271 / 271
第三巻『その痩躯から 死が分たれる その時まで。』(RoGD Ch.4)
Verse 5-1
しおりを挟む
天界にある全知全能たる神々の神殿から、その黒馬に跨ったゴーレム達は出発した。その列はごく僅かなゴーレムと、一つのバロック彫刻の棺で構成されていた。ガラスの蓋の中には、溢れんばかりのベルベットのような花弁を持った赤黒い薔薇達と共に、零の仮の遺体が置かれていた。その日、神殿より北側を流れる川の上流は、葬列の一部の関係者以外の立ち入りを禁じられた。ゴーレム達が出発したのを見て、集まった幾人かの[シシャ]達ははその黒馬の足元に各々が持ち寄った花束を投げていく。それぞれの時代の喪服に身を包み、葬列に足を運び、頭を下げていく。馬の蹄の音が、天界にただただこだましていた。
「では……。我々は、これで。」
棺の後ろに参列したのは、ルプレヒト以外の、帝國でROZEN本部に勤めていた[シシャ]の面々だった。
「皆様。長い列を、ありがとう御座いました。」
天界の領地は途切れた。ここからはもう、アヴィセルラと数少ないゴーレム達が川を昇って零の亡骸を神域に運ぶのみだった。参列した人数分の赤い薔薇の花束を、硝子の棺の上にそっと置く。馬を降りたゴーレム達が、棺を舟に乗せた。人間界からは天の川として見える川を昇っていくのだ。アヴィセルラがもう一度一礼すると、船は動き始めた。
「……ルプレヒトは、来なかったな。」
「ああ。来ないだろ、あの人は。」
小さくなりゆく小舟を見つめながら、ジークフリートが肩を落とした。リチャード一世とジャンが、その肩を撫でてすれ違っていく。次に、ニコライ二世が向日葵の花を川に流して、ロマノフの一族と共にその場を後にした。アルフレッドは、小舟が見えなくなるまで見届けると、鼻をすすりながら天界の病院への道筋を歩き出した。ジークフリートは、舟が見えなくなってもただただそこに立っていた。カペーの王族達が後ろで待っていたが、フィリップ二世はお構いなしにジークフリートに付き合ってやった。そうして一時間が過ぎ、二時間が過ぎた。
「……ジークフリート、迎えだ。」
振り返ったフィリップ二世の視線の先には、黒い蝙蝠傘を差した理恵とフェリクスが静かに佇んでいる。
「お迎えに来たわ。ジークフリート。」
足が棒のようになって動けなくなってしまったジークフリートの背中を、フィリップ二世は押した。ジークフリートがつんのめって一歩を踏み出す。
「……そうだな。あいつがいなくても、僕はまだやる事がある。」
「ええ、悲しみは計り知れません。ですが、その全てを吐き出すには、時間があまりに少ない。」
行きましょう。そう言って、理恵はジークフリートに手を差し伸べた。
「あの人が帰って来た時、この聖戦に純然たる戦勝を齎せるように。」
ジークフリートは、理恵の黒レースに覆われた手を取った。まだ希望はある。なぜなら、零は決して、死んだわけではないのだから。
三人は歩き出す。途中、川に、薔薇色の花がたった一輪流れていった。
「では……。我々は、これで。」
棺の後ろに参列したのは、ルプレヒト以外の、帝國でROZEN本部に勤めていた[シシャ]の面々だった。
「皆様。長い列を、ありがとう御座いました。」
天界の領地は途切れた。ここからはもう、アヴィセルラと数少ないゴーレム達が川を昇って零の亡骸を神域に運ぶのみだった。参列した人数分の赤い薔薇の花束を、硝子の棺の上にそっと置く。馬を降りたゴーレム達が、棺を舟に乗せた。人間界からは天の川として見える川を昇っていくのだ。アヴィセルラがもう一度一礼すると、船は動き始めた。
「……ルプレヒトは、来なかったな。」
「ああ。来ないだろ、あの人は。」
小さくなりゆく小舟を見つめながら、ジークフリートが肩を落とした。リチャード一世とジャンが、その肩を撫でてすれ違っていく。次に、ニコライ二世が向日葵の花を川に流して、ロマノフの一族と共にその場を後にした。アルフレッドは、小舟が見えなくなるまで見届けると、鼻をすすりながら天界の病院への道筋を歩き出した。ジークフリートは、舟が見えなくなってもただただそこに立っていた。カペーの王族達が後ろで待っていたが、フィリップ二世はお構いなしにジークフリートに付き合ってやった。そうして一時間が過ぎ、二時間が過ぎた。
「……ジークフリート、迎えだ。」
振り返ったフィリップ二世の視線の先には、黒い蝙蝠傘を差した理恵とフェリクスが静かに佇んでいる。
「お迎えに来たわ。ジークフリート。」
足が棒のようになって動けなくなってしまったジークフリートの背中を、フィリップ二世は押した。ジークフリートがつんのめって一歩を踏み出す。
「……そうだな。あいつがいなくても、僕はまだやる事がある。」
「ええ、悲しみは計り知れません。ですが、その全てを吐き出すには、時間があまりに少ない。」
行きましょう。そう言って、理恵はジークフリートに手を差し伸べた。
「あの人が帰って来た時、この聖戦に純然たる戦勝を齎せるように。」
ジークフリートは、理恵の黒レースに覆われた手を取った。まだ希望はある。なぜなら、零は決して、死んだわけではないのだから。
三人は歩き出す。途中、川に、薔薇色の花がたった一輪流れていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる