神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

文字の大きさ
60 / 271
第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 4-3

しおりを挟む
 じっと顔を眺めていると、レイはそれに気付いたのかジークフリートに笑いかける。

「どうかしたのか?」

 だれも来ないように鍵を閉めて、レイとジークフリートは二人きりの空間にいた。レイのあの微笑みと昨日の見てしまったバスカヴィルとレイの出来事を思い出す。

「元帥は、昔から……幼い頃からお前にああいう事をしてたのか?」

 万年筆の手入れを終えてインクを吸い上げるのを見つめていたレイは、その言葉に特に驚きもせずに笑った。

「まさか、親父としたのは俺が士官学校に入ってからが初めてだ。そう……集団強姦の後、お前からリチャードの過去を聞き出す為の手慣らしで。」

 空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、ジークフリートは長々とため息を吐く。

「やめさせたほうがいいんじゃないのか。未だにそれをされるってお前……。元帥は……本当にお盛んなんだな。」

 執務机の上に足を置いて、レイは万年筆のインクの出を確かめた。

「親父は別にそんなんじゃないさ。あれは……駆け引きだ。もしジークが言うようなのだったら、今頃お前も、エドワードもリチャードも食われてた。親父にとって行為は、人の秘密を暴くもので、人を罰するもので、人を愛するもので、人を束縛するものだ。」

 理解できない、とジークフリートは手のひらを合わせた。

「戦争みたいな言い方するけど親父にとってあれは手段だよジーク。別に性的欲求を満たす為ばかりじゃないんだ。」

 万年筆を机の上に放り出してレイもため息を吐く。吸い殻入れに置いていた燃え尽きかけの煙草をもう一度だけ吸って皿に押し付ける。

「もしかしたら、嫉妬も入ってるかもしんないけどな。」

 仕方なさそうに笑ったレイの顔を、ジークフリートは神妙な顔つきで見守った。窓の外には、橙色の空が広がっていた。



 暗い城の中でボロボロになった石壁をレイモンドはぼんやりと眺めていた。よく焼けた肌をさすりながら、彼は隣に降りたった少年の気配を感じる。

「それで? 父さんはもう暴走したからやっぱり駄目なわけ?」

 レイを襲ったピンクがかった茶髪の少年は、覗き込むようにしてレイモンドの顔色を確かめる。

「父さん父さんと五月蝿い坊主だな。諦めの悪い奴は嫌われるぞ。」

 頬を膨らませてホールを歩き始めた少年は、やがてゆっくりとレイモンドの方へ向き直った。

「次はだれを狙うつもりさ。ていうか、何をやるつもり?」

 しつこく聞いてくる少年に、レイモンドは煩わしそうな表情を向ける。古代風の金の腕輪を眺め、レイモンドは崩れた石壁を背に月光の降り注ぐ崩れかけた屋根を見上げた。

「まぁ、今回は派手にやらねばな。向こうも出てきてくれんだろうさ。」

 にたりと笑ったレイモンドは、楽しそうに目を細める。少年は、その様子を遠巻きに見つめるだけであった。

 * * *

 第一塔の正面庭園を歩いていると、珍しく後ろからアーサーに肩を叩かれた。レイは驚いてその顔を振り返った。

「おはようさん。」

 すると突如として、地響きが二人の足に届いてくる。二人は思わずお互いを見ると、音が聞こえた方向を見上げる。

「塔が……!」

 王宮を挟んで第一塔の隣に聳え立つ第二塔の中央部分が崩れ、下の庭園へ落ちていく。破壊された部分から、アメジスト色のマントがちらりと見えた。

「あいつら……。塔の中で放送が入ってるはずだ、行くぞレイ!」

 駆け出したアーサーの背中を追って、レイもその後に続く。第一塔の中は騒然としていて、二人が放送を聞くには顔をしかめて耳をすませなければならないほどであった。

『諜報部隊全隊員、元帥補佐執務室へ大至急向かってください。将軍から少佐は、総司令室へ大至急向かってください。繰り返します、諜報部隊全隊員——』

「健闘を祈るぜレイ!」

 一度レイの肩を叩くと、アーサーは飛ぶようにして人混みの上を通っていく。エレベーターを待つ時間も惜しいのか、アーサーは箱が来る前にワイヤーを伝って最上階を目指した。元帥補佐執務室に到着した時には、ルイス=リーズ諜報中尉もジェームズ=クラヴェーリ諜報部隊副隊長も既に待機している。

「遅いぞ中佐。」

「出勤から直だぜ? むしろ飛んできたの褒めて欲しいくらいだ。」

 雑談もそこそこにロベルト元帥補佐は第二塔の正面図が貼られた黒板に向き直った。破壊された階が赤く塗られている。

「見ての通り破壊された部分はここだ。見たところ瓦礫に埋もれて身が隠しやすい。お前達の情報次第でこちらの正規部隊が動くか決まる。」

「了解。」

「任務内容は以上だ。行け。」

 タートルネックを鼻まで上げ、アーサーは部下である二人を連れ立って元帥補佐室の窓から飛び出した。



 第一塔から第二塔へ、本来徒歩二十分少々かかるところをアーサー率いる諜報部隊は全速力で五分まで短縮する。ゴシック様式の外壁を軽々と登り詰めて、彼らはロベルトに指定された破壊された階へ辿り着いた。瓦礫の影に身を潜め、アーサーは塔内の様子を伺う。

「だれもいないな。」

「本部からの追加報告によると、他階の軍人達は既に第一塔の方へ避難したようで。」

 分家以外はもぬけの殻です、と後ろでしゃがんでいたルイスは付け足した。向こう側で待機していたジェームズは、アーサーに指示を出されて立ち上がる。瓦礫を飛び越え、訓練所であったホールを見渡す。

「大丈夫そうですね。」

 ルイスの声で、アーサーは立ち上がった。ジェームズと同じく容易に瓦礫を飛び越えて、彼は開けたホールに降り立つ。普段は歩兵部隊が使っている修練場が、今は見るも無残な廃墟と化していた。瓦礫から出て、アーサーは辺りを確認する。最も焦げている場所を探し出し、彼はそこに近付いた。起爆剤の匂いが鼻につく。辺りにはばらばらになった肢体が散らばっている。

「ここが爆源だな。」

「もう人はいないみたいですし、テロですかね。」

 地面に膝をついて、リーズは殊更に焦げた場所をさらりと撫でた。

「上に報告するか? 早くしないとどやされちまうぜ。」

 立ち上がったアーサーは、深いため息をつきながら頷く。無線機のスイッチを入れて、彼はあるがままを伝えた。

 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...