神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

文字の大きさ
73 / 271
第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 4-16

しおりを挟む
「マジで言ってんのか?嘘じゃねぇよな?」

 夕方、アーサーは待ち合わせ場所のパブの前にやってきた二人の言葉に食いつく。アーサーの懐疑の瞳に、レイは幸せそうに頷き、ジークフリートは恥ずかしそうにそっぽを向いた。雄叫びと拳を挙げるアーサーを尻目に、その隣にいたアルフレッドは慈愛の笑みを浮かべる。一人ではしゃぎ立てていたアーサーは、たまたま通り掛かったエドワードとリチャードを見とめて手を振った。

「おいエドいい所に来たな、今から飲もうぜ!」

 エドワードの首に腕をかけて、アーサーはレイ達三人とその向こう側にあるパブを指す。

「おっ飲み?いいよいいよ。」

 意気揚々とそう告げたエドワードはそのままアーサーについていこうと足を踏み出した。エドワードの足が止まり、腕がするりと首から抜けていく。後ろを振り向くと、リチャードが先程の位置から一歩も動かずにエドワードをじっと見つめていた。

「ごめん。俺、ヨハンと帰るよ。」

 その視線をアーサーも察して、エドワードの残念そうな声に手をひらひらと振る。

「あぁ、そうしとけ。……ほんじゃ、まぁ俺ら四人で。」

 リチャードの下へ駆けていくエドワードを一瞥して、アーサーはレイとジークフリートの間を突き抜けてパブへ一番乗りした。



 各々が注文した飲み物が届くと、アーサーはグラスを持ち上げる。

「じゃあ二人の再会を祝してってぇところで。」

 その声とともに、三人も容器を持ち上げた。

「乾杯!!!」

 ガラスとガラスがぶつかり合う高い音がテーブルに響き渡ると、彼らは一杯目を飲み干した。勢いよく机にグラスを置いて、アーサーは向かい側にいるレイとジークフリートを品定めするように見つめる。

「んで?レイの期間限定の皇太子復帰ってのはこれの為か?」

「あぁ。一つはな。」

 ジークフリートが片眉を上げる。

「一つ?まだあるのか。」

 二杯目に口をつけていたレイは、頷きながら琥珀色に染まるグラスをテーブルの上に置いた。

「エドワードがこの間のテロの関連で、分家の発祥について調べてたんだ。王宮に、皇族と神官しか入れない禁書庫があって、そこには沢山の分家の資料があるからそこを見てたんだ。もう一つは……。」

 口を噤んだレイを見て、アーサーは口をへの字に曲げる。記憶力抜群の彼には、思い当たる事が一つだけあった。

「あーもしかして……俺があん時ぼやいた?」

 ぼそぼそと口を開いたアーサーから目を離して、ジークフリートは伺うような視線をレイに向ける。レイは頷いた。

「あぁ、親父の前世について。でもこっちは、殆ど手をつけてない。分家のほうに忙しくて。」

 まじか、とアーサーは背もたれにもたれる。

「僕とアーサーはそれなりに推察が出来た気がするけどな。」

 グラスに口をつけながらぼやいたジークフリートの言葉に、アーサーは賛同とばかりに頷いた。椅子の後ろ足二本でバランスを取っていたアーサーは、その椅子を戻して机に乗り出す。

「なんなら時間作って、調査結果発表会、するか。」

 肘をついてぼやいたアーサーに、レイとジークフリートは頷いた。

 * * *

 戴冠式の衣装の最終確認や馬選びを終えて、レイは漸く自室に帰る事ができた。部屋の中では既に湯浴みを終えたジークフリートがソファーの上でうたた寝をかましている。扉の音でびくりと体を動かすと、ジークフリートは顔を上げた。

「レイ。」

「ただいま。」

 王宮にレイがいるうちは、ジークフリートも王宮に寝泊まりしていい、とフランシスは二人を極力甘やかす事にしたようである。夜の警護も暗殺の少ないこの時勢では最小限に軽くされた。

「ついに明日か。」

 残っていた蜂蜜酒を注いで、そのグラスをレイに渡す。琥珀色のその液体を眺めながら、レイはジークフリートに寄り添うようにしてソファーに座った。

「体は?」

 第二ボタンまで空いたワイシャツから見える胸に手を滑らせて、レイは不安そうな視線を送る。軍人にしてはあまりに繊細すぎる手をとって、ジークフリートはその甲に唇を落とした。

「もう殆ど治りかけてる。無理をしなければすぐに治るさ。」

 満面の笑みを浮かべるジークフリートに、レイも安堵のため息をつく。

「風呂に入ってくるよ。」

 空になったグラスをテーブルに置くと、レイはバスルームに消えていった。

 * * *

 空に小さな花火が上がるとともに、レイの乗る豪華絢爛な馬車は王宮を出発する。隣にはお付きの神官であるランスロットが座り、レイの質問にすぐ答えられるように待機していた。王宮の敷地内を出る前まで、レイは一つの窓を見つめている。

「殿下、そろそろ。」

 窓の向こう側では、ジークフリートがじっとレイの乗る馬車を目で追っていた。ランスロットの呼びかけて姿勢を前に戻すと、ジークフリートは窓から離れた。馬車の後には、ROZENの元帥達が馬に騎乗して続いていく。

「手を振ればいいのか?」

「えぇ、にこやかに。」

 ランスロットの笑顔で緊張の氷が解け始めると、レイは王宮を出るとともに笑みを作って、道端に集まる民衆にぎこちなく手を振り始めた。軍人には要らぬ器用さである。街樹達は、もう春の暖かさだというのにその花で風景を彩ってはいなかった。寒々しい樹を見ながら、レイは心持ち口を緩める。王宮から一直線続く道を行けば、もうすぐに中央教会が見えてくる筈であった。



 アルフレッドとともに、アーサーは未だ冬の様相が残る街路に出る。人という人は、中央教会に入った皇太子が出てくるのを待ちに待っている。

「見える?」

「うっせぇ背高のっぽ。」

 身長の低いアーサーはアルフレッドの皮肉のような気遣いを跳ねのけて、火の灯っていない街灯にするりと登っていく。目の上に手をかざして、アーサーは中央教会の入り口に視線をやった。

「おう、見えるぞ。」

「だろうね……。」

 手にしていたフライドポテトを口に入れ、アルフレッドは大衆より一つ頭抜きん出たその身長を活かしてじっと教会を見ている。

「ん、出てき——」

 教会の扉が開かれた瞬間、だれもが辺りの風景に視界を取られた。まるで皇太子を歓迎するかのように、木々の蕾という蕾が色とりどりの花を開かせたのである。観衆は一斉に声を上げた。アルフレッドが目をこらすと、レイもあんぐりと口を開けている。冬景色だった帝国直轄領は、突然に春を迎えたのである。

「なんだなんだ?」

 アーサーは街灯から降りて観衆に加わる。街の顔は一気に冬から春へと表情を変えていた。大分上にあるアルフレッドの顔を見上げると、彼は浮かれる観衆とは別に酷くまじめな顔をしている。

「彼を歓迎してる。」

 ぼそりと呟いたアルフレッドの言葉は辛うじてアーサーに届いたが、アーサーは訝しげな顔をしたままであった。自然がか、と返したが、アルフレッドはそれきり口を閉じてなにも言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...