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第三巻『その痩躯から 死が分たれる その時まで。』(RoGD Ch.4)
Verse 4-34
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目を覚ました。見覚えのある真っ暗な部屋に、月明かりが差し込んでいる。
「……。」
部屋は確か、第二次世界大戦が終戦した後に目覚めた部屋だ。長い夢を見ていた気がした。しかし、彼の手に残った感触は生々しい。
「……ルプレヒト!」
記憶の端の端が蘇る。血塗れになって覆い被さってくるルプレヒトの姿が、頭に焼き付いていた。慌ててベッドを出る。廊下に聞き耳を立てたが、外にはだれもいなかった。
(ルプレヒト、どの部屋に……いるんだ。)
そう思いつつも、零は後先を考えずに真鍮のドアノブを音を立てないように回した。見覚えのある、ROSEAの廊下を、彼は駆け始めた。
リチャード一世とアルフレッドが食堂に入ってくると、その後ろに続いてアヴィセルラもまた食堂へ足を踏み入れた。
「零の容体は?」
「安定してるよ。君らはまず自分の体調を治す事に注力して。」
眼鏡を外して、アルフレッドはその手で目元を覆った。彼らが帰ってきてから、ずっとルプレヒトについて考えていたようである。しかし、彼らはルプレヒトの名前を出す事は出来なかった。
「……ルプレヒト様は我が君によって殺されました。故に……それを覆す事が出来るのはこの世でたった一人、我が君だけ。」
静かに、アヴィセルラが口を開くと、俯いていた一同は顔を上げた。
「大変、心苦しいのですが。自身で行った事項を取り消す為にはそれ相応の対価が必要になります。傷には同じ傷を、痛みには同じ痛みを。」
しん、と食堂は更に沈黙を深めた。その先は、だれが言わずとも分かった。命を奪ったという行為には、命をもって取り消す事しか出来ない。
廊下の再奥の一室、零はそのドアノブを回した。普段、使っていない部屋の扉には鍵がかかっている筈だが、その部屋だけはすんなりと開いた。
(開いた!)
嬉々として、零は部屋に飛び込んだ。扉を閉めるのも忘れて、マッチを取って燭台の三つの蝋燭に火を灯してベッドのサイドテーブルに置いた。零の求めていた目鼻立ちがそのベッドで、随分と綺麗に横たわっていた。
「ルプレ……。」
その顔を撫でようと手をかざして、零は一瞬で感じ取った。この男は、もう動く事はないと。
「……ルプレ、ヒト。」
頭の中に、暗示で封じ込められていた記憶が一気に流れ込んできた。グリゴーリーの言葉と、その日の夜の戦闘の全てが目の前に蘇る。友人達になんの躊躇いもなく刃を向け、傷を負わせ、決死の覚悟で暗示を解いたルプレヒトの心の臓を貫いた。手に残った僅かな感触が、目の前の恋人がもう二度と動かない確たる理由であった。
(俺が、殺したのか。)
先まで刀を握っていた右手が震え始めた。
「俺が……。」
その右手を、冷たい肌に手繰り寄せる。この冷たさは、この世のいかなる物質でも現す事は出来ないだろう。なにもない。その冷たさが、[シシャ]にも存在するのだ。
「ルプ……レ——」
噛み締めた嗚咽が声帯を塞いだ。恋人を失った、自分が殺した。拭い去る事の出来ない事実が零の双肩にのしかかる。今すぐにでもルプレヒトの顔が動くさまを見たかった。その体温を取り戻す為ならなんでもしようと思い付いた。
(もう二度と会えなくなったとしても?)
