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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)
Verse 1-5
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三人が高等学校に入学した頃、丁度社交界に一人の女子の姿が現れた。レイがその姿を初めて見たのは、父が主催したダンスパーティーの事である。美しい金髪に、サファイアのような青い瞳を湛えた彼女は、多くの男性に囲まれてしどろもどろになっていた。あどけなさをまだどこか残し、お転婆さが抜け切っていない少女である。レイは決して自分から声をかける柄ではなかったが、つかつかとその小さな人だかりに歩み寄ると紳士達と女子の間に割って入った。
「失礼、令嬢がお困りだ。」
レイが右手を差し出すと、少女は縋るような目でその手を握った。ジャン達と初めて会った噴水まで連れて行くと、丁度そこで涼んでいたヨハンに少女を預けてシャンパンを取りに行く。帰ってくる頃にはジャンも来ていた。彼は珍しく焦った表情で少女を見つめている。
「お帰り、レイ。」
人数分のグラスとシャンパンボトルを持ってきたレイにヨハンはそう告げる。グラスを受け取ってシャンパンを注ぐと、ヨハンは少女にグラスを渡した。全員に行き渡ったところで、ジャンが口を開く。
「ほんとどこに行っちまったかと思ったよ……。」
詰めた襟を少し緩めて、ジャンは婦人用の扇子で顔を仰いでいる。月明かりで分かりづらかったが、ジャンの頬はすっかり火照っていた。状況がさっぱり読めず、レイはヨハンに目配せする。
「ジャンの妹だ。」
紹介されると、少女は小さく会釈した。
「男にたかられてるところを助けてくれたんだろ? 今日が丁度社交界デビューなんだ。そりゃ目つけられて当然だわな。」
「たかられてるって、お前な……。」
否定はしないが、とレイはシャンパンをあおった。夏の熱気のせいでかなり温くなっている。
「改めて紹介するよ。俺の妹、伯爵家長女のジャンヌだ。」
「初めまして。」
ジャンヌはスパンコールの散りばめられた水色のドレスの裾を摘んで小さく屈んだ。
「こっちは俺の友人のレイとヨハンだ。」
友人に紹介されて、二人は畏まったように会釈する。兄から扇子を受け取って、ジャンヌは二人を見上げながら言った。
「兄さんからよく話は聞いています。まだ社交界に出たばかりですが、これからよろしくお願いしますね。」
朗らかに笑ったジャンヌに、レイとヨハンは思わず顔を見合わせた。
* * *
年間行事がない限り、彼らは毎日のようにだれかの屋敷で遊んだ。無論、ともに勉学にも大いに励んだ。三人は常に一緒にいたのである。多くの困難もあったが、彼らにはそれを乗り越えるだけの力があった。
「んでさー。進路なんだけどよー。俺のばっちゃは家督継げって言うんだけど、俺は! 絶対! 継ぎたく! ない!!」
レイ達三人にとっては高等学校も終わる冬の事である。向かいで試験勉強に励むレイとヨハンを傍目にジャンは力説した。二人は聞いていない体を守って鉛筆を永遠と動かし続けている。胸を張っていたジャンは、やがてくよくよと背中を丸めた。
「なら継がなきゃいいだろ。」
レイの冷たい言葉にヨハンは頷く。ジャンはさめざめと両手で顔を覆った。
「酷い! 冷たい! 俺達たったそれだけの関係だったのね!!」
「女々しい振りはやめろ。」
吐き捨てるように言ったヨハンに、ジャンは魂が抜けたように背中を背もたれに預ける。二人が今勉学に励んでいるのは定期試験に向けてではない。一ヶ月後に控えた士官学校への権利試験に合格する為であった。
