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第三巻『その痩躯から 死が分たれる その時まで。』(RoGD Ch.4)
Verse 4-33
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飛んできた氷の破片を避けて、ニコライ二世は息がかかる程の距離までグリゴーリーに接近した。
「どうやったら零を助けられる、言え!」
グリゴーリーの黄色いマフラーをニコライ二世のナイフが切り裂いた。もはや怒声で切られているのかナイフで切られているのか分からないほどの剣幕だった。
「暗示が解けるまで後少し、私にかまけていて良いのですか? 陛下。」
「好きでお前の相手をしているわけではない。これが最善だと私が思ったからしているのだ!」
息を切らせて、ニコライ二世は太腿のホルスターから拳銃を引き抜いた。一発撃ち込んで、よろめいたグリゴーリーの頬を掠める。
「お前は、いくら私を困らせたら気が済む……。」
再び引き金に指をかける。
「お前は……いくら人を傷つければ気が済むのだ!!」
二発目はものの見事に外れた。マフラーから焦げ臭い香りが上がってくると、グリゴーリーは乾いた笑いを浮かべた。
「勝手に困って勝手に傷ついているのは貴方ですよ陛下。私のような下賤な身の上の者を重用して、貴方が嫌だと言えば飛んでシベリアに帰るような男を最期の最期まで傍に置いたのは貴方ですよ。」
かちかち、と小さな金属の振動が聞こえる。図星だった。ニコライ二世は唇を噛み締めた。責任転嫁をしている事は、我が身が最も分かっている。
「……ですが、私にも落ち度はあります。私が生前、貴方にそう進言すればあんな事にはならなかったでしょうからな。」
火薬の匂いが鼻をついた。グリゴーリーは人差し指を立てて、そして続けた。
「零を貴方がたが救う方法はただ一つ。それは……彼の暗示を貴方がたが自力で解く。ただ、それだけです。」
無慈悲な刀だ、とジークフリートは月光に煌いたその磨き上げられた日本刀を見て思った。今まさに、ジークフリートの首元に突きつけられる間もなく突き落とされるだろう。
「零……。」
捨て身ならば救えたかもしれない、とジークフリートはもう一度思った。しかし、ジークフリートはそれが不毛である事を知っていた。零にとってはだれ一人として欠けて欲しくはないのだ。だから、ジークフリートは生のその最期の一瞬まで最善を尽くす事をやめなかった。刀が振り下ろされる、その瞬間、ジークフリートはその手首を掴もうと手を伸ばした。
(足りるかな、今の僕の腕力で……!)
刹那、目の前を黒い影が走り去っていった。伸ばした手の先にはなにもない。右を見れば、ルプレヒトが容赦無く零に体当たりした後の惨事が見えた。
「ルプレヒト!」
「お前はリチャードの加勢に行け!」
不意をつかれた零は雪まみれになって転がっていた。ルプレヒトは距離を取る。いつの間にか息の上がっていたジークフリートは、ルプレヒトが言った通りにリチャード一世の元へ行こうとしたが、骨折が激しく立つのも困難な状態だった。
「ジークフリート!」
「フィリップ……。もう僕は駄目だ。」
なに言ってんだよこいつ、と内心で悪態をつきながらフィリップ二世はジークフリートのすぐ傍に片膝をついた。ルプレヒトが零を遠ざけた事でジークフリートの体が[シシャ]に戻りつつある。
「ルプレヒトの奴、どうしたんだ突然こっちに来て……。」
「ラスプーチンの話をたまたま聞いたんだろ。ニッキーの一番近くで戦ってたからな。」
出来るだけ零から遠ざけようと、フィリップ二世はジークフリートに肩を貸した。
「歩けるか?」
「脚は大丈夫だ、上半身がヤバい。」
