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10.特異体質
しおりを挟むイルメラは机の上に広げた古い羊皮紙の巻物を見つめ苦悶の表情になっていた。
見つめていたのは翔太と泉を元の世界に戻す方法を探す為、閲覧禁止の書棚の中から手に取った巻物だった。魔法省の中でもエリート集団の中にいた彼女だからこそ閲覧許可証を偽造し嘘を言っても信用されたのだ。
巻物には無数のシミや汚れがあり、文字が滲んでいたり破れ失われている部分もあった。どうにか内容を読み取ることは出来たが随分と時間がかかってしまった。
彼女が手にした書物には大昔に召喚された聖女が後にキトラニ王国の王子と結婚し国を治めたという国民なら誰もが知る歴史とともに、あらゆる歴史書を読み解いたイルメラでさえ知らない史実が書かれていた。
『聖女と婚姻した王子は二つの魔法属性を持つ』
その一文にイルメラの心臓はドクリと大きく波打った。
通常一人の人間が待つ魔法の属性は一つだけだ。だが稀に二つの魔法属性を持つ者が存在する。
イルメラは魔力があると判断された幼少期に光と水の二つの魔法属性を持っていることが判明した。稀に自分のような人間が生まれると神官から聞かされた。
そして、珍しいが故に悪意のある者に悪用されてはならないと、この事実には厳しく箝口令がしかれイルメラ自身も他言したことはなかったのだ。
魔力を持っている子供は多かれ少なかれ他の一般の子供達とは違う珍しい存在だ。自分はその中でもちょっと珍しいのだろう。それだけのことだと思ってきた。
だが、歴史書によると二つの魔法属性を持つ者は短命で最も長く生きた者の記録は三十歳だというのだ。
寿命を延ばすためには二つある魔法属性の内一つを他者に移す必要があり、二つの属性を持っている者が他者に魔法属性の一つを移す為には双方の体液を交換する方法が有益だと書かれていた。
効率的な体液の交換には性交を行うことが有効だと追記されていた。体液の交換以外の記述はなく、実質それ以外の方法が見つかっていないと知らされる。
しかも、性交を行い相手に魔法属性を移すだけなら問題はないように思えるが、そうではなかった。
古い文献には魔力を持っていない人間には魔力に対する耐性がなく移すことが出来ずに失敗に終わったとの記録あった。それは受け皿となる魔力を持たない人間が死に至ったということだった。
イルメラは喉の乾きを感じ小さく咳をし慎重に文字を追った。
受け入れる人間が魔力持ちであった場合、元々持っていた魔法属性を失い新たに受け入れた魔法属性に代わってしまう。魔力を移すことには成功はしたが、その影響で受け入れた側の人間は精神が破綻し身体機能に重篤な障害が現れる。
羊皮紙の上に置かれたイルメラの手は震えていた。自分が生きる為には誰かを犠牲にしなければならない。
どうして、この最悪の結末について当の本人である自分は何も知らされていないのだろうか。
翔太と泉を帰す方法を見つける為に異世界から来た聖女について調べることが目的だった。なのに自分が知った内容は偶然にしては衝撃が強過ぎるものだった。
「私の性交のパートナーがいつまでも決まらないのは……これが理由だったのね」
イルメラの声は酷く掠れていた。
◆
イルメラから二つの魔法属性についての話を聞いた翔太は腕を組み厳しい表情のままだ。
「生き延びるためには誰かを危険に晒すかもしれないということか」
「ええ。でも、そんな事できないわ……」
「そうか……」
イルメラは皿を握りしめた。
魔法省の担当官に自分の寿命について、そしてパートナーが未だに決まらない件について真実を問い質そうかと考えた。しかし、隠されていたということは都合が悪い何かがあるということだ。裏を感じたイルメラは真正面からぶつかることに躊躇した。魔法省の中は機密で溢れている。この件も機密事項に該当するからこそ隠されていたのだ。もう少し情報を集める必要がある。イルメラは踏み留まった。
そして、さらなる疑問を口にした。