自らへの問いかけに、零は逡巡さえなかった。
「……ごめん。」
その鼻声が自身と、そしてルプレヒトへの答えだった。カーペットに両膝をつき、零はルプレヒトの顔を手繰り寄せた。
「勝手だって分かってる。凄く我儘だよね。」
赤褐色の髪を撫でて、癒える事のない右目の傷に少しだけ唇を落とした。
「でも、俺は……お前に生きててほしい。」
無理矢理口角を上げて微笑む。
「大丈夫だよ。こんなになってまで一緒に会えたんだ。また……絶対に会える。」
会えるだろうか、それはそうなってみなければ分からない。零は、自らの額をルプレヒトの額に擦り寄せた。軽く目を瞑って、体の力を抜く。
(……ああ。)
仄かな灯りを感じて、零は薄く目を開いた。部屋一面に、ストロベリー色の灯りがふわふわと漂い始めていた。
「見て、ルプレヒト。」
それは自分の命の光だと零は心のどこかで感じ取った。自分の体を構成する全てが解けていく。
「凄く、綺麗だ……。」
その囁きは果たしてルプレヒトに届いただろうか。それを確かめる事は、零には出来なかった。
「……。」
部屋は確か、第二次世界大戦が終戦した後に目覚めた部屋だ。長い夢を見ていた気がした。しかし、彼の手に残った感触は生々しい。
「……ルプレヒト!」
記憶の端の端が蘇る。血塗れになって覆い被さってくるルプレヒトの姿が、頭に焼き付いていた。慌ててベッドを出る。廊下に聞き耳を立てたが、外にはだれもいなかった。
(ルプレヒト、どの部屋に……いるんだ。)
そう思いつつも、零は後先を考えずに真鍮のドアノブを音を立てないように回した。見覚えのある、ROSEAの廊下を、彼は駆け始めた。
リチャード一世とアルフレッドが食堂に入ってくると、その後ろに続いてアヴィセルラもまた食堂へ足を踏み入れた。
「零の容体は?」
「安定してるよ。君らはまず自分の体調を治す事に注力して。」
眼鏡を外して、アルフレッドはその手で目元を覆った。彼らが帰ってきてから、ずっとルプレヒトについて考えていたようである。しかし、彼らはルプレヒトの名前を出す事は出来なかった。
「……ルプレヒト様は我が君によって殺されました。故に……それを覆す事が出来るのはこの世でたった一人、我が君だけ。」
静かに、アヴィセルラが口を開くと、俯いていた一同は顔を上げた。
「大変、心苦しいのですが。自身で行った事項を取り消す為にはそれ相応の対価が必要になります。傷には同じ傷を、痛みには同じ痛みを。」
しん、と食堂は更に沈黙を深めた。その先は、だれが言わずとも分かった。命を奪ったという行為には、命をもって取り消す事しか出来ない。
廊下の再奥の一室、零はそのドアノブを回した。普段、使っていない部屋の扉には鍵がかかっている筈だが、その部屋だけはすんなりと開いた。
(開いた!)
嬉々として、零は部屋に飛び込んだ。扉を閉めるのも忘れて、マッチを取って燭台の三つの蝋燭に火を灯してベッドのサイドテーブルに置いた。零の求めていた目鼻立ちがそのベッドで、随分と綺麗に横たわっていた。
「ルプレ……。」
その顔を撫でようと手をかざして、零は一瞬で感じ取った。この男は、もう動く事はないと。
「……ルプレ、ヒト。」
頭の中に、暗示で封じ込められていた記憶が一気に流れ込んできた。グリゴーリーの言葉と、その日の夜の戦闘の全てが目の前に蘇る。友人達になんの躊躇いもなく刃を向け、傷を負わせ、決死の覚悟で暗示を解いたルプレヒトの心の臓を貫いた。手に残った僅かな感触が、目の前の恋人がもう二度と動かない確たる理由であった。
(俺が、殺したのか。)
先まで刀を握っていた右手が震え始めた。
「俺が……。」
その右手を、冷たい肌に手繰り寄せる。この冷たさは、この世のいかなる物質でも現す事は出来ないだろう。なにもない。その冷たさが、[シシャ]にも存在するのだ。
「ルプ……レ——」
噛み締めた嗚咽が声帯を塞いだ。恋人を失った、自分が殺した。拭い去る事の出来ない事実が零の双肩にのしかかる。今すぐにでもルプレヒトの顔が動くさまを見たかった。その体温を取り戻す為ならなんでもしようと思い付いた。
(もう二度と会えなくなったとしても?)
自らへの問いかけに、零は逡巡さえなかった。
「……ごめん。」
その鼻声が自身と、そしてルプレヒトへの答えだった。カーペットに両膝をつき、零はルプレヒトの顔を手繰り寄せた。
「勝手だって分かってる。凄く我儘だよね。」
赤褐色の髪を撫でて、癒える事のない右目の傷に少しだけ唇を落とした。
「でも、俺は……お前に生きててほしい。」
無理矢理口角を上げて微笑む。
「大丈夫だよ。こんなになってまで一緒に会えたんだ。また……絶対に会える。」
会えるだろうか、それはそうなってみなければ分からない。零は、自らの額をルプレヒトの額に擦り寄せた。軽く目を瞑って、体の力を抜く。
(……ああ。)
仄かな灯りを感じて、零は薄く目を開いた。部屋一面に、ストロベリー色の灯りがふわふわと漂い始めていた。
「見て、ルプレヒト。」
それは自分の命の光だと零は心のどこかで感じ取った。自分の体を構成する全てが解けていく。
「凄く、綺麗だ……。」
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