【本編完結・R18】旦那様、子作りいたしましょう~悪評高きバツイチ侯爵は仔猫系令嬢に翻弄される~

とらやよい

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一途

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サラが食事の入った籠を抱えて入ってきた。

硬いパンと水、パンにはチーズが挟まれ待遇の良さを感じる。
早いうちに殺そうとしている男に与えられる食事としては上等だ。

「……少しだけ…話を聞いていただいてもよろしいですか?」

伏し目がちな瞳でこちらを窺うサラを見て小さく息を吐く。

「不審に思われない程度にな……」

頷くと小さな声で話し始めた。

「お嬢様はずっと…ずっと…幼い頃より侯爵様のことを想っておいででした。本当に純粋な…初恋だったのです」

ジョアキンは黙ったまま表情を変えることもない。

「あなた様のことを学院で一目でも見られた日には…それは嬉しそうに話してくださいました…」

その言葉にジョアキンは学院時代のキャサリンを思い浮かべ、ほんの少し片眉を上げた。

キャサリンはジョアキンが三年生の時に一年に在籍していた。
彼女は成績も優秀で模範生として学院のイベントの打ち合わせ等には顔を出していた。
生徒会長をしていたジョアキンはキャサリンの名前と顔は一致していたが何せ当時から自分に興味を寄せる女を毛嫌いしていたので、それ以上の情報を頭の中に入れることはなかったのだ。

「お嬢様は美しく聡明な女性に成長され結婚の申し入れも数知れない程でしたが、あなた様以外に興味を示されません…遂には伯爵様に懇願し侯爵家に縁談を申し入れたのです……なのに!その一週間後に公爵令嬢との婚約が発表され…とうとうお嬢様の心は壊れてしまわれたのです…」

レナータとの結婚前にそんな縁談があったことさえジョアキンは知らないでいた。

「それを聞いて俺にどうせよと?可哀想だとは思うが、前の結婚は王妃の肝入りだった。断ることなどできない。貴族なら婚姻が自分の思うようにならないことなど充分理解していると思うが?」

涙声になるサラにジョアキンが投げかけた言葉は冷えたものだった。

詫びの言葉や可哀想だとか適当な言葉を掛けてやれば彼女の気持ちは落ち着くのかもしれない。だが如何せん、心に微塵も無いことを口には出来ない性分だ。

前の結婚で苦しんだのはキャサリンだけではない。
あの結婚で苦しんだのは当事者であるレナータと自分だ。

傍観者でしかないキャサリンの辛さを理解しろと言われても本当の意味で理解などできない。

「お嬢様のしたことが許されない事であることは重々承知しております。侯爵様の離婚の原因も私達がしたことの結果でしかありません…本来ならお嬢様を止めるべきだったのに…」

「もういい…君の立場で仕えている令嬢に物申すなど出来ないことだろう」

サラの言葉を遮った。

自分勝手な言い分ばかりだ。

好きだったら、愛していたら…愛していたが故に行なわれた行為なら何でも許されると思っているのか。
愛という言葉が免罪符の様に使われることへの強い違和感しかない。

唯一の救いはサラから自分がやったことへの謝罪の気持ちと言葉があったということだけだ。

例えキャサリンとの見合いを両親が勧めたとしても、素気無く断っていたに違いない………フッと記憶の片隅に何かが浮かんだ。
女性を毛嫌いしていたジョアキンに縁談の話が両親から聞かされたのは一度だけ……。
数か月前のことだ。

自分の記憶の中からすっかり抜け落ちていた…あることを思い出し、頭を金槌て撃たれたような衝撃を受けた。

見合いの釣書の名と絵姿…あれは紛れもなくキャサリン・パークシャーのものだった。
あの興味を持つこともなく一瞬で閉じられた釣書が…自分としたことが、こんな大事なことを見落としていたなんて。

チッと自分に勘の悪さに苛立ち舌打ちをする。

キャサリンは侯爵家の…俺の情報を探るためにエメリに近づいていたのか。
犯人とキャサリンが繋がっていることはあの場にいた勘の良いエメリなら気づいた筈だ。
キャサリンのことをあんなに嬉しそうに話していたエメリが、どんなに傷付いたか考えるだけで胸が苦しくなった。

黙り込んだまま険しい顔を崩さないジョアキンにサラは声を震わせた。

「このまま、侯爵様が殺されるようなことがあれば…お嬢様は命を絶たれるかもしれません。お嬢様の命を守りたいから、あなた様の命を助けるなど…酷いことを言っているのも承知しております」

そう言うと、サラはジョアキンの手枷と足枷の上に自分の手を翳し何か呟くと魔法が解除され外れた枷は音を立てて床に落ちた。

驚きの目で見ると暗い表情の彼女は消え入るような声で言った。

「…私にも少しばかり魔力あったのです……ほんの僅かな魔力で大したことは出来ません…弟のようになるのが怖くて誰にも言えなかった…」

俺さえ死ななければキャサリンの心はこれ以上壊れないし、命を絶つこともない…サラがとる行動は全て彼女の為だ。

サラは拉致した際に奪った剣と銃を隠し戸棚の中から取り出すとジョアキンに渡した。

覚悟を決めたサラの瞳には迷いがなかった。

「外に続く道にご案内いたします」

そう言うと、重い扉を開けた。



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