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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 4-27
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なぜ今までROSEAの通信を切っていたのか、と金切り声でアヴィセルラにしこたま叱責され、シュヴァルツとローランを残してワルキューレ作戦の本拠地を急いで後にした四人は、大慌てで零の捜索を開始した。と言っても、ルプレヒトにはグリゴーリーが零をどこに運んでいたのか半ば検討がついており、四人はほぼ直行でルプレヒトの屋敷へ戻った。道中、多くの黒服を懐中電灯や装甲車のライトで照らしながら処分していく軍人に出会ったが、彼らに手伝っている暇など微塵もなかった。
「零!」
玄関扉を壊さんばかりの力で屋敷に押し入ると、ルプレヒトは屋敷中に響き渡るような大声で怒鳴った。静かにしろよ、とフィリップ二世に脇腹を小突かれ、ニコライ二世は耳を済ませた。
「剣がぶつかる音。」
「どこだ?」
フィリップ二世はすぐに床に這いつくばり、目を閉じて聴覚を集中させた。
「おいおっさん。この屋敷、地下あんのか?」
「あるが全く使っていない。扉も木材で打ちつけてあるはずだが。」
行くぞ、とばかりにフィリップ二世が片手をひらめかせると、ルプレヒトを先頭にして三人は地下室へと急いだ。
零の繰り出す剣撃で氷の刃が欠けると、それは零の頬を薄く切り裂いた。すでに零は息が切れており、腕も一トンの鉛のように重く感じられた。
「やめておけ、それ以上動くとお前を刺しかねん。」
「手を抜いてるのか?屈辱的だな……。」
更に追い詰める気で零はグリゴーリーと刃を交わす、零が両手で柄を握り全身を使って刀を振っているにも関わらず、グリゴーリーは終始片手で氷剣を握ってそれに応戦していた。鍔迫り合いに持ち越して、零は苦しそうに呟く。
「どうもおかしい。お前、俺より弱いはずだ。俺が吹き飛ばそうと攻撃すればお前は壁に叩きつけられるはずだ。」
「そうだな。まさに摂理上はそうなるし、実際もそうだろう。」
氷剣を押しやって零との鍔迫り合いを終えると、グリゴーリーは距離を取って再びだるそうに剣を構えた。
(上が騒がしいな、居場所を嗅ぎつけたか。早々に退散するつもりだったが黙らせなければ逃げられんか。)
いつの間にか目の前で刀が煌めき、グリゴーリーは慌ててその刃をかわした。確かに零の言う通りである。[シシャ]の義務は力の象徴である、上位の者に、力技で下位の者が叶うわけがない。
(答えをやりたいところだが、そんな事を言っては私がアーサーになにをされるか分かったもんではない。)
木の扉の向こうが騒がしくなり、グリゴーリーは苦虫を潰したような顔で零を見た。
「すまんな零。どうやら時間切れのようだ。」
そう終わりを告げたグリゴーリーに対して刀を両手で構えた零は、しかしあっという間に間合いを詰められた。
「な——」
ずぶり、と腹を氷剣によって貫かれ、零はグリゴーリーの方へ倒れこむ。丁度、地下室の木の扉が打ち破られた瞬間だった。
「零!」
「貴様……っ!」
大怪我を負わされた零の名を叫ぶ声と、グリゴーリーに対する憤りの声が発されるのは同時であった。ルプレヒトが一歩踏み込んでグリゴーリーに一発食らわせようとした瞬間、彼はなにも言わずにその場から黒い靄となって消えていった。
「っ、零! どこだ……腹か!?」
びしり、とひびが大きくなる音が聞こえて、ルプレヒトの顔は色を失っていった。仰向けに転がして切り裂かれたワイシャツを更に裂くと、角ばった穴が空いていた。
「ニコライ、今すぐアルフレッドを!!」
「待ってて。」
携帯端末を持って地下室から出ていったニコライ二世の背中から、フィリップ二世は視線を逸らした。目の前にあったジークフリートの背中が、どこに行ったかと思えば屈んでいる。
「何してんだ?」
「金属の転がる音がした……これか?」
地下室の空っぽの棚の下に腕を突っ込んで、ジークフリートは少しだけ埃にまみれたなにかを取り出した。入り口から差し込む明かりに照らすと、それは黄金に輝く指輪だった。
「はー高価そうだな。何だぁそりゃ?」
「さぁ、僕に聞かれてもな。」
フィリップ二世の手のひらに転がしたところで、指輪は真っ二つに割れてしまった。
「うぇ!? 金ってそんなに弱かったか!?」
「年季が入ってたのか……いやでも傷一つなかったぞ。」
指輪をまじまじと見つめる二人の元に、やがてニコライ二世が帰ってきた。
* * *
多くの[人間]達にとってはこの第二次世界大戦はあまりにあっけなく、そして衝撃的な終戦を迎えた。
「はあー、漸く休める……。」
書斎机に革靴を履いたままの足を乗せて、アルフレッドは両目を覆った。六月七日から夜が明けて、ナチス・ドイツはアメリカ合衆国が終始参加する事のなかった連合軍に対して降伏した。大日本帝国もまた、侵略を開始していたアジア諸国から軍を引き、連合軍側、主にソヴィエト連邦と中国と和平交渉に持ち込んだ。本土をどこかの国家に侵略される事はなく、この二つの枢軸国は無条件降伏を飲まされる事を回避したのである。
「よおアル、手紙届いてるぜ。」
ローゼの要請で、イーグルはもう暫くアルフレッドの家に居候させる事になっていた。ともかく、彼がいても手伝って貰える事はなく、むしろアルフレッドの家事の量が倍になったのは間違いない。
「手紙……?誰からさ……。」
半ば眠たげでのんびりとした声でイーグルの手から封筒を受け取る。そう厚くもなく、それなりの上質な紙で出来た便箋が一枚から二枚が入っている事が分かった。
「えーいーんー……違うこれドイツスペル……。あい、アインシュタイン!?」
アルフレッドは冷や汗たらたらで便箋の頭を手でちぎると、その中身を開く。
「うっわー……、そうか……。」
中には小さめの便箋一枚、綴られているのはマンハッタン計画を中止させた事についてだれから聞いたのか、そして中止に追い込んだアルフレッドへの言葉少ない感謝だった。
(ライオネル、余計な事言わなくていいのに……。)
自らのした事がたった一人にでも感謝された事により、アルフレッドは心の奥底で行動が報われた事の幸せと、気恥ずかしさを感じていた。
和平交渉が進む中で、悠樹と島田は多忙に追われていた。咲口は悠樹の口添えで既に終戦間際に海軍を退職しており、島田の家で家事をして過ごしていた。ここ数日、島田は平和条約の手伝いをする為にワシントンに滞在しており、咲口はともに海軍を退職していた佐藤と久し振りに東京のバーへ足を運んでいた。日本時間にして丁度今日の夜に、第二次世界大戦に参加した全国家首脳による調印が行われる事もあって、バーにはラジオを聞こうと集まる人が多かった。
「あれ、咲口先輩。煙草吸ってたんですね。」
カウンター席で既に大量のつまみと二杯ほど強めのアルコールを胃に入れていた佐藤は、少し上機嫌そうに言った。
「プライベートでは吸ってたよ。」
と言っても、咲口が好んで吸うのは普通の煙草ではなく細巻き煙草である。女性的な咲口には良く似合う種類だ。繊細なレリーフが施されたジッポで先端に火をつければ、仄かな甘い香りが周囲を漂った。
「あ、良かったらそのジッポ貸してもろても?」
「はぁ、どう……坂本!?」
銀のジッポライターを渡そうと横を向いて、咲口は慌ててそれを落としかけた。
「あーあー、そう落としはったら傷つきますえ?」
「さ、坂本先輩。」
そこにいたのは、ツイードジャケット姿の古い同僚であった。
「名前覚えてもろて嬉しいんやけど、わいはもう坂本やありまへん。」
テーブルの上にキャッチしたジッポライターを立てて、逸叡はにんまりと笑った。
「え、何?どういう事?」
「わいは[シシャ]やったんや、咲口はん。」
白い手でジッポを引き寄せて、咲口は動揺を隠し切れずにそれを手の中で弄んだ。
「それもあんさんらの敵勢力や。一応。」
「……その敵さんがどうして俺らにこんな堂々と会いに?」
