神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

文字の大きさ
145 / 271
第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)

Verse 4-16

しおりを挟む
 六月、電波に乗ったジャックの歓喜の声とソロモン王の自慢げな声を聞いて、零は夏を感じた。ジークフリートもルプレヒトも、金髪の野獣ラインハルト・ハイドリヒの暗殺があっては職を休んでいる場合ではなかった。ルプレヒトに関していえば、そもそも部隊ごと休みが多かった為に、上司に責任転嫁され酷くしごかれたと言う。

「どこいってもピリピリしてて大変だ。これじゃ碌に休みも出来ない。」

「もうねーサボってたらすぐに怒声が飛んできて大変だよ。」

 ジークフリートとジャンは、やっと二日間の休みが出来た、とルプレヒトの屋敷を訪れた。零とフリードリヒ二世は永遠と無職を極めており、二人が訪れる事を聞いて冷たい甘味を必死に準備したのである。

「それにしてもこのカキゴオリっていうの美味しいな。どうやって作ったんだ?」

「あぁ、氷を削ってシロップをかけるだけだ。日本では夏の風物詩。戦争が終わったら食べに来いよ。」

 ガラスの容器に入った真っ白な氷をつつきながら、二人は日本の甘味に目を輝かせていた。他にも

 零が無理を言ってシュヴァルツに色々と輸入させたもので羊羹やくずきりなどを作った。

「そうだジーク。催促するようで悪いんだが……。」

「ヒムラー長官の事か?聞いてきたぞ。」

 尻ポケットからメモを取り出し、ジークフリートは黒々としたページをどんどんと捲っていく。

「あぁ、オカルトの話?バスカヴィルなんて名前久し振りに聞いたよ。それにしても、どうして今更?」

「いや、俺が気になってるだけなんだ。ジャンは気にしなくていい。」

 ジークフリートの指の動きが止まると、彼は真面目な顔でメモの描かれた情報を整理した。

「まず、ヒムラー閣下はバスカヴィルの名前は知っているが会った事はない。オカルト界隈では信憑性がある方向でかなり有名らしい。閣下が漁った資料では、一八六六年生まれで、パリ万博の後からは一切記録が残ってない。僕が持っている本は、夢に関する本らしいが……まあこれはよく分からなかったからいいか。」

 肩を竦めて腕を軽く広げると、ジークフリートは次のページを捲った。

「バスカヴィルに興味を持ったのは、彼の世界に対する独特な見解らしい。まあ、面白いだけで現実味はないと一蹴していた。この世界はだれが作っただのどうのこうのみたいな、それが面白かったらしい。」

「それまさか俺達の事じゃないよね?」

 恐れるような声で口走ったジャンに、零とジークフリートは気の抜けた顔しか出来なかった。

「まあ、なんだ……。うん、そんな感じだ。あーあと、地球に流れるエネルギーがなんのかんの言ってたが僕にはさっぱり——」

 メモ帳を閉じようとしたジークフリートの手首を掴み、零は難しそうな顔で迫った。

「待て何だって?」

「え、あーー待て待て……。バスカヴィルの本では、地球はマントルとかが詰まってるんじゃなくて、人間みたいに心臓があって血管があってそこに血液が流れててってこれ頭おかしくないか?あの人本当に大丈夫なのか?」

 あの人、が果たして上司を指しているのかバスカヴィルを指しているのか、零にはそんな事はどうでも良かった。慌てて椅子を蹴って立ち上がり、彼は電話帳からROSEAへの番号を見つけた。

「おい、零どうしたんだ。これが本当のわけないだろう、そんな事したらクロアチアのマントル発見者はどうな——」

「アヴィセルラか?話があるんだが……あぁ、研究所の結果を送ってほしい。[セフィラ]の内部構造についてだ、早く!」

 ジークフリートとジャンは流石に顔を見合わせた。もしかして、自分達が[人間]の頃に常識だと思っていた事は、[シシャ]からしてみれば完全に間違いなのではないかと思い始めたのだ。

「これは最近分かった事なんだ。天界や人間界を構成する球体の[セフィラ]がどんな構造をしているのか、俺直轄の"ROSEA"……の研究所で秘密裏に調査してた。俺達[シシャ]みたいに、セフィラには[核]とか[回路]があるって分かったんだ。ここ第十セフィラだけじゃない、帝國だってそうなってるんだ! 二人とも覚えてるだろ、俺が引きずられてった先の、銀が大量にあった部屋! あれが帝國の[核]なんだ。いいか、どんなに力任せに大地攻撃したって、セフィラは壊れない。敵勢力がなぜ帝國を消滅させる事ができたか、それは[核]を直に攻撃したからだ。皇帝だったフランツ一世は[堕天使]だったし、分家の当主は敵勢力のトップだったんだ。ROZENだって、バスカヴィルの肉体は[ルシフェル]のだったし、ルプレヒトは[堕天使]だった! そういう事なんだよ!!」

 どう見ても零の興奮具合は、科学者がノーベル賞レベルの発見をしたらこうなるのだろう、と容易に想像出来るものであった。珍しく暑苦しい零の口に、ジークフリートは落ち着くようにち溶け始めたかき氷を放り込んだ。

「まあ実際そうなんだろう。根拠を引き合いに出されるとそうとしか言えないしそうなんだろう。が、だけどな零。お前が言ってるそれが本当なら……どうしてバスカヴィルはそんな事に気付いたんだ?」

 かき氷を飲み込んだ零の表情が、さっといつもの表情に戻る。

「零、これは偶然の一致だ。あの人がどんなに凄い人でも、お前の真意や技術なんて計りかねる。そうだろ?お前が言ってるのは真実だが、あの人が言ってるのは世迷言だ。」

「そうだよ零。お前は[神]様だけど、あの人は[人間]なんだ。俺達とは違うんだよ。ジークフリートの言う通りだ。」

 ジークフリートとジャンに言葉という名の氷水を浴びせられて、零は漸く蹴り上げた席に座った。

「そう……だな。そうだよな……。」

 果たしてバスカヴィルになにを期待していたのか、空回ったテンションを前に、零は一度息を吐いた。

「零、お前はあの人に振り回されすぎた。ROZENで、帝國でもう全部終わったんだ。お前が現実を見てないとは言わない。それは、お前が今やってる事を見れば自明の理だ。でも、同時に夢や空想も見てる。零、現実と夢は一緒には見れないんだ。な?」

 子供を宥めるように、ジークフリートは零の頭を手を置いた。零は頷く。零からして見れば、ジークフリートの言う通りだった。彼が今助言しなければ、きっと零は現実をほっぽって空想に浸っていたかもしれない。

「うん、そうだな。俺は目の前を見なきゃ。」

 自らの失態に少し涙ぐみながら、零はジークフリートとジャンのそう言った。

「よーし! そうと決まれば、ほら零。もう一回暗殺成功に乾杯しよう! あ、それよりこれからの成功を願っての方がいいかな?」

「お、いいな。そう言えばまだ部屋は空いてるか?今日は呑んだくれてこの屋敷に泊まろう。」

 氷の入ったバケツから、ジークフリートが持ってきた自家製のフルーツジュースを取り出して、ジャンは三つのジュースにそれを注いでいく。二人が景気つけてくれた事に、零もすっかり心のつかえが取れて陽気な笑みを浮かべた。

「なーにをそんなにじっと見ているんだね?」

 そんな光景を、壁に寄りかかって遠目に眺めていたルプレヒトの背中に声がかかる。振り返らなくても、それがフリードリヒ二世である事ははっきり分かった。

「賑やかだ、と。」

「こら、待ちたまえ。」

 脇をすり抜けて台所に戻ろうとしたルプレヒトの足元に、フリードリヒ二世は自らのステッキの先を叩きつけた。

「まああの話を聞いても当事者でない私に状況はさっぱり分かりかねるが、お前がなにかを隠している事くらい分かるぞ。何年の付き合いだと思っているんだね。」

 ルプレヒト、ジークフリート、零、この中で最も最初にフリードリヒ二世の直属の部下になったのは、他ならぬルプレヒトである。フリードリヒ二世の言葉を聞いて、ルプレヒトは目を閉じた。

「では、何を隠していると?陛下。その自慢の付き合いの長さで教えては貰えませんか。」

 いつにない皮肉で、ルプレヒトはフリードリヒ二世を半ば挑発的に黙らせようとしたが、フリードリヒ二世もそれ以上に真面目な顔で答えた。

「木の根っこだよ。」

 ジークフリートとジャンは、夕食を終えてからこれでもかという程アルコールを飲んだ。すっかりと前後不覚になってしまった二人を、零は肩を貸しながら客室に放ると、自らもまたルプレヒトとフリードリヒ二世におやすみの挨拶をして部屋に帰った。机の上にはバスカヴィルの著書二つが並べてあったが、昼の忠言を思い出して目に見えない本棚の死角に仕舞い込んだ。

「……よし。」

 心機一転、とばかりに、零は風呂の時間を長めに取った。いつまでも過去を見てはいられない、目先の作戦についてもっと詰めなければ、と彼は早めにベッドに入った。

「おやすみ黒にゃん。」

 黒猫を一度撫で回すと、その鳴き声を聞いて零は静かに目を瞑った。

 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...