遠くで火花が散っている。ルプレヒトのナイフが的確に零の刀を弾いていた。とんでもない速さだと思いながら二人はそれを眺めつつ後ずさる。
「おっさん、全部見切ってやがる……。速さに追いついてはねぇがありゃもう見て体動かしてるんじゃねぇだろ……。」
「生前、零がプロイセンにいた頃はルプレヒトが刀の稽古に付き合ってやってたんだ。分かるんだろうな全部。それこそ、手に取るように。」
戦争が終わった後も、二人はよくサンスーシ宮殿から近くの森に出かけて、稽古とは思えない程とんでもない殺気で実践をしていたのを覚えている、乗馬がてら、ジークフリートも木の影からよくそれを見ていたものだ。しかし。
(ルプレヒト……。お前の体だって、今の零の前じゃ限界があるんだぞ。)
フィリップ二世の肩に回した腕が強張った。
暗示を解く。今のルプレヒトにはもうそれ以外の一切の思考がなかった。零の攻撃を凌ぐのに大した思考回路はいらない。必要なのは隙を見つける事だけだ。だが、零の体力は底が見えなかった。もはやただの戦闘用機械のように永遠と刀を振るっている。流石にその光景はルプレヒトにも堪えた。温もりの欠片もない相手ほどやりづらいものはない。二人の間を弾丸が駆け抜けた。零にほんの一瞬の隙が見える。ニコライ二世がどこからか応戦してるのだろう。耳元をまた弾道の音が掠めた。迫ってきた刀が真っ二つにそれを切り開く。
(あぁ……それでも。)
いかに機械的に見えようとも、零の人間性が太刀筋に滲み出ていた。生前からルプレヒトはそれの太刀筋を見るのが好きだった。好きだったからこそ、戦争の終わった後でも零と森で刃を交えていたと言っても過言ではない。枝だろうと金属だろうと、彼は寸分の荒れもなく、そして刀の刃こぼれもなく美しく斬ってみせたものだった。
「っ!」
見惚れた隙を突かれて、ルプレヒトは慌てて右半身を後ろへずらした。眼帯の紐が鎌鼬で切れていく。一瞬、弱視の右目のせいで視界のピントがずれた。
(まずい!)
慌てて零の腕を捻ろうとしたが距離感覚が掴めずに空振った。刀がルプレヒトの右肩を深々と斬りつけ、続けざまに繰り出された膝蹴りがルプレヒトを遠くの木の幹に弾き飛ばした。
「ルプレヒト!」
受け身をまともに取れずに頭を幹に叩きつけられた。歯を噛み締めて、呻く事さえ耐える。
「一旦引け!ボロボロじゃねぇか!」
ニコライ二世の叫びと、フィリップ二世の怒声が遠くで聞こえた。なにかが横から引き摺り込もうとしたのを、ルプレヒトは押しのけた。
「無茶するな、本当に死ぬんだぞ!」
ジークフリートの悲痛な声と手は間に合わなかった。零の白銀の刀が、まさに黒いロングコートの布地を貫く。
「やめろ、無茶を——」
リチャード一世は振り返ったが、やはり、それも遅かった。ルプレヒトは胸に飛び込んできた零の後頭部に手を添えた。胸を貫こうとする刀を握る手を掴み、それを深々と自らの左胸に引き寄せた。背中に、滑らかな白銀の刃から流れ落ちる血を感じる。
「目を、覚ませ……。」
体を貫く痛みさえ愛おしかった。膝から崩れ落ちながら、ルプレヒトは力の入らなくなった手からナイフが滑り落ちるのを感じ取った。好都合だ、と微笑んで、零の顔を両手で包んだ。
「る、ぷれ——」
果たして、煌めきさえ失った零の瞳にそれがどう映ったかどうかは分からない。ルプレヒトは僅かに動いた赤い唇を、自身の血で塗れた唇で塞いだ。
「暗示は……解けたのか?」
か細く呟いたニコライ二世の言葉に答える者は一人もいなかった。フィリップ二世は辺りを見渡した。暗示は解けたのだろう。グリゴーリーも、そこらに散らばっていたゴーレムの残骸も、もうその血まみれの針葉樹林の中から跡形もなく消え去っていた。
(こんな……形で?)