「ただ、気になるのは私と同じ二つの魔法属性を持つ王子が聖女と結婚したというところ。聖女は異世界から来た女性なの。彼女はこの国の民を流行り病から救い聖女と呼ばれるようになった。けれど彼女が魔力を持っていたという記述はどの文献を探しても見つからない」
イルメラは一度言葉を区切り翔太に視線を向けた。
「言い伝えでは聖女は王子と結婚し二人で国を治めた。彼等には子供が産まれて今の王族までその血筋が続いているのだから……ということは王子も生き延びて彼女も死ぬこともなく健康だったと考えられる」
「魔力のない聖女は二つの魔法属性を持つ王子とセックスしても死ななかったし健康だったということか?」
イルメラは頷いた。
「その記述が正しければ、相手を不幸にせずイルメラも生き延びる事ができる。可能性が消えたわけじゃないな」
「そうかもしれないけれど……ただ文献に新たな事実が残されていないだけかもしれないし」
「異世界人とセックスすることで救われるのなら可能性にかけてみるしかないだろう……幸か不幸か、この世界にいる異世界人は二人ともお前の近くにいる。しかも男だ」
「駄目よ、危険だわ。もし身体に何か起こったら……死んでしまうかもしれないのよ……」
「あくまでこれは俺の仮説なんだが……」
翔太はイルメラの言葉を遮ると組んでいた腕を解きこめかみの辺りを指で抑えた。
「なあ、俺と泉に聖なる力なんてあるように思うか? 全く無いだろう? 勿論魔力もない。大昔に異世界から召喚された女性というのは俺達と同じような普通の人間たっだんじゃないかと推測できるけどな。流行病から国の民を救えたのも医療の知識があった可能性がある。俺達と同じ世界から来たかどうかは分からないが、この国より医療技術が発達している世界から召喚されたとすれば。俺が刑事でその知識や技術を警備隊として役立てられたように聖女が医療関係者だったなら、その知識と技術で民を救ったのかもしれない」
翔太の立てた仮説に目を瞬かせた。
「……そんな可能性考えもしなかった」
「どちらにせよ閲覧禁止の文献をもっと調べる必要があるな。異世界人とセックスするってだけがイルメラの命を救う要件とは限らないし他にもあるかもしれない。まあ、セックスするだけでいいなら簡単だけど」
静かに微笑む翔太に僅かに心が軽くなった気がした。
「セックスって簡単に言うけど……性交するのは難しいんじゃないかな……私、泉に処女を貰って欲しいとか言って強烈に拒否されてるもの。例え異世界人との性交で救われる可能性が高いとしても……断られるでしょ」
「へえ。真っ先に泉の名前が出てくるか」
自分が泉を性交相手として真っ先に考えたことに驚いて赤面した。
「まあ、最初は痴女のキチガイ女確定で話していたんだからそうなるさ。今は違うだろ。ないとは思うけれど万が一にも泉が断ることがあれば俺がいるし。泉が駄目なら俺にしろ」
目を丸くし真っ赤になったイルメラを見て翔太は笑みを深めた。
「な? 言っただろ? 悩みは一人で抱えずに共有すれば解決はせずとも、何かしらの発見があったり多少気が軽くなったりするものさ」
そう言うと翔太は皿に残っていた最後の苺を摘み口の中に放り込んだ。そしてまた苺の酸っぱさに微妙な顔になる。その顔を見ると可笑しくなり、つい笑いが漏れてしまった。
「この件は泉にも話しておいた方がいいな。当事者になる可能性もあるし」
勿論、話さなくてはと思ってはいるが久しぶりに対面してする話にしては内容が重過ぎる。しかも自分と性交してくださいと言っているようなものだ。いや、初対面で泉に処女をもらってくれと言った時のことを考えれば今更何を恥ずかしがっているのかと言われそうだが。イルメラは湯気が出そうのほど赤くなったまま上手く話せる自信もなく俯いた。
「もし、一人で話すのが不安なら俺が同席してもいいから」
イルメラは戸惑いながら翔太を見た。そして、彼は自分の命を救う為にセックスしてもいいと言ってくれているの翔太の優しさを勘違いするなと自分に言い聞かせた。
「ありがとう。ショータ」
寝室から出ていく翔太の後ろ姿にそう言うと、彼は少しだけ振り向いて小さく手を振って出ていった。
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