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執拗‐2
しおりを挟むその書類には、デイビット・モローという人の生年月日から始まり住所や職業、その人の行動にまつわる全てが事細かに書かれていた。記載されていた生年月日も住所も職業も元カレと同じ。これは同姓同名の別人ではない……間違いなく元カレの調査報告書だ。
その中には、リディ・クレマンの文字もあった。
これって…私のこと?
私と元カレが出かけた日時、場所から何をしていたのかまで記載されている。
「え…なに?…嘘でしょ…」
ガチャリとドアが開き、フェリクスがグラスとカナッペを載せたトレイを持って入って来た。
「リディ、お待たせ。ん……どうしたの?」
書類を手に棒立ちになったまま視線だけをフェリクスに向けた。
途端にフェリクスは何かを察知したようでトレイをデスクの上に置くと、私の手から書類をゆっくりと取り上げた。
「あ、あの…窓を開けたら…書類が風で…散らばって……そ、それで…あの……それって…その書類って…」
フェリクスは書類をチラリと確認すると溜息をついてデスクの引き出しの中にしまった。
「リディ、こっちの椅子に座って」
フェリクスは普段自分が使っているであろう立派なデスクチェアーに私を座らせ、自分は丸椅子に腰掛けた。
何事もなかったかのように、グラスにリンゴ酒を注ぐと私に渡し自分のグラスと合わせてカチッと小さな音をさせ口に運ぶ。私も無言のまま彼と同じようにリンゴ酒を口に含んだ。
「………………」
いや…私、なに流されているの?!違う!違う!
じろりとフェリクスを睨みつける。
表情は強張っているようにも見えたが、動揺している様子はない。
はぁ?何しらばっくれてるのよっ!
ドンッと乱暴にグラスを置いた。
「何もなかったかのようにスルーするつもり?!」
「……ごめん。不愉快に思った…よね。言い訳するつもりはないけど…でも、あの男は最低だよ。君に隠れて他の女とも会っていたんだから、別れて正解だったよ」
「いや、論点ズレてるよね。あなたが私の元カレのことをどうこう言うのは可笑しいでしょう?っていうか…そんな情報知りたくなかったし!」
聞きたくもない元カレの情報を聞かされ、より一層ヒートアップしていく。
「そうじゃなくて!あなたが私と再会する前に私の周囲をこそこそ嗅ぎまわっていたのが問題なのよ!なんなの!?……正直、気味が悪い!」
フェリクスは酷く傷ついた表情を浮かべた。
「わかってる!リディに言われなくたって…どうせ僕は気持ちの悪い男さ!……君を忘れられずにいた五年間…拒否されたような形で別れて君の前に姿を現す勇気もなくて、でも君への気持ちは膨らむ一方で…少しでも君に近づきたくて知りたくて…こんな行動に出た……悪かったと思っている…」
彼の表情にツキリと心が痛んだ。
「私だって、五年間同じ気持ちでいたよ…フェリクスを忘れられなくて。でも、私は…こんな卑劣なことはしなかった…」
彼は更に表情を歪ませた。
「君はずっと僕を忘れようとしていた…自ら行動を起こして僕を選ぶという選択肢はなかったんだろう?」
フェリクスは持っていたグラスを置いた。
「でも、僕は違う。君と再会するためなら…どんな手を使ってでも…その糸口を掴もうと必死だった。僕達の再会が…本当に全て偶然だったなんて…運命だったなんて思っているの?!そんなものに頼っていたら一生出会えない!」
フェリクスは、ぐっと眉間に皺を寄せ悲痛に叫んだ。
確かに、彼が私と同じように忘れることに必死なだけで行動を起こさないような人間だったら、きっと私達は再会していなかっただろう。
フェリクスがこんな卑劣なやり方をしたのも私への強い想いが根本にあるのは理解している。
だからと言って彼がやったことを簡単に許すのは絶対に違う。
ガタンと勢いよく席を立つ。
「あなたの言うことも一理あるかもしれない…でも、やっぱり…フェリクスの取った方法は、やり過ぎだと思う。今の私達…興奮していて相手を責める言葉しか出てこない。このまま言い争っても意味がないと思う…今日はもう帰るわ」
足早にドアに向かう私の手をフェリクスが掴んだ。
「リディ!違う!君を否定するつもりなんてなかった…感情的になり過ぎた…」
私は彼の手をそっと剥がす。
「否定されたなんて思ってないよ。あなたが言ったことは本当のことだもの…」
私は振り返らずに部屋を出た。
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