そんなもので終わっていいものかとフィリップ二世は瞠目したまま木の幹に拳を叩きつけた。終わっていい筈がない。だが、その場のだれも、その受け入れがたい結末を覆す事柄など、なに一つ持ち合わせていなかった。
ROSEAの食堂で、ジークフリートは両肘をついていた。数ヶ月は安静に、アルフレッドから上半身をぐるぐると包帯で巻かれた後の言葉だった。
「……飲むか? これ。」
今、アルフレッドは一番最後にリチャード一世と共に零の容体を見に行っていた。ルプレヒトの口付けの後、彼は糸が切れたように動かなくなっていた。
「ああ。……貰おうか。」
フィリップ二世も治りきらなかった体を無理に動かしたせいでかなりおかしくなっていたらしい。ジークフリートよりも随分と長い間静養するように言い渡されていた。
「零。」
「あん?」
ウイスキーの入ったグラスを受け取って、ジークフリートは続けた。
「なんて伝えればいいんだ。零に……。」
「知らねえよ……。」
考えたくもなかった。ルプレヒトが死んだと伝えられた零の表情は、きっとこの世で一番悲しげな顔をするのだろう。具体的なものは思い浮かばなかった。
「だが、まだ死んだと決めつけたらおっさんだって可哀想だろ。……九割九分九厘生き返る可能性なんてないんだろうけどな。」
ウイスキーのグラスに口をつけたまま、フィリップ二世はぼそぼそと喋った。いつものすれすれの冗談さえ言う気になれない。
「今ふと、こんな時に元帥がいたら、零になんて声をかけるんだろうな、と思ったんだ。」
「ああ。……んで?」
ジークフリートの遠くを見ていた虚な瞳に、光が円を描いた。
「あの人はきっとなにか的確な言葉をかけてあげられるんだろうと思った。でも、僕は……。」
グラスが割れるほど強く握りしめて、ジークフリートは声を振り絞る。
「僕は、なにも言ってやれない……!」
「どうやったら零を助けられる、言え!」
グリゴーリーの黄色いマフラーをニコライ二世のナイフが切り裂いた。もはや怒声で切られているのかナイフで切られているのか分からないほどの剣幕だった。
「暗示が解けるまで後少し、私にかまけていて良いのですか? 陛下。」
「好きでお前の相手をしているわけではない。これが最善だと私が思ったからしているのだ!」
息を切らせて、ニコライ二世は太腿のホルスターから拳銃を引き抜いた。一発撃ち込んで、よろめいたグリゴーリーの頬を掠める。
「お前は、いくら私を困らせたら気が済む……。」
再び引き金に指をかける。
「お前は……いくら人を傷つければ気が済むのだ!!」
二発目はものの見事に外れた。マフラーから焦げ臭い香りが上がってくると、グリゴーリーは乾いた笑いを浮かべた。
「勝手に困って勝手に傷ついているのは貴方ですよ陛下。私のような下賤な身の上の者を重用して、貴方が嫌だと言えば飛んでシベリアに帰るような男を最期の最期まで傍に置いたのは貴方ですよ。」
かちかち、と小さな金属の振動が聞こえる。図星だった。ニコライ二世は唇を噛み締めた。責任転嫁をしている事は、我が身が最も分かっている。
「……ですが、私にも落ち度はあります。私が生前、貴方にそう進言すればあんな事にはならなかったでしょうからな。」
火薬の匂いが鼻をついた。グリゴーリーは人差し指を立てて、そして続けた。
「零を貴方がたが救う方法はただ一つ。それは……彼の暗示を貴方がたが自力で解く。ただ、それだけです。」
無慈悲な刀だ、とジークフリートは月光に煌いたその磨き上げられた日本刀を見て思った。今まさに、ジークフリートの首元に突きつけられる間もなく突き落とされるだろう。
「零……。」
捨て身ならば救えたかもしれない、とジークフリートはもう一度思った。しかし、ジークフリートはそれが不毛である事を知っていた。零にとってはだれ一人として欠けて欲しくはないのだ。だから、ジークフリートは生のその最期の一瞬まで最善を尽くす事をやめなかった。刀が振り下ろされる、その瞬間、ジークフリートはその手首を掴もうと手を伸ばした。
(足りるかな、今の僕の腕力で……!)