「ジャンは士官学校に行くつもりはないのか?」
皇帝直属軍事機関ROZEN、帝國の持つ唯一にして最大の軍事力である。その士官学校ともなれば、帝國内では最難関の教育機関であった。無論、士官学校に入る為に入試を受けなくてはならない。しかし、その前に受験者をふるいにかける為に、入試を受ける権利を獲得する為の一次試験が設置されていた。そこそこの学力で受けていいものではなかった。勿論、だれもが猛勉強し、だれもが受かる確信をして行くものだ。チャンスは人生でたったの一回、高校を卒業する年度の一月限りである。鉛筆をノートの上に転がし、すっかり冷めきった紅茶で喉を潤したレイは、踏ん反り返ってジャンに聞いた。ジャンは意味ありげにレイに顔を寄せると、きっぱりと言い張った。
「正直めっちゃ行きたい。だから頑張っておべんきょしてる。」
「ダメよ兄さん。もう長男なんだから、兄さんが家督継がなかったらだれが継ぐのよ。」
手洗いから戻ってきたジャンヌはレイの部屋に入って早々、兄を激励した。口をへの字に曲げて不貞腐れたジャンから話を逸らし、レイはジャンヌへ問いかける。
「ジャンヌの将来は? まだ決めなくてもいい年頃だとは思うが。」
彼女は高等学校入試の年であるが、まだそこまで切羽詰まった時期ではなかった。
「私は祭司になろうと思ってるの。」
祭司、とは帝國内で多くの宗教行事を取り扱う聖職者の事であった。神官が皇族の為の聖職者と言うならば、祭司は民衆の為の聖職者である。男子は祭司になれなかった。祭司とは、この世で女子のみに許された最高の職業である。
「巷の女子はみんな祭司になりたいと言うな。」
「だって素敵よ? あの純白の真っ白いローブも素晴らしいし、見学で行っただけだけど建物もとっても綺麗なのよ。まさに花園だわ!」
男ばかりでは共感は得られまい。レイもヨハンも、特にジャンに関しては夢みる乙女の姿を半眼で見つめていた。祭司は確かに美人が多い。しかし彼女達はあまりに気が強すぎた。結婚が許されているにも関わらず、そこらへんの男では高嶺の花である為に独身が多いのも確かである。
「まぁジャンヌは男勝りだし、一生独身なら俺も安心かな……。」
そうぼやいた兄に、ジャンヌは机の下で肘鉄を食らわせる。呻いたジャンを一瞥して、レイとヨハンはため息を吐きながら再び鉛筆を手に取った。
* * *
「失礼、令嬢がお困りだ。」
レイが右手を差し出すと、少女は縋るような目でその手を握った。ジャン達と初めて会った噴水まで連れて行くと、丁度そこで涼んでいたヨハンに少女を預けてシャンパンを取りに行く。帰ってくる頃にはジャンも来ていた。彼は珍しく焦った表情で少女を見つめている。
「お帰り、レイ。」
人数分のグラスとシャンパンボトルを持ってきたレイにヨハンはそう告げる。グラスを受け取ってシャンパンを注ぐと、ヨハンは少女にグラスを渡した。全員に行き渡ったところで、ジャンが口を開く。
「ほんとどこに行っちまったかと思ったよ……。」
詰めた襟を少し緩めて、ジャンは婦人用の扇子で顔を仰いでいる。月明かりで分かりづらかったが、ジャンの頬はすっかり火照っていた。状況がさっぱり読めず、レイはヨハンに目配せする。
「ジャンの妹だ。」
紹介されると、少女は小さく会釈した。
「男にたかられてるところを助けてくれたんだろ? 今日が丁度社交界デビューなんだ。そりゃ目つけられて当然だわな。」
「たかられてるって、お前な……。」
否定はしないが、とレイはシャンパンをあおった。夏の熱気のせいでかなり温くなっている。
「改めて紹介するよ。俺の妹、伯爵家長女のジャンヌだ。」
「初めまして。」
ジャンヌはスパンコールの散りばめられた水色のドレスの裾を摘んで小さく屈んだ。
「こっちは俺の友人のレイとヨハンだ。」
友人に紹介されて、二人は畏まったように会釈する。兄から扇子を受け取って、ジャンヌは二人を見上げながら言った。
「兄さんからよく話は聞いています。まだ社交界に出たばかりですが、これからよろしくお願いしますね。」
朗らかに笑ったジャンヌに、レイとヨハンは思わず顔を見合わせた。
* * *
年間行事がない限り、彼らは毎日のようにだれかの屋敷で遊んだ。無論、ともに勉学にも大いに励んだ。三人は常に一緒にいたのである。多くの困難もあったが、彼らにはそれを乗り越えるだけの力があった。
「んでさー。進路なんだけどよー。俺のばっちゃは家督継げって言うんだけど、俺は! 絶対! 継ぎたく! ない!!」
レイ達三人にとっては高等学校も終わる冬の事である。向かいで試験勉強に励むレイとヨハンを傍目にジャンは力説した。二人は聞いていない体を守って鉛筆を永遠と動かし続けている。胸を張っていたジャンは、やがてくよくよと背中を丸めた。
「なら継がなきゃいいだろ。」
レイの冷たい言葉にヨハンは頷く。ジャンはさめざめと両手で顔を覆った。
「酷い! 冷たい! 俺達たったそれだけの関係だったのね!!」
「女々しい振りはやめろ。」
吐き捨てるように言ったヨハンに、ジャンは魂が抜けたように背中を背もたれに預ける。二人が今勉学に励んでいるのは定期試験に向けてではない。一ヶ月後に控えた士官学校への権利試験に合格する為であった。
「ジャンは士官学校に行くつもりはないのか?」
皇帝直属軍事機関ROZEN、帝國の持つ唯一にして最大の軍事力である。その士官学校ともなれば、帝國内では最難関の教育機関であった。無論、士官学校に入る為に入試を受けなくてはならない。しかし、その前に受験者をふるいにかける為に、入試を受ける権利を獲得する為の一次試験が設置されていた。そこそこの学力で受けていいものではなかった。勿論、だれもが猛勉強し、だれもが受かる確信をして行くものだ。チャンスは人生でたったの一回、高校を卒業する年度の一月限りである。鉛筆をノートの上に転がし、すっかり冷めきった紅茶で喉を潤したレイは、踏ん反り返ってジャンに聞いた。ジャンは意味ありげにレイに顔を寄せると、きっぱりと言い張った。
「正直めっちゃ行きたい。だから頑張っておべんきょしてる。」
「ダメよ兄さん。もう長男なんだから、兄さんが家督継がなかったらだれが継ぐのよ。」
手洗いから戻ってきたジャンヌはレイの部屋に入って早々、兄を激励した。口をへの字に曲げて不貞腐れたジャンから話を逸らし、レイはジャンヌへ問いかける。
「ジャンヌの将来は? まだ決めなくてもいい年頃だとは思うが。」
彼女は高等学校入試の年であるが、まだそこまで切羽詰まった時期ではなかった。
「私は祭司になろうと思ってるの。」
祭司、とは帝國内で多くの宗教行事を取り扱う聖職者の事であった。神官が皇族の為の聖職者と言うならば、祭司は民衆の為の聖職者である。男子は祭司になれなかった。祭司とは、この世で女子のみに許された最高の職業である。
「巷の女子はみんな祭司になりたいと言うな。」
「だって素敵よ? あの純白の真っ白いローブも素晴らしいし、見学で行っただけだけど建物もとっても綺麗なのよ。まさに花園だわ!」
男ばかりでは共感は得られまい。レイもヨハンも、特にジャンに関しては夢みる乙女の姿を半眼で見つめていた。祭司は確かに美人が多い。しかし彼女達はあまりに気が強すぎた。結婚が許されているにも関わらず、そこらへんの男では高嶺の花である為に独身が多いのも確かである。
「まぁジャンヌは男勝りだし、一生独身なら俺も安心かな……。」
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