ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~四章 忘却の男編~

三十三話 拾号

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 外の冷気がどこからか漏れ、僕の肌をなでた。老人の話しが進むたびに、どこか心地の悪い気分が続く。

「願いが叶った──?」

 僕が言うと、Dr.クライフはこちらをじっと見つめた。それはどこか子供が新しいおもちゃを見るような、そんな好気的な眼だ。

「そうかそうか……記憶は、戻ったかね──?」

 魂が嫌に震えるような声だ。僕はこの男に恐怖をしているのかも知れない。

「さっきからお前は……僕を知っているのか!? なんなんだお前は!」

「くくくく……そちらの事はずっと私は見ていたよ。視覚からの情報はこちらのコンピューターに転送されるからな。お前達はどこで、誰と、どんな旅をし、様々な逸脱とも戦ったな。中々に波乱な旅路だったな。しかし私は心配などしていなかったよ。君達が負けるはずが無いと確信していたからね」

 その言葉に戦慄する。この老人は、全てを見透かしていた。そしてこいつは──僕を知っている……?

「……でたらめを言うな! 僕とファリアを知った風な口を聞くな!!」
 
 Dr.クライフの言葉を否定するように僕は強く口にすると、彼は後ろに腕を組みながら静かにまた語り出す。

「君はここまで自分の力でこれたと思っているが、それは違う。お前達をここまで来るように私が仕向けたのだ・・・・・・・・。そう、私は新たに開発したコンピューターでここから遠隔操作のように命令を送っていたのだ」

「な──……!」

 ──馬鹿な。そんな、そんなことは有り得ない。だってそれは、まるで──僕がまるで……奴の、傀儡かいらいのようではないか。

「ふ、ふざけるな!!」

「ふざけてはいない。私の命令は確実にそちらの頭に届いていた。何度も何度も、そう何度も助言してやったとも」

 僕は足から力が抜け落ちるような感覚を味わう。あの、僕の能力の、天の声は──

「う……う、あ──」

「おや? 血が出ているね。君の頬……実に綺麗な血だ」

 Dr.クライフがまじまじとこちらを見る──僕の頬から血が流れ出ている。下の階であのロボットのレーザーをかすめた時にできた傷から、一筋伝う。その血は、人間に流れる赤い血じゃ無い。緑色だ──緑の血液が僕を僕じゃないと否定するように流れるのだ。

「先も言ったがロボットに必要なのは動力として、人間の体液から搾取した血液を加工したものが必須となる。そこら中にあるだろう、その緑色の液体だ」

 周りのフラスコやビーカーの中には、この血とまったく同じ色をした緑色の液体が入っている。老人はその一つを手に持つと、僕に暗に何かを伝えるかのように軽く振ってみせた。

「違う……僕は……」

「……拾号は参号の経験を活かした。他人の身体を支配して、より人間と差異が無いように近づく構造になっている。問題はその心の方だが──もう、心配は無い。私が開発した新しい制御装置があればもう暴走の危険も無いだろう。
 思えば拾号は心を人間に近づけすぎたために暴走を起こしたのだ。やつら……逸脱は異能力こそ持って入れど、外見は普通の人間と変わらん。子供の逸脱を殺した時に、拾号は罪悪感のようなものを感じたのかも知れん。私にとっては復讐の対象だが、まだ生まれて間もない心を持った拾号には早すぎたのかもな」

 今までの、全てが歪み始めた。僕が僕でない、ハザマと言う一人の人間が、ここに否定をされたのだ。

 記憶の欠如も、僕に備わった能力も、機械仕掛けのただの人形だからか。

「────う」

「ん?」

「うおああ!!」

 ──僕は、僕でありたい。その一心が起こした行動なのか、気がつくと腰の短剣を手に持って、僕は老人の言葉を拒絶するように刃を向けて突進をする。


 ザグゥ────


 あっけない──鈍い音と共にほんの一瞬の間に、その短剣はDr.クライフの胸に突き刺さった。老人は無防備であった。僕との距離を考えれば多少は身を護ることもできた筈なのに、老人は命を脅かすその凶刃に、微塵も興味の無いかのように胸で受けたのだ。

「はあ……はあ…………?」

 荒くなる呼吸、その短剣から伝わる妙な感触に、僕はどこか違和感を覚える。そして、刺された老人はその胸に刺さった短剣を見て、静かに、そしてゆっくりと後ろに倒れた。

 ──殺した。僕は震える手を握る。すると、


「無駄だ。その身体は仮のものだ」


 Dr.クライフの声がした。しかし、声は倒れた彼の口から聞こえたのでは無い。このフロアの四方から重なるような声で聞こえてきたのだ。

「──!? 誰だ!? Dr.クライフ、お前なのか!?」

「そうだ──。そこに倒れているのは、私の仮のボディ。あくまでも細かな作業をするための元の身体にすぎん」

「元の、身体……? 何を言ってるんだ! どこにいる!? 姿を見せろ!」

 奴の声がフロアを反響する。僕はどこからか聞こえる老人を探すが見つからない。

「ふはははは。何を言っているとはお前の事だ。私はずっとお前の目の前にいる」

「くっ──! どこだ!?」

「まだわからんか。私は────この塔、そのもの・・・・だよ」

 老人の笑い声が塔全体を響かせるように反響した。僕は困惑する。こいつは、何を言ってるんだ。

「塔……? この塔が……?」

「そうだ。私のその身体は等の昔に限界が来ていた。死を悟った私は、自分の脳をこの巨大な塔の一部に組み込み、半永久的な命と共に研究を続けているのだ」

 目と耳を疑うような言葉である。ならばこの塔は奴の目であり、耳であり、口である。そしてその内部は奴の胃の中、手のひらの中と同義ではないか。

「馬鹿な……そんな……」

「この『機械塔』は巨大な研究施設であり、同時にロボットに命令を飛ばす電波塔の役割でもあり、私、Dr.クライフ本人でもあるのだよ」

 僕は老人の言葉を受けて理解する。この塔は形こそ違えど、あのロボット達と同じなのだ。ずっと見ていたんだ。ここまで来る道中、そしてあの指示のような天の声も……ここから──。

「答えは充分に与えた。そろそろ終わらせよう。ここは言わば私の腹の中、もっとも電磁波が強く、その命令は絶対だ。私の研究の完成は今日、ここで、迎える──!」

 僕は背筋が凍った。まずい──もしDr.クライフの言う通りなら、僕は操られて──そう思った瞬間、僕は後ろにいる彼女だけでもこの場から逃がそうと、振り向いて叫ぶ。

「ファリア!! ここから逃げるんだ──!!」

 何としても、彼女だけは守るんだ。その一心、強い願いの元、僕は力一杯、彼女に向かって言う──そして、Dr.クライフはこう言うのだ。




「さあ──! 拾号!! 我が娘ファリアよ・・・・・・・・!! その男を殺すのだ!!」




 ガシャン──ッッ!!



 ──何が起こったのか、突然、彼女は、僕の首に手をかけて──僕を宙へと持ち上げた…………。


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