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第1話 夢の中では
しおりを挟む彼女はいつものように静かな寝息をたてている。しかし、僅かに瞼を震わせると、ほんの少し眉間に皺を寄せ寝顔を歪ませた。
彼女は筋書きのわかっている夢をたまに思い出したかのように見る。
それが日常の中でたまに起こるくらいのことだから、ああ、またかと特に気にしてもいないのだが、その夢を見た翌日は眠りが浅かった所為でお肌の調子が良くないのが悩みだ。
朝日が顔を出す前に目覚め、水差しの水を洗面器に移し顔を洗うと幾分寝ぼけた頭がすっきりする。蜂蜜色の長い髪を三つ編みにすると、くるりと一つにまとめてお団子に結い上げた。
鏡の中の顔を見て溜息を漏らし薄桃色の瞳の下のクマを指でなぞった。
「今日は大切な日なのに、嫌だわ」
彼女は王宮でメイドとして働くアルマ・バシェ。十七歳で王宮に勤め始めてメイド歴はまだ浅く三年目だ。
鏡の前で寝巻きを脱ぐと自然と手首に巻かれた組み紐に視線が留まり、アルマは三年前故郷を出る際に両親が持病を持つ自分を心配していたことを思い出した。
アルマが十四歳の時に発症した病は不思議な病だった。突然の動機息切れ、心拍数の上昇、ぞくぞくと背筋を疼きが駆け上がり、眩暈を誘発した。
それが、おかしなことに学校で男子生徒に触れた直後に現れ、症状の現れたアルマに見つめられた男子生徒にも同じ症状が現れるのだ。
慌てた両親によって強制的に学校を休まされた。父が看病をしてくれいる数日間、家を空けていたい母が戻ると、紫と赤のグラデーションの美しい組み紐をアルマの手首に巻いた。そして安堵した表情になり、これで症状が治まると微笑んだ。
母の言葉どおり不思議なことに組み紐を身に着けるようになってからは異性に触れても以前のような症状は出なくなった。
しかし、心配した父によって卒業と同時に一年もの間、家に軟禁状態にされたアルマは我慢の限界に達していた。両親の目を掻い潜り、家を抜け出すと領主である辺境伯に直談判したのだ。
辺境伯は魔物討伐や敵国と脅威に晒される領地と国を守る為に国内でも屈指の強豪私設騎士団を持っていた。
騎士団は貴族であろうとも平民であろうとも才能のあるものが上を目指せる実力主義の集団だった。アルマの父は子爵家の三男だったが辺境伯の下で騎士となり庶民の妻を迎え自らも庶民となっていた。父は精鋭集団の中でも古くから辺境伯に仕え右腕と呼ばれるほどの騎士になっていたのだ。
庶民の娘が領主に直談判など本来なら出来る筈もない話だが、身分関係なく誰とでも接し、ざっくばらんな性格の辺境伯は幼い頃からアルマのことを可愛がってくれていた。
アルマからの直談判を受けた伯爵は父を説得しアルマを自由にしてくれただけでなく、王宮勤めがしたいという彼女の我儘を聞き入れメイドになるための推薦状まで書いてくれたのだ。
手首に巻かれた組み紐を気にしながらも着なれたメイド服に腕を通し白いエプロンを着ければ一気に仕事モードに切り替わる。
ここ数日王宮内は慌ただしく、彼女の仕事も忙しさが増していた。
何故なら今日、三か月ぶりに魔物討伐を終えた第一騎士団が凱旋することになっていたからだ。騎士団は国王に報告に参上した後、そのまま凱旋パーティーへと流れ込むのだ。
仕事に取り掛かったアルマは雑巾の入ったブリキのバケツを抱えながら急ぎ足で庭を横切って行った。
自分に向けられる熱い視線には気付かずに。
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