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~四章 忘却の男編~
二十六話 新手
しおりを挟むちらついていた雪が少し吹雪いてきた。二人の男がその凍てつく空気の中で対峙すると、まるでそこだけがごうごうと燃えるような熱気を発しているようだ。
「──その闘気、只者には出せん。そこな男、死にゆく前に名くらいは聞いてやろう」
モストボイ将軍が白馬の上で目を細めて剛槍を強く握りしめながら問う。男は将軍とは違い丸腰だ。それどころかこの北の大陸には見合わない軽装、それが故にどこか不気味さを感じさせられる。
「貴様が俺を満足させてくれるなら後でいくらでも名乗ってやる。モストボイとか言ったな。その槍で俺を穿てるものならやってみろ。その前に貴様はこの冷たい地面に転がっているだろうな」
将軍のあの剛槍を見ても男は何一つ顔色を変えない。それはよほどの自信があるのか、強固なる信念に基づいての態度の現れか。男は腰を少しだけ落とし、静かに構える。
「将軍! 我々も助力します!」
騎士達がそう言うと囲むように男を包囲したが、
「下がれえええい!!」
将軍の怒号がまた周囲に響き渡った。
「手出しは無用! それにこの男はお前達の手に余る! 死合う前に敵の力量を測るのも戦闘の基礎、自らの力及ばざるならばここは"見"にて学ぶ場と思え!」
「……はっ!」
将軍はギロリと睨んで命令を下すと、騎士達は構えていた槍を降ろして数歩下がって将軍と男から距離を置いた。
「ふっ。別に全員でかかってきても構わんのだぞ」
「ぬかせ。このモストボイ、部下をみすみすと死なせるほど愚かではない。この戦に他力は無用。タイマンにて死合うが華よ」
「ほう、その心意気良し──楽しくなれそうだ」
もはや二人の間に言葉はいらない。その場の空気が伝える情報は出し尽くした。将軍の剛槍が男を裂くか、それともこの男が将軍を何らかの方法で地に伏せるかはわからない。
「ハザマさん……!」
ファリアが小さい声を出しながら僕の服の袖を引っ張った。目と目が合う僕達が言葉に出さずとも行きつく答えはこの混乱に乗じてこの場から逃げることだ。将軍がこのよくわからない危なそうな男と激しく戦い始めたら、僕はファリアを連れて村の建物の物陰に隠れながらこの場を離脱しようと画策する。
そしてその時は、今まさにぶつかろうとする二人の剛の者が溢れんばかりの闘気で物語る。戦いに関しては素人の僕だが、何故かわかる。この二人の戦いは間違いなく壮絶な死闘になるだろう。そんな予感のようなものがこの場にいる全員が言わずもがな感じていた。
将軍が構え、男が構え、周りの騎士達が固唾を呑みながら見守り、僕とファリアが息を合わせて逃げる準備をした────その時であった。
──ピッ──ジュウウウ……
一瞬、何かが赤く光った。そして何かが焼けるような音がした。
……そして、全員が目を丸くした。大きな白馬の上で剛槍を構えていたモストボイ将軍がぐらりと体制を崩すと、まるで倒れるように地面へと落ちたのだ。
「──しょ、将軍!!」
騎士達が一斉に将軍の元へと駆ける。
「なっなんだ!?」
予想外の事態に僕は慌てる。まだ、何も始まってないのに将軍が一人でに倒れた。僕は男が何らかの攻撃を仕掛けたのかと男の方を見たが、男もまたその鋭い眼光の間の眉間にシワを寄せて訝しんでいるようだ。
「将軍! しっかりして下さい!」
騎士達が地面に豪快に落ちた大柄の将軍に声をかけるが、返答は無い。よく見ると将軍の胸の辺りに小さな穴が空いている。その穴は背中まで貫通していて、まるで細い槍に貫かれたかのような傷だ。
「──あの傷……」
ふと僕の頭によぎる。どこかで見たような傷──しかし、それを思い出す前に現場はざわめきを見せる。
──ザッ、ザッ、ザッ
将軍が立っていた後方から誰かが、この吹雪の中こちらに歩いてくる。
「誰だ!?」
数人の騎士が歩いてくる何者かに槍を持って構える。すると、
──ピッ、ピッ──ピッ──
まただ。何か赤い光線のようなものが一瞬見えた。だが今度は一つだけわかることがあった。その光は歩いてくる何者かから放たれていた。しかも今度は複数の光。
──そして、その数秒後に僕達はまた驚く事となる。何者かに向けて槍を構えていた数人の騎士がバタバタとその場に倒れたのである。
「どっどうしたあ!」
「敵だ! 全員構えろお!」
間違いない。方法はわからないが攻撃をされている。歩いてくる何者かにモストボイ将軍も騎士達も襲われたのだ。
吹雪がまたおさまってきた。そして歩いてくる何者かの足元からゆっくりとその姿が見える。そして、誰もがその姿に疑問を抱いた。
銀色に光る足……いや、足だけでは無い。その胴も、腕も、首まで銀色に怪しく包まれた人型の何か。とても服には見えないその体、例えるなら全身を銀色に塗装した大人サイズの人形が歩いているようだ。
頭の下半分は鉄色、上半分は銀色と黄土色に塗られたような感じである。硬そうな四角い鼻、ガラス細工のような目、空気孔のような口をつけた人間には見えない何者かが現れた。
「──なんだ……こいつ……」
僕は思わず言葉を漏らす。余りにも、余りにも異様な者であった。全員が理解の範囲を超える事態──しかし、北の大陸が誇る騎士団はすぐにその気持ちを切り替えその謎の者に槍を向け囲んだ。
「全員──穿てえ!!」
一人の騎士の言葉と同時に、謎の敵を囲んだ彼等はその槍を突き刺さんと一斉に突こうとした。だがその銀の人形のような彼は一切臆する様子も無く静かに両手を平行に前へと出すと、ただの一言。
「──照射」
──ピッ────。
一瞬だ。上半身だけがぐるりと高速で回ったかのように見えた。その硬そうな指先から赤い光線が輪を描くように一瞬光る。そして、その瞬きの後に起こったのは恐ろしい結果であった。
バタバタバタ──
円になって囲んでいた騎士達が声を発することなく倒れだしたのだ。
「えっ……」
「こいつは──……!」
僕は驚愕するファリアの前に立って守ろうとする。余りにも突然の出来事だがこのよくわからない何かは危険だ。近づく訳にはいかない。
倒れた騎士達をちらりと見るが、びくともしていない。そして白い雪の積もる地面が、徐々に倒れた彼等の血でゆっくりと赤く染まっていくのが見えた。恐らくもう息のある者はいないだろう。僕は足を震わせながらそいつを見る。
「…………!」
この
気づけば死体の山だ。北の大陸が誇る最強の騎士団が一瞬の間に死んだのだ。そして彼等を屠った銀の何かは首を回転させながらこちらを見ると、
「標的──確認。拘束シマス」
金属音をなめらかにしたような、およそ人とは思えない声で確かにそう言った。
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