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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)
Verse 3-22
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目を覚ますと、暗い天井がある。痛む頭に顔をしかめながら、バスカヴィルは両手首を後ろで縛られているのに気付いた。椅子の端に座っている背中に見覚えがある。その広い背中は、紛れもなくロベルトだ。
「ロベ……ルト?」
その掠れた声で、彼はゆっくと腰を上げた。その顔にはいつも交わしているぎこちない笑顔はない。心底意地悪そうに口端を吊り上げて、ロベルトはゆっくりとロッカーを背もたれにするバスカヴィルに乗り上げた。
「ロベルト?」
逆光で影になったロベルトの顔をバスカヴィルは見上げる。ゆっくりと制服の前を開けていくロベルトの手を見てバスカヴィルは身をよじった。
「どうしてこんな事するんだ!」
前を肌蹴させると、ロベルトはバスカヴィルの顔を見てにやりと笑う。
「どうして?俺は、俺が高みに登るためだったらなんだってする。お前が俺の事を友人だと思っていようがなかろうが、お前が俺より出来がいいならお前の事を完膚なきまでに叩きのめすまでだ。」
艶やかな黒髪をすいて、ロベルトはその後頭部を掴み上げるとバスカヴィルに上を向かせる。そうして、顔を近付け唇に唇をつけ、ロベルトは腰にくるほどの低音で囁いた。
「説明すべきところはした。後はお前にそれを実践するだけだ。せめて楽しくなるようにいい声を出してくれよ?ヴィル。」
その日、ニコライは真夜中に帰ってきた。ベッドメイキングされたままの、空っぽな部屋が彼を迎えいれる。
「ヴィル?」
洗面所にも、共同シャワー室にも、バスカヴィルの影は見られなかった。ふと、ロベルトの顔が脳裏に浮かぶ。ニコライは入ってきた時と同じように窓枠に足をかけると、ユニコーン寮の最上階から飛び降りた。
ひとしきり探して、ニコライは実習棟の更衣室でバスカヴィルを見つける。息絶え絶えで床に座り込むバスカヴィルを助け起こして、ニコライはその向かい側でベンチに座っていたロベルトを、鬼気迫る表情で怒鳴りつけた。
「ルプレヒト、バスカヴィルになにをした!」
ロベルトは答えない。煙草を咥えたまま、彼はただバスカヴィルを見つめていた。
* * *
上にあるバスカヴィルの端正な顔を驚いた顔で見つめて、しかしニコライはすぐに不機嫌そうな顔になる。ロベルトの件があってからこれが五度目である。
「ヴィル。」
諭すように言って、ニコライはその肩を押して上体を起こした。うんざりした顔をバスカヴィルに向けて、ニコライは疲れたように肩を落とすバスカヴィルの背中をさする。
「大丈夫だ。お前なら、乗り越えられる。」
恐ろしいほど同じ夢を何度も見るのだろう。バスカヴィルは毎日、いつも通りの生活を送っているが、その顔はやつれ果てていた。まだ休暇に入るまでには大分ある。体を労ったニコライの顎を掬って、バスカヴィルはその薄い唇に唇を重ねようとした。しかし、ニコライはそれを跳ね除ける。そしてついに、バスカヴィルに呆れたように言った。
「私はお前の親じゃない。お前にかかりきりではいられない。だから一人でどうにかして。自分の身は自分で守って。」
その時のヴィルの表情は、ニコライは覚えていない。
この日、彼は人を信じる事をやめた。友人に切り捨てられて、人を信じる事が恐ろしくなった。上辺だけの微笑みで生きていこうと決意した。だれよりも自らがそう望んだから。孤独だけを信じて生きていこうと決意した。しかし彼の下に来た一人の高貴な少年は彼を変えた。彼は少年に出来る限りの全てを与え、全てを捧げ、全てを注いだ。彼に残っているのはもう一つだけ、その命だけだった。
* * *
母が世界で一番巨大な門の向こうへ消えた時の事を、レイは思い出した。伯父の脚に縋り付くようにしてその様子を見ていたレイは、脚の主の声を聞いた。
「お前の母さんは、もう戻ってこない。」
目に涙を浮かべて、レイはただただ門が閉まるのを見つめている。最後に門がかち合った音は彼にとって恐ろしいものであった。だれもがその場を去っていく中、レイはずっとそこに立っている。手をバスカヴィルに引っ張られても、彼は断固としてその場を離れようとしなかった。ずっと門を見つめるレイの下に、バスカヴィルは戻って来る。そして、小さな彼を抱き上げてそっと囁いた。
「お前は私が守るよ。私の息子なのだから。」
* * *
「ロベ……ルト?」
その掠れた声で、彼はゆっくと腰を上げた。その顔にはいつも交わしているぎこちない笑顔はない。心底意地悪そうに口端を吊り上げて、ロベルトはゆっくりとロッカーを背もたれにするバスカヴィルに乗り上げた。
「ロベルト?」
逆光で影になったロベルトの顔をバスカヴィルは見上げる。ゆっくりと制服の前を開けていくロベルトの手を見てバスカヴィルは身をよじった。
「どうしてこんな事するんだ!」
前を肌蹴させると、ロベルトはバスカヴィルの顔を見てにやりと笑う。
「どうして?俺は、俺が高みに登るためだったらなんだってする。お前が俺の事を友人だと思っていようがなかろうが、お前が俺より出来がいいならお前の事を完膚なきまでに叩きのめすまでだ。」
艶やかな黒髪をすいて、ロベルトはその後頭部を掴み上げるとバスカヴィルに上を向かせる。そうして、顔を近付け唇に唇をつけ、ロベルトは腰にくるほどの低音で囁いた。
「説明すべきところはした。後はお前にそれを実践するだけだ。せめて楽しくなるようにいい声を出してくれよ?ヴィル。」
その日、ニコライは真夜中に帰ってきた。ベッドメイキングされたままの、空っぽな部屋が彼を迎えいれる。
「ヴィル?」
洗面所にも、共同シャワー室にも、バスカヴィルの影は見られなかった。ふと、ロベルトの顔が脳裏に浮かぶ。ニコライは入ってきた時と同じように窓枠に足をかけると、ユニコーン寮の最上階から飛び降りた。
ひとしきり探して、ニコライは実習棟の更衣室でバスカヴィルを見つける。息絶え絶えで床に座り込むバスカヴィルを助け起こして、ニコライはその向かい側でベンチに座っていたロベルトを、鬼気迫る表情で怒鳴りつけた。
「ルプレヒト、バスカヴィルになにをした!」
ロベルトは答えない。煙草を咥えたまま、彼はただバスカヴィルを見つめていた。
* * *
上にあるバスカヴィルの端正な顔を驚いた顔で見つめて、しかしニコライはすぐに不機嫌そうな顔になる。ロベルトの件があってからこれが五度目である。
「ヴィル。」
諭すように言って、ニコライはその肩を押して上体を起こした。うんざりした顔をバスカヴィルに向けて、ニコライは疲れたように肩を落とすバスカヴィルの背中をさする。
「大丈夫だ。お前なら、乗り越えられる。」
恐ろしいほど同じ夢を何度も見るのだろう。バスカヴィルは毎日、いつも通りの生活を送っているが、その顔はやつれ果てていた。まだ休暇に入るまでには大分ある。体を労ったニコライの顎を掬って、バスカヴィルはその薄い唇に唇を重ねようとした。しかし、ニコライはそれを跳ね除ける。そしてついに、バスカヴィルに呆れたように言った。
「私はお前の親じゃない。お前にかかりきりではいられない。だから一人でどうにかして。自分の身は自分で守って。」
その時のヴィルの表情は、ニコライは覚えていない。
この日、彼は人を信じる事をやめた。友人に切り捨てられて、人を信じる事が恐ろしくなった。上辺だけの微笑みで生きていこうと決意した。だれよりも自らがそう望んだから。孤独だけを信じて生きていこうと決意した。しかし彼の下に来た一人の高貴な少年は彼を変えた。彼は少年に出来る限りの全てを与え、全てを捧げ、全てを注いだ。彼に残っているのはもう一つだけ、その命だけだった。
* * *
母が世界で一番巨大な門の向こうへ消えた時の事を、レイは思い出した。伯父の脚に縋り付くようにしてその様子を見ていたレイは、脚の主の声を聞いた。
「お前の母さんは、もう戻ってこない。」
目に涙を浮かべて、レイはただただ門が閉まるのを見つめている。最後に門がかち合った音は彼にとって恐ろしいものであった。だれもがその場を去っていく中、レイはずっとそこに立っている。手をバスカヴィルに引っ張られても、彼は断固としてその場を離れようとしなかった。ずっと門を見つめるレイの下に、バスカヴィルは戻って来る。そして、小さな彼を抱き上げてそっと囁いた。
「お前は私が守るよ。私の息子なのだから。」
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