一気に声を剣呑にした佐藤に、逸叡は面白げに首を傾げる。薄い茶色の七三を整えて、話を続ける。
「あんさんら[使徒]やったんやってなぁ。ほんで……どうや?あんさんらがどんな力持っとるのか引き出してみとうて——」
「その話ならアルフレッドさんに話つけて貰ってるからいらないよ。」
言葉を遮って不機嫌なベテラン歌手のように言い放った咲口に、逸叡は眉を下げた。しかし、その残念そうな顔もすぐに消え失せて、逸叡は楽しい事を思い付いたようだった。
「何やぁ、もう約束して貰たん?ほんなら、わいがいつか試験してはるさかい。楽しみに待っときいや。」
奢り、と言って、逸叡は二人にカクテルを寄越すと、カウンター席から愉快そうに離れていった。
アメリカ時間の一九四四年七月十日、正午。第二次世界大戦に参戦した全ての首脳がワシントン平和条約に合意し、調印を終えた。第二次世界大戦の終結であった。
* * *
ROSEAの個室で、眠る零の髪を整えていたリチャード一世は振り返った。
「終わったか。」
「はい。」
アヴィセルラは報告を挟んだバインダーを持ってくると、酷く憂鬱そうな顔で零の顔を見下ろす。すっかり安らいで眠っているが、これは傷を早期修復する為に必要な措置である。グリゴーリーに腹を貫かれてから、彼は一度も目を覚ましていない。
「あの指輪、ワタクシ達が持つシステムでは解明できません。もっと上位のシステムによる創造物です。ですが、これを敵方が持っていたと仮定して若干分かった事が一つ。」
バインダーを受け取って、リチャード一世は報告書を捲る。
「所持者にあらゆる事物の破壊をもたらす。且つ、破壊された事物は以後その世界空間では一切存在しなくなる……絶滅といったところか。」
「はい、ジークフリート様曰く、この指輪はグリゴーリー・ラスプーチンが落としていったのではないかと。なぜ真っ二つになったかは……。」
要所を読み終えて、リチャード一世は報告書を脇に抱えた。まだ指輪について考える材料は少なく、思考は同じ場所を巡るばかりである。
「……零は、いつ目覚めそうだと?」
「アルフレッド様は、傷が治るのは数年で、起き上がって活動し、普通に戦闘が出来るようになるのは数十年かかると。」
そうか、とリチャード一世は諦めたように呟いた。今までの戦いはただの前哨戦でしかない事を、リチャード一世はアーサー王と剣を交えて思い知った。彼らの聖戦は今まさに、始まったのである。
「零!」
玄関扉を壊さんばかりの力で屋敷に押し入ると、ルプレヒトは屋敷中に響き渡るような大声で怒鳴った。静かにしろよ、とフィリップ二世に脇腹を小突かれ、ニコライ二世は耳を済ませた。
「剣がぶつかる音。」
「どこだ?」
フィリップ二世はすぐに床に這いつくばり、目を閉じて聴覚を集中させた。
「おいおっさん。この屋敷、地下あんのか?」
「あるが全く使っていない。扉も木材で打ちつけてあるはずだが。」
行くぞ、とばかりにフィリップ二世が片手をひらめかせると、ルプレヒトを先頭にして三人は地下室へと急いだ。
零の繰り出す剣撃で氷の刃が欠けると、それは零の頬を薄く切り裂いた。すでに零は息が切れており、腕も一トンの鉛のように重く感じられた。
「やめておけ、それ以上動くとお前を刺しかねん。」
「手を抜いてるのか?屈辱的だな……。」
更に追い詰める気で零はグリゴーリーと刃を交わす、零が両手で柄を握り全身を使って刀を振っているにも関わらず、グリゴーリーは終始片手で氷剣を握ってそれに応戦していた。鍔迫り合いに持ち越して、零は苦しそうに呟く。
「どうもおかしい。お前、俺より弱いはずだ。俺が吹き飛ばそうと攻撃すればお前は壁に叩きつけられるはずだ。」
「そうだな。まさに摂理上はそうなるし、実際もそうだろう。」
氷剣を押しやって零との鍔迫り合いを終えると、グリゴーリーは距離を取って再びだるそうに剣を構えた。
(上が騒がしいな、居場所を嗅ぎつけたか。早々に退散するつもりだったが黙らせなければ逃げられんか。)
いつの間にか目の前で刀が煌めき、グリゴーリーは慌ててその刃をかわした。確かに零の言う通りである。[シシャ]の義務は力の象徴である、上位の者に、力技で下位の者が叶うわけがない。
(答えをやりたいところだが、そんな事を言っては私がアーサーになにをされるか分かったもんではない。)
木の扉の向こうが騒がしくなり、グリゴーリーは苦虫を潰したような顔で零を見た。
「すまんな零。どうやら時間切れのようだ。」
そう終わりを告げたグリゴーリーに対して刀を両手で構えた零は、しかしあっという間に間合いを詰められた。
「な——」
ずぶり、と腹を氷剣によって貫かれ、零はグリゴーリーの方へ倒れこむ。丁度、地下室の木の扉が打ち破られた瞬間だった。
「零!」
「貴様……っ!」
大怪我を負わされた零の名を叫ぶ声と、グリゴーリーに対する憤りの声が発されるのは同時であった。ルプレヒトが一歩踏み込んでグリゴーリーに一発食らわせようとした瞬間、彼はなにも言わずにその場から黒い靄となって消えていった。
「っ、零! どこだ……腹か!?」
びしり、とひびが大きくなる音が聞こえて、ルプレヒトの顔は色を失っていった。仰向けに転がして切り裂かれたワイシャツを更に裂くと、角ばった穴が空いていた。
「ニコライ、今すぐアルフレッドを!!」
「待ってて。」
携帯端末を持って地下室から出ていったニコライ二世の背中から、フィリップ二世は視線を逸らした。目の前にあったジークフリートの背中が、どこに行ったかと思えば屈んでいる。
「何してんだ?」
「金属の転がる音がした……これか?」
地下室の空っぽの棚の下に腕を突っ込んで、ジークフリートは少しだけ埃にまみれたなにかを取り出した。入り口から差し込む明かりに照らすと、それは黄金に輝く指輪だった。
「はー高価そうだな。何だぁそりゃ?」
「さぁ、僕に聞かれてもな。」
フィリップ二世の手のひらに転がしたところで、指輪は真っ二つに割れてしまった。
「うぇ!? 金ってそんなに弱かったか!?」
「年季が入ってたのか……いやでも傷一つなかったぞ。」
指輪をまじまじと見つめる二人の元に、やがてニコライ二世が帰ってきた。
* * *
多くの[人間]達にとってはこの第二次世界大戦はあまりにあっけなく、そして衝撃的な終戦を迎えた。
「はあー、漸く休める……。」
書斎机に革靴を履いたままの足を乗せて、アルフレッドは両目を覆った。六月七日から夜が明けて、ナチス・ドイツはアメリカ合衆国が終始参加する事のなかった連合軍に対して降伏した。大日本帝国もまた、侵略を開始していたアジア諸国から軍を引き、連合軍側、主にソヴィエト連邦と中国と和平交渉に持ち込んだ。本土をどこかの国家に侵略される事はなく、この二つの枢軸国は無条件降伏を飲まされる事を回避したのである。
「よおアル、手紙届いてるぜ。」
ローゼの要請で、イーグルはもう暫くアルフレッドの家に居候させる事になっていた。ともかく、彼がいても手伝って貰える事はなく、むしろアルフレッドの家事の量が倍になったのは間違いない。
「手紙……?誰からさ……。」
半ば眠たげでのんびりとした声でイーグルの手から封筒を受け取る。そう厚くもなく、それなりの上質な紙で出来た便箋が一枚から二枚が入っている事が分かった。
「えーいーんー……違うこれドイツスペル……。あい、アインシュタイン!?」
アルフレッドは冷や汗たらたらで便箋の頭を手でちぎると、その中身を開く。
「うっわー……、そうか……。」
中には小さめの便箋一枚、綴られているのはマンハッタン計画を中止させた事についてだれから聞いたのか、そして中止に追い込んだアルフレッドへの言葉少ない感謝だった。
(ライオネル、余計な事言わなくていいのに……。)
自らのした事がたった一人にでも感謝された事により、アルフレッドは心の奥底で行動が報われた事の幸せと、気恥ずかしさを感じていた。
和平交渉が進む中で、悠樹と島田は多忙に追われていた。咲口は悠樹の口添えで既に終戦間際に海軍を退職しており、島田の家で家事をして過ごしていた。ここ数日、島田は平和条約の手伝いをする為にワシントンに滞在しており、咲口はともに海軍を退職していた佐藤と久し振りに東京のバーへ足を運んでいた。日本時間にして丁度今日の夜に、第二次世界大戦に参加した全国家首脳による調印が行われる事もあって、バーにはラジオを聞こうと集まる人が多かった。
「あれ、咲口先輩。煙草吸ってたんですね。」
カウンター席で既に大量のつまみと二杯ほど強めのアルコールを胃に入れていた佐藤は、少し上機嫌そうに言った。
「プライベートでは吸ってたよ。」
と言っても、咲口が好んで吸うのは普通の煙草ではなく細巻き煙草である。女性的な咲口には良く似合う種類だ。繊細なレリーフが施されたジッポで先端に火をつければ、仄かな甘い香りが周囲を漂った。
「あ、良かったらそのジッポ貸してもろても?」
「はぁ、どう……坂本!?」
銀のジッポライターを渡そうと横を向いて、咲口は慌ててそれを落としかけた。
「あーあー、そう落としはったら傷つきますえ?」
「さ、坂本先輩。」
そこにいたのは、ツイードジャケット姿の古い同僚であった。
「名前覚えてもろて嬉しいんやけど、わいはもう坂本やありまへん。」
テーブルの上にキャッチしたジッポライターを立てて、逸叡はにんまりと笑った。
「え、何?どういう事?」
「わいは[シシャ]やったんや、咲口はん。」
白い手でジッポを引き寄せて、咲口は動揺を隠し切れずにそれを手の中で弄んだ。
「それもあんさんらの敵勢力や。一応。」
「……その敵さんがどうして俺らにこんな堂々と会いに?」
一気に声を剣呑にした佐藤に、逸叡は面白げに首を傾げる。薄い茶色の七三を整えて、話を続ける。
「あんさんら[使徒]やったんやってなぁ。ほんで……どうや?あんさんらがどんな力持っとるのか引き出してみとうて——」
「その話ならアルフレッドさんに話つけて貰ってるからいらないよ。」
言葉を遮って不機嫌なベテラン歌手のように言い放った咲口に、逸叡は眉を下げた。しかし、その残念そうな顔もすぐに消え失せて、逸叡は楽しい事を思い付いたようだった。
「何やぁ、もう約束して貰たん?ほんなら、わいがいつか試験してはるさかい。楽しみに待っときいや。」
奢り、と言って、逸叡は二人にカクテルを寄越すと、カウンター席から愉快そうに離れていった。
アメリカ時間の一九四四年七月十日、正午。第二次世界大戦に参戦した全ての首脳がワシントン平和条約に合意し、調印を終えた。第二次世界大戦の終結であった。
* * *
ROSEAの個室で、眠る零の髪を整えていたリチャード一世は振り返った。
「終わったか。」
「はい。」
アヴィセルラは報告を挟んだバインダーを持ってくると、酷く憂鬱そうな顔で零の顔を見下ろす。すっかり安らいで眠っているが、これは傷を早期修復する為に必要な措置である。グリゴーリーに腹を貫かれてから、彼は一度も目を覚ましていない。
「あの指輪、ワタクシ達が持つシステムでは解明できません。もっと上位のシステムによる創造物です。ですが、これを敵方が持っていたと仮定して若干分かった事が一つ。」
バインダーを受け取って、リチャード一世は報告書を捲る。
「所持者にあらゆる事物の破壊をもたらす。且つ、破壊された事物は以後その世界空間では一切存在しなくなる……絶滅といったところか。」
「はい、ジークフリート様曰く、この指輪はグリゴーリー・ラスプーチンが落としていったのではないかと。なぜ真っ二つになったかは……。」
要所を読み終えて、リチャード一世は報告書を脇に抱えた。まだ指輪について考える材料は少なく、思考は同じ場所を巡るばかりである。
「……零は、いつ目覚めそうだと?」
「アルフレッド様は、傷が治るのは数年で、起き上がって活動し、普通に戦闘が出来るようになるのは数十年かかると。」
そうか、とリチャード一世は諦めたように呟いた。今までの戦いはただの前哨戦でしかない事を、リチャード一世はアーサー王と剣を交えて思い知った。彼らの聖戦は今まさに、始まったのである。
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