神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)

Verse 2-5

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 日本にフェリクスが来て二日目の夜、ついに二人は作戦を実行した。と言っても、[ルシファー]が現れたという場所を夜通しほっつき歩くだけである。

「んー流石に一日目は会えませんか。これは一つずつ張ったほうがいいですかね。」

「それにしても、第十セフィラにやってきて悪さをしているわけでもないのに一体何を?」

 結局、その日は収穫がなく、二人は帰路についていた。

「彼の目的、確かにそれがなにかはまだ判明していないですね。[堕天使]が人間界に姿を現しているのも、あまりよくある事ではありませ——」

 突然立ち止まり、フェリクスは会話に言葉を返そうとしたアルフレッドの口を塞ぐ。フェリクスが一瞬にして身構えていた。

(何でこの人こんなに……あぁそうか。帝國のロシア支部、ニッキーの時代は部下全員ニッキーの親類だったもんなぁ。)

 リチャード一世の捜索もあり、ニコライ二世率いるロマノフの関係者達はすべからず人間界に拠点を置き、普段は暗殺や傭兵業で生計を立てていた。ニコライ二世がロシア支部元帥としてROZENにいた頃、ROZENの諜報及び暗殺部隊の一員として働いていたのだから、フェリクスがその出自に関わらず素早いのは相当経験を積んだのだろう。

「確かになにかいるね。」

「えぇ、しかもこの気配。まさしく[シシャ]のものです。」

 言い終えたが否や、フェリクスが先程まで出していた右足の場所に、凄まじい勢いで氷の破片が突き刺さった。間一髪で右足を引き下げると、フェリクスは飛んできた方向を見上げた。

「ほう? だれが[ルシファー]の周りを嗅ぎ回っているのかと思えば、随分と懐かしい顔ではないか若造。」

「待って、僕この声を知らないって事は貴方の事ですよねフェリクス公。」

 声のした方向からフェリクスに視線を移せば、それはもう見る事も出来ない速さで腰から細長い針を抜いて放っていた。

「まさか貴方がこの世界に呼ばれているとは一ミリたりとも考えていませんでしたよ。さぁクソ野郎、貴方の義務は一体何ですか?」

 針の刺さった音はせず、恐らく声の主は針を避けて地の上に飛び降りてきた。ギラつく青白い瞳を、フェリクスはだれよりもよく知っている。

「[原罪]の片割れだ。覚えておけ若造。して、我々の目的はなんだと言っていたな白衣の。」

「アルフレッドなんですけど。教えてくれるんですか? グリゴーリー・イェフィモヴィチ。」

 ニコライ二世に習ったロシア式の敬称、名前と父称で呼びかけると、良く出来た男だ、とグリゴーリー・イェフィモヴィチ・ラスプーチンは感心したように呟いた。

「その礼儀に免じて教えてやろう。[ルシファー]が気になる男がいると言うので手を貸していたのだ。そうだろう?」

 若干顎を引いて脇を見やると、グリゴーリーの視線の先に黒い靄が浮かび上がった。黒い鎖帷子に赤のドラゴンがあしらわれたチュニックを着た男が、片膝をついて頭を垂れている。

「仰る通りです。」

 アルフレッドはその声を知っていた。紛れもなくバスカヴィル本人の声と同じである。

「話に聞くに、[ルシファー]はユーサー王の筈ですが、どうしてバリバリそのクズ野郎に敬語を使っているのか理解しかねます。」

「当たり前だろう、私が[堕天使]達の統括をしているからだ。」

 フェリクスはその美しい口を更にへの字に曲げた。どうやら回答が気に入らなかったようである。

「ユーサー陛下、貴方はそんなクズ野郎を見限ってやはりこちらに戻ってきたほうが、良い生活が出来ると私は思うのですが、如何ですか?」

(早速勧誘し始めた……。)

 呆れるアルフレッドは殆ど会話の外野であった。

「それには及びません。私の罪深い身体にはこの身分で結構。最早、今戻っても父に合わせる顔もありませんので。」

「成る程、それでは一つ質問させてください。貴方の気になる男とは一体?」

 次はグリゴーリーの表情が消えた。片眉を上げると、突然右手付近に白い靄を発し始めた。

「そんな事は聞かんでいいだろう。こいつの私用だ、お前達には一ミリたりとも関係ない。」

 異変を察知して、フェリクスもまた腰からシャンパンゴールドの毒針を引き抜く。

「おや? そうでしょうか。一ミリは関係なくとも一ミクロンは関係あるかもしれませんよ。」

「いちみくろん? まぁよく分からんが土産にこれでもくれてやる。帰るぞユーサー。」

 最後にもう一度アルフレッド達の足元に氷の塊を突き刺してくると、グリゴーリーはユーサー王諸共黒い靄とともに消え去った。

「こんなお土産持ち帰ると思ったんですかね。……と、冗談は置いておいて、ユーサーの目的がだれかの捜索である事は分かりました。しかし私が勧めても復帰する気はないと見える。レイ殿の最後の情けを無為にするべきではないと思いますが。」

「また夜にほっつき歩けば会えますから、取り敢えずは上層部と連絡を取るというところで、今日はもう帰りましょう。」

 いつ戦闘になるかも分からずに身構えていたアルフレッドは、すっかり身体を強張らせて疲れ切っていた。そんな様子のアルフレッドに、フェリクスは微笑んで同意した。

 * * *
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