神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 2-5

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 ジャンとフィリップは外で昼食を食べるほうが好きである。確かに食堂で食べるのも悪くはなかったが、暖かい陽の下でともに調理した料理を食べるのもなかなか良いものであった。初めは渋っていたフィリップも、ジャンの料理の上手さについに折れた。レイとアルフレッドに別れを告げて、二人はいつものように煉瓦造りの花壇の近くに座って昼食をともにしていた。

「フィリップのキッシュ美味いよな。」

「褒めろ褒めろ、どんどん作って肥えさせてやる。」

 そこまではいらない、とジャンはフィリップの前に置いてある一口サイズのキッシュを頬張る。とろとろの卵とよく伸びるゴーダチーズ、程良く効いたバジルと厚切りのベーコンは、ジャンの食欲を促した。

「ちなみに俺の料理で一番美味いのは?」

「ガレット。」

 蕎麦粉で作った生地の上に綺麗に乗せられたエビやブロッコリーは、見ただけでは芸術品と言っても過言ではない出来である。ジャンが料理上手である理由は、ひとえに妹のせいであったが。

「あーついでに紅茶も美味い。」

「それは食べ物じゃないだろ……。」

 水筒に入れた紅茶を注いでいたフィリップは、次の瞬間表情一つ変えずに空になったその水筒をジャンの向こう側に勢いよく投げた。しかし、すぐに舌打ちをした。フィリップだけを見ていたジャンは驚いて振り返ったが、そのせいで彼の顔面にはもろに水がかかる。

「行動が早いのは認めるけど、すこし遅いな。」

 皮肉めいた嘲笑うような声にジャンは弾かれるようにして上を見上げた。フィリップの投げた水筒を片手で受け止めて、ジークフリートが笑っている。

「貴族二人仲良く揃っておままごとか?」

 勢いよく立ち上がろうとしたジャンの手を抑えて、ここは俺に任せろとばかりにフィリップが狡賢い蛇のような笑みを浮かべた。ゆっくりと立ち上がり、ジャンのほぼ真正面に立っていたジークフリートとその取り巻きに詰め寄る。

「おままごとに見えるんだったら俺の料理食ってみろよこのメシマズドイツ野郎。ま、お前のその貧弱な舌で俺らの料理の精密な味が分かるわけねぇか。」

 馬鹿にした笑みはジークフリートの癪に触ったが、彼は不機嫌な表情をしただけで殴りかかろうとはしなかった。

「お前らみたいなお貴族ブルジョワ共の飯なんて考え過ぎて味が複雑すぎて僕の口には全く合わないね。そんな事より、そこをどいてくれないか。」

 フィリップに負けじとジャンは立ち上がったが、フィリップは彼を一瞥しただけでそこに留まらせる。

「はぁ? あのなぁ、世の中は早いもん勝ちなんだよ。そこの土は俺達が座ってる間は俺達のもんだ。楽しいランチを邪魔すんじゃねぇぞこのじゃがいも共。」

 流石のジークフリートも頭に血が上ったようだった。手は出そうとしなかったが、片足を一歩踏み出してフィリップとの距離を詰める。フィリップは表情を変えずに余裕の笑みを浮かべるだけであった。なにか怒鳴りつけようとした時、ジークフリートの肩を何者かが掴む。

「そこまでにしておけ。これ以上フィリップになにか言ったらこの間みたいに今度は俺がぶっ飛ばす。」

 振り向いた瞬間、レイはジークフリートの頬を拳で殴った。肩を竦めるフィリップと唖然とするジャンを一瞥して、レイはまだなにか言おうとしたが、その行為は隣に立っていたヨハンが止める。

「さっさと退散しろこの顔だけ野郎。」

 吐き捨てるようにそう言ったレイに、ジークフリートは土を払いながら立ち上がって鼻で笑った。

「顔だけかどうかはもう少し見極めたらどうだ? ……そうだヨハン、少し話があるんだ。ちょっといいか?」

 ヨハンは唾を飲み込んで、ゆっくりと頷いた。ご満悦の表情を浮かべて、ジークフリートは指でこちらに来るように示す。レイはフィリップとジャンに視線をやったが、二人はなにも知らないと言った風に首を横に振った。

「そうだ、あの二人たまに話してるの見かけるんだよな……。」

 顎に手を当てて、フィリップは呟く。

「なんか密談、みたいな。」

 レイとジャンは、遠くで話し込むヨハンとジークフリートを同時に見つめた。
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