマルセロさんの様子を見に行きませんか?」
「……そうだね、そうしよう」
いつもより少し暗い面持ちで僕は身支度をすると、ファリアと共に宿を出る。
僕達は昨夜医者へと担ぎ込まれたマルセロを案じて様子を見に行くと、彼は負傷した右目を包帯でぐるりと巻かれてベッドの上にいた。
「やあ、君達おはよう」
「あら早いわね。おはよう」
介抱していたレジーナさんと一緒に挨拶を交わす。
「マルセロさん……やっぱりその目は……」
「ああ。血は止まったがね、しかしどうやらもう見えなくなってしまったようだ」
ファリアがおそるおそる聞くと、彼は自分の事なのにまるで何事もなさげにさらりと言う。
「マルセロ……」
「そんな顔をしないでくれよ。右目くらい、彼女を助けられたのだから安いものさ。むしろ腕や足じゃなくて助かった。僕の剣は速さが売りだ。剣術に支障が出る四肢じゃなくてよかったよ」
僕の暗い顔を見てマルセロはクールに笑いとばした。
「……君は強いな、マルセロ」
「──そんなことないさ。むしろ己が弱いとわかっているから修行してるんだ僕は。ハザマ、君も自分の愛する者が窮地に陥るならばその身を燃やしても戦う筈だ。違うかい」
マルセロは残った左目で僕を強く見つめる。
「……そうだね。僕もそうでありたい。ありがとうマルセロ」
僕は彼が差し出した手を握って力強く握手した。
「マルセロさんとレジーナさんはこれからどうされるのですか?」
「予定通りこれから彼女と西大陸へと向かうよ」
「もう私達を邪魔してくる人はいない。マルセロのこの怪我が落ち着き次第、ゆっくり旅をするわ。あなた達はどうするの?」
ファリアが聞くと二人は微笑みながら言う。
「私は昨夜にお二人から聞いた北東の村へと行ってみたいと思います。そこならもしかしておじいちゃんを殺した犯人がいるかも知れません」
「そうか……なら、君が守ってやらなきゃなハザマ」
マルセロは僕に向かって言う。その目には期待のような励ましが込められている。
「……ああ! ファリア、僕ももちろんお供するよ」
「ハザマさん……」
彼の言葉に答え、ファリアのためにと僕は決意する。そうだ、マルセロの言うとおりだ。この先何が起こるかわからないのに僕だけがこんな不安な気持ちでどうする。僕は彼のその凛々しく芯の強い心と言葉に自分を奮起させた。
「君達の旅が幸福であらん事を願うよ。ハザマ、君は決して弱くなんてない。誰かを守るその気持ちさえあれば人の可能性は無限大だと僕は思っているよ」
「ありがとうマルセロ……。レジーナさんと平和な旅と西大陸での幸せな生活を祈っているよ」
──こうして、僕とファリアは街から離れた。顔立ちのいい銀の剣士と歌姫に別れと礼を言いながら手を振った。
旅とは一期一会、これから彼等に会うことは二度とも無いかも知れないが、その刹那の会合で人はまた成長できる。
僕の、この誰の声やも知れぬこの能力ももしかしたら旅の中で会えるのかもと、僕はファリアと共に雪原をまた歩き出すのである。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる