150 / 157
~四章 忘却の男編~
二十九話 機械塔
しおりを挟む「──なんだ……ここ」
「これは……機械……?」
鉄の扉の先に広がっていたのは、見慣れない広い空間であった。建物の中は薄暗い印象だが、チカチカと小さく光る赤や緑のライトが無数に埋め込まれた鉄の壁がそびえ立っているせいで気にはならない。
キキキ、ガガガと、何かを聞き慣れない音が鉄塔の中をこだまする。そのたびに壁に埋め込まれた見たことも無い機械のようなものが怪しく発光する。
「ファリア、ここはもしかしたら……」
「私も思いました。ここは──私達を襲ったあの何者かの本拠地じゃないでしょうか」
その異様な空間を目の当たりにして僕達の答えはすぐに一つに結びつくと、僕達は体についた雪を払い、辺りを警戒しながら注視する。
「あれは……ハザマさんこれを見て下さい」
彼女が奥の方へとたとたと走って床下を指差すと、そこには小さな水溜りが出来ていた。これが何を意味するかと言えば、
「……これは、僕達の他にもこの鉄塔に入った者がいるって訳か。誰かがここで雪を払って、時間が経過した雪は溶けて水溜りになったんだね。……しかしどこにいるんだ……?」
鉄塔の中はいくら見渡しても高い天井と、無機質な機械の壁で覆われている。外で見た大きさからまだ上の階はありそうだが、階段らしきものは見つからない。
「困りましたね……あれ? なんだかこの塔の中、暖かくないですか?」
「確かに……どこからか妙な温風が吹いてる──これは、天井から……?」
冷え切った僕達の体を暖めてくれるように、天井からごうごうと勢いよく風が流れてきた。ありがたいが、どこか不気味な風。そのうち毒でも流れてくるんじゃないかと僕は勘繰りながら天井を見つめていると、
「えっ!? あそこ、階段があります!」
ファリアの急な声に僕はびくっと肩をこわばらせる。彼女が視線の先には、何故かさっきまで無かった筈の大きな螺旋階段が現れていた。
「いつの間になんでこんな階段が……!? ファリア、君は見てたかい?」
「わ、わかりません……。ほんの一瞬、目を離した隙にいきなりここに。でも、これで上に行けるみたいですよ……?」
あまりにも唐突で突然で不自然に出たその螺旋階段は、確かに上の天井の奥へ続いている。明らかな罠にも見えるそれに僕は一歩後を引く。
「罠かも知れない……。ファリア、少し様子を見て──」
僕は様子見の提案を彼女にしようと見ると、ファリアは頭を押さえてうずくまっていた。
「ファリア! また頭痛が……!」
「だ……大丈夫です……少し、少しだけ……痛いだけです……。それより……あの階段を登りましょう……。あの階段が目に見えてる内に行かないと……消えたりなんかしたら……それはそれで、困ります……」
そう言って彼女はふらつきながら、階段の方へと歩き出した。
「ファリア……! 無茶は駄目だ」
僕は彼女に肩を貸すと、彼女は痛むであろう頭を片手で押さえながら必死に前を見ている。その決意を感じるような力強い足取りに僕は思わず息を呑む。
「はあ……はあ……」
「……わかったよファリア。一緒に行こう。上へと進むんだ……!」
僕達はその螺旋階段に足を置くと、突如──その階段が一人でに上へ上へと足場ごと動き出したのだ。
「なんだ!? 階段が勝手に──!?」
「私達を……まるで、導いてるみたいですね……」
螺旋に動く僕達の足場は走るような速さで上に流れる。彼女をしっかりと支えて、僕は徐々に近づく上の階へ目をやる。やがて天井を突き抜けた先に階段は自動的に上がると、そこで階段は途切れていて先端で足場はピタリと止まった。
「止まった……。ここは、二階なのか……?」
そこはまた機械の壁に囲まれた広い空間であった。ただ一つ違うのは、その広い部屋の中央に一つの影があった。
「──! お、お前は……」
僕は思わず目を丸くした。部屋の中央にいたのは、ソチ村にいた鉄の人形と戦ったあのガラの悪そうな男であった。
「なんだ貴様、来たのか。よくその軟弱な体であの吹雪を越えて来たな」
男はこちらを一瞥だけすると、そう吐き捨てた。あの下の階にあった水溜りは恐らく彼のものだろう。僕達より先に到着していた彼は、壁を伝うようにこの塔を物色している。どうやら僕達など眼中にないようだ。
「……僕達もあの鉄の人形を操っている奴に用があるんだ。それに……この鉄塔はおかしい。見たこともない機械のようなもので覆われてる。あなたは何か知らないのか」
僕は自身の意志を男に言うと、彼はじろりとこっちを見て静かに口を開く。
「こんな珍妙な塔に興味など無い。俺はただ武人と武人の勝負を邪魔された落とし前をつけに来ただけだ。奴の足跡はこの塔に続いていた。必ずここにいる。言っておくが奴は俺の獲物だ。手出しするなら貴様も倒す」
恐ろしい眼光だ。その言葉には嘘偽りなく、邪魔する障害は全て殺すと言わんばかりである。圧倒的なプレッシャーの前で僕は固唾を呑むと、ファリアがよろりとふらつきながら辺りを見渡した。
「何か……音が聞こえる……」
ガシャン、ガシャン。重なる鉄を擦り合わせたような何かが聞こえた。
彼女の言葉を受けて僕は周囲を警戒する。耳をすませる僕は、奥にあった壁の方から聞こえてくるのがわかると身構えた。
すると、機械の壁が左右に開き始めた。そしてそこから出てきたのは、片腕を失くしたあの鉄の人形であった。
「ヨク、ココマデ来タナ。褒メテヤロウ」
片言ながらの妙な喋り、敵はギクシャクと動く口を上下に動かしながら言う。
「お前は誰でここは何なんだ? なんで僕達を狙った!? お前がファリアのおじいさんを殺したのか!」
僕は咄嗟に質問をぶつけると、周りの機械の壁が激しくその小さなライトを発光し始めた。
「シツモン、過多。ココハ、機械塔。我ラノ、本基地デアル。目標番号51556、オマエヲ待ッテイタ。コレカラ──」
「そんなことはどうでもいい。貴様の本体はどこだ。貴様を壊せば出てくるのか」
会話を途中で切るように一歩前に出て男が言った。
「……異分子、有リ。マズハ、オマエヲ排除スル」
敵の目が赤く光った。すると同時に、僕は背中を震わせた。敵の背後の壁の奥からそっくりの鉄の人形が三体も出てきたのだ。
「まだいるのか……!?」
「ふん、ガラクタが何体出てこようが構わん。全員壊して本体を引きずり出してくれる」
男は首を左右に振ってコキコキと鳴らすと、低く腰を落として構えた。
「何カ、勘違イヲシテルナ。我々ハ一体一体ガ意思ヲ持ツ機械ダ。ワタシハ陸号。敬愛セシ創造主ニヨッテ、造ラレタ新シキ生命体。後ロニイル漆号、捌号、玖号モソウダ」
「ロボット……?」
記憶の無い僕にとっては初めての言葉である。こいつらは、逸脱の能力によって動かされているのではないのか……?
「貴様らが別に何体いようが何号だろうが構わん。この九極拳、『ヴライ』の勝負を邪魔したその愚行、バラバラにして後悔させてくれる──!」
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる