神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 2-12

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 四年次のみ取れる実技必修科目がある。個人戦教養というものである。

「なんだよ教養って……。」

 ガイダンスで貰ったプリントを風に靡かせながら、ジャンはレイとヨハンを連れ立って実習棟へ向かう。春の花が咲き誇る美しい庭を通って、やがて見えた棟へ三人は走った。



「得意な武器がある人はここから取っていけ。戦闘が初心者の人はあっちの教官のほうへ。」

 教官である軍人が手をかけた台には、木製の槍から軍刀まで一式が揃っている。レイもジャンもヨハンも前世で戦闘慣れしているお陰で、初心者のクラスに割り振られる事はなかった。

「二人ともどれにする……?」

「僕は……サーベルで。」

「んじゃ俺、槍ー! レイは?」

 顎に人差し指を当ててじっくりと考えていたレイの目の前には、ロングソード、レイピアと木刀がある。

「三つとも持ってったら?」

「流石にきつい……。」

 二組になるよう号令がかけられて、レイは慌てて木刀を握る。ジャンは困ったような顔でレイを見た。ヨハンがその先でジャンの腕を引っ張っている。

「どうしよう、レイが余っちゃうな……。」

「いいよ、俺は自分で探す。」

 呆れたレイが振り返ると、案の定そこにはジークフリートが立っている。腕を組んで、片手には木製のサーベルが握られている。心配そうに一度だけジャンは振り返ったが、ヨハンに腕を引っ張られてすぐに遠くへ行ってしまった。

「それでは選んだ二人組で一度手合わせを。」

 ジークフリートはレイに近付いて、右手を差し出す。

「よろしく。」

 その行動にレイは少し驚いて、ゆっくりとその手を握った。

「よろ、しく。」

 頭の中にあるジークフリートのイメージに、その紳士的な行動は似合わなかった。常に自己中心的で、他人を省みない彼が手合わせ前に握手を求めるなど、レイは考えてもみなかった。レイ自身、自分が手を差し出しても鼻であしらわれると思っていたのである。ジークフリートはその場から数メートル離れて、レイに向き直って剣先を向けた。彼の目の色が変わる、真剣そのものの表情にレイも気を引き締める。構えたところで、ジークフリートが地を蹴った。圧倒的な速さで一瞬にして距離を縮められて、レイは攻撃を跳ね返すので精一杯であった。すっかり平和ボケしていたレイは少しよろけるが、ジークフリートの一撃ですっかり頭が切り替わる。次の一撃が繰り出されるほんの一瞬で、レイは刀でジークフリートの頬を掠める。木製であるにも関わらず、その鋭利な突きでジークフリートの頬から血が垂れていった。二人の近隣で手合わせをしていた士官生達が息を飲む。今までだれ一人として、ジークフリートの顔を傷つけて彼に手酷い仕返しを食らわなかった人間はいなかった。しかし予想に反して、ジークフリートは頬に流れる生暖かい血に触れた指を見ながら薄く不敵に笑う。

「やるじゃないか……そこらのぼんぼんとはやっぱり違うな。」

 丁度、教官がホイッスルを鳴らした。二人は構えをとく。

「それでは、近くの二人組同士で対戦してみようか。四人組を作って、真ん中全部使って戦うから全員脇へ。」

 四人組と聞いてジャンはヨハンを連れて大急ぎでレイの元へやってきた。レイは一度ジークフリートへ視線をやったが、ジークフリートは、だれでも構わない、と言わんばかりに肩を竦める。

「ジークフリートがいるが……大丈夫か?」

「三人でボコボコにすればいいんだろ?」

 少し違う、と言うヨハンの声に、冗談だよ、と返しながら、彼ら四人は脇へ避けた。名簿順に名前が呼ばれ、教官が合図するまで戦闘を続ける。レイ達の組は、ジャンが呼ばれるまで待っていた。

「他の三人、名前は?」

「レイです。」

「ジークフリートです。」

「ヨハン。」

 各々教官に名を告げて、教官がチェックを付け終わったのを確認すると中央の大きな四角い枠線へ入っていく。合図のホイッスルとともに、最初に地を蹴ったのはジャンであった。レイの脇を通り抜け、後ろで待機していたジークフリートへ向かって槍を振るう。レイとヨハンは気が進まないとばかりに武器を構えたが、その瞬間ジャンが驚きの声を上げた。ジークフリートが槍の突きを交わしたと思いきや、ジャンの手の中で滑っていた槍をするりと抜き取る。まさに我が物顔で、ジークフリートはその槍を華麗に操って見せた。

「お前卑怯だぞ!」

「卑怯だって? 僕が槍を使いこなすところのどこが卑怯なのか言ってみろよ。」

 サーベルを持ったまま、ジークフリートはたじろいで後退したジャンに向かって踏み込む。

「ジャン!」

 いつの間にか隣にいたヨハンは、ジャンを横へ押して槍を跳ね返そうとした。結果、穂先はヨハンの肩の上すれすれを行くに留まったが、すっかり存在の忘れ去られていたレイは好機と見て容赦なくジャンに迫る。

「おっちょっ、レイお前友達だろ!?」

「友達とか関係ないだろ!」

 腹を靴底で蹴って、レイが頭の上から刀を振り下ろしたところで、倒れ込んでいたジャンは鼻先間近に白刃取りでそれを回避した。

「こえぇよ!」

 お返しとばかりに両足でレイの腰を向こう側へ押して、跳ね起きる。慌ててヨハンはジャンへ向けて自らの軍刀を投げやった。突然、レイの背後で、完全に閉じていた実習棟の扉が勢い良く開く。アメジスト色のマント、金の縁。レイより幾分背の小さいそれは、悠々と同じような格好の人々を連れて実習棟へ入っていく。

「みなさーん、無駄な抵抗はしないほうがいいですよ。この周りは、僕達が全部占拠しました!」

 両腕を目一杯に広げて、唯一見える口のみを歪めた少年は声高らかに言った。
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