刹那、目の前を黒い影が走り去っていった。伸ばした手の先にはなにもない。右を見れば、ルプレヒトが容赦無く零に体当たりした後の惨事が見えた。
「ルプレヒト!」
「お前はリチャードの加勢に行け!」
不意をつかれた零は雪まみれになって転がっていた。ルプレヒトは距離を取る。いつの間にか息の上がっていたジークフリートは、ルプレヒトが言った通りにリチャード一世の元へ行こうとしたが、骨折が激しく立つのも困難な状態だった。
「ジークフリート!」
「フィリップ……。もう僕は駄目だ。」
なに言ってんだよこいつ、と内心で悪態をつきながらフィリップ二世はジークフリートのすぐ傍に片膝をついた。ルプレヒトが零を遠ざけた事でジークフリートの体が[シシャ]に戻りつつある。
「ルプレヒトの奴、どうしたんだ突然こっちに来て……。」
「ラスプーチンの話をたまたま聞いたんだろ。ニッキーの一番近くで戦ってたからな。」
出来るだけ零から遠ざけようと、フィリップ二世はジークフリートに肩を貸した。
「歩けるか?」
「脚は大丈夫だ、上半身がヤバい。」
遠くで火花が散っている。ルプレヒトのナイフが的確に零の刀を弾いていた。とんでもない速さだと思いながら二人はそれを眺めつつ後ずさる。
「おっさん、全部見切ってやがる……。速さに追いついてはねぇがありゃもう見て体動かしてるんじゃねぇだろ……。」
「生前、零がプロイセンにいた頃はルプレヒトが刀の稽古に付き合ってやってたんだ。分かるんだろうな全部。それこそ、手に取るように。」
戦争が終わった後も、二人はよくサンスーシ宮殿から近くの森に出かけて、稽古とは思えない程とんでもない殺気で実践をしていたのを覚えている、乗馬がてら、ジークフリートも木の影からよくそれを見ていたものだ。しかし。
(ルプレヒト……。お前の体だって、今の零の前じゃ限界があるんだぞ。)
フィリップ二世の肩に回した腕が強張った。
暗示を解く。今のルプレヒトにはもうそれ以外の一切の思考がなかった。零の攻撃を凌ぐのに大した思考回路はいらない。必要なのは隙を見つける事だけだ。だが、零の体力は底が見えなかった。もはやただの戦闘用機械のように永遠と刀を振るっている。流石にその光景はルプレヒトにも堪えた。温もりの欠片もない相手ほどやりづらいものはない。二人の間を弾丸が駆け抜けた。零にほんの一瞬の隙が見える。ニコライ二世がどこからか応戦してるのだろう。耳元をまた弾道の音が掠めた。迫ってきた刀が真っ二つにそれを切り開く。
(あぁ……それでも。)
いかに機械的に見えようとも、零の人間性が太刀筋に滲み出ていた。生前からルプレヒトはそれの太刀筋を見るのが好きだった。好きだったからこそ、戦争の終わった後でも零と森で刃を交えていたと言っても過言ではない。枝だろうと金属だろうと、彼は寸分の荒れもなく、そして刀の刃こぼれもなく美しく斬ってみせたものだった。
「っ!」
見惚れた隙を突かれて、ルプレヒトは慌てて右半身を後ろへずらした。眼帯の紐が鎌鼬で切れていく。一瞬、弱視の右目のせいで視界のピントがずれた。
(まずい!)
慌てて零の腕を捻ろうとしたが距離感覚が掴めずに空振った。刀がルプレヒトの右肩を深々と斬りつけ、続けざまに繰り出された膝蹴りがルプレヒトを遠くの木の幹に弾き飛ばした。
「ルプレヒト!」
受け身をまともに取れずに頭を幹に叩きつけられた。歯を噛み締めて、呻く事さえ耐える。
「一旦引け!ボロボロじゃねぇか!」
ニコライ二世の叫びと、フィリップ二世の怒声が遠くで聞こえた。なにかが横から引き摺り込もうとしたのを、ルプレヒトは押しのけた。
「無茶するな、本当に死ぬんだぞ!」
ジークフリートの悲痛な声と手は間に合わなかった。零の白銀の刀が、まさに黒いロングコートの布地を貫く。
「やめろ、無茶を——」
リチャード一世は振り返ったが、やはり、それも遅かった。ルプレヒトは胸に飛び込んできた零の後頭部に手を添えた。胸を貫こうとする刀を握る手を掴み、それを深々と自らの左胸に引き寄せた。背中に、滑らかな白銀の刃から流れ落ちる血を感じる。
「目を、覚ませ……。」
体を貫く痛みさえ愛おしかった。膝から崩れ落ちながら、ルプレヒトは力の入らなくなった手からナイフが滑り落ちるのを感じ取った。好都合だ、と微笑んで、零の顔を両手で包んだ。
「る、ぷれ——」
果たして、煌めきさえ失った零の瞳にそれがどう映ったかどうかは分からない。ルプレヒトは僅かに動いた赤い唇を、自身の血で塗れた唇で塞いだ。
「暗示は……解けたのか?」
か細く呟いたニコライ二世の言葉に答える者は一人もいなかった。フィリップ二世は辺りを見渡した。暗示は解けたのだろう。グリゴーリーも、そこらに散らばっていたゴーレムの残骸も、もうその血まみれの針葉樹林の中から跡形もなく消え去っていた。
(こんな……形で?)
そんなもので終わっていいものかとフィリップ二世は瞠目したまま木の幹に拳を叩きつけた。終わっていい筈がない。だが、その場のだれも、その受け入れがたい結末を覆す事柄など、なに一つ持ち合わせていなかった。
ROSEAの食堂で、ジークフリートは両肘をついていた。数ヶ月は安静に、アルフレッドから上半身をぐるぐると包帯で巻かれた後の言葉だった。
「……飲むか? これ。」
今、アルフレッドは一番最後にリチャード一世と共に零の容体を見に行っていた。ルプレヒトの口付けの後、彼は糸が切れたように動かなくなっていた。
「ああ。……貰おうか。」
フィリップ二世も治りきらなかった体を無理に動かしたせいでかなりおかしくなっていたらしい。ジークフリートよりも随分と長い間静養するように言い渡されていた。
「零。」
「あん?」
ウイスキーの入ったグラスを受け取って、ジークフリートは続けた。
「なんて伝えればいいんだ。零に……。」
「知らねえよ……。」
考えたくもなかった。ルプレヒトが死んだと伝えられた零の表情は、きっとこの世で一番悲しげな顔をするのだろう。具体的なものは思い浮かばなかった。
「だが、まだ死んだと決めつけたらおっさんだって可哀想だろ。……九割九分九厘生き返る可能性なんてないんだろうけどな。」
ウイスキーのグラスに口をつけたまま、フィリップ二世はぼそぼそと喋った。いつものすれすれの冗談さえ言う気になれない。
「今ふと、こんな時に元帥がいたら、零になんて声をかけるんだろうな、と思ったんだ。」
「ああ。……んで?」
ジークフリートの遠くを見ていた虚な瞳に、光が円を描いた。
「あの人はきっとなにか的確な言葉をかけてあげられるんだろうと思った。でも、僕は……。」
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