サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

文字の大きさ
61 / 62
第2章~学園動乱編~

小金もちなおっさん

しおりを挟む
唐突に告げられるアリナからの追加報酬の話に、思わず気色ばんだ声を上げてしまう。

「ナツヒ君とアリナちゃんはしゃるるさんのクエスト報酬とは別に3つ以上は追加の報酬があるわ。」

「え!そんなにですか!?」

「ナツヒ君がっつきすぎだよー。」

ぱしっと肩のあたりを軽くたたくエリスのかわいさは、予想外の報酬の多さによる嬉しさを上回る。

「うふふ。まぁ落ち着いて聞いて。まず一つ目は、シャーマンが落としたという呪われた杖。ちゃんと鑑定してもらわないとわからないけどギルドでは呪われた武器を総称して“カースド・ウェポン”と呼んでいるわ。カースド・ウェポンは賞金首モンスターの武器版というイメージをしてもらえるとわかりやすいかな。武器の回収にも賞金が掛けられていてその金額をギルドが支払って冒険者から受け取った武器を厳重に保管しているというわけ。」

なるほど、ギルドに預けておくのなら安心だ。しかも報酬までもらえるというおまけつき。

「という訳でナツヒ君が拾ったっていうカースド・ウェポン見せてもらっていいかな?」

「はい、これです。」

俺はインベントリを操作して呪われた杖を取り出す。

「うわぁ・・。」

「うん・・・。これは間違いなくカースド・ウェポンだね。戦闘には疎い私でも邪悪な感じがびんびん伝わってくるよ。ここに置いておくのも嫌だからすぐ鑑定士に渡してきちゃうね。」

シャーマンが自らの命を絶ってからこの杖を初めて見るエリスは、忌避するような表情で息を飲み、アリナも間違いなく呪われた武器だろうという見解を述べる。

そしてアリナは鑑定士に渡す為に席を立つ。タイトスカートに窮屈に包まれたお尻が目に眩しい。

エリスに邪な気持ちを悟られないように、努めて真剣な表情を作ることは忘れないようにする。

その隣にいるエリスも【山賊の隠れ家亭】の制服を着ており、サイズが合わない為にその豊満な肉体が織りなす肌色成分が目に毒だ。

エリス本人はそんな事を気にする素振りもなく、透明感のある素肌をさらけ出しながらまっすぐな瞳でこちらを見て他愛もない会話を振ってくる。

2人だけの空間をどぎまぎしながらも堪能していた時に応接室の扉が開いた。

「ナツヒ君・・・。今鑑定して来てもらったけどやっぱりカースド・ウェポンだったよ。」

呪われた武器だったということを歩きながら伝え、目の前のソファに浅く腰掛けるアリナ。

タイトスカートの奥が磁力を放ち俺の視線を引っ張る。なんとか引きはがす事に成功し、少し上に視線を上げると凄まじい質量を内包しはちきれんばかりのシャツ。

異世界最高か。

「しかもAクラスのカースド・ウェポン」

アリナが告げた言葉は俺が視覚的な幸せを感じている状態から現実に引き戻すように、事態の深刻さを物語る憂いを帯びていた。

「Aクラス?」

「うん。モンスターの賞金首やカースド・ウェポンには、BクラスAクラスSクラスの3段階があって、今回の武器は2番目に危険度が高いAクラスの武器だったってこと。まぁ同じクラスの中にも幅はあるんだけどね。」

「なるほど。じゃあ結構危ない武器だったんですね。」

「うん。今回ナツヒ君が持ってきたのは、“ディヴァウアースカル”という杖で、持ち主の魔力以上の魔法を使えたり賢さを大幅に増幅させる力があるの。だけどその代償として魔力の限界を超えた時には、持ち主の生命力を吸い取って最後はその命ごと貪って杖自身の力にしてしまうという恐ろしい武器よ。」

ディヴァウアースカル。貪る骸骨か・・・。まさに名前の通りの杖だ。

「怖い武器だね・・・。それであのゴブリン達もあんなにひどいことをしてたのかな?」

「どうだろうな。もともとゴブリンはそういうものなのかもしれないし、杖が無ければあそこまで邪悪では無かったのかもしれない。だけどひとつわかるのは、もうあの杖のせいで悲劇が起きる事は無いってことだ。」

「うん。その通り!被害が大きくなる前に回収ができて良かったわ。今回ナツヒ君とエリスちゃんのお陰で、救われた人はたくさんいるんだから胸を張って良いんだよ。」

2人が胸を張ったら2人とも服が破けてしまうんじゃないかと思わず益体もない事を考えてしまう。

「それでこれが、ディヴァウアースカルの懸賞金だよ。金額の配分は2人で決めてね。」

アリナから渡された白い布製の袋はずしりと重い。

中身を覗くと煌びやかに輝く硬貨がぎっしりと詰まっていた。

「これって?・・・。」

一体いくらになるんですかと尋ねる前に、俺の言葉をひきとるようにアリナが言葉を続ける。

「白金貨21枚。21万コルトね!」

「「21万!?!?!?!?」」

お互いが高速で横を向き、目をあわせ思わず声を上げてしまう。

21万!学費の返済に充てられるし、良い装備やアイテムも購入できるかもしれない!

異世界のうまい飯も食えるかもしれないし、異世界美女とのデートにも使えるかもしれない―まず相手を探さなければいけないが―。

「うふふ。学生には大金だよね。でも今回2人はそれだけの功績をあげたし冒険者っていうのはそんな一攫千金の話は枚挙に暇が無い程よ。」

改めて冒険者という職業への魅力が高まっていく。英雄になりたいという大きな野望はあるが、お金の力も大きいなと我ながら自分の即物的な考えには笑ってしまう。

エリスは俺の知らない食事処や武器屋の名前を挙げ、目をきらきらと輝かせながら喜びをあらわにしていた。

俺とエリスがひとしきりはしゃいでいるとアリナが次の報告を始める。

「それで次が、ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーの討伐報酬。このモンスターもギルドに依頼があって賞金がかけられていたの。賞金は1万コルト。という訳でその袋に入っているのは、ディヴァウアースカル回収の報酬20万コルトと、ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーの賞金1万で合わせて21万コルトよ。大事に使うんだよ。」

あの偽りの王にも賞金がかかっていたのか。

もう少し強くなり安定してあのレベルのボスを倒せれば、賞金だけでそれなりに稼ぐこともできそうだなと皮算用を始める。

「それと最後に、今回ナツヒ君たちが救出してくらた女の子たちの中には、人捜しのクエストが出されていた子もいるかもしれないの。これからギルドで女の子たちの身元確認と、クエストの照合をするから数日後またギルドにきてもらっていいかな?」

何気なく受けたひとつのクエストだったが、予想外の報酬に心が躍る。

もしかしたらこれも星から授けられたギフテッドアビリティ【雑用英雄】の効果なのだろうか。

俺とエリスは数日後また戻るという約束をして、ギルドを後にした。

ちなみに応接室内では、21万の取り分で少し揉めた―エリスが私は半分ももらえないと言い続けた―為、結局取り分は俺が11万コルトでエリスが10万コルトで分けた。

それでもエリスはもらいすぎだと言い続けていたが、そう思うなら何かお礼をしてくれという一言でしぶしぶ受け取ってくれた。

「さて・・・と!今日は本当にお疲れ様!という訳で打ち上げにでもいきますか!?」

「打ち上げ?」

「え?あぁ!打ち上げってのはトーキョーではよくあったんだけど、何かみんなで頑張ったりしたらその後にぱーっと美味しいものを食べたり飲んだりして楽しい時間を過ごすってやつだ。」

まだまだ異世界で通じる言葉と通じない言葉の差がわからない。

変な言葉を使って、異世界から来ているということがバレたらどんなトラブルに巻き込まれるかわからない。

俺が読んできたラノベでは異世界出身ということがバレると、大きな陰謀に巻き込まれながらも主人公補正でなんとか切り抜けているものばかりだ。

その主人公補正は俺には起きない気がするし犬死にするだけだろう。

なんせハーレムイベントのひとつすらも起きていないのだ。

いつ俺のことを無条件で好きになる女がたくさん現れるんだ!!!

心の中でガイア様に毒づいていると、無邪気で快活な声が耳に入る。

「打ち上げ!!!楽しそうだねー!いこーー!!!」

隣でぶるるんっと胸を盛大に揺らしながらはしゃぐエリス。

ハーレムイベントがおきなくても俺は間違いなく幸せだ。

異世界での充実した日々に満足を覚えながら、宵の帳が下り始めるオルニアの通りをエリスと並んで歩きだす。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...