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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)
Verse 4-3
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じっと顔を眺めていると、レイはそれに気付いたのかジークフリートに笑いかける。
「どうかしたのか?」
だれも来ないように鍵を閉めて、レイとジークフリートは二人きりの空間にいた。レイのあの微笑みと昨日の見てしまったバスカヴィルとレイの出来事を思い出す。
「元帥は、昔から……幼い頃からお前にああいう事をしてたのか?」
万年筆の手入れを終えてインクを吸い上げるのを見つめていたレイは、その言葉に特に驚きもせずに笑った。
「まさか、親父としたのは俺が士官学校に入ってからが初めてだ。そう……集団強姦の後、お前からリチャードの過去を聞き出す為の手慣らしで。」
空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、ジークフリートは長々とため息を吐く。
「やめさせたほうがいいんじゃないのか。未だにそれをされるってお前……。元帥は……本当にお盛んなんだな。」
執務机の上に足を置いて、レイは万年筆のインクの出を確かめた。
「親父は別にそんなんじゃないさ。あれは……駆け引きだ。もしジークが言うようなのだったら、今頃お前も、エドワードもリチャードも食われてた。親父にとって行為は、人の秘密を暴くもので、人を罰するもので、人を愛するもので、人を束縛するものだ。」
理解できない、とジークフリートは手のひらを合わせた。
「戦争みたいな言い方するけど親父にとってあれは手段だよジーク。別に性的欲求を満たす為ばかりじゃないんだ。」
万年筆を机の上に放り出してレイもため息を吐く。吸い殻入れに置いていた燃え尽きかけの煙草をもう一度だけ吸って皿に押し付ける。
「もしかしたら、嫉妬も入ってるかもしんないけどな。」
仕方なさそうに笑ったレイの顔を、ジークフリートは神妙な顔つきで見守った。窓の外には、橙色の空が広がっていた。
暗い城の中でボロボロになった石壁をレイモンドはぼんやりと眺めていた。よく焼けた肌をさすりながら、彼は隣に降りたった少年の気配を感じる。
「それで? 父さんはもう暴走したからやっぱり駄目なわけ?」
レイを襲ったピンクがかった茶髪の少年は、覗き込むようにしてレイモンドの顔色を確かめる。
「父さん父さんと五月蝿い坊主だな。諦めの悪い奴は嫌われるぞ。」
頬を膨らませてホールを歩き始めた少年は、やがてゆっくりとレイモンドの方へ向き直った。
「次はだれを狙うつもりさ。ていうか、何をやるつもり?」
しつこく聞いてくる少年に、レイモンドは煩わしそうな表情を向ける。古代風の金の腕輪を眺め、レイモンドは崩れた石壁を背に月光の降り注ぐ崩れかけた屋根を見上げた。
「まぁ、今回は派手にやらねばな。向こうも出てきてくれんだろうさ。」
にたりと笑ったレイモンドは、楽しそうに目を細める。少年は、その様子を遠巻きに見つめるだけであった。
* * *
第一塔の正面庭園を歩いていると、珍しく後ろからアーサーに肩を叩かれた。レイは驚いてその顔を振り返った。
「おはようさん。」
すると突如として、地響きが二人の足に届いてくる。二人は思わずお互いを見ると、音が聞こえた方向を見上げる。
「塔が……!」
王宮を挟んで第一塔の隣に聳え立つ第二塔の中央部分が崩れ、下の庭園へ落ちていく。破壊された部分から、アメジスト色のマントがちらりと見えた。
「あいつら……。塔の中で放送が入ってるはずだ、行くぞレイ!」
駆け出したアーサーの背中を追って、レイもその後に続く。第一塔の中は騒然としていて、二人が放送を聞くには顔をしかめて耳をすませなければならないほどであった。
『諜報部隊全隊員、元帥補佐執務室へ大至急向かってください。将軍から少佐は、総司令室へ大至急向かってください。繰り返します、諜報部隊全隊員——』
「健闘を祈るぜレイ!」
一度レイの肩を叩くと、アーサーは飛ぶようにして人混みの上を通っていく。エレベーターを待つ時間も惜しいのか、アーサーは箱が来る前にワイヤーを伝って最上階を目指した。元帥補佐執務室に到着した時には、ルイス=リーズ諜報中尉もジェームズ=クラヴェーリ諜報部隊副隊長も既に待機している。
「遅いぞ中佐。」
「出勤から直だぜ? むしろ飛んできたの褒めて欲しいくらいだ。」
雑談もそこそこにロベルト元帥補佐は第二塔の正面図が貼られた黒板に向き直った。破壊された階が赤く塗られている。
「見ての通り破壊された部分はここだ。見たところ瓦礫に埋もれて身が隠しやすい。お前達の情報次第でこちらの正規部隊が動くか決まる。」
「了解。」
「任務内容は以上だ。行け。」
タートルネックを鼻まで上げ、アーサーは部下である二人を連れ立って元帥補佐室の窓から飛び出した。
第一塔から第二塔へ、本来徒歩二十分少々かかるところをアーサー率いる諜報部隊は全速力で五分まで短縮する。ゴシック様式の外壁を軽々と登り詰めて、彼らはロベルトに指定された破壊された階へ辿り着いた。瓦礫の影に身を潜め、アーサーは塔内の様子を伺う。
「だれもいないな。」
「本部からの追加報告によると、他階の軍人達は既に第一塔の方へ避難したようで。」
分家以外はもぬけの殻です、と後ろでしゃがんでいたルイスは付け足した。向こう側で待機していたジェームズは、アーサーに指示を出されて立ち上がる。瓦礫を飛び越え、訓練所であったホールを見渡す。
「大丈夫そうですね。」
ルイスの声で、アーサーは立ち上がった。ジェームズと同じく容易に瓦礫を飛び越えて、彼は開けたホールに降り立つ。普段は歩兵部隊が使っている修練場が、今は見るも無残な廃墟と化していた。瓦礫から出て、アーサーは辺りを確認する。最も焦げている場所を探し出し、彼はそこに近付いた。起爆剤の匂いが鼻につく。辺りにはばらばらになった肢体が散らばっている。
「ここが爆源だな。」
「もう人はいないみたいですし、テロですかね。」
地面に膝をついて、リーズは殊更に焦げた場所をさらりと撫でた。
「上に報告するか? 早くしないとどやされちまうぜ。」
立ち上がったアーサーは、深いため息をつきながら頷く。無線機のスイッチを入れて、彼はあるがままを伝えた。
* * *
「どうかしたのか?」
だれも来ないように鍵を閉めて、レイとジークフリートは二人きりの空間にいた。レイのあの微笑みと昨日の見てしまったバスカヴィルとレイの出来事を思い出す。
「元帥は、昔から……幼い頃からお前にああいう事をしてたのか?」
万年筆の手入れを終えてインクを吸い上げるのを見つめていたレイは、その言葉に特に驚きもせずに笑った。
「まさか、親父としたのは俺が士官学校に入ってからが初めてだ。そう……集団強姦の後、お前からリチャードの過去を聞き出す為の手慣らしで。」
空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、ジークフリートは長々とため息を吐く。
「やめさせたほうがいいんじゃないのか。未だにそれをされるってお前……。元帥は……本当にお盛んなんだな。」
執務机の上に足を置いて、レイは万年筆のインクの出を確かめた。
「親父は別にそんなんじゃないさ。あれは……駆け引きだ。もしジークが言うようなのだったら、今頃お前も、エドワードもリチャードも食われてた。親父にとって行為は、人の秘密を暴くもので、人を罰するもので、人を愛するもので、人を束縛するものだ。」
理解できない、とジークフリートは手のひらを合わせた。
「戦争みたいな言い方するけど親父にとってあれは手段だよジーク。別に性的欲求を満たす為ばかりじゃないんだ。」
万年筆を机の上に放り出してレイもため息を吐く。吸い殻入れに置いていた燃え尽きかけの煙草をもう一度だけ吸って皿に押し付ける。
「もしかしたら、嫉妬も入ってるかもしんないけどな。」
仕方なさそうに笑ったレイの顔を、ジークフリートは神妙な顔つきで見守った。窓の外には、橙色の空が広がっていた。
暗い城の中でボロボロになった石壁をレイモンドはぼんやりと眺めていた。よく焼けた肌をさすりながら、彼は隣に降りたった少年の気配を感じる。
「それで? 父さんはもう暴走したからやっぱり駄目なわけ?」
レイを襲ったピンクがかった茶髪の少年は、覗き込むようにしてレイモンドの顔色を確かめる。
「父さん父さんと五月蝿い坊主だな。諦めの悪い奴は嫌われるぞ。」
頬を膨らませてホールを歩き始めた少年は、やがてゆっくりとレイモンドの方へ向き直った。
「次はだれを狙うつもりさ。ていうか、何をやるつもり?」
しつこく聞いてくる少年に、レイモンドは煩わしそうな表情を向ける。古代風の金の腕輪を眺め、レイモンドは崩れた石壁を背に月光の降り注ぐ崩れかけた屋根を見上げた。
「まぁ、今回は派手にやらねばな。向こうも出てきてくれんだろうさ。」
にたりと笑ったレイモンドは、楽しそうに目を細める。少年は、その様子を遠巻きに見つめるだけであった。
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第一塔の正面庭園を歩いていると、珍しく後ろからアーサーに肩を叩かれた。レイは驚いてその顔を振り返った。
「おはようさん。」
すると突如として、地響きが二人の足に届いてくる。二人は思わずお互いを見ると、音が聞こえた方向を見上げる。
「塔が……!」
王宮を挟んで第一塔の隣に聳え立つ第二塔の中央部分が崩れ、下の庭園へ落ちていく。破壊された部分から、アメジスト色のマントがちらりと見えた。
「あいつら……。塔の中で放送が入ってるはずだ、行くぞレイ!」
駆け出したアーサーの背中を追って、レイもその後に続く。第一塔の中は騒然としていて、二人が放送を聞くには顔をしかめて耳をすませなければならないほどであった。
『諜報部隊全隊員、元帥補佐執務室へ大至急向かってください。将軍から少佐は、総司令室へ大至急向かってください。繰り返します、諜報部隊全隊員——』
「健闘を祈るぜレイ!」
一度レイの肩を叩くと、アーサーは飛ぶようにして人混みの上を通っていく。エレベーターを待つ時間も惜しいのか、アーサーは箱が来る前にワイヤーを伝って最上階を目指した。元帥補佐執務室に到着した時には、ルイス=リーズ諜報中尉もジェームズ=クラヴェーリ諜報部隊副隊長も既に待機している。
「遅いぞ中佐。」
「出勤から直だぜ? むしろ飛んできたの褒めて欲しいくらいだ。」
雑談もそこそこにロベルト元帥補佐は第二塔の正面図が貼られた黒板に向き直った。破壊された階が赤く塗られている。
「見ての通り破壊された部分はここだ。見たところ瓦礫に埋もれて身が隠しやすい。お前達の情報次第でこちらの正規部隊が動くか決まる。」
「了解。」
「任務内容は以上だ。行け。」
タートルネックを鼻まで上げ、アーサーは部下である二人を連れ立って元帥補佐室の窓から飛び出した。
第一塔から第二塔へ、本来徒歩二十分少々かかるところをアーサー率いる諜報部隊は全速力で五分まで短縮する。ゴシック様式の外壁を軽々と登り詰めて、彼らはロベルトに指定された破壊された階へ辿り着いた。瓦礫の影に身を潜め、アーサーは塔内の様子を伺う。
「だれもいないな。」
「本部からの追加報告によると、他階の軍人達は既に第一塔の方へ避難したようで。」
分家以外はもぬけの殻です、と後ろでしゃがんでいたルイスは付け足した。向こう側で待機していたジェームズは、アーサーに指示を出されて立ち上がる。瓦礫を飛び越え、訓練所であったホールを見渡す。
「大丈夫そうですね。」
ルイスの声で、アーサーは立ち上がった。ジェームズと同じく容易に瓦礫を飛び越えて、彼は開けたホールに降り立つ。普段は歩兵部隊が使っている修練場が、今は見るも無残な廃墟と化していた。瓦礫から出て、アーサーは辺りを確認する。最も焦げている場所を探し出し、彼はそこに近付いた。起爆剤の匂いが鼻につく。辺りにはばらばらになった肢体が散らばっている。
「ここが爆源だな。」
「もう人はいないみたいですし、テロですかね。」
地面に膝をついて、リーズは殊更に焦げた場所をさらりと撫でた。
「上に報告するか? 早くしないとどやされちまうぜ